俺は居間に座り紫さんと向き合っていた。話を聞くために。
「そ、それであの、姉様達はどうしてあんな豹変して…」
ほんとそれである。誰なんだあれは…
「それに答えるには少し昔の話をしなければいけないわ、貴方は昔のあの子達を知っている?」
「い、いえ、何も聞いていないです」
頑なに姉様達は俺が地下に篭っていたときの上の様子について話さないんだよな、いつも答えをはぐらかされまた今度ね、と返ってくるので聞いてはいけないことなのだと自身で認識していたがよくよく考えると何故話さなかったのか気になってしまう。
「あの子達はね、幻想郷に来たその日に親を殺したのよ」
「えっ…!?」
まさかの驚愕の事実が発覚。
「一応貴方は父親から幻想郷に来たということは教えられていたでしょう?」
「ええ、まあ扉越しですけど…」
めっちゃ塩対応だったから覚えてるよ。
「その後すぐにレミリアとフランは父親を、そして母親も同様に惨たらしく殺したの」
「そんなことが…」
ひぇえ…怖い怖い。やっぱやべー人らじゃねーか。
「その事自体はおかしいことでも無いと思うのだけど…問題はその後ね」
「それ以外にも何かあったんですか?」
これ以外にまだ何かあるのか、これ以上は胃が持たんぞ。
「その後レミリア一派は妖怪の山に攻め込んで来たわ」
「ええっ!」
妖怪の山、天狗や河童の住処と聞いている。そんなとこにカチコミをかけたのかお姉様方は。
「暴虐の限りを尽くし、殺し続けた。弟を助けずに何故こんなことをしたのか…それは己にある『狂気』を抑える為、一時だけでも弟と居たいという思いだったんでしょうけど…もう無理ね」
狂気とはまた物騒なワードが出てきたな、ここまでの話の流れからして碌でもないことだとは思っていたがここまでだったとは。我が姉様達もどうやらまともな吸血鬼ではないようだし、ここはどうすべきか…
「狂気に囚われたものは相手を傷つけ、蹂躙し、殺すことに喜びを感じるようになってしまう。それは家族も例外ではないわ。アルク、もう貴方はあそこに戻らない方がいい」
俺がどうするか…というよりも、アルクならどうするか。家族がまさかのイカれた奴だったら、信じていたのに裏切られた気分になるかもしれない。むしろ全然平気という奴のほうがイカレてしまってるだろう。
「ハッ…ッ…!…ッ!」
「アルク…?アルク!」
極限まで追い詰められたものというのは、精神が圧迫され過呼吸を起こす。実体験だ。
「紫様!いけません、急激なストレスによる過呼吸です!」
「なんで…信じて…たのに…!ッ…!」
「アルク!大丈夫…大丈夫だから…」
「紫様、このハンカチで口を塞いでください。そうすれば治まるはずです」
俺程の役者になれば過呼吸を自発的に起こす事など造作もない、魔力で血中の酸素の速度を限界まで上げて無理に過呼吸を起こしているだけだがな。花の香りのするハンカチを押し付けられ、徐々に落ち着きを取り戻していく(という演技)。ついでに意識を落とす、意識があると不自然だからな。それでは、おやすみなさい。
「アルク…私が何とかしてあげるから…!」
「紫様…」
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薄暗い森の中で凄まじい威圧感を持った集団が佇んでいた。その影響により森の生物は軒並みその姿を消していた。
「それで?ここがあいつらの根城に続く入口なのか?」
「まあここ以外見つからなかったしねー、行くしかないでしょ」
そう言ったフランの口の端は釣り上がっていた。しかし目は笑っていない。
「お嬢様、美鈴も準備完了致しました」
「遅れて申し訳ありません」
美鈴と呼ばれた中華服の女がレミリアに頭を下げるがレミリアはそれを手で制す。
「いい、ただし結果は出せ、それだけだ」
「後はー、パチュリーだけだねー」
「それが…」
「私は行かないわよ」
パチュリーの確固たる意思がそこにはあった。
「パチュリー、聞こえなかった。もう一度言ってくれ」
「だから行かないわ」
その言葉には取り付く島もないことが感じ取れた。
「何故だ!」
「今の貴方について行く気はないという事よ、そもそも私従者じゃないし」
「〜っ!!もういい!勝手にしろ!」
本当に哀れだ、まるで大好きだったおもちゃを親に取り上げられた子供のように怒る友人を冷ややかな目で見ながらパチュリーはそう思った。
何故こうなったのか。理由は明白、『狂気』の影響だ。『狂気』というのは生きているならば誰でも持っているものの一つ、それが大きいか小さいかの問題。
