スカーレット家長男の憂鬱   作:ユウキです

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3話

朝起きたらメイド長が凄い量の本を持ってきてくれた。

内容はファンタジーから魔導書まで何でもござれという至れり尽くせりのラインナップ。しかも俺が好きな感じの本だらけ。

 

あの人達良い人過ぎるだろ…。それをパラパラと読みつつ並行してこれからの段取りを考える、とりあえずこの部屋から出ることが出来るようになるまで回復した姿を見せるとかどうだろうか、少し早すぎるだろうか。とりあえず、来てくれた人を無条件で追い出すのはやめよう。

 

アルク・スカーレットという吸血鬼の情報をかなり持っているからといって、それを完璧に模倣し演技することが可能という事ではない。感情の出し方や表情は結局のところ「アレク・スカーレットならこうするだろう」という予測でしかないのだから。本当に面倒くさいところに憑依したものだ、けどやり遂げるしか自分に出来ることがないので諦める、とりあえずご飯の為にメイド長を呼ぼう。

 

「…咲夜…さん…」

「お呼びでしょうか、アルク様」

 

一瞬で目の前に現れて心臓が止まりそうになる、まだ死ねない。

 

「あの…お腹が空いて…」

「かしこまりました、すぐに持ってまいります」

 

やったぁ!俺ご飯食べるの大好き!そんなふうに無垢な少年を心の中に飼っておく。男はいつだって純粋な心を失わないんだ。

 

「…あ、あの」

「何でしょうか?」

 

優しそうな笑みを浮かべてこちらに振り返るメイド長。

 

「さっきは…ごめんなさい…謝りたくて…」

「!」

 

これを言っておくだけでも印象は違うだろう。俺は細かいところまで手は抜かない性分なんだ。

 

「それで…これから…よろしくお願いします…あの、それだけです…」

「もったいないお言葉です」

「うん…ありがとうございます…」

 

俺がそう言うと微笑み、凄い優雅な足取りで部屋を出ていくメイド長。惚れてまうやろ…いや本当にめっちゃ美人でびっくりしたわ、元々顔は良いと思っていたんだけど今回のことで本気で惚れそうになった。もう演技とかどうでも良くなりそう、いやダメだ、それやめたら確実にキュッとしてドカーンされて汚い花火になる。

 

葛藤しながらも置いていた本をまたペラペラとめくる。今読んでいるのは影武者の話、影武者というのは王や国の重要人物の偽物だ。暗殺や襲撃が起きた際にその影武者に身代わりになってもらい難を逃れる為に使われるという何とも哀れな役職。俺ならこんな仕事死んでも就きたくないな。

 

わざわざ誰かの代わりに死ぬ為に生きるなんてまともな神経じゃない。誰だって自分のことが一番大切で大好きなんだ、口でどれだけ自分のことを貶めようとも必ず心の中では自分を守ろうとする、俺だってそうなのだから。

 

「アルク様、お食事をお持ちしました」

「早い…ですね…」

「私は時を操る能力を持っております、食事を一瞬で作るなど朝飯前です」

「凄い…」

「ふふ…ありがとうございます」

 

時を操るとかチート過ぎないか。俺もそんな能力欲しかったな。心の中では哀愁を漂わせながら表面上は尊敬の目をメイド長に送る。でも操るってどこまで可能なのだろうか、止めること、進めること、戻すこと。全て可能ならばこのメイド長に勝てる生物はこの世にもあの世にも居ないだろう、負けそうになれば時を止めてから巻き戻せばいいのだから。

 

想像通りだろうが俺は能力を持っていない。これはアルク・スカーレットが元々持っていなかったのか俺が憑依したことにより無くなったのかは定かでは無いが記憶を見る限り自分に能力が無いことを悩んでいたようなので元々無かったのだろう。羽根が小さいことも関係しているのかもしれない、まあ効率のいい魔力の使い方や武術の基本は修めているのでその辺の妖怪には負けない筈だ。この紅魔館クラスの妖怪になると瞬殺されると思うけど。

 

「アルク様」

「どう…したの…?」

「差し出がましいことを言ってもよろしいでしょうか」

「ん…?」

「私達は貴方様の味方です、どうか…どうかそれだけはわかっていて欲しいのです」

「大丈夫…わかってるから…」

「そう…ですか、ならば私から言うことはありません。不躾な言葉を投げかけてしまい申し訳ありません」

 

アルク・スカーレットは愛されているようだ、だからこそ中に居るのが全くの別人だと知れば悲しみ、怒り、攻撃してくる。あの子を返せと、そうなってしまっては誰も幸せにはなれない、誰かを幸せにする為に行動する気は無いが、自分が幸せになって周りが不幸になるよりは、自分も周りも幸せになった方がお得だ。損得勘定で考えて人生過ごす方が楽しいし後悔しない、だからこそ演技して切り抜ける、これが自分にとって得になると信じているから。

 

