Dreams   作:片倉政実

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どうも、片倉政実です。それでは、第7話をどうぞ。


第7話 答え合わせと明らかになる事実

 職員室に戻ってきた後、俺達は暗号の答え合わせをするためにキーボックスの前に立った。

「さてと……それじゃあ俺達の答えが合っているか試してみるか」

「うん。それで、この暗号はどう解けば良いの?」

「ああ、それにはまず、この五十音表を使う必要があるんだ」

「五十音表……下の方に掛け算が書いてある以外は、特に変なところは無さそうだけど……?」

 五十音表を見ながら鈴歌が小首を傾げる中、俺はさっき手に入れたメモ帳とペンを取り出し、五十音表と暗号の紙をアルヴィンさんに開いてもらいながら書かれた掛け算の内の一つをペンで差した。

「鈴歌も知ってるように、五十音には『あ行』や『か行』のような『行』と『あ段』や『い段』のような『段』がある。そして、この掛け算の数字は、最初の数字が『段』を後の数字が『行』の数を表しているんだ。例えば、この『10×1=わ』だけど、五十音表によると『わ』はあ段の10個目のところにあって、わ行の1個目のところにあるから、この数式に当てはめると『10×1=わ』になるわけだ」

「あ、なるほど……! って事は、『3×5=そ』も『そ』があ段の3つ目でさ行の5つ目だからなんだね」

「そういう事だけど、本題はここからだ。暗号の方には『下に描かれた色達には、それぞれの名前に沿って数が当てはめられている。しかし、色達は皆が一桁の数だけを好むため、当てはめられた数字をまとめ、一桁へと変えてしまった』と書いてあった。だから今度は、四色の四角――赤と青と黄と紫の四色をさっきの数式に当てはめていく」

「数式に当てはめるって事は、赤なら『あ』と『か』に分ける事になるけど、そこからどうやって数字を導き出していくの?」

「それなんだけど、ここでさっき解いておいた『10×1=わ』と『3×5=そ』が役立つんだよ。この掛け算は、どの文字がどの数字になるかを表していて、式を普通に解くと『10×1』は10、『3×5』は15となる。つまり、わ=10、そ=15だな」

「うぅ……自分から聞いておいてなんだけど、数学の授業を受けている気分になってきた……」

「まあ、もう少しで終わるからそれまで我慢してくれ。そして、今度はさっき鈴歌が言っていたように四色の名前に当てはめられた数字――例えば赤なら『あ』と『か』を数字に変換していくんだけど、『あ』はあ段から1個目、あ行から1個目のところにあるから、『1×1=あ=1』になり、『か』はあ段から2個目のか行から1個目のところにあるから、『2×1=か=2』になる。つまり、『あか』は『12』という事になるな」

「あれ……でも、文章には『色達は一桁の数だけを好む』って書いてたよね? 12は二桁の数だから、答えにならないんじゃ……」

「まあな。だから、この12を今から一桁の数に変えるんだよ。()()()()()()()()()()()()()()事でな」

 そこで一度言葉を切った後、メモ帳の次のページを捲り、再び説明を始めた。

「まず、この『まとめる』の意味なんだけど、これはその色に当てはめられた数を足す事なんだ。それで、何の数を足すかだけど……それがさっき導き出した『あ』と『か』の数だ。つまり赤色の四角に当てはまる数字を導き出すには『1+2』をしろって事になるな」

「『1+2』は『3』……って事は、赤色の四角に当てはまるのは3になるんだね」

「ああ。そして、同じように他の三色も数字に直していくと、青が『15』の黄が『4』、紫が『21934』になる。それで、今度はそれぞれを一桁に直していくと、青が『6』の黄がそのままで『4』の紫が『1』という事になるから、後はこの四つの数字を使ってキーボックスのダイヤル錠を開ければいいわけだ」

