スカーレット家長男の憂鬱   作:社畜マークII

5 / 37
おはようございます(五時投稿)


幕間「ある化け猫の視線の遷移」

朝だ、そんな分かりきったことを呟きながらムクリと起き上がる。今日は従えた野良猫を集めて集会をするつもりなので早く起きなければならない。最近は妙に上手くいく野良猫集めを嬉しく思いながらも、部下が増えることの責任に少し戦々恐々とする毎日だ。まあこれも八雲の名を貰うための修行の一つ、手を抜くつもりは無い。

 

少し寝癖を気にしながら手で弄り、直そうとする。しかし結構しつこいようで諦める、水で濡らして乾かすとしよう。リビングに向かいながらそう考える。すると前に見知った金髪がふわりと揺れていることに気づく。

 

「お、橙か。おはよう」

「おはようございます!藍様!」

 

此方は藍様、私の主であり八雲紫様の従者である御方。九尾という妖怪で文字通り九本のフワフワの尻尾を持っている。妖怪としての格はかなりのもので、妖術を巧みに操り地殻さえ変動させる程だ。あの紅魔館とか言う館の奴らを完膚なきまでに敗北させたと言えばどれ程強いか分かるだろう。

 

私があの中華服の奴を倒してる間に全て終わらせていた藍様には尊敬の念しか送れない。それに比べ私はまだまだ修行が足りていない。

妖術も体術もまだまだ基本レベルだ。搦手でこられたら結構手こずってしまう。だからこそ仲間を増やし、実力をつけ、八雲家に相応しいものにならなくては。

 

「朝ご飯出来てるみたいだぞ、食べるか」

「はい!ありがとうございます!」

 

朝ご飯はだし巻き玉子と鮭の塩焼きと味噌汁だった。やっぱり藍様の作る料理は美味しいなぁ。…けど味噌が変わったのか作り方が変わったのか少し味が違うように感じた。なんでだろう。顔に出ていたのか藍様が悪戯が成功したような顔をする。

 

「それ誰が作ったと思う?」

「え、藍様では無いのですか?もしや紫様ですか?」

 

紫様も料理は一応できる。食べたことはあまり無いが。

 

「違うよ、これはアルクが作ったんだ。橙が早く起きて修行しに行くと伝えたら俺に朝ご飯を作らせてくださいって言ってきてな」

「え…」

 

驚きだ、アルクは前までこんなにも美味しい料理は作れなかった筈だ。形容するならば『普通』という言葉が一番似合う料理だった。特段まずいわけでは無いが美味いわけでもない。そんな料理。

 

しかし今食べてるこの料理達は藍様の作ったものと遜色無いほどに完成度が高い。だし巻き玉子は焼き後が全くないほど綺麗で艶めいている。鮭の焼き加減も身がプリプリとしつつ中まで火が通っている。味噌汁に至っては私個人の意見だが藍様の作ったものより好きかもしれない。

 

「あいつ、俺に出来ることはこれぐらいなのでって笑ってたよ。後でお礼の言葉でもかけてやれ」

「は、はい!」

 

弟分のまさかの進化に戸惑いつつ朝から美味しい料理を用意してくれたことに感謝するのであった。

 

 

 

 

 

「もうそろそろ行こうかな」

 

集会の時間が近づいて来たので行く準備を整えることにする。きちんとした身なりでないと八雲の名に泥を塗ってしまう。まだ名は貰ってはいないといえど私も八雲家の一員だ。細かいことを気にしていかなければならない。そんなことを思いながら鏡を見て変なとこはないか確認する。いつも通りの顔がそこにあった。身なりの確認は出来たのでもう行こうと玄関に向かう。

 

「あ、いた。橙、ちょっと待って」

「アルク?どうしたの?」

 

そこにはエプロンを纏い、三角巾を頭に巻いたアルクがいた。男の子だが可愛いという印象が真っ先に出てくる辺りこの子は本物だな、と突拍子も無いことを考えながら何故引き止めたのか問う。

 

「お弁当、作ったから持っていって」

「え、良いの?」

「良いの良いの、朝ご飯のついでに作っただけだから。あ、あと次からは朝早い時は言ってくれたら朝ご飯とお弁当作るからね」

 

なんだこの可愛くて優しい生き物は。思わず飛びかかってほっぺたをスリスリしてやりたい欲に駆られるが寸でのところでこらえる。私はあの吸血鬼姉妹とは違うんだ。

 

しかし朝ご飯まで作ってくれてさらにお弁当までとはまるで良妻だ。全ての男が想像する女性の理想像に近いだろう。アルクは男だが。

 

