それでは、第1話をどうぞ。
第1話 ゲームの始まり
「……ん?」
掌に薄らと感じるヒンヤリとした感触と共に目を開けると、視界に入ってきたのは薄暗い謎の空間と少し離れたところで倒れ込んでいる数人の男女の姿だった。
え……ここは一体どこなんだ……? 自分の部屋で眠ってたはずなのに、気付いたらこんなよく分からないところで倒れてるし、何故か寝間着じゃなく学校の学ランを着てるし……。
あまりに突然の事だったため、自分が今置かれている状況が理解できず、俺の頭は混乱していた。しかし、倒れ込んでいた人の内の一人から「うぅ……」という声が上がった瞬間、頭の中の混乱がスッと無くなり、俺はその声がした方へとすぐに駆けだした。すると、それが合図になったかのように次々と倒れていた人達が起き出し、俺が近くへと寄った頃には、全員が起きあがっており、その誰もが不思議そうに周囲を見回していた。
「ここは……どこなんだ?」
「暗い……なのに、他の人の顔ははっきりと見える……?」
「一体……何がどうなって……?」
その人達はそれぞれ別の疑問を口にしていたが、それに答えられる人は誰一人いなかった。いや、たとえいたとしてもそれに答える事は無いだろう。何故なら、うっかり答えてしまおうものなら、ここにいる全員を敵に回す事になる上、こんなよく分からない空間に俺達を閉じ込めるような奴がそんなミスを犯すわけがないからだ。
さて……となると、何か動きがあるまで待つ方が良い事になるけど、こういう時って大抵誰かが騒ぎ出すんだよな……。
周囲の様子に注意を向けながらそんな事を考えていたその時、一人の人物――スーツを着た壮年の男性が苛立ちの色が浮かんだ表情で周囲をキョロキョロと見回し始めた。
「くそっ、一体何なんだここは……! この私をこんな薄暗い場所に拉致するなぞまったくもってふざけている……!」
「あ、あの……こんな状況でイライラしてもしょうがないですし、一度落ち着いた方が――」
「黙れ!」
「ひっ!?」
壮年の男性の怒声で老人に話し掛けた人物――スーツを着た若い男性が悲鳴を上げると、壮年の男性はイライラとした様子で怒りを孕んだ大声を上げ始めた。
「私を誰だと思っている!? ホテル・グリッドの総支配人、
「ホテル・グリッドって……確か大富豪や芸能人ぐらいしか泊まれないって言われてる超高級ホテルだったような……」
「その通りだ! そんなホテルの総支配人たるこの私に意見をしようなぞ誠にけしからん! 身の程を知れ、この若造が!」
「は、はい……!! 誠に申し訳ありませんでしたぁーっ……!!」
壮年の男性――丑三さんに対してスーツ姿の男性が情けない声で謝りながら頭を下げると、丑三さんは忌々しげな視線を向けながらふんと鼻を鳴らし、今度は俺達全員に対して大声で呼び掛けてきた。
「そこにいるお前達もだ。この私には決して逆らわず意見などもしようとは思うなよ! 私はお前達のような平民とは違う存在なのだからな! 良いな!」
『…………』
俺達の誰もが返事をせずに黙っていると、丑三さんはわざとらしく舌打ちをした後、俺達から視線を外した。
ふう……こういうのがいるとは思ってたけど、まさかここまで自分勝手な奴だとはな……。ここがどこでこれからどうなるのかは分からないけど、あの人とだけは協力し合えなそうだな。
丑三さんの言動からそう判断した後、俺は他の人にも話を聞こうと思い、誰から話し掛けたものか悩んでいた時、「ねえ」という声が聞こえ、俺はそちらに視線を向けた。すると、そこにいたのは俺と同い年くらいのセーラー服姿の黒いポニーテールの女子であり、少し気の強そうな表情で俺の事をジッと見ていた。
「えっと……何かな?」
「あの丑三って人、どう思う?」
「どうって……あまり協力的には見えないし、態度も大きいから俺的には嫌いだな」
「そう……うん、やっぱり話し掛けて正解だったみたいだね」
その子が安心した様子で微笑む中、俺はその子の口から出てきた言葉が気になっていた。
「正解だった、っていうのは?」
「この中ではまともで信用が出来るって事。こんな奇妙な状況に巻き込まれたからには、信用出来る仲間を増やしておく方が良いでしょ?」
「まあな。つまり、俺は君のお眼鏡に適ったという事か」
「まあ、そうなるかな。あ……自己紹介がまだだったね、私は神月鈴歌《しんづきれいか》、高校二年生だよ」
「神月鈴歌、だな。俺は
「うん、よろしく」
神月と自己紹介をし合いながら握手を交わしていた時、「その自己紹介、私も混ぜてもらえるかな?」という声が聞こえ、俺達が同時に視線を向けると、そこには優しそうな雰囲気を漂わせたおよそ20代後半に見える短い金髪の外国人の男性が立っていた。
「あ、はい。もちろんですけど……日本語、スゴくお上手ですね?」
「ははっ、まあね。見ての通り外国人だけど、日本に住んでもう長いから」
「そうなんですね。あ、俺は甲斐暖士って言います」
「そして、私は神月鈴歌と言います」
「甲斐暖士君に神月鈴歌さんだね。私はアルヴィン・タイ、アミューズメント系の企業に勤めている極々普通のサラリーマンだ。呼ぶ時は遠慮無くアルヴィンの方で呼んでくれ」
「「分かりました」」
「うん、ありがとう。後……もし君達さえ良ければ、君達の事を名前の方で呼んでも良いかな?」
「それくらい別に構いませんよ。な、神月?」