しかし、あの姉妹はそれが大きすぎた、親を殺す為に尋常なやり方ではあんな早く遂行出来なかったのも確かだ。しかしそれを選んだ友人を止められなかった私もまた共犯者のようなもの。ならばどうするか、覚悟を決めようじゃないか。パチュリーはそう思い行動を開始する。
パチュリーは友人が入っていた入口とは別の入口を自ら作りそこに飛び込んでいった。
マヨヒガでは八雲家が集まって顔を突き合わせていた。全員覚悟を決めた顔をしている。そして、一番に紫が口を開いた。
「橙、藍、今回は覚悟を決めて欲しいの、最悪死ぬかもしれないから」
「大丈夫ですよ紫様」
「はい!橙も大丈夫です!」
そこに現れるはずのない客が現れた。紫の洋服に身を包み、魔導書を片手に持った人形のような顔の女性。パチュリーだった。
「ねえ」
「何者だっ!」
突然の声に藍は殺気を向ける。
「怪しいものじゃないわ、ちょっと話し合いに来たの」
それを飄々と受け流すパチュリー。まるで正反対の性質を持った二人だ。しかしそこで紫がパチュリーが何者か気づく。
「って、貴方紅魔館の魔法使いじゃない」
「ならば話し合いなど不要!ここから今すぐ立ち去るか私達に無惨に殺されるか選べ!」
二つに一つ、是非もなし。しかしパチュリーは違う選択肢を選ぶ。
「私の友人を…助けて欲しいの」
「貴方の友人というと…レミリアとフラン?」
紫が合点の言ったような顔をする。何故パチュリーがこの場に危険を犯してまで来たのかわかったのだろう。
「ええ、あの子達は今狂気に支配されているだけのただの吸血鬼、まだなんとかなる。いや、私が何とかする。だから協力して欲しいの」
「紫様!聞く必要はありません!」
「藍、ちょっと黙ってなさい」
「なっ…!紫様!?」
まさかの主の言葉に藍が目を見開いて驚く。何故、といわんばかりの顔だ。
「話を聞いてくれて助かるわ、今のあの子達はいわば二重人格の裏側の人格のようなものなのよ、記憶は共有しているけど感情は別にある。つまりあれは本来のレミリア・スカーレット、フランドール・スカーレットとは別人と考えてくれていいわ」
「それは知ってるわ、けどどうするのかしら。私の能力でも面倒臭いことこの上ないわよ?あれを分離させるのは」
自分に不可能なことをこの魔法使いが出来るとは思えない。そう思った紫。しかしパチュリーはそこで初めて表情を変え、得意気にこちらを見据えた。
「そんなものとっくにこっちで対策してるわよ。これを見て」
「それは…?」
何かを懐から出てきたパチュリー。怪しいものかどうか警戒する藍。まだ信用していないようだ。
「私の全てを注ぎ込んで作った魔道具よ、これには形無いものであろうとも分離させ、バラバラにする力があるのよ。それは概念であろうと感情だろうと関係ないわ」
「へぇ…そんな便利なものが…」
とは言いつつもこれはこの魔法使いが作れるレベルのものじゃないことに違和感を覚える。
「まあフランが居なきゃこんなもの作れなかったことは魔法使いとして悔しいけどね…」
なるほど納得がいった、と紫は頷く。パチュリーは首飾り状のそれを少し自慢げにそれを紫に見せ、そして作戦の説明をし始める。
「作戦は本当に単純よ、まずは貴方達に囮になってもらう。そこで隙を見てこの首飾りをつけさせて私が魔力を注ぎ込むだけ。ね?簡単でしょう?」
「はぁ…貴方無茶言うわねぇ…」
「無茶も通すわよ、友達の為ですもの」
「まあいいわ、乗りましょう。アルクにとってもお姉さんが生きていた方が良いだろうし…」
「決まりね」
こうして一時だけとはいえ協力関係が結ばれたパチュリーと紫、各々が大事なものを守る為にこの戦いに勝つと決めている、そこには一片たりとも恐怖の感情など無かった。
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嫌だ。
なんで自分だけ。
『僕』はただ『普通』が欲しかっただけなのに。
────別にお前のせいじゃない、気にすんな
なら誰のせいなの?
────あ〜、誰かのせいだ。少なくともお前じゃない。
ねえ
────どうしたよ
君だけは『僕』の味方で居てくれる?
────味方で居るかどうかは知らんが…一緒には居てやるよ
そっか、ありがとう。
────はいはい、どういたしまして。それより今日は何するよ?
本が読みたいな
────良いぞ、俺も本は好きだからな
そっか、良かった
────なんだ、笑えるじゃねえか。なあ、
時系列で並べると
アルク地下に幽閉→レミリアとフラン密かに仲間や武器を集める→紅魔館幻想郷入り→父親と母親殺害→強さを求める余り狂気発症→狂気を抑える為色々なことを試す→辛うじて抑えることに成功→弟救出→弟好きすぎて再発→今に至る
ですね