スカーレット家長男の憂鬱   作:ユウキです

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15話

相変わらず何も無くても何かに怯えてるアルクだ。休みを貰ったので今日は久しぶりに人里に遊びに行こうと思う。紫様も一緒に遊びたいと言ってきたが藍さんに引きずられていったので一人で来ている。あの人仕事たんまり残ってるのについてくる気だったのか、笑えるな。

 

全く表情を変えずにそんなことを考えながらいつもの森を歩く、この森はどうやら普通の人間には有害な瘴気がめっちゃ充満してるらしい。主にそこら辺に生えているキノコのせいで。まあ妖怪である俺にとっては全くもって問題では無いのでテクテクと歩く。アルクが歩く…やめておこう、これ以上言ったら誰かに「は?」とか言われそうだ。

 

「は?」

「ごめんなさい」

 

俺は反射的に頭を下げて謝った。するとそこには俺の方を見て目を見開いている魔法使い風の帽子を被った金髪の子供と白髪のイケメン眼鏡さんが居た。

 

「お前は…誰だ?」

 

まずい、不審者だと思われている気がする。誤解を解かなければ人里の守衛に突き出される可能性がある。それだけは回避したい、ダサいし。

 

「あの、怪しいものじゃないですよ?」

「いや見るからに怪しいだろ、いきなり謝ってくるとか」

 

無慈悲、バッサリと切り捨てられた。さらに銀髪眼鏡も。

 

「そうだね、魔理沙と同じ意見なのはちょっと嫌だけど同感だ」

「それどういう意味だ香霖」

 

どうやらこの二人は魔理沙と香霖というらしい。何やら二人の間は険悪のようだが二人とも本気では嫌っていないという雰囲気に感じる。幼馴染か何かか?

 

そんなことを考察しているが一向に事態は収束しない。俺は相変わらず疑いの目を向けられている。俺は悪くねえ!

 

「あの、ひとまずこの先の人里に来て頂ければ…疑いが晴れるので」

「やだよ」

「え、えぇ…」

 

なんだ、家出中か何かなのか?普通人間は人里で暮らすもんじゃないの?

 

「そうだ魔理沙、ちゃんと親父さんと仲直りしなよ。今なら間に合うから」

「ちっ、話題そらせたと思ったのに…」

 

物凄い眉間に皺を寄せながら悪態をつく魔理沙。こんな顔の幼女見たことない。あ、姉様達が居るか。

 

「とりあえず君」

「え、あ、はい」

 

香霖さんに声をかけられた。なんだ、怖いんですけど。

 

「君が怪しい子だということは変わらないけど、君を相手してる余裕は無いんだ。また会ったら話を聞くことにするよ」

「そ、そうですか…」

 

なんか地味にショックだわ、俺そんな怪しいオーラ出てた?

 

「まあ最近妖怪による被害が増えてるから、君には悪いけど仕方ないと思ってくれ。僕も一応守らなければならないものがあるからね」

「わかりました…」

 

そう言って金髪の女の子と一緒に森の中に消えていく香霖さん。少し目の奥に申し訳ないという感情が見え隠れしていたのでそこまで不快とは感じなかった。きっと人柄がいいのだろうな、羨ましい。

 

俺はそんな場違いな妬みを香霖さんに向けながら人里に向かった。何故だろうか、あの二人組にはまた会うような気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前で串に刺さった鶏肉が炭火によってジュウジュウと焼けていく様子が見える。丹念に焼かれ皮の間から流れ出る脂は極上の蜜。香ばしいタレの焼ける匂いがそこら中に充満して俺にとっては天国だった。

 

「もものタレ出来たぞ」

「ありがとうございます!」

 

そう、ここは妹紅さんの焼き鳥屋だ。

 

「しかしお前も災難だったな〜、香霖さんに見つかるとは」

「あの人有名な人なんですか?」

 

イケメンでどこか包容力のある男性という感じだったからさぞかしモテるんだろうな。お、俺も顔は良いから…

 