「なるほどね……あれ、でも……それじゃああの紙に赤色の四角+青色の四角=9って書いてたのは……」

「恐らく、救済措置か検算をするための物だろうね。もし、私達や他の参加者がこの暗号を解けていなくとも、既にこのダイヤル錠の事を知っていれば、どこで使う物なのかは察しがつく。だから、後はこの四色の四角に色々な数字を当てはめていき、数式にピッタリ合う数を見つけ出せば、ダイヤル錠を開ける事が出来るという事になるかな」

「って事は……ドリーマーはわざわざ二種類の解き方を用意していた事になりますよね? 暖士とアルヴィンさんみたいに謎解きが得意な人用と私みたいに謎解きが苦手な人用で……」

「ああ。何故、ドリーマーがそんな事をしたのかは分からないけど、ドリーマーには何か意図があるのかもしれないね。さて……それでは、そろそろダイヤル錠を開けて中の鍵を取るとしようか」

「そうですね」

 頷きながら答えた後、俺はダイヤル錠に顔を近付けた。ダイヤル錠は、それぞれの数字が暗号の紙と同じように四色の枠で囲まれており、俺は間違えないように気をつけながらダイヤルを次々と合わせていった。そして、最後のダイヤルを合わせた瞬間、カチリという音を立ててダイヤル錠が開いた。

「……よし、どうやら合ってたみたいだな」

「鍵は……うん、『図書室の鍵』に『家庭科室の鍵』、それに『校長室の鍵』や『屋上の鍵』なんかもあるようだ。これくらいあれば、校内の殆どの場所を開けられると思うよ。ただ……出口の鍵は無いようだけどね」

「まあ、こんな簡単に手に入ったら苦労しないですからね。でも、これで探索の幅は広がったわけですし、このまま協力し合えば脱出だって夢じゃ――」

 その時、職員室の黒電話が急に大きな音で鳴り出し、その音を聞きながら俺達は一斉に顔を見合わせた。そして、二人に対してコクンと頷いてから職員室のドアを警戒するように手振りで報せた後、俺は黒電話ヘと近づき受話器を静かに取った。

「……もしもし?」

『ククク……探索は順調そうだね、甲斐暖士(かいだんじ)君。君達ならあの暗号は解けると思っていたが、まさかここまで簡単に解いてしまうとはね……』

「ドリーマー……今度は何の用なんだ?」

『そうだね……強いて言えば、君達にある事を伝えようと思ったから、かな?』

「ある事……?」

『その通りだ。尚、前回の電話の際にもう分かったとは思うが、この私からの電話の内容はこの職員室の中にいる全員に伝わるようになっている。仕組みについては……まあ、私の力による物だと思ってくれれば良いよ。そして、この電話の最中に『傲慢』が襲ってくる事は一切無いから、職員室のドアを警戒する必要も無いという事は伝えておこう』

「……それも、お前の力に因るものなのか?」

『そんなところだ。さて……それでは、そろそろ本題に入ろう。まず、先程君達が資料室で見つけたメモと小学生の頃の神月鈴歌(しんづきれいか)さんの写真の件だが、君達の予想は全て当たっているよ。あのメモは、私がかつて書いた物をそのままこの世界にコピーした物で、写真の方も撮られた場所は『ドリームアイランド』で間違いない』

「そうか……つまり、鈴歌は10年前にお前に会った事があるわけだな?」

『ああ、その通りだ。そして、あのメモで私が『ドリームアイランド』の関係者という記述があったと思うが、今思えばあれは半分間違っている。確かに私と『ドリームアイランド』には()()()()が存在するが、ちゃんとした関係者になる前にあの夢の場所は閉園してしまった。だから、関係はあっても正確には関係者ではない、という事をここに訂正しておこう』

「……そうか」

『まあ、たとえそうだとしても私は今でもあの夢の場所を取り戻したいと思っているよ。あの場所は、私にとって掛け替えのない場所だからね。さて……それでは、そろそろ電話を切るとしようか。これ以上、君達の探索の邪魔をしてしまうのは申し訳ないからね』

