隠れていた教室を出た後、ふと上に視線を向けると、『2-2』と書かれた白いプレートが差し込まれているのが見えた。
「へえ……ここは2-2だったのか」
さっき真央に地図をあげたから手元には無いけど、後で2-2についての情報は書いといた方が良いかもしれないな。
そんな事を考えながらさっき上がってきた方の階段へ向かって歩き、エネミーの気配に気をつけながら静かに1階へ降りた。そして、道中で他に開きそうな部屋を探したり、エネミーの足音などに気をつけたりしながら職員室に向かい、目の前に職員室が見えてきたその時、職員室のドアがガラガラッという音を立てて開いたかと思うと、中から同じ参加者の一人である
そっか……九鬼さんもまだ無事だったのか。となると、後は丑三さんだけがまだ無事かわからない事になるけど……一体どこにいるんだ?
一度すれ違って以降、まだ出会っていない人物――
「暖士君! 本当に無事だったんだね!」
「ええ、何とか。ところで……九鬼さんはどうしてここに?」
「ああ、それはね――」
九鬼さんが説明をしてくれようとしたその時、職員室の中から鈴歌とアルヴィンさんが顔を出し、俺の顔を見た瞬間、九鬼さんと同じようにとても嬉しそうな表情を浮かべた。
「暖士……! 本当にアイツから逃げ切れたんだね……!」
「ああ、本当にギリギリだったけどな」
「ギリギリだったとしても逃げ切れた事実は変わらないよ。暖士君……君にまた会えて嬉しいよ」
「はい、俺もです」
鈴歌とアルヴィンさんにまた会えた嬉しさから、俺の顔は自然に微笑みを浮かべていた。そして、また話を始めようとしたその時、俺達の会話を静かに聞いていた九鬼さんが、ハッとした表情を浮かべた後に周囲を注意深く見回した。
「……よし、エネミーらしい何かはいないな……。えっと……皆さん、とりあえず職員室に入りませんか? このまま廊下にいてはそのエネミーに襲われかねませんから」
「そうですね。鈴歌とアルヴィンさんはもちろん、九鬼さんにも訊きたい事はありますから」
「僕に訊きたい事……それが何かは分からないけど、僕に答えられる事なら何でも答えるよ」
「ありがとうございます。それじゃあ早速職員室に入りましょうか」
「うん!」
「「ああ」」
鈴歌達と職員室に入った後、静かにドアを閉めてからそれぞれ近くにあった座席につき、少し気持ちが落ち着いたのを感じた後に話を始めた。
「さて……まずは何から話したら良いですかね?」
「そうだね……それなら、私達と別れた後に暖士君がどのようにエネミーから逃げ切ったのかを聞きたいかな?」
「エネミーから逃げ切った時の事……ですか?」
「ああ。今のところ、しっかりとエネミーから逃げ切ったのは、暖士君だけだからね。だから、その時の話からエネミー――『
「……分かりました」
頷きながら答えた後、俺はさっきあった出来事について話をした。そして、話を終えた瞬間、九鬼さんはとても安心した様子で小さく息をついた。
「そっか……彼女――真央さんも無事だったんだね。探索のためだったとはいえ、あの教室にずっといさせていたのは心配だったから、本当にホッとしたよ」
「まあそれでも、早く合流してあげた方が良いかもしれませんけどね。元気はあるようでしたけど、怖がってはいましたから、エネミーに追いかけられた時にパニックを起こす可能性はありますし」
「うん、そうだね。携帯が使える事が分かった以上、早めに合流してお互いに連絡を取り合えるようにした方が、この探索も有利に進められるからね」
そう答える九鬼さんの表情は、最初に見たような弱気そうな感じとは違い、このゲームにしっかりと向き合おうとしている事が見て取れる程、勇気などに満ちている物だった。そして、その様子から九鬼さんに対しての印象を少し変えた後、俺はとある事を思い出し、それについて九鬼さんに問い掛けた。
「ところで……さっきも訊こうとした事なんですけど、九鬼さんはどうして鈴歌達と一緒にいたんですか?」
「ああ、それなんだけどね……実は、真央さんと別れて探索をしていた時、偶然二人と出会ったんだよ。それで、二人の表情がスゴく真剣で焦っているように見えたから、とりあえず話を聞いたら、エネミーから追われていた事や君がエネミーを引きつけている事などが分かってね。だから、ここは一度この二人と一緒に君達の待ち合わせ場所であるこの職員室に来た方が安全だし、色々な情報交換も出来ると思って、こうして一緒に職員室に来たんだよ」
「そうだったんですね……鈴歌からのメールには、それについては何も書かれてなかったから、本当に驚きましたよ」
「あはは……ゴメンね、暖士。私達もあの時はエネミーに対しての警戒を優先にしてたから、まずは私達が無事な事を伝えなきゃって思って、結果としてそれしか伝えてなかったんだよね」
「なるほど……まあ、その気持ちは分かるから、別に良いよ。それより……一つ気になる事があるんですけど……」
「気になる事……?」
「はい。えっと……この中で、丑三さんの姿を見掛けた人っていますか? 鈴歌の場合は、俺と一緒に2階で見掛けた以降って事になるけど……」
しかし、皆はうーんと唸ったり首を横に振ったりするばかりで、その問いに答えられた人は、結局一人もいなかった。
やっぱりか……となると、丑三さんだけ消息が分からない事になるけど、本当に丑三さんはどこに行ったんだ……?