「うん。それと、君も私の事を名前で呼んでくれて良いからね? あの傲慢親父とは違って、君ととアルヴィンさんとは仲良くやっていけそうな気がするから、苗字の方で呼ばれるよりは名前の方で呼ばれた方が何だか嬉しいからね」
「そっか。それじゃあ遠慮無く呼ばせてもらうけど、お前も俺の事は名前で呼んでくれて良いからな?」
「うん、分かった。それじゃあ改めてよろしくね、暖士、アルヴィンさん」
「ああ、こちらこそよろしくな、鈴歌、アルヴィンさん」
「こちらこそよろしく、暖士君、鈴歌さん」
そんな言葉を交わしながら改めて握手を交わすと、何故か突然二人から妙な懐かしさのような物を感じた。
……二人とはここで初めて会ったはずなのに、何でそんな感じがするんだろう……? 同じ高校二年生の鈴歌ならまだしも、歳が一回りくらい離れてる感じがするアルヴィンさんと会う可能性なんてそうそう無いよな……?
鈴歌とアルヴィンさんから感じた懐かしさのような物に対して疑問を抱いていると、鈴歌とアルヴィンさんも少し不思議そうな様子で軽く小首を傾げたり記憶を探るように顎に手を当てながら考え込んだりしていた。
やっぱりか……という事は、俺達は昔どこかで会った事が――。
疑問が確信に変わろうとしていたその時、薄暗かった空間が急にパッと明るくなり、それと同時に俺達の近くに目元だけ隠れる形の白い仮面を被ったシルクハットに燕尾服という出で立ちの細身の人物が現れていた。
「えっ……!?」
「だ、誰……!?」
その人物の登場に俺達が強い警戒心を抱いていると、その人物は無言で俺達の事を見回した後、突然両手を大きく上げながら空間中に響き渡るほどの声で話し始めた。
「レディース&ジェントルマン! ようこそ、この私――ドリーマーが作り出した夢の世界へ!」
「夢の世界……?」
「その通りだ! ここはいつも君達が眠っている時に見ているような
「なるほど……でも、どうして私達なの? 私達六人に何か共通点があるようには――」
鈴歌が疑問を口にしていたその時、それを遮るように丑三さんがズイッとドリーマーの目の前に立ち、怒りを孕んだ大声を上げ始めた。
「貴様がこんなふざけたところに連れてきた犯人か! さっさとこんなわけの分からん事は止めて、私を解放しろ! 私はお前のような狂ってる奴に関わっている暇など無いのだからな!」
「…………」
「おい! 聞いているのか!」
丑三さんが今にも掴みかかろうとしている中、ドリーマーが落ち着き払った様子で「……少しだけお静かに願おう」と呟いた直後、丑三さんの口が本人の意志とは関係なく徐々に閉じていき、最後にはまるで糊で固めたかのように丑三さんの口は開かなくなっていた。
「むぐ……!? むぐ、むぐぐぐ……!!」
「……ご安心を。話を終える頃には、また口が開くようになるので、それまでは静かにしていてくれたまえ」
そして、丑三さんから俺達の方へ視線を移すと、ドリーマーはニヤリと笑いながら再び話し始めた。
「さて……それでは、そろそろ本題に移るとしよう。これからここにいる君達六人には、とあるゲームに参加してもらう」
「ゲーム……だと?」
「ああ、そうだ。ルールは至って簡単だ、私が作り出した四つのステージ――アトラクションをクリアしてくれればそれで良い。クリアの方法は、そのアトラクションによってそれぞれ異なるが、スタート時にはアナウンスをさせてもらうので、そこは安心してくれ。そして、全てのアトラクションをクリアした者は、無事に現実世界に返すと約束しよう」
「……クリアをすれば、この夢から覚めるのはわかった。ただ、さっき鈴歌が訊こうとしていたけど、どうして俺達なんだ?」
「そ、そうだよ! どうして私達なの? 私……こんなこわーいゲームに巻き込まれる理由なんて無いのに……」
俺の他に茶色のセミロングヘアのセーラー服姿の女子学生が問い掛けると、ドリーマーはクスクスと笑いながらそれに答えた。
「選んだ理由かね? そんなのは簡単だ、
「初来場者……?」
「ああ。先程、アトラクションという単語を使ったとおり、ここは夢の世界に作り上げた新感覚の遊園地みたいな物なのだよ。ここにあるアトラクションは、そのどれもが君達が心から楽しめる物ばかりだと自負しているよ」
「遊園地……それなら別に危なくは無いか……」
「なーんだぁ……真央、さっきまでスゴく怖かったけど、遊園地みたいな物だって言うならスゴーく安心かも♪」
スーツ姿の男性達が安堵の声を漏らす中、ドリーマーは怪しい笑みを浮かべながらうんうんと頷いた。
「その通りだよ、
「そうそう、入場料が命――って、はい?」
「命って……あの命?」
「そうだ。アトラクションのクリア条件を満たしていない者は、次のアトラクションへと進めずにそのまま命を失う。そして、アトラクションの最中に起きる様々なイベントの中でも君達の命が失われる事がある。まあ、『エンドレスドリーム』内でどんな死に方をしようとも現実世界では、ただの心臓麻痺にしかならないから、その点は安心してくれたまえ」
「いやいや! それのどこが安心できると言うんですか!?」
スーツ姿の男性――九鬼さんが驚愕の表情を浮かべながら大声を上げるが、ドリーマーはとても楽しそうな様子でクスクスと笑っているだけだった。
入場料が俺達の命……でも、それなら参加をしないと言えば良いだけなんじゃ……?