「……なら、最後に一つだけ訊かせてくれ」

『何かな?』

「……あのメモに書いてあった『出会い』という言葉、その出会いというのは鈴歌の事か? それとも……」

()()()()()()()()()()()()()()()()か……かな?』

「ああ。俺達は10年前に『ドリームアイランド』に行った記憶があるが、同じ日だったかは流石に分からない。けれど、もしあのメモに書いてあった出会いがどういう物か分かれば、俺達が同じ日に行ったかが分かるはずだからな。もっとも、覚えていないだけで10年前以外にも行った事があるみたいな不確定な要素はあるけどな」

『……クク、なるほど。それについて答えてあげたいのはやまやまだが、今の時点でそれを答えてしまっては流石にサービスのしすぎになる。なので、君達がこの『深淵高校』をクリアした時には、その事について答えるとしよう。……まあ、私が答えずとも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……分かった。だが、その約束は絶対に守ってもらうからな」

「ああ、もちろんだとも。……では、君達の健闘を祈っているよ」

 その言葉を最後に、ドリーマーからの電話は切れ、俺はさっきの会話を思い返しながら受話器を静かに置いた。10年前に鈴歌とドリーマーが出会った際に撮られた写真や話している時の声の感じからドリーマーは鈴歌に対して悪印象を持っている様子は無い。つまり、鈴歌との出会いはメモに書いてあった『出会い』と同じ物なのだろう。となると、ここで疑問になってくるのは、メモに書いてあった()()という存在とその奴らに対して何かしらの形で自身の罪を思い知ってもらうという点だ。さっきの事から考えると、鈴歌は明らかにその奴らには当てはまらない事になり、奴らと呼ばれるのは俺とアルヴィンさんを含めた他の5人の中にいる事になる。ただ、そう呼ばれる理由は俺には全くない上、ドリーマーは『三人の共通点』があると言っていた事から、俺達が奴らと呼ばれる存在ではない事が共通点だとも考えられる。

 ……正直、まだまだ謎は多いけど、鈴歌達とこのゲームをクリアするために頑張る中で、その謎の答えも少しずつ分かってくるはずだ。だから、絶対にこのゲームをクリアしないといけない。この『エンドレスドリーム』から脱出して現実世界に生きて帰るため、そして全ての真相を知るためにも。

 シンと静まり返った職員室の中で俺はそう思いながら黒電話の受話器から手を離した後、クルリと振り返った。アルヴィンさんがとても落ち着いた様子でコクンと頷く中、鈴歌は軽く俯きながら不安そうな表情でポツリと呟いた。

「……私が10年前にドリーマーと会っていたのは事実だった。でも、だとしたらドリーマーは一体誰なの……?」

「それはまだ分からない。けど、さっきの声の感じや話し方から考えると、ドリーマーは少なくとも鈴歌に対して敵意を感じていたり悪印象を持っていたりするわけじゃないと思う」

「暖士……」

「ドリーマーの目的や俺達をここに連れてきた理由だって正直な事を言えば、まだ全然分からない。あの感じからすると、ドリーマーはまだ何かを隠しているはずだし、もしかしたら本当に俺とアルヴィンさんとも何かしらの繋がりだってあるかもしれない。だからこそ、それを知るために今は一歩ずつでも歩いていくしかないんだ。まったく何も分からない暗闇の中を一歩ずつでもな」

「何も分からない暗闇の中を一歩ずつ……」

「ああ。でも、俺達が協力し合えば、そんな暗闇でも少しずつなら照らしていける。実際、鈴歌が資料室で暗号を見つけてくれて、アルヴィンさんと俺がそれを解いたからこうして色々な鍵を手に入れる事が出来、これまでよりも探索の幅は絶対に広がってる。これは俺達が協力し合った事で生まれた確かな事実だ。だから――」

 未だ不安そうに俺の事を見つめる鈴歌に対して右手を差しだした後、ニコリと笑いながら言葉を続けた。

「今はただ前を向いて歩いていこうぜ、鈴歌。生きてここから出るという俺達の一番の目的のため、そして全ての真相を知るためにさ」

「暖士……うん、そうだよね。ここでクヨクヨしてても何も始まらないし、何も起こらない。だったら、今はただひたすらに前を向いて