顎に軽く手を当てながらそんな事を考えていると、鈴歌達は次第に心配そうな表情を浮かべ始めた。
「あの人……スゴく嫌な感じだし、本当なら会いたくはないけど、一人だけどこにいるか分からないとなると、少し心配になるかも……」
「確かにそうだね……物語なんかだと、こういう時に消息が知れない人は、黒幕の仲間だったり追いかけてくる敵の正体だったりするが……」
「あの人に限っては、それだけは本当に無いでしょうね。ただ……鈴歌さんの言う通り、やっぱり一人だけ見つからないというのは、少し心配になりますから、探索の際は丑三さんの事も捜してみる事にしましょうか」
「そうですね。いくら嫌な人でも一応は同じ参加者ですし、捜すのが遅れて見つけた頃には冷たくなっていた、なんて事になるのもなんか嫌ですから」
「確かにね。それじゃあこれからの探索中は、ここから
「だな。あ、そういえば……この職員室に懐中電灯ってあったか?」
「ううん……残念だけど無かったよ。だから、またしばらくは携帯のライトで照らしていく事になりそうかな」
「そっか……まあ、それならしょうがないか」
懐中電灯があれば、もう少し探索の幅を広げられそうだけど、無いというならしょうがないからな。ただ……もし、本当に暗くて何も見えない部屋があったら、今のところは一度出直す事になるけど。
鈴歌達からの情報を元にしながらこれからの探索の事について考えていたその時、九鬼さんが「さて……」と言いながら入り口の方へと静かに歩き、ドアに手を掛けた後に振り返りながら声を掛けてきた。
「それじゃあ私もそろそろ探索を再開しますね。先程、鈴歌さん達から地図も頂きましたから、さっきよりは色々な場所に行く事が出来そうですから」
「分かりました。けど、無理はしないで下さいね?」
「うん、それはもちろんだよ。皆さんもこの先の探索は、気をつけて行って下さいね」
「はい、ありがとうございます。九鬼さんもお気を付けて」
「うん、ありがとう。それじゃあ行ってきます」
ニコリと微笑みながら言った後、九鬼さんはドアを静かに開けて外へ出ると、そのままドアを静かに閉めた。そして、遠ざかっていく九鬼さんの足音を聞きながらここからの探索に向けてやる気を高めた後、俺はとある事について鈴歌に問い掛けた。
「鈴歌、もしかして九鬼さんには『ドリームアイランド』について話はしてないのか?」
「あ、うん……特に話す事でも無いかなと思ったから話してないけど、どうして?」
「いや、さっき探索中にやるべき事を上げていた時に、『ドリームアイランド』や俺達の共通点について何も言ってなかったからもしかしたらと思ってな」
「なるほどね。でも……やっぱり話しておいた方が良かったのかな?」
「うーん……何とも言えないな。話す分には構わないと思うけど、まだ証拠が少ない中でこの事を話しても逆に混乱させるだけな気もするし、ブラウザが使える事が分かった以上、九鬼さんも何かのきっかけであのページは見るだろうから、次に九鬼さんにあった時にそれとなく訊いてみるだけで良いんじゃないかな? 俺も真央にはブラウザが使える事は話したけど、『ドリームアイランド』については何も話してないからさ」
「そっか。それじゃあそうする事にしようかな」
「うん」
鈴歌の言葉に対して頷きながら答えていた時、鈴歌は突然「あ、そうだ」と何かを思い出した様子で声を上げると、職員室の中をスイスイと進み、とある机の前で足を止めて何かを手に取った。そして、そのまま戻ってくると、手に持っていた物――『深淵高校の地図』を俺に手渡した。
