スカーレット家長男の憂鬱   作:社畜マークII

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本編
プロローグ


『とんだ劣等種』

 

『スカーレット家の恥さらし』

 

『何故お前みたいな奴が生まれてきたんだ』

 

親と思われる男と女が、口々に罵詈雑言を吐きかけてくる、いつものように、会社に行こうと朝起きたらこれだ、どうやら最近流行りの異世界転生とやらをしてしまった、と状況把握する。

 

パワハラ上司に比べると、かなりマイルドな暴言に、特に心動かされることも無くボーッと聞いておく。話を聞く限り、どうやら俺は地下に連れていかれ、密閉された部屋に入れられるようだ。

 

「お前はここでこれから生活しろ」

「はあ」

 

青髪の美丈夫が、威圧感たっぷりで、俺に淡々と話し掛けてくる。余りにも事務的でいて、所々で見え隠れするプライドの高いやつのその話し方に、少しだけ苛立ちながら話半分に耳を傾けておく。

 

「感謝するんだな、飯は届けておいてやる」

「それはどうも」

 

そりゃ飯無いと死んじゃうからね、なんか身体の構造が変わったような気がしないでもないがどんな生物であろうがエネルギーを摂取しないと死ぬのは常識だ。

 

「ふんっ、その余裕がいつまで続くか見ものだな」

「ここって本とか無いんです?」

 

かなり図々しいお願いだが、欲しいものは欲しいと言わなければあのブラックな毎日の二の舞になってしまう。

 

「贅沢な奴め…メイドに取ってこさせるから何が欲しいかは自分で言え」

「意外と優しいんですね」

 

知ってるか?好きの反対は無関心なんだぜ?

 

「勘違いするな、一度生んだものは劣等種であろうと死ぬまで面倒は見る、ただ、お前のようなクズを世に出すにはこちらも恥ずかしいのでな」

「そりゃごもっとも」

 

特にやることも無いので、備え付きのベッドでゴロゴロ横になる、いきなりの転生だった為、少し困惑はあるが、あのブラックな日常から考えると、かなり今の状況は幸せなのではないだろうか。これから始まるニート生活を享受しつつ死んだ魚の目で天井を見る。

 

そういえば、このショタの体の記憶というのもあることにはあるみたいだ、今暇だし少し思い起こしてみるか。ええっと、姉が二人居るようだな。

 

まるで外側からアニメでも見るかのような思い出し方に違和感を感じざるを得ない。それで…二人とは結構仲が良かったみたいだな、うわ俺が地下に連れていかれるときめっちゃ止めてんじゃん。なんか可哀想。

 

『アルクは劣等種なんかじゃない!やめて!連れていかないで!』

『うわあああ!アルクゥぅうう!!やめて、やめてよぉ!!』

 

これは酷い、かなり必死に止めとるやんけ。なんか悪いことしたなぁ…いや、よくよく考えると俺悪くないし。恨むなら親父とお袋を恨め、俺はその間ここでずっとニートやっとくから、出来ればあと400年は起こさないでくれ。

 

そういえば飯も運ばれてくると言っていたな、どんな感じだろう。洋食より和食派の俺は納豆ご飯や味噌汁を夢見ながらお腹の虫を盛大に鳴らしていた。この男かなりいい加減である。

 

 

その頃上の階では

 

 

「ふざけんじゃないわよ!アルクは、アルクは優しくて思いやりのある一生懸命な子じゃない!何であの子があんな所に!」

「お姉様、どうする?」

 

姉妹は怒り狂っていた。一人は激情に身を任せ机に蹴りを入れ、一人は酷く冷たい目で何かを見据えていた。反応は違えども同じことに怒るもの同士、通じ合うものが二人にはあった。

 

「とりあえず今はまだ手出し出来ない、力をつけることに全力を注がなければいけないわ」

「私の能力さえ制御出来ていればこんなことにならなかったのに…」

「それは私もよ、もう少し力が足りていればあのウジ虫共の喉笛を今すぐ抉り割いてやるのに…!!」

 