「あの、朝ご飯ありがとうね。凄い美味しかった!」

「そっか、良かった。作った甲斐があるよ」

 

そう言って笑うアルク、腰が凄く色っぽくてドキドキする。

 

私は朝からなんてこと考えてるんだ。これじゃまるで色情魔じゃないか。この前のおままごとから私は少しおかしいのだろう、アルクの至る所に色気を感じてしまう。腰に肩に脇というマニアックな部分にまで。だが今はとりあえずそんな思考を振り払う。

 

「アルク、帰ったらまた遊ぼうね!」

「うん、待ってる」

 

 

 

 

 

野良猫達は今のところ三つのパターンに別れている。従順と様子見と反抗。全て文字通りだ。従順と様子見はまだいいが反抗が少し厄介。隙あらば私が作った群れの長になろうとしてくる。その度に叩き落とし格の違いを見せつけているのであまり問題は無いが、めんどくさい。

 

気持ちが少し落ち込みつつ休みをとる。そして、どれだけ憂鬱でも腹は減る。私はアルクに渡されたお弁当の巾着をスルスル解く。すると何かメモのようなものが一緒に入っていた。そこには一言。

 

『無理はしないようにね』

 

と書かれていた。

 

なんで私が無理してるとわかったんだろうか。アルクはまだうちに来て全然時間が経ってないというのに。

 

涙が拭っても拭っても溢れてくる。自分でも気づかないうちにいろいろ溜め込んでいたのかもしれない。相談する相手は居ないから吐き出せていなかったのもあるだろう。

 

「あはは、ちょっと急ぎすぎたかなぁ…」

 

その後のお弁当は今まで食べた何よりも美味しかった。

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

「おかえり、橙」

 

アルクはどうやら玄関で待っててくれていたようだ。凄く嬉しい。思わず笑顔になってにやけてしまう。少しアルクが怪訝な顔をするがまあ仕方ない。今の私は少し気持ち悪いと自分でも思うから。

 

「なんか良いことでもあった?」

「うん!」

 

そう返事をすると目を細めてアルクも笑顔になる。それが嬉しくて私も笑顔で返す。

 

「そっか。晩御飯作るからお風呂入ってきなよ」

「あ、うん。臭かった?」

「いや?土汚れが所々あったから」

 

臭かったかと匂いを嗅ぐがどうやら違ったらしい。面と向かって臭いと言われたらショックを受けてしまうので良かっただろう。とりあえずお風呂場に向かう。あ、お弁当のことについてお礼言わないと。

 

「あ、アルク。お弁当凄く美味しかったよ」

「良かった、どれが一番美味しかった?」

「全部美味しかったけど一番は卵焼き…かなぁ」

 

暖かい気持ちになる卵焼きだった。もしかしたらああいうのをおふくろの味とか言うのかもしれない。アルクママ、いや、アルクパパか。

 

「結構自信作だったからね」

 

そう言って少し自慢げな顔をするアルクを見て私は

 

──顔真っ赤になるまで恥ずかしがらせてやりたい。

 

という思いにしかならなかった。もう自分の気持ちを包み隠すこともしなくなった私は無敵だ。

 

端的に言うと私はアルクのことが大好きになった。それは家族として?異性として? それはどちらとも言えない。

 

愛に大きさの違いはあれど種類は無い。愛は愛だ。

 

だからこの『アルクを虐めて可愛い顔を見たい』という気持ちもそんな大きすぎる愛の代償だろう。そして、可愛いもの程虐めたい。それは自然の摂理のようなものだ。自然に抗うことなど不可能、だから私はこの気持ちを受け入れて行こうと思う。

 

私のことをちゃんと見てくれたアルクを私の全力でもって愛したいから。

 

「…あ、あの橙。顔ちょっと怖いよ?」

「あ、ごめんね。瞬きするの忘れてた」

 

まあ、まだまだ先は長いし焦ることは無いだろう。いろいろな本を見たりしてアルクを落とす方法を考えよう。アルクといえど男であることは変わらない。

 

ドロドロに蕩けさせてあげるから、待っててね。

 

そんなことを考えながら妖しい笑みをアルクの後ろで浮かべる橙であった。

 

 




誰かの為にご飯を作ることにハマってるアルク。前世でずーっと一人で泣きながらご飯を食べていたのが嘘のようですね(貰い泣き)

朝早い自分の為に朝ご飯作ってくれてお弁当まで持たせてくれる可愛い男の子がいたら誰でも落ちる(確信)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。