Dreams   作:九戸政景

6 / 9
どうも、片倉政実です。それでは、第4話をどうぞ。


第4話 エネミーからの逃走

 鈴歌達が職員室で見つけた『渡り廊下の鍵』を使うため、一緒に見つかったこの『深淵高校』の地図を見ながら俺達は先程通りがかった1階の渡り廊下へとやって来た。渡り廊下に続く扉は、さっきと同じように閉じており、それを開けるために扉に軽く力を入れてみると、やはり鍵が掛かっているためかびくともしなかった。

「まあ、そうだよな。これで鍵を開けてもないのに開いたら、何のための鍵だってなるし」

「確かにね。それにしても……この先にいるエネミーって、本当にどんな奴なんだろうね……?」

「ドリーマーが言うには、寂しがり屋で私達を見つけ次第、ハグや握手を交わしにくるらしいが……」

「つまり、この『深淵高校』のエネミーは強い力で体や手などを押し潰す事で殺そうとしてくる()()って事になりますね。問題は、そのエネミーが追いかけてくる時の速さですけど、そこは実際に出会わないと分からなそうですね」

「そうだね。さて……それでは、早速そのエネミーに会いに行こうか」

「「はい」」

 そして、扉の鍵穴に『渡り廊下の鍵』を差し込み、そのまま左の方へゆっくり回すと、ガチャリという音を立てて鍵は開いた。コクリと頷き合ってから扉を横に引き開けて外へと出てみると、そこには木製の少し長めの渡り廊下があり、渡り廊下の先には暗くて見えづらいものの、何やら大きな建物が静かにそびえ立っていた。

「さて……ドリーマーの言う事が正しいとすれば、あそこにエネミーがいるわけだけど、いざとなったら俺が囮になるから、二人はその間に全力で逃げてくれ」

「え……だ、ダメだよ……! それなら、体力と速さに自信がある私の方が――」

「いや、ここは俺に任せて鈴歌は出来る限りアルヴィンさんと一緒に逃げて欲しい。逃げる時に離ればなれになる恐れがある以上、もしもの時に探索を有利に行えるようにしたいからさ」

「探索を有利に行う……?」

「そう。現時点で開いていると確定してる部屋は、さっきまでいたあの職員室だけだ。だから、教室棟にある教室の幾つかが開いていたとしても、先に地図を見つけに来ようとした事で、それがどれかはまったく分からない。加えて、たとえ偶然開いている部屋を見つけたとしても、そこに隠れられる場所が無かったり、見つけるまでに時間が掛かったりして最悪エネミーに捕まる可能性も大いにあるからな」

「なるほど……つまり、こんな異様な空間にいる上、エネミーという謎の存在に追いかけられる事の恐怖から、判断力や冷静さを欠いてしまい、それが原因で捕まるというパターンもある。だから、運動能力に長けている鈴歌さんと私が一緒に組み、君と合流するまでの間に出来るなら徘徊するエネミーを警戒しながら探索をしておいて欲しいという事だね」

「はい。それに……鈴歌を――女子を一人にさせるわけにはいきませんからね」

「暖士……」

「まあ、これはあくまでも今一緒にいるのが、アルヴィンさんだからであって、これが丑三さんや九鬼さんだったら、もちろん組ませはしませんよ。信用が置ける大切な仲間を任せられるのは、同じく信用が置ける大切な仲間だけですから」

「なるほどね……ふふ、それなら私はしっかりとリーダーからの期待に応えるとしようか」

「ありがとうございます、アルヴィンさん」

「どういたしまして。だが、私達にばかり気を回さずに君もしっかりと逃げ切ってくれよ、暖士君。君がそう思ってくれているのと同じように、私達も君の事を大事な仲間だと思っているからね」

「そうだよ、暖士! 暖士はこのチームには欠かせない存在だし、暖士も揃って現実世界に帰るからこそ意味があるんだからね!」

「アルヴィンさん……鈴歌……」

 アルヴィンさんと鈴歌が掛けてくれた言葉で、胸の奥がぽかぽかしてくると同時に、これからに向けて活力とやる気が体中に満ちてきたような気がし、俺はそれらを感じながら小さく微笑んだ。そして、再び渡り廊下の先へと視線を向け、大きく頷いてから二人に声を掛けた。

「……よし、行こう、二人とも!」

「うん!」

「ああ!」

 二人の力強い返事に後押しされるように、俺は二人と一緒にエネミーがいるとされるエリアへ向かって渡り廊下の上を歩いていった。途中、道が分かれているところがあったが、鈴歌達とアイコンタクトでそこは一度スルーする事にし、俺達はそのまま進んでいった。そして、再び現れた扉をゆっくりと横に引き開けると、そこは少し狭い通路のような場所になっていた。