「いや、あの人めっちゃ長いことこの人里で古道具屋してるんだよ。その影響で結構慕われててね、下手すりゃお前人里出禁だったかもな」

「長いこと、ということはあの人は…」

「ああ、半人半妖さ」

 

コップに入れた芋焼酎を煽りながらそう言う妹紅さん、まるでオヤジだな。ぷはぁ、と一息ついてニヤニヤしながらこっちを見るその様には色気の欠けらも無い。

 

「実はめちゃくちゃ強いみたいだし退治されてた可能性もある」

「え」

「あと本名は霧之助さんな」

 

えぇ…あの人そんな風には見えなかったけどなぁ。顔は良いが雰囲気は普通の人って感じだったし。

 

「いいかアルク、本当に危ない奴ってのは周りや果ては自分を騙してまで実力を隠そうとする奴。そういう奴はただ強い奴よりよっぽど厄介で危険なんだ」

「そ、そういうもんなんですか」

「ああ、肝に銘じておくといいよ」

 

ふにゃふにゃと赤い顔で焼き鳥を焼いていく妹紅さん。酔っ払っていても手つきだけは一流なようだ。この店が隠れた名店として有名になるのも頷ける。

 

「あと危険なのは…無駄に綺麗な黒い髪をして家でゴロゴロしてるニートの女とかも危険だから気をつけろ」

「は、はぁ…」

 

ニートが危険とはこれ如何に。

 

「そうこうしてる間にほれ、皮の塩だ」

「うわぁ…美味しそうですね」

 

皮はやっぱり塩に限る、タレももちろん美味いけどな。外側がパリパリとしながらも内側の脂の多い部分はモチモチとしておりいくらでも食べれそうだ。

 

「お前美味そうに食うよなー、こっちとしては嬉しいよほんと」

「こちらこそこんな美味しい焼き鳥をいつもありがとうございます!」

「ふふ、食わせがいがあるよまったく」

 

うま、うま。俺は無我夢中になって次から次に渡される焼き鳥に食らいついていた。

 

「そういえばお前酒は飲めないのか?」

 

手元の焼酎と氷の入ったコップをカラカラさせながら妹紅さんは聞いてきた。まあ飲めないことは無い、と思う。思うというのも俺はこの世界に来てから一度も酒を飲んだことないのだ。姉様達には止められていたし。

 

「なら一緒に飲もう、もう店は閉めてるからお前以外の客は来ないしな。あ、安心しろよ?私が勝手に連れてきたわけだからお代はタダだ」

「え、いいんですか?」

「良いんだよ遠慮すんな。いつも人里の奴らの手伝いしてくれてるし」

 

そう言って店の奥に消えていく妹紅さん。どうやら酒を補充しに行ってるらしい。今日はえらく機嫌がいいな、何か良いことでもあったのだろうか。

 

「ほれ、コップ」

「あ、ありがとうございます」

「ビールか日本酒かハイボールどれがいい?」

「お、おまかせで」

 

あまり酒にはこだわりは無い、前世でも酔えたらそれで良いといういい加減な尺度だった。酔ったら全て忘れられると信じていたから。

 

「うーん…ならこの日本酒はどうだ?」

「じゃあそれを…」

「ん」

 

ついでもらう。まあ酒と言っても飲み物には違い無いし、とりあえず喉を潤す為にも飲むか。そう思いぐいっと飲む。

 

「っ!」

「どうだ?」

 

結論だけ言うとこれめっちゃ美味しい。俺の飲んできた今までの日本酒が全てエタノールか何かだったのかと思うレベルにその日本酒は澄み切っていた。しかし、澄み切っているというのに味と香りは濃厚で、お米のフルーティーさが鼻に抜けるのがたまらない。

ダメだ、俺の下手な食レポではこの酒の良さを伝えることは不可能に近い。とりあえずめちゃくちゃ美味い日本酒を想像してみてくれ。これはそれの10倍美味い。

 

「美味しい…」

「だろ?多分これ一番良い奴だからな」

「え」

 

いや、でも納得だ。ここまでのレベルのお酒はもうお酒の範疇で収まらないと思う。何か特別な液体だ。身体にも良さそうだし。

 