そんな疑問が頭を過ぎった直後、ドリーマーの視線が俺へと移ったかと思うと、ドリーマーはニヤリと笑いながら話し掛けてきた。
「確かに参加をしなければ済む事だが、この場に招かれた時点で君達が目覚めるには、この世界の創造主であり管理人でもある私の許可が必要となっている。よって、参加をしないという選択肢は無い。まあ、参加をしないというのならば、アトラクションに挑戦すること無くこの場で死ぬ事になるだけだ」
「……つまり、俺達に拒否権は無い、って事か……」
「そういう事だ。さて……他に質問はあるかね? 無ければ、そろそろアトラクションに挑戦してもらおうと思うんだが……」
ドリーマーが俺達の事を見回しながら問い掛けると、「はい」と隣に立っていた鈴歌が手を上げた。
「君は……神月鈴歌さんか。何かね?」
「私達がこのゲームに参加するメリットはあるの? いきなり連れて来られた上、死ぬ可能性があるゲームに無理やり参加させられて、参加しないと殺すなんて言われるのは、明らかに不公平でしょ?」
「ふむ……なるほど、誰かはそう問いを投げかけてくるとは思っていたが、まさかそれが君だったとはね」
「……その言い方、まるで
「それについては、ノーコメントとさせてもらおう。最初から手札を晒しすぎるのは、愚者のする事だからね。さて、君達が参加するメリット、だったね……では、こうしようか。このゲームをクリアした者には、
その瞬間、俺達三人を除いた全員の表情が一変した。ドリーマーの力で喋れない丑三さんは、欲望に満ちたギラギラとした目をドリーマーに向け、さっきまで怖がっていた王賀さんは、薄ら笑いを浮かべながら「願い……何でも……!」と呟いた。そして、さっきから気の弱そうな様子を見せていた九鬼さんも「願い……叶えられる……!」と小さな声で言いながら嫌らしい笑みを浮かべていた。
……この三人は危険だな。協力し合う事も時には大切だけど、この三人についてはもう少し様子を見てから情報共有なんかを行った方が良いかもしれない。
丑三さん達の事を見ながらそう考えていた時、両肩にポンッと手が置かれる感触があり、そちらに視線を向けると、鈴歌とアルヴィンさんが俺の顔を見ながらコクンと頷いた。その二人の様子から同じ事を考えていると悟り、それに続く形で俺も二人に頷き返した。正直な事を言えば、願いが叶えられる権利はどうだって良い。今はアトラクションとやらをクリアして、ドリーマーの正体をしっかりと探った上で生きて帰る事が重要だ。
「……必ず生きて帰ろう、皆で協力して」
「うん」
「ああ」
俺達はもう一度頷きあった後、誓いを立てるように拳をコツンとぶつけ合った。必ず生きて帰るために脱出しようとする俺達、そしてそれぞれの願いを叶えるためにここを脱出しようとする丑三さんや王賀さんという二つの集団に対し、ドリーマーはどのような思いを抱いたかは分からないが、ドリーマーの方へ視線を戻すと、ドリーマーはニヤリと笑いながら静かに口を開いた。
「それでは、そろそろゲームを開始しよう。ゲームのスタート地点は、それぞれバラバラになっているから、協力し合うつもりがあるなら、まずは合流する事を目標にするのが一番だろうな。では、諸君。また君達と出会える事を楽しみにしているよ」
そのドリーマーの言葉と同時に、俺達の視界は突如強い光に包まれていき、やがて意識もその光の中へと消えていった。
第1話、いかがでしたでしょうか。今作品は短期集中連載を予定していますので、あまり期間を空けずに更新をしていこうと考えています。なので、出来る限り毎日投稿する予定ですが、諸事情で期間が少し空く時も考えられますので、その時には楽しみに待っていて頂けたらと思います。
そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けたらとても嬉しいです。よろしくお願いします。
それでは、また次回。