ネトゲをしていたはずの後輩が異世界召喚されて尊敬する先輩の元へ帰るために魔王として頑張る話 作:銅英雄
俺達はシェラを守るために動くことを決意した。
「グリーンウッドについてはどうしますか?」
「クエスト攻略の基本は情報収集だ」
「……ということは今から領主に話を聞きに行くってことだね」
「ああ。馬鹿げた戦争なんて起こさせるわけにもいかないしな」
ということでとりあえず……。
「それぞれ身仕度を済ませて外へ集まるぞ」
「案内はボクに任せてね!」
シルヴィの案内の元に俺達は領主に会いに行くことになった。
~そして~
「領主はこの町の英雄なんだ~」
「英雄っていうのは……?」
「今から30年前、まだ魔王がいた時代に最前線で戦って1人で何体も魔族を倒してるんだよ」
「成程、それで英雄と呼ばれる訳ね……」
「この前のディアベルやツボミさんやオーフェリアさんみたいだね」
「そいつの場合はたった1人で複数もの魔族を倒してるってことだが……」
(数こそは俺の方が多かったかもしれんが、あの時はツボミとオーフェリアがいてくれたおかげで消耗が極僅かですんだ……。しかしあの時俺1人だったら果たして魔族の軍勢を退けることができたのか……?)
「ちなみに領主って話しにくい雰囲気とか持ってたりするのかな?」
アンズが領主がどんな人物かをシルヴィに尋ねた。確かに気になるところではあるな。
「う~ん、厳格っていうか、ちょっとおっかないんだよね~。だからディアベルさん……」
シルヴィは苦笑いしながら此方を向いた。なんだ……?
「くれぐれも言葉遣いには気を付けてね……?」
シルヴィの言葉にレムとシェラは硬直し、ツボミは苦笑い、アンズとオーフェリアは何かを察したような表情をした。
(えっ?何?なんだってんだ……?)
一抹の不安が頭を過るが、とにかく領主の所に向かうことにした。
~そして~
……で、領主の所についたわけだが。
「…………」
「ど、どうもガルフォードさん。今日も良い天気だね~」
「…………」
シルヴィの話題のようなものに対して表情がピクリとも変化していないガルフォードとやらを見て俺は思った。
(怖い!めっちゃ怖い!今の俺は冷や汗と脂汗がタラタラと垂れているだろう。もうこいつが魔王でいいんじゃないか!?)
オーフェリアの方を見てみると冷や汗を流しているし、ツボミはゴクリと唾を飲み込んでいる。
(アンズは……?アンズはどうなんだ!?)
そう思い俺はアンズを見ているが、特に畏縮しているわけではなく、何かを考えている様子だった。
(領主さんの実力は魔力を使わないで戦うツボミとほぼ互角といった感じかな……?どうにかして彼とツボミが戦うような機会を作っておきたいところだね)
アンズが何を考えているかはわからん。とりあえず早くここから出たいザマス!
そう思いつつ、シルヴィとガルフォードが話を進める。
「例の件、ディアベルさんにはクエストを請け負ってもらったよ」
「……ならば速やかに問題を解決するといい。私への報告はクエスト完了の後で構わない」
「えっと……。なんせクエストの難度が高いからね。もう少し情報をもらおうと思って……」
「必要なことは話したと思ったが……?」
「……まぁそうなんだけど」
シルヴィも汗まみれだな。その気持ちはよくわかる。
「……そうだ!自己紹介くらいはしてもいいんじゃないかな?」
「……やれやれ、冒険者は領主の名前も知らんか」
もうさっきから場が凍り付きすぎ!勘弁して!!
「私はチェスター・レイ・ガルフォード中将だ。国王陛下より城塞都市ファルトラを預かっている」
やっぱりというか威圧感ぱない。
「レム・ガレウ。冒険者です……」
「シェラ・L・グリーンウッドです……」
レムとシェラが名乗り終えると此方を見る。ふぅ、腹ぁ括るか。
「……ディアベルだ。話を聞きに来たのだが」
(よし、なんとか上手くできたぞ!心なしかレム達も安堵している!)
「報告によると君は異世界の魔王だと称しているとか……。本当かね?」
ギラン!……じゃなくて無難に。
「……だったらどうだというんだ?おまえには何も関係がないだろう」
「ディ、ディアベル……」
……あれ?もしかしなくてもまずった?
「……ふん、次はそこの3人の紹介も聞こうか?」
(なんかまずった気がするが、なんとか乗りきった。あとは頼んだぞアンズ……)
「御初に御目にかかります、ガルフォード中将殿。私はアンズと申します」
アンズは膝をついてそれは宛らガルフォードに忠誠を尽くす騎士のように様になっていた。
「後ろの2人は私の仲間のツボミとオーフェリアです。以後お見知り置きを……」
ツボミとオーフェリアはアンズの紹介と同時に頭を下げる。
「……そこの3人は幾分かマシのようだが、やはり冒険者というのは可笑しな連中だ」
「えっ……?」
「後ろを見たまえ」
ガルフォードの指示に従って俺達は後ろを向いた。
「町の南東にあるセプリア湖。その東側に広がる森に今エルフが潜んでいる……。まだ数はわかっていないが、王国の勢力を考えても多くて100というところだろう」
「100かぁ……」
「軍隊にしては少ないですね」
確かに少ないな……。エルフ達が魔族のような実力を持っているならば、100という数も多く感じるだろうが……。
「数こそはそうでも、エルフが住んでいる森は広いからね。100のエルフそれぞれ木々に隠れて不意討ちでもすれば恐らく多くの兵が失われるよ」
「エルフ達はそれを得意としている故にエルフ達が待ち構えている森に部隊を投入すれば彼女の言う通り多くの兵が失われることになる……。無理に部下を失わせるのは私の最も意味嫌うことだ」
「……それで俺達を使うということか」
「君達が王女を引き渡すというならその必要はないのだがね……」
「ひっ……」ビクッ!
ガルフォードがシェラを引き渡す等とトチ狂ったことを抜かすもんだからシェラがヒビってんじゃねぇか……。
「そんなことさせるわけがねぇだろ……!」ギロッ!
俺はガルフォードを睨む。正直ガルフォードは怖いが、シェラを守ると決めたからな。
「……シェラ王女。裕福な暮らしを捨て、危険な冒険者に身をやつしてまで何を求めているのだね?」
「あたしは……」
シェラはガルフォードの質問に声を震わせながら応えた。
「あたしはあたしでいる理由がほしかったんです……。血筋とかじゃない、有りのままのあたしの価値が知りたかったんです。それはエルフの国では手に入らないような気がして……」
「……成程」
「わかってくれますか……?」
「共感できる筈が無かろう。まぁ知識としては覚えておくがね」
「そうですか……」
ガルフォードに共感してもらえずシェラは哀しそうにしている。だがしかし……。
「別に共感してもらう必要はないと思うよ?」
「えっ?」
「アンズの言う通りだ。好きなだけ苦労して、好きなだけ努力して、好きなだけ限界にぶつかって、己の力で手にした成果を噛み締める……。自分の決めた道なら他の奴がどう言おうが惑わされるな」
「それが自由に生きるということだよ」
「ディアベル……。アンズさん……」
「ではシェラ王女は引き渡さない。君達がグリーンウッド王国との戦争を回避する手を打つ……。そういうことで良いのだね?」
「ああ、もちろんだ。シェラは俺達の仲間……。手出しはさせない」
「……任せよう。そしてその件を含めて王都から人が派遣されてきている。紹介しておこう」
派遣だと……?そう思っていると扉が開かれた。中に入ってきたのは眼鏡をかけた女性騎士のようだが……。
「国家騎士のアリシア・クリステラと申します。国王陛下から問題の解決に当たるよう御加盟を賜っております」
国家騎士だって!?
「どうぞよろしくお願いします」
こりゃまた大変なことになりそうだな……。
今回はここまでです。
次回、アリシアも加わり7人で依頼に向かうが……?