「そんな貴重なもの良かったんですか?」

「まあずっとここに置いとくわけにもいかないし。私もこれを飲む為の口実作りとでも思ってくれ」

「あ、ありがとうございます」

 

クルクルと焼き鳥を回しながら妹紅さんも飲む。喜色満面という言葉がピッタリな表情をしながら飲むその姿はいつもの姿とのギャップで少しドキドキさせられる。いい女ってこういう人のことを言うんだろうなぁ。

 

「これうっま!」

「そうですねめっちゃ美味しいです」

「はは、焼き鳥もジャンジャン焼くから待ってろよ」

 

ジュージューと焼ける焼き鳥の音をBGMにおだやかに時は流れていった。願わくば、こんな平和な日常がずっと続けば良いな。そう願うばかりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

そこからの記憶が無い。

 

そのせいで俺は朝起きた時にいつもと違う景色に吃驚した。まさか自分は誘拐されたのではないかと。ビクビクと怯えながら部屋を見回す、しかしよくよく見たら見覚えのある壁や床に首を捻る。ちゃんとベッドにも入っているということは誰かに運ばれたか自分で入ったのだと推理する。

 

しかし自分には全くその記憶は脳内に存在しないのでとりあえず最後の自分の見た景色を思い出す。お酒を飲んで焼き鳥を食べて…ダメだ、思い出せない。

 

そういえば妹紅さんは何処に居るのだろうか。あの人も一緒にいた筈なのでどこかに居ると思うんだけど。そう思ったその時、俺はベットの横のスペースが人一人分膨らんでいることに気づく。

 

まさか

 

いや、それはないだろ。ないない、だっておかしいもん。俺と妹紅さんはそんな爛れた関係じゃ無かった筈だ。それにあの人男前だからそんなふしだらなことするわけ

 

「ぅ…うん…ふわぁ…」

 

あ、これアウトだわ。18禁だわ。

 

 

 

 

 

「お、おう。アルク顔上げろよ」

 

ジャパニーズ土下座。これが俺ができる最上級の謝罪。クズ男に相応しい最期だ。

あの後結局妹紅さんは起きてしまい俺は慌てて謝った。そして今に至る。

 

「あのな?私達何も無かったぞ?」

「え、本当ですか…?」

「お、おう」

 

マジでか。良かったのか悪かったのか微妙な感情だがどうやら本当にそういうことは何も無かったようだ。しかし何処か妹紅さんの表情は晴れない、他のことで何かあったんだろうか。もしかして俺の寝相が悪かったとか?

 

「いや何も無いんだけどな、まあちょっと胸糞悪いというか。あ、お前のせいじゃないから安心しろよ?」

「は、はい」

 

え、なんか気になるから言って欲しいんですけど。そう思って俺は怪訝な顔をしておく。

 

「お前の帰りを待ってる奴らが居るだろうしもう帰った方がいいぞ」

「あ」

 

そういえば藍さんに連絡入れるの忘れてた。ヤバい。

 

「あ、あのもう帰ります!焼き鳥とお酒ありがとうございました!またお礼しに来ます!」

「おう、また来いよ」

 

俺は慌てて家に帰った。しかし案の定八雲家は阿鼻叫喚の騒ぎになっており紫さんは号泣していた。まさか日に二度も土下座をすることになるとは思わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…帰ったか…」

 

妹紅は少し憂鬱そうな顔をしながらため息を吐いた。理由は先程慌てて帰っていった吸血鬼の子供だ。そして、自分の袖をじっと見つめて苦笑する。

 

「ベッドに寝かせてから離れようとした私の袖掴んで泣きながら『お母さん…』なんて、冗談きついよまったく。私がそんな年に見えるか?」

 

不老不死でありながらも少女の容姿であることに少し自虐を混じえながら独りごちる。そして妹紅はもう一度大きなため息をつく。何かを思い出すような、そんな表情をしながら。

 

「親か…」

 

その時妹紅は何を思ったのか、それは本人にしかわからない。しかし、これから妹紅がアルクのことをさらに目にかけるようになることは言うまでもないだろう。

 

 

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