そんな少しシリアスな雰囲気を醸し出しつつ食事を始める、うんいつも通り美味しい、ある日を境にいきなりご飯が美味しくなったんだよな、あれはメイド長が来たからだったのか。自分の中で納得しつつご飯を頬張る、パンはふわふわだしスープは温かい、人は美味しいご飯を食べるだけで何処までも幸せになれるのだ。

 

「…♪︎」

「美味しいですか?」

「うん…いつも美味しく食べてたよ…ありがとね」

「それは良かった…!光栄の極みです!」

 

会話は弾むことは無かったが心地の良い静寂の中で食事が出来て満足だ、全て完食し水を飲み一息吐いた。

実はいくらか回復した姿を姉様達に見せずにメイド長にのみ見せたのは理由がある。

この人は俺に対して、姉様達に比べると執着は無い、何故ならば昔のアルク・スカーレットを知らないからだ。ならばボロを出したところで比べる対象が居ない、メイド長が俺を励ます言葉を言ってきたのも当然織り込み済み、これが少しの不自然さを完全に打ち消してくれる。そうすると『メイド長が励ましたことで少し元気を取り戻したアルク・スカーレット』という構図が出来る、そうなってしまえばこっちのものだ。あとは徐々に元の自分に戻るだけでいい。

 

「咲夜…さん」

「いかがなさいましたか?」

「俺…紅魔館の為に何かしたいです…」

「まだ無理はしない方が…」

「みんな優しくて…俺なんかのことを心配してくれているのに、俺がここでずっと休んでいるのはイヤ…です」

「そう、ですか…わかりました、お嬢様にそう報告しておきます」

「お願い…します」

 

そう言うとメイド長は姿を一瞬で消した、あ、これが時を操る能力か。この能力持った人と絶対に敵対したくないと思った。俺なら二秒で確実に殺られる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お皿を洗った後、お嬢様の部屋に向かう、アルク様からの伝言をいち早く伝えなければならないと思ったからだ、あの方は心に数え切れない傷を抱えているにも関わらず紅魔館の為に何かしたいと仰ってくださった。これ程までに優しい心を持った方を監禁していたという事実に怒りを隠せない。

 

「お嬢様、入ります…」

「ふざけんじゃないわよ!」

 

「!?」

 

ノックをした後扉を開けるとそこには、怒り狂った顔を見せる主の姿と、この幻想郷で最も発言力を持った妖怪の賢者、八雲紫が居た。

 

「別に変な話はしてないじゃない、この紅魔館はあの子にとって最良の居場所とはいえないことは貴方もわかっているのではなくて?」

「だからといって貴様に何か口出しする権利があると思ってるのか…?」

 

犬歯を剥き出しに相手を威圧する主、ここまで怒った姿を見るのは久しぶりだ。

 

「お姉様、こいつ壊してもいい?」

「相変わらず本当に落ち着きの無い姉妹ね、あの子を少しは見習ったらどう?」

 

あの子というのはアルク様を指しているのだろうか。

 

「そもそも何故貴様がアルクのことを知っている?答えろ!」

「あの子が監禁されていた時に何回かお部屋にお邪魔したのよ、あんなに魂が純粋で清らかな妖怪は見たこと無かったもの、気になるに決まってるじゃない」

「殺す…」

 

レミリアお嬢様が槍を顕現させ、フランお嬢様が右手に目を集め始める。紅魔館最強の二人の本気がそこに現れていた、かく言う私もナイフをいつでも出せるように構えている。

 

「はぁ…話し合いにならないわね…まあ良いわ、また来るから」

「逃がすと思ったか?やれ!咲夜!」

「はっ!」

 

私は能力を発動しその余裕に満ちた八雲紫の全身に何百ものナイフを投げ放ち、完全に動きを止めた筈だった。

 

しかし投げてから少し瞬きしたその瞬間、視界から八雲紫の姿が消えていた。何処に行ったのかと部屋を見渡すがどこにも居ない、この能力を破ったものはお嬢様達以外に居ないというのにこれは一体どういう事だ。

 

「時を止めたごときで私に勝とうだなんて、百年早いわね」

 

そんな囁きが聞こえた瞬間に発動時間の限界を超え、時間は元の流れに戻った。酷くプライドを傷付けられ悔しくなる、次に会った時は確実に殺せるように修練を積まなければならない。

 

「申し訳ありません…お嬢様」

「別に大丈夫よ、けど対策は考えないといけないわね」

 

すぐに冷静さを取り戻す主、それを見た私も反省はそこそこにし何故あのスキマ妖怪が私の能力を破ることが出来たのか考える。

 

「逃げることが出来たってことは、時を止めても動けてたってことだよね?」

「そうね、どんな能力をもっているかは知らないけど厄介極まりない奴だわ…」

 

皆が皆警戒心を強めながらアルクを絶対に守ろうと決意したのであった。ただ、アルクにとっての紫は美人な話し相手ぐらいでしかないので自分にとって得になることがない限りは絶対について行くことなどないのだが。

 

 




いくらか回復させた後トラウマスイッチを押させて逆戻りさせるか、普通にキャラと絡ませるか迷ってます(真顔)
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