二人の姉は最愛の弟を助けるための算段を建てた、一人は破壊を、一人は運命を操る姉妹は自らの親を殺すために力をつけ始めたのであった。

 

 

 

 

 

 

あれから何年経っただろうか、いや何百年だな。とりあえずかなりの年数が経った、その間に自分は魔法書や色々な武術の書を読みそれを試してみたり、その魔法で生み出した道具で生活を快適にしたりしていた。自らの死んだ魚の目を治す道具を開発したりもしたがどうしてもこれだけは治らなかった、ちくしょう。

 

まあそんなこんなで今は全てやることが終わってしまい暇である。最近は偶に変な紫の美人な妖怪が訪ねてきて『私の式にならない?』って聞いてくること以外では誰かとの繋がりが無い。なので誰かとお喋りがしたい、そう思うようになってきた。というか今までそれが無かったことがおかしいのだ、だからそろそろ外に出てみるのもいいかもしれない。

 

そう思い準備を始めようと思ったそのとき、扉の方からかなり鈍い破壊音がこちらに向かってくるのがわかった。なんだ、侵入者か。とりあえず迎撃の準備を整える。魔法の道具を全身につけ、いつでも戦えるように構えをとる。

 

「これが最後の扉!キュッとして…ドカーン!!」

「フラン!良くやったわ!」

「お嬢様!やりましたね!」

「レミリア、私のお陰でもあるから感謝しなさいよ」

「ここにスカーレット家のご子息様が居られるのですね…」

「よし、じゃあ扉を開けるわよ…」

 

いや、これは侵入者と言うよりも完全にあの方達やんけ。え?ここまでかなりの迷宮っぷりだったと思うんだけど、俺が魔法でダンジョンみたいに入り組んだ構造にしていたのを全部突破してきたの?この人達。あ、もちろん飯を持ってきてる場合は普通の道になるんだけどね。

 

「アルク!遅くなって本当にごめんなさい!助けに来たわよ!」

「アルク!フランも来たよ!」

 

俺はこの方達の知ってる弟さんとは外面は一緒でも中身は違うんだよなぁ。どうしようか、まあバレたら絶対()()()()()()()()()誤魔化すか。とりあえず死んだ魚の目は絶望しきった感じで淀ませておこう。どよーん、どよーん。

 

「アル…クなの?」

「え…そんな…うそ」

 

「ね…えさま?」

 

「っ!アルク!しっかりしなさい!咲夜!今すぐこの子を上に運んで!」

「かしこまりました!」

「アルク…!ごめん…!ごめんなさい…!」

「フラン!謝るのはあとでも出来る!今はここを離れるわよ!」

「うん!」

 

俺は『長年監禁されて心に深い深い傷をおった吸血鬼の少年』を演じることでボロが出てもなんとか出来るようにした。しかしこれがかなりの波乱を生むことになるとはこの時予想だにしていなかった。

 

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「藍」

「なんでしょうか紫様」

 

紫のドレスを身に纏い、この世の全ての美を集めたような容姿をしたその金髪の女性は、自らの従者に声を掛けた。酷く嬉しそうな顔で、子供のような顔で。

 

「弟、欲しくない?」

「は?」

 

従者は従者でまるで正反対の表情をする。突拍子のないことを言うのは常であったがとうとうボケたのか、と失礼なことを思う。まあ仕方ないことだろう、それ程に突然のことだったのだから。

 

しかし主は自慢げに語り始める、己の正しさを信じて疑わない子供のように。

 

「いや橙にも同年代で競え合えるような子が居てもいいかなって思ったんだけど」

「ああ、そういうことですか…いいのではないですか?」

 

ああ、そういうことだったのか、と従者はひとまず納得する。

 

「そうよね!ちょうどいい子見つけたのよー!」

「弟が出来るのですか!紫様!」

「そうよー、橙がお姉様って呼ばれる日も近いかもね」

「やったー!」

 

勝手に人の弟を攫って式にしようとする紫のスキマ妖怪はこの後紅魔館をどんどんと引っ掻き回していく存在になっていく。頭はいいのに馬鹿で胡散臭いところが無ければこんなことにはならなかったというのに。

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