めっちゃ愉悦な感じを想定した兄貴達…すまない…すまない…。かわりにめっちゃ八雲家の方々と甘々な感じにさせるから許して…(懇願)
──何が正しいかなんてどうでも良かった。
弟を救うためにレミリアが最初に捨てたのは情けだった。冷徹に、冷酷に、冷静に。目的の為ならなんでも殺した。
親も、同胞も、罪の無い赤子でも。正しいか間違ってるかでいえばレミリアは間違いなく間違ってる。踏み抜き、踏み外し、落ちていくだけのそんな自分の一生。それでも弟に会いたかった、会って話して遊んで、姉として接したかった。
それなのにあいつは、八雲紫は私からアルクを奪った。何でも持っている筈の八雲紫がだ。私はアルクと紅魔館以外何も持ってない、なのに何故私の唯一のものを奪っていくんだ。アルク以外ならなんでもくれてやる、でもそれだけは、その子だけは譲れないんだ。アルクから直接出ていく旨を言われたなら納得しよう、だが連れていくのだけは許さない。アルクを渡さないというのなら私は何処までもこの強さに、堕ちていく。
どれだけ身を滅ぼそうとも、魂を削ろうとも、私はここで戦わなければならない。だが無情にも今まさに八雲紫の攻撃が私の右腕を吹き飛ばした。ほかのメンバーは九尾の従者にボロボロにやられている。そしてフランも私と同じような状況だった。
───同情の目がこちらに向けられていた。
パチュリーもどうやら向こうについたようだった。そりゃあそうか、こんな不甲斐ない友に味方する訳が無いものな。そして何やら首飾りのようなものをつけられる、絶対服従のマジックアイテムか何かかと思いながらも抵抗できるほどの気力も無い。フランは暴れているようだが九尾に拘束され身動きが取れなくなってる。
そこにパチュリーが近づいて首飾りに触れる、するとフランからふっ、と表情が抜ける。そのすぐあとにポロポロと泣き出した、どうしたのだろうか、もう諦めるしかないと思い抵抗はしなかった。そして私の首飾りにも触れた。
私は頭の中から何かが消えたのがわかった、その何かの正体もまた同様に。すると自然に涙が溢れてきた、溢れて溢れて、拭えども止まらなかった。喜び、悲しみ、怒り、後悔。様々な感情が一気に押し寄せてくる。
そうして無様にも泣いていると、八雲紫の家の障子が開き。そこには
───探し求めていたものがそこに居た
「レミリア姉様、フラン姉様。お話があります」
少し驚いたが、まっすぐアルクの顔を見る。罵詈雑言だろうが私は受けなければならない。この子に求めていた劣情や邪な妄想はいくら狂気のせいとはいえ許されるものでは無いだろう。今はなんでもいいから私を罰して欲しい、殴っても蹴ってもいい。どうか、傷をつけて欲しい。
「『僕』はこの八雲紫さんの家に少しの間居させてもらうことにします」
当たり前だな、そんな気持ちが去来する。フランも同様に沈痛な面持ちでアルクの顔を見ている。たしかに紅魔館に帰って来てくれる可能性は低いと思っていた。
「僕は姉様達に醜く嫉妬していました、なんで僕だけこんな目に遭わなきゃいけないんだと。そんな自分が大嫌いです、今も」
そんなこと当たり前に考えることだ、何も気にしなくていい。事実なんだから。私達がもっとちゃんとしていればそんなことにならなかった筈だ。そう言いたい、けどそれを言ってしまえばアルクの覚悟を邪魔してしまう。
「だからこそ、ここで一から自分を見つめ直そうと思います。まだ紫さんの式になるつもりは無いですし、どうなるかわからないですけど。スカーレット家の長男として胸を張って帰ってこれるように努力します!」
そう言ってアルクは笑った、久しぶりに見るアルクの笑顔だった。それを見た私達はたまらずアルクに駆け寄り抱き締めた。切なくて、寂しくて、悲しい筈なのに、嬉しかった。また笑顔を見ることが出来た、なんの混じり気もないまっさらな笑顔を。
「たまには帰って来てくれる…?」
「うん、約束する」
「ごめん、ごめんねぇ…!」
「姉様達が僕に謝る必要は無いよ」
こうしてこの騒動は幕を閉じた。けしてハッピーエンドとは言えない、けれどみんな泣くのをやめて前を向き始めた。それは些細な事だが意味のあることなのだろう、少なくとも当人達にとっては。
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よく眠ったと思って起きたら勝手に話が進んでた件について。え?嘘でしょ?
あの後起きたら紫さんが泣いていて、どうしたのか聞いたら俺がここに住むことを決めてくれて嬉しいなどとほざきやがったのだ。
俺は否定することなどもちろん出来ず、曖昧な感じに頷くことしかできなかった。
藍さんも良く自分の口で言ったな、偉いぞと言い出す始末である。藍さんの式の橙に至っては弟が出来て嬉しい!とか訳の分からんことまで言い出した。まともなのは俺だけか…!