「はい、地図。さっき、持ってた分を王賀さんにあげちゃったって言ってたから、代わりの分。因みに、丑三さんの分も後で渡すために持ってるから、それは安心して良いよ」
「うん、ありがとう、鈴歌」
お礼を言ってから鈴歌から手渡された地図を制服のポケットにしまっていると、鈴歌が興味津々な様子で話し掛けてきた。
「ところで、王賀さんってどんな子だったの? 少しだけでも話はしたんでしょ?」
「ああ、話した事は話したけど……俺的にはちょっと苦手かもしれないな」
「苦手って……暖士がそう言うって事は、あまり良い感じの子じゃなかったって事?」
「うーん……明るい奴なのは確かだし、男子からの人気は高そうな奴なんだけど、今までああいうタイプの奴が友達にいなかったからなのか、話してると結構疲れるんだよな……」
「へえ……それはなんか意外かな。暖士って友達が多いイメージだから、色々な人と話した事があるのかと思ってたよ」
「いや、友達は多い方だと思うし、女友達もいる事はいるけど、やっぱり男友達の方が多いかな。女友達とも軽く話す事はあるけど、男友達ほど色々な事を話すわけでもないからさ」
「なるほどね。まあ、私も男友達がいる事はいるけど、どちらかと言ったら女友達の方が多いかな」
「なるほどな。ところで……アルヴィンさんは、男友達と女友達はどっちの方が多いですか?」
「うーん……半々といったところかな。ただ、友達と言っても同い年か年上しかいなかったから、年下の人とこんなに色々な話をする機会は、あまり無かったかな」
「え、そうなんですか?」
「ああ、もちろん仕事場に後輩はいるけど、後輩達は後輩達で話している事が多かったから、仕事の話以外の話題で話す事はあまり無かったよ」
「へー……それはなんだか意外です」
「最初にあの場所に集められた時、私達の会話に自然に入ってきていたので、てっきり年下の人と話すのも慣れてるのかなと思ってましたから」
「ははっ、なるほど。でも、だからこそ今みたいに君達と色々な事を話せているのは、私にとってとても貴重な体験になっているし、こうして君達と出会えた事は幸運だと思っているよ」
そう微笑みを浮かべながら言うアルヴィンさんの表情からは、嘘などはまったく感じられず心からそう思ってくれているのがしっかりと感じられた。そして、それに対して俺と鈴歌が揃って微笑み返していると、アルヴィンさんはチラリと入り口の方に視線を向けた後、コクリと頷きながら静かに口を開いた。
「さて……それでは、私達もそろそろ探索を再開しようか。ただ、新しい鍵などはまだ見つかっていないから、しばらくは開いている部屋が無いかを探すのがメインになるだろうけどね」
「そうですね。後は……やっぱり懐中電灯が欲しいので、地図を参考にして他にありそうな場所も探してみましょうか」
「それと……私達が集められた理由のヒントと丑三さんもだね。こうやって上げてみると、結構な数があるけど、私達ならきっと大丈夫だよね」
「ああ、もちろんだ」
鈴歌に対して頷きながら答えた後、俺は職員室のドアを軽く開けてエネミーの気配がないかを探った。そして、エネミーが近くにいなそうだと感じた後、鈴歌達の方へゆっくりと振り返り、コクンと頷いてから声を掛けた。
「さあ、行こう。このゲームをクリアして皆で生きて帰るために」
「うん!」
「ああ」
その返事を聞いた後、俺達は再び探索をするために職員室を後にした。
第5話、いかがでしたでしょうか。今回はキャラ間の会話が主でしたが、次回からはまた探索をしていきます。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けるととても嬉しいです。よろしくお願いします。
それでは、また次回。