「通路……というよりは、ここも廊下かな?」

「みたいだね。えーと……あ、向こうの方に階段みたいなのが見えるよ」

 鈴歌が指差す方に視線を向けると、そこには確かに階段らしき物が薄ぼんやりと見えていた。

「あ、本当だ。けど、こういう時って階段を上った先に何かある事が多いよな」

「この場合、何かというかはエネミーとの遭遇だろうけどね」

「そうだね。ふむ……それなら、先にこの階を探索してしまうのはどうだろうか。薄暗くて良くは見えないけど、反対側に大きな部屋があるようだから、もしかしたらあそこに何かエネミーの対策になる物があるかもしれないからね」

「エネミーの対策……そうですね、もしそういう物があれば、もちろん嬉しいですし。それに、たとえそういう物が無くても、この校内の探索が進む分、得にはなりますからね」

「けど……何かの罠があるかもしれないし、慎重に調べてみた方が良さそうだよね」

「だな。よし……それじゃあまずは、あの部屋に行ってみるか」

「うん」

「ああ」

 そして、三人揃って息を潜めながら廊下を進み、件の部屋の前に立った瞬間、部屋の上の方に差し込まれたプレートが目に入り、この部屋が何の部屋なのかが分かった。

「そっか……ここは柔剣道場だったのか」

「柔剣道場……って事は、柔剣道場自体は探せるところや隠れられるところは、かなり少なそうだね。それに、昇降口が開かなかった事から考えると、外に逃げるのは無理そうだから、逃げ込むのはあまり良くないかも……」

「そうだね。だけど、部室や更衣室などもあるだろうから、探してみる価値はありそうかな」

「部室と更衣室……そうですね、ロッカーや棚にこっそりと鍵が隠されている可能性もありますから、探してみるのもありかもしれませんね。でも、まずは――」

 柔剣道場の引き戸に両手を付け、そのまま扉を開けようとしたが、どうやら鍵が掛かっているらしく、柔剣道場の引き戸はびくともしなかった。

「……開かないか」

「つまり……今はあの階段を上がっていくしか無い、って事だね」

「そうなるね。だが……こう薄暗いと探索どころか逃げるのですら困難だな。しばらくは携帯電話のライトでどうにかするしか無いが、そろそろ懐中電灯も欲しいところだね」

「ですね。懐中電灯は、職員室や宿直室にあるイメージが強いですし、後で探してみましょうか」

「ああ、そうしよう。さて……それでは二人とも、そろそろ階段を上がってみようか」

「「はい」」

 揃って頷いた後、俺達は反対側にある階段へと向かい、この先にエネミーが待っていることへの緊張から、早鐘のように心臓が鳴り始めるのを感じながら無言で階段を上がった。そして、階段を上がり終え、大きな鉄の扉が視界に入った瞬間、その向こうから強い威圧感のような物を感じ、思わずそれに気圧されそうになり、少しだけ逃げ出したいと思ってしまった。しかし、仲間を置いてここで逃げるわけにはいかない上、この二人と必ず生きて帰ると約束したため、俺は自分の臆病な気持ちを押し殺しながら一度深呼吸をした。そして、気持ちが落ち着いた事を確認した後、俺は扉に軽く力を入れて、そのまま横へ引き開けた。すると、まず視界に入ってきたのは、暗闇に包まれたとても広い空間だった。

「暗いな……」

「うん。それにここ……私達が最初にいた場所と同じような雰囲気がする……」

「……という事は、ここは校内でドリーマーの力の影響が一番強い場所、になるのかもしれないね……」

「ドリーマーの力の影響が、校内で一番強い場所……」

 もし本当にそうだとすれば、ここは俺達にとって一番危険な場所、という事になるが、それだけここには何かしらの価値がある事にもなる。

「……よし、それじゃあ早速――」

 中へ入ろう、そう言おうとしたその時、パッパッという音を次々と上げながら中にあった照明が点きだし、突然訪れたその眩しさに俺達は目を瞑った。そして、そろそろ良いかと思いながら目を開けると、そこには――。

「フフフ……ようこそ、諸君。久しぶり……いや、さっきぶり……かな?」

 この『深淵高校』を創り上げた謎の人物――ドリーマーとその隣で軽く俯きながら苦しそうな声を漏らしている異様な雰囲気を漂わせた金色の仮面を被り金色のスーツを着た人物がいた。