そんな俺は今藍さんに尋問のようなものを受けている、辛い。
「ここに住むにあたってとりあえず何が出来るかを聞いておこう。アルクは家事などでこれが得意とかあるか?」
自炊したり家事は全般的に出来るんだ、凄いだろ。
「多分全般的に出来ないことは無いと思います…」
「ほう、料理も出来るのか」
少し感心したような顔でこちらを見る藍さん。ふふん、もっとちやほやしてもええんやで?
「まあ本職の方や主婦の方などには及ばないと思いますが…」
「それならばこれから覚えていけばいい、基本さえ出来ていれば上々だ」
ところで尻尾の毛並み綺麗ですね、何か特別なことしてらっしゃる?
「は、はい」
「…あと、もう一つ」
「なんでしょうか…?」
いきなり尻尾で絡め取られる、毛がモフモフで有り体に言って天国だ。俺はここが幻想郷か…と思いつつその感触を享受する。
「お前はもうここの家族だ、好きなだけ甘えていい。もちろん私以外でも大丈夫だ。あ、紫様に甘える場合は一回伺えよ?」
「は、はい」
「ん、いい返事だ」
顔を手でグッと向き合わせてからニコッと笑う藍さん。並の男ならあれで一生魅了にかかっていただろう。恐ろしく速い優しさによる攻撃、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。
「じゃあとりあえず晩飯の準備を始めるとしようか」
「で、では、具材を切りますね」
前世では男料理バンザイだったから切るのは得意だ。カレーも具がゴロゴロしてる方が好き。
「いや、今日はそこで座って見てくれていたらいい、お前の歓迎会でお前が料理を作ったと紫様に知れたら私が叱られてしまう」
「あ、ありがとうございます」
そう言って藍さんは白菜や鶏肉や白葱を切っていく。え?何を作っているかって?
───鶏の水炊きだ
紅魔館では洋食しか出てこなかった。当たり前だろうな、あの舘の様子で晩飯に肉じゃがでも出てきたら景色に合わないだろう。
しかし俺は洋食より和食の方が好きなんだ、米が食べたくて仕方なかった。そう考えると過程はともかくここに住むのも悪くないだろう。
藍さんは既に野菜を切り終え今は中に具材を入れて煮込んでいる。お揚げを入れるときだけめちゃくちゃ目が輝いていたのは少しときめいた。あれは卑怯だ。
「大体この家の調理器具の位置はわかったか?」
「はい」
余裕だな、記憶力は結構良いんだ。
「なら今度は一緒に作ろう」
「はい!」
「ふふっ」
わしゃわしゃと頭を撫でられる、なんだか気恥しい。例えるならばかなり年の離れた美人な従姉妹に可愛がられているような気恥しさだ、どこかくすぐったい。
「藍ー、もう出来たー?」
あんたはもっと年上っぽくしろ。
「今運びますよー」
「藍さま、お手伝いします!」
「あ、僕も…」
「「「アルクはいいから」」」
「は、はい」
食卓のテーブルに半ば強制的に座らされて次々と運ばれてくる食材を見る。鶏は人里から貰ってきたかなり新鮮なもののようだ。俺がスーパーで買ってきて食べていたものとは確実に格が違う。
「じゃあ、みんなアルクがここに住むことを祝って」
「「「「いただきます」」」」
「アルク、私が入れてやろう」
「あ、ありがとうございます」
藍さん優しくて好き。前世でもこんな奥さん居ればなぁ…
「あっ、藍ずるい!私もアルクに入れてあげたい!」
あんたは一番年長でここで一番偉いんだから座ってろ。
「藍さま!私も!」
橙は元気だね、オジサンにちょっとは分けて欲しいよ。
「いや、橙はともかく紫様はここの主なのですから。アルクが恐縮してしまうでしょう?」
「そんなの関係ないわ!もう家族ですもの!」
紫様はお母さんというよりお婆ちゃんって感じですよね。
「はぁ…アルク、どうする?」
「大丈夫ですよ、俺も紫様に入れて欲しいです」
「ほら!」
「まあいいか…」
そう言って藍さんにまず鍋の具材を入れてもらった。白菜、鶏肉、お揚げ、お揚げ、お揚げ、お揚げ…お揚げばっかじゃねぇか!いや、別に良いんだけどね?まあとりあえずいただきます。
うっまぁ!え、いや嘘でしょこれ!こんなに鍋って美味いものだっけ?白菜は少し食感を残し、鶏肉は弾力豊かで味も芳醇だ。お揚げも多分これ手作りだな、めちゃくちゃ美味い。しかもあらかじめ器に入れてたポン酢との相性抜群だ。あ、やばい泣けてきた。
「ど、どうした!?何故泣いているんだ!」
「藍!鍋に何か入れた!?」
「い、いえそのようなことは!」
「美味しい…です」
「え?」
「美味しくて暖かくて…今まで食べたことがないくらい、美味しい…です」
うま、うま、うま。くっそぉ!ただの水炊きがなんでこんなうまいんだよぉ!
「っ!そうか!それは良かった!ほら、まだまだあるぞ!」
「あっ、次は私は入れるわ!」
「その次は私です!」
「ありがとう…ございます」
その顔を見た八雲家はこの子を守ろうと一層決心したと言う、涙で濡れていても幸せそうに笑顔を作ったその少年を。まあただただ鍋が美味すぎて感激して泣いてるだけの馬鹿とはまさか思わないだろうから、これは仕方ないことだろう、