今俺は藍さんの尻尾に絡め取られ昼寝をしている。何故か鍋を食べていた時を境に、藍さんがよくこうして構ってくることが増えた。別に嫌な訳では無いがモフモフしているこの感触に包まれていると一生ここから動けなくなりそうで少し怖い。
肝心の藍さんはというとどうやら仕事のことを書き記しているようだ。そして橙は野良猫達を配下にする為にどこかに出掛けているし紫様は『博麗神社』なる建物に居る。そこでは博麗の巫女という妖怪に対する抑止力とも呼べる人物が代々幻想郷を守っているらしく、今その次代を担う巫女を育成しているところらしい。
「藍さん」
「どうしたアルク、眠たかったら寝てくれていいぞ。今日は良く働いてくれたしな」
優しい、理想の上司。
「あ、ありがとうございます。いや、博麗の巫女というのはどんな人物だろうと疑問に思っていて…」
「あー、あれは一言で言うと天才だな」
「天才、ですか?」
そうなんだ、藍さんが言うからよっぽどだな。
「ああ、どんなことでも一度見ただけで吸収してそれを使いこなすことが出来る」
「それは…凄いですね」
それ人間なのか?
「その代わり、少し人間性に問題があってだな…」
「人間性というと」
「余り他人に興味が無いんだよ、まるで空気のような雰囲気を纏っていてな。そのせいで人を寄せ付けないのも偏屈具合に拍車をかけてる」
要するにぼっちか、人間というのは他人と違うというだけで疎外してコミュニティから排除しようとする。
凡人ならばそこで折れてしまうことだろう、しかし天才は違う。
何故ならばそれを乗り越え人の上に立つことが出来る才能を持っているからだ。
俺にはそんなこと到底理解も出来ないが、博麗の巫女がそんな人間だということは今わかった。
そして、出来るだけ博麗の巫女には関わらないでおこうと決心した。俺は天才とか才能とかいう言葉が嫌いなんだ、姉様達?あの人達は天才というよりは怪物だ、嫉妬する気すらおきない。俺の醜いところが全面に出ているなぁと思った。まあ直す気は無いけど。
「気になるならば会ってみるか?」
「遠慮しておきます」
会ってたまるか、意地でも会わんぞ俺は。
「め、珍しく食い気味で答えたな…」
「それよりも、今日の晩御飯の話をしましょう」
辛い時は飯の事考えるに限る。
「ああ、今日は紫様が持ってきてくれたホッケという魚の干物とほうれん草の味噌汁だ、あと白菜の漬物もある」
「ホッケ…?」
ホッケ、ホッケ!いい響きだ!大好きな干物をここでも食べられることに感動する。やったぜ。
「海というところで捕れる魚だ、この幻想郷には海が無いからな。海の魚は必然的に外から持ってくることになる」
「海…本で読んだことがあります」
そういえばあの本はどんな内容だったっけ?確かサメが出てきて…なんかクソみたいな内容だった気がする。
「そうか、なら今度紫様に言って外の世界の海に連れて行って貰うか?」
「外の世界…」
「そうだ、こことは違ってお前にとっては新鮮だろうな」
今、外の世界はどれぐらい時間が進んでいるのだろうか。もしかすると俺の前世の世代くらいかもしれない。
ならば、俺の家族に会えるかもな。そう思い自分の住んでいたところを思い出す。
───あれ、俺の家族ってどんな人だっけ?
………いや、まあ何百年とこっち来てたら忘れるわな。特に今は前世に思い入れも無いので思考を破棄する。考えなくていいことは深く考えないタチなんだ俺は。それよりも海か、いいかもしれない。行くとしたら夜だけどな。
「日光なら紫様がどうにかしてくれるぞ?」
「本当ですか!?」
嘘!?マジで!