「ドリーマー……!?」

「貴方が何故ここに……!?」

「ふっふっふ……なに、最初にここを訪れるのが本当に君達になるかを見に来ただけさ。それと……彼――『傲慢(プライド)』を紹介しようと思ってね」

「『傲慢』……?」

「ああ、そうさ。この見た目からも何となく察する事は出来ると思うが、彼はあまりに傲慢な男でねぇ……その傲慢さから彼を慕う者はおろか、話し掛けようとする者すらろくにいないというとても寂しい奴なんだ。だから……このアトラクションにいる間、君達には彼の相手をしてほしいんだよ」

「コイツ――『傲慢』との命がけの鬼ごっこの相手をしろって事か……」

「……簡単に言えばそうなるかな。もっとも、他の参加者達とは違って君達はそう簡単には捕まらなそうだけどねぇ……」

「それはそうでしょう!? 命がけの鬼ごっこで捕まるなんて絶対に嫌だから!!」

「ははっ、良いねぇ……! その元気とやる気でこのゲームを、そして私をもっと盛り上げてくれたまえ!」

 ドリーマーが楽しそうな笑い声を上げる中、アルヴィンさんはそれに動じる事なくドリーマーに話し掛けた。

「ドリーマー……貴方の目的は何なんですか? 私達の命を賭けたゲームを開催してまでしたい事は何なんですか?」

「アルヴィン君……それは最初のステージで訊く事じゃないよ。だから、それについては最後のステージまで君達が残っていたら話してあげるよ。『傲慢』や他のエネミー達から逃れ、最後のステージまで辿り着いたその時に、ね……」

 ドリーマーは不敵な笑みを浮かべると、傍らにいる『傲慢』に声を掛けた。

「さあ……行きたまえ、『傲慢』。その己の傲慢さを悔いながら彼らの事を追い続けると良い!」

「ウ……グウゥッ……!!」

『傲慢』は苦しそうな呻き声を上げると、ヨロヨロとした動きで進み出し、それを見た俺達は頷いてから来た道を急いで戻り始めた。背後から聞こえる『傲慢』の苦しそうな呻き声に耳を塞ぎたくなったが、それを我慢しながら俺は鈴歌達と一緒に踏み外さないように、そして急いで階段を降り、そのまま渡り廊下へと向かった。そして、渡り廊下を戻っている最中、先頭を走っている鈴歌がチラッと背後を振り返ってから俺達に話し掛けてきた。

「……ねえ、あの『傲慢』っていうエネミー……結構足が遅いみたいだよ……?」

「はぁ、はぁ……確かに今はそう見えるけど、後から速くなる奴かもしれないし、油断はしない方が良いぞ……?」

「……そう、だね……。だから……油断は禁物だ、よ……」

 真ん中を走るアルヴィンさんが、少し苦しそうに息を切らしながら言うと、鈴歌はそれに対して無言で素直に頷いた。そして、再び教室棟へ戻ってきたその時、「グゥ……グオォーッ!!」という雄叫びが聞こえ、俺達は弾かれたように背後を振り返った。すると、予想していた通り、『傲慢』がさっきまでとは比べ物にならない速さで走ってくるのが見え、その異様さに今までに感じた事が無い程の恐怖を感じた。

「……ちっ、やっぱりか……! 鈴歌とアルヴィンさんは、そのまま階段を上がっていって下さい! 俺はアイツをこの1階に引きつけておくので!」

「う……うん、分かった!」

「……仕方ないか。だが……暖士君、絶対に逃げ切ってくれよ?」

「はい、もちろんです! 二人とも、また後で!」

 俺の言葉に頷くと、鈴歌達はそのまま上がっていき、それを見ながら俺は少しだけスピードを緩めた。そして、『傲慢』の狙いが俺に定まった事を感じた後、再び速さを上げながら背後を振り返った状態で1階を走り出し、そのまま『傲慢』が階段を通り過ぎたのを確認してから顔を前へと戻した。ゾンビとも獣ともとれるような声を上げながら俺を捕まえるために走ってくる『傲慢』の不気味さは、俺の心に少なからずダメージを与え続けていた。しかし、この命がけの鬼ごっこを制し、鈴歌達と再会を果たすために俺はひたすら走り続けた。生き抜くため、そして約束を果たすためにただ走り続けた。

 ……確か、この辺に2階に行くための階段があったはずだ。上がった先に鈴歌達や他の参加者達がいたら悲惨だけど、今はそんな事を言ってる場合でも無いな……!

