無表情のこころさんがつきまとって来るんだが!? 作:白亜霧雨
学校の昼休み。
俺はいつも教室や中庭で食べているのだが、曲がりなりにも美人なこころと俺が一緒にいると独り身の男子生徒が殺意の目を向けてきて怖いので初めて屋上に来てみた。
元々丘の上に建てられているうえに四階建てなので、すごく景色がいい。
さすがにここにいることはバレていないらしく、隣にこころはいない。
でも、
「さとし君のためにお弁当作って来たんだ〜♡」
「オッ、サンキュー!」
リア充が多い!
俺は公園でイチャつくカップルがいても割と寛容的だが、この量は異常だな。
ベンチに座るまでに同じようなやりとりを3、4回聞いたぞ。
「ねーねー、あそこの人ってさー、彼女いないんじゃないの?」
「んー? ほんとだ。ダッセェーな」
うわっ。完全に俺のことじゃん。
こういう人をバカにするカップルってのはバカにしてることに慣れてるから音量調整できないんだよな。
その証拠に屋上にいるカップルの半数が俺を見ている。
「はぁ、ここに来たのは間違いだったかな」
今日は諦めてここで食べるとして、明日はちょっと遠いけど旧校舎に行ってみるか。
相変わらずヒソヒソ悪口が聞こえる中で、景色を見ながら弁当を食べようとした時。
目の前に花柄の可愛らしい弁当包みが出てきた。
「小谷くん。遅くなってごめんね」
「のわっ! こころ!? お前どうしてここにッ!」
その弁当の持ち主はこころだった。
するとこころは耳元に近づいて、
「少しあそこのカップルが癇に障ったので、ここは一旦恋人のフリをしてやり過ごしましょう」
と言ってきた。
このままずっと悪口を言われるのも嫌だし、
「わ、わかった」
と答えた。
でもどうすれば良いのだろうか。
「私が先導しますので、小谷くんはその時に応じた受け答えをしてください」
そう言うと、俺の隣にそれも結構近くに座った。
「もう、小谷くん! 一緒に屋上行こうって言ったじゃん!」
「えっ? あ、ああ。そんなこと約束してたな、忘れてた、ごめん」
「反省してるみたいだし許してあげる! で、ちゃんとお弁当作って来た?」
「………。」
弁当はいつも自分で作っているのだが……?
てか、こいつ無表情なのに声だけ名演技だぞ!?
「おう。作って来たよ。でもそれ知ってんじゃ」
「ほんと!? ウフフッ、嬉しいな。一緒に行く約束は忘れてたのに、お弁当はちゃんと作って来てくれたんだ。今日は自分で作ったお弁当を交換し合うって約束だったよね?」
そこまでする必要はあるのだろうか? もう悪口を言っていたカップルはこちらに興味をなくしたみたいなんだが。
「? どうしたの?」
上目遣いでこちらを見てくるこころ。
あ、微妙に、ほんとに少しだけ眉間にシワが寄っている。
怒ってんのか? なんで?
こいつ怒らすと怖いからな、一回怒らした時無言で辞典とか取り出して来たからな。
いざとなったら止めるけど、ここはこころに任せよう。
「いや、ちょっとな。考えごと」
と言った後、弁当を交換した。
彩りがしっかりしていてバランスも完璧な弁当が俺の手元に来た。
「これほんとに食べていいのか?」
「なに言ってるの? 食べないと腐っちゃうじゃん。それとも食べさせて欲しいの?」
「ちょちょっ!? そんなこと一言もッーーんむっ!?」
「ふふっ美味しい?」
「あ、ああ、美味しいよ」
「こんどは小谷くんの番だよ? あーん」
「俺もしなくちゃいけないのか?」
「あーん」
パクっ。
「うーん、美味しい。家庭の味だね」
「なんでお前が俺の家庭の味を知ってんだ」
その後も他のカップルに負けないくらいのラブラブさで昼食を終えることが出来た。
そして放課後。
「昼休みの時は助かった! ありがとうこころ」
「いえいえ、お気になさらず、全てはあなたをすぐ見つからなかった私が悪いのです。それと、ですね」
こころは一呼吸置いて、
「これからもお弁当を作って来てもいいですか……?」
照れてるのか…?
ほんの少しだけ、それも、長年一緒にいる俺ぐらいにしかわからないくらい少しだけ、頰を染めて言った。
その質問の答えはもう決まっている。
「いいに決まってんだろ! むしろ俺から頼みたいくらいだぜ!」
「本当ですか。ではこれからも頑張らせていただきます。では、また」
「おう、じゃあな」
こころは足早に去って行った。
それにしても、
「今の顔、可愛かったな」
教室を出て行ったこころは、心の中ではすごく喜んでいた。
今回は怖いくらいに作戦がうまくいきましたね。小谷くんが屋上に行くように誘導すると同時にお弁当を作りを毎日練習しましたしね。
それに、今回の目標である、あーん、をし合う。とお弁当を交換するも達成できましたし。
『いいに決まってんだろ! むしろ俺から頼みたいくらいだぜ!』
明日はどんなお弁当にしようかな……?