「一時的なものだがな。永続的に体質を変えてしまったら吸血鬼として存在を維持出来なくなる可能性がある」
「そ、そんなことが…なら海に行きたいです!」
海は好きだ。冷たいし、近くの飯屋美味いとこ多いし。
「そうか。わかった、そう伝えておく」
「ありがとうございます!」
やったぜ、これで海の近くの海鮮料理の店も行けるし海で涼むことも出来る。藍さんの水着姿見たいのもあるしな。紫様? あの人は脳内小学生だから別にいいや。
「ただいまー!」
「紫様、おかえりなさい」
「おかえりなさいませ、紫様」
「ええ、ってアルク!尻尾に埋もれすぎてほとんど姿見えないわよ!?」
ホントだよ、めっちゃモフモフしててすごい気持ちいいけどね。
「すいません、こんな格好で」
「いえ、まあいいのだけど…」
中々に困惑しているようだがひとまず納得したように居間に座る紫様、そうしていると藍さんがお茶を入れに行くために動き始めた。
──俺を尻尾で持ち上げたまま。
俺はされるがままに尻尾に巻かれた状態でキッチンから居間まで往復した。紫様は笑いを堪えることが出来ないといった表情でそれを見ている、絶対許さねぇからな。
「あ、忘れてた」
これが居間に戻ってきた藍さんが言い放った一言だ、それで紫様は完全にツボに入り過呼吸になっていた。そのままあの世に行ってしまえ。
少しバツの悪そうな顔をする藍さん、まあ悪気無かったみたいだし別にいいよ。
「余りに自然だったから…すまない」
「別に大丈夫ですよ、けど紫様は許しません」
そうだぞ、反省しろ。
「あっ、あっ、ごめんごめんごめんなさい、許してアルク!」
「冗談ですよ…」
「良かった…」
ホッとしたような表情をする紫様、単純だなぁと思いながら尻尾でモゾモゾと動く。昼寝するとしよう、特にやることも無くなったからな。寝ることが大好きな俺からしたらこの環境は最適だ。フワフワでモフモフでいい匂いがする。
「どうした、眠くなったか?」
「はい、少しだけ眠ります…すいません」
尻尾布団すっごい気持ちいい。永住しよう。
「ああ、別にいいぞ。おやすみ」
「おやすみなさい…」
おやすみなさい。
「おやすみなさい、アルク」
「…………………………」
むにゃむにゃ…BBA…BBA…
「あれ、私におやすみは?」
「紫様、静かに。もう寝てます」
藍は尻尾を前に持ってきてアルクの頭を撫でた。まるで母親のような顔で。
「え、嘘でしょ?寝るの速くない?」
「疲れが溜まっていたのでしょう、良く働きましたからね」
紫は自らの従者のそんな顔を見てふんわりと笑いながら自分もアルクの頭を撫でる。手で払いのけられた、涙目である。
「まあいろんな家事してくれているみたいだし、仕方ないか…」
「私も家事だけに専念は出来ませんからね、助かっています」
「料理も最近うまくなってるみたいね?」
「ええ、中々筋がいいです」
二人の保護者は笑い合いアルクの寝顔を微笑ましく見続けた。紫はたまにアルクの頬をつついたりして藍に怒られていた、それはまるで父を叱る母のようだったという。
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ここは旧地獄、そして私はここの主である古明地さとりです。地霊殿というところに妹とペットと共に住んでいるのですが、実は私には今悩みがあってですね、私には友達が居ないのですよ。
いや別に性格が悪いという訳では無い筈です。しかしこのあまり変化の無い表情と心を読むというさとり妖怪の特性によりどんな種族からも嫌われているわけです。
しかし私は諦めません、絶対に。友達の性別は問いません、容姿は出来るだけ可愛い子が良いですね、あと性格も良くて…出来れば心が読むことが出来ないような…自然体で付き合える子が良いです。休みの日とかにクッキーとか差し入れして来てくれるような子だったらもう完璧ですね。
え?高望みしすぎ?何を言っているんですか、私が読んでいる本には友達とはそういうものだと書かれていました。本の名前?ええと…『猿でもわかる!友達の作り方!』ですね…猿でもわかるんですから頭の良い私が読めばもっと知識をつけることが出来るということです。
いや、お燐やお空はペットなので友達にはなれませんね、というかあっちがめちゃくちゃ私に対して恐縮しているので絶対無理です。前に「そこのお玉取ってください」と料理中に言ったら「わかりました…今すぐ邪魔な奴のタマ取ってきます!」と言われた私の気持ちがわかりますか?
何やら妹のこいしは友達を見つけたようだし姉としてもここで友達が一人も居ないなんて言えないじゃないですか、情けないですし。
そういえば前に妖怪の賢者である八雲紫さんに会ったんですよ。凄いですね、彼女。私相手なら二秒もかからず倒してしまうでしょう。それに心も読めませんでしたから。
心が読めないなら友達になったらどうだって?はは、面白い冗談ですね。ミミズとライオンが友達になれますか?つまりはそういうことです。
心が読めない相手といってもいろいろ居るんですよね、まずは意図的にブロックしてるもの、意図せずブロックしてるもの。意図せずしている人は誰かから守護されていることが多いですね。結界やらなにやらを貼りまくってます。私が友達になりたいのはそういう人です。
守られているということはそれだけ素晴らしい人だという証明のようなものですからね。
そんな人を見かけたら絶対逃がしません。地霊殿で保護します。私は優しいですからね。
まあ何が言いたいかというと友達が居ないからそんな人を探しに地上に行きたいということです。この旧地獄は荒くれ者しか居ませんからね。
鬼と友達とか絶対嫌です、胃が縮こまって最悪の場合過労死します。
鬼といえば勇儀さんですね、あの人は苦手です。酒臭いし。何故か私に話しかけてくる奇特な人でもあります。
そんなことを考えながら今日も今日とて地霊殿で旧地獄の仕事をします。私はいつになったらこんなことから解放されるのでしょうか。
ああ…地霊殿の主辞めたい…友達作って一緒に遊びたい…
※この話の中の藍や紫とのやり取り中、アルクは藍さんの尻尾から顔だけ出して話を聞いています。
さとりは悩んだ結果ポンコツでコミュ障になりました、さとりファンの皆さんごめんなさい。