 走り続けている事で生じている息苦しさと息切れ、そして鼻の奥がツーンとしてくる感覚に耐え、酸欠による頭がボーッとしてくる中でそう考えた後、俺は目の端に見えた階段に向かって曲線を描くように曲がり、そのまま階段を上がっていった。足で階段をしっかりと踏みしめ、時には一段飛ばしをしながら上がっていき、俺が最初にいた2階へ戻ってきた後、下の方から聞こえる『傲慢』の声と階段を上がってくる大きな音を聞きながら今度は反対側へ向かって走り出した。そして、走りながらどこかの教室が開いていないか軽く確認していたその時、偶然扉が開いた教室があり、そこへ飛び込む形で俺は教室内に入った。その後、音を出来る限り立てないようにしながらすぐに扉を閉め、『傲慢』が来ない内に掃除用具入れの中に隠れた。すると、それからすぐに廊下の方から『傲慢』の足音が聞こえたかと思うと、荒い息づかいが続いて聞こえ、俺はバレないように息を潜めた。そして、そのままゆっくりと廊下を歩いていく足音が聞こえた瞬間、安心感からホッと胸を撫で下ろした。

 良かった……どうにか逃げ切れたみたいだ。

 逃げていた時はあまり感じなかった疲労感と体の怠さに耐えながら掃除用具入れを出たその時、教卓の方から突然ガタッという音が聞こえ、俺は教卓に隠れている奴への警戒心を高めた。

 エネミー……ではないだろうけど、少なくとも鈴歌達でも無いはず。という事は、あそこにいるのは他の参加者達になるけど、何が起きても良いように警戒だけはしておいた方が良さそうだな……。

 そして、足音を立てないようにしながら教卓へと近づき、ある程度の距離を保ったところで足を止めた後、教卓に向かって声を掛けた。

「……そこにいるのが誰かは知らないけど、少なくとも俺はエネミーじゃない。だから、大人しく出てきてくれないか?」

 すると、「う、うん……」という不安そうな声で答え、教卓の下に隠れていた人物がゆっくりと姿を現すと、俺は思わず驚きの声を上げてしまった。

「お、王賀さん……?」

「う……うん、そうだよ……」

 セーラー服姿の茶色のセミロングヘアの女子――王賀さんは目を潤ませながら答えると、本当にエネミーがいなかった事の安心感からかその場にへたり込んだ。

「うぅ……本当に怖かったぁ……。いきなり、こんな暗いところに一人にされちゃうし、エネミーとか出口とか意味分からない事を言われるし……真央、本当に不安だったよぉ……」

「……大丈夫だよ、王賀さん。エネミーはさっき通り過ぎて行ったから、しばらくは来ないよ」

「ほ、本当……?」

「ほんと、ほんと。だから、安心してくれて構わ――」

 その瞬間、王賀さんはスッと立ち上がると、嬉しそうな笑みを浮かべながら俺に抱き付いてきた。

「え……ちょ、王賀さん……!?」

「……ゴメンね。でも、今だけはこうさせて欲しいの……。それだけ、真央は怖かったから……」

「……はあ、分かりました」

 暗がりで女子に抱き付かれるという思春期の男子なら心から望むであろうこの状況に対して俺は何も思う事は無かった。それは決して俺が女子からのこういった行動に慣れているからなどでは無く、こんなよく分からないところでそんな思いを抱く方がおかしいと思っているからだ。

 まあ……王賀さんみたいなタイプに興味が無いからとも言えるけど、このまま突き放していくわけにも行かないし、とりあえず落ち着いてもらえるまで待つとするか。

 今の状況に対して諦めの思いを抱いた後、俺は胸の中で泣き続ける王賀さんの事をただ待ち続けた。そして、それから一分足らずで王賀さんは泣き止むと、少し恥じらいの色を浮かべたような表情で俺の事を見上げた。

「えへへ……本当にゴメンね、いきなり泣き出しちゃって……」

「別に良いですよ、それくらい。それより……王賀さんは、いつからあそこに隠れていたんですか?」

「真央、で良いよ、暖士君。えっとね……私は最初に3階で目が覚めたんだけど、この暗さだから本当にゆっくり進んでたの。そしたら、九鬼さんと偶然会ったから、軽く真央達の状況を確認してたの」

「そっか、九鬼さんも無事だったんだ……。それで、九鬼さんはどこに?」

「今はこの校内のどこかにいると思うけど、よく分からないの……。私と一緒に探索をしてくれてたんだけど、ここが開いてる事に気付いたら、自分は探索を続けるから真央はここに隠れてて良いよって言ってくれたから、とりあえずその言葉に甘えてさっきまで隠れてたんだ……」

「なるほど……となると、九鬼さんはエネミーが校内を徘徊してる事を知らないわけか。おう――じゃなかった、真央は携帯が一部の機能だけ使える事って知ってるか?」

「え、そうなの……?」

「ああ、電話とメールとブラウザだけだけどな。それに、ブラウザは一定のページしか見れないけどさ」

「そっか……それじゃあ暖士君、真央と連絡先の交換……してくれる?」

「ああ、それは別に良いぜ? 探索を続ける上でお互いの情報を交換するのは、絶対に必要なことだからな」

「わぁっ……ありがとう、暖士君っ! 真央、九鬼さんや暖士君みたいな優しい人に出会えて本当に嬉しいよ……!」

 そう言いながら本当に嬉しそうに笑って顔を近付けてくる真央の様子に、少しだけ苦手意識が芽生えたが、それを顔に出さないようにしながらポケットから携帯を取りだした。

「……それじゃあ交換しようか?」

「うんっ!」

 そして、連絡先の交換を終えた後、俺は真央がこれからどうするのかが気になり、ニコニコとしながら携帯の画面を眺める真央に話し掛けた。

「それで、この後はどうするんだ? 九鬼さんを待つなら、車で一緒にいても良いけど……」

「ううん、真央もここからは探索に参加するよ。このまま九鬼さんや暖士君に任せっきりしても良くないし、勇気も貰えたから大丈夫だよ!」

「そっか……それなら、俺達と一緒に来るか? 今、鈴歌とアルヴィンさんと待ち合わせをしてるから、探索をするなら一緒の方が――」

「それも大丈夫。確かに人の数が多い方が安心するけど、あまり多くても追いかけられた時に大変でしょ? だから、真央は一人で頑張ってみるよ」

「……分かった。それじゃあこれを持っていくと良いよ」

 そう言いながら自分用として持っていた地図を渡すと、真央は不思議そうな表情を浮かべた。

「これって……地図?」

「ああ、職員室にあったこの『深淵高校』の地図だ。元々、俺の分として持っていた物だけど、人数分は用意してあるだろうし、これからまた職員室に行く予定だったから、それはやるよ」

「暖士君……うん、ありがとう! 暖士君に会えたのは、真央的に本当に幸運だったよ!」

「良かったな。さてと……それじゃあ俺も行くよ」

「うん! 暖士君、またね!」

「ああ、またな」

 そして、真央が教室を出ていった瞬間、俺はさっきよりも強い疲労感に襲われ、近くにあった椅子にそのまま腰掛けた。

「……はあ、疲れたぁ……。俺、ああいうタイプの奴と話すとこんなにも疲れるんだな……」

 数的には男友達の方が多いが、クラスや学年の中には女友達ももちろんいる。しかし、真央のようなタイプの女子は、今までにいなかったためか、真央との会話を終えた今、ようやく終わったかと思って少し安心していた。

 本当はこういう事を思っちゃいけないんだろうし、真央みたいなタイプが好みの奴もいるんだろうけど、どちらかと言えば鈴歌みたいな奴と話してる方が俺的には気が楽なんだよな……。

 そんな事を考えながらボーッと天井を眺めていたその時、突然携帯がブルブルと震えだし、その震動と音で俺はハッとした。

 危ない危ない……こんな所でボーッとしてるなんて自殺行為も良い所だからな。

 そう思いながら気持ちを切り替えた後、携帯の画面を確認すると、画面には1通のメールが届いた事を示す表示が出ていた。そして、メールを確認してみると、差出人は鈴歌だった上、俺と別れた後にアルヴィンさんと一緒に無事に逃げ切った事や約束通り職員室で待っている事が書かれていた。

「……良かった」

 その言葉は、俺の口から自然に漏れていた。言うならば、さっき真央に言ったような形式的な物ではなく、俺の中からふっと出てきた心からの言葉だった。

 ……本当に不思議だな。ついさっきまで名前も知らなかったはずなのに、この少しの時間でここまで大事な存在になるなんて……。

 二人の顔を思い浮かべながらそう思い、小さくクスリと笑った後、「……よし」と言いながらゆっくりと椅子から立ち上がった。

「さて……それじゃあそろそろ二人の所に――と、その前に返事だけでも送っておくか」

 携帯を操作して鈴歌からのメールに返信をした後、俺は携帯をポケットにしまい、二人が待つ職員室に向かって静かに歩き始めた。




第4話、いかがでしたでしょうか。今回はエネミーの初登場イベントのような物でしたが、次回からは探索中にもランダムで出てくるようになりますので、お楽しみに。
そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けるととても嬉しいです。よろしくお願いします。
それでは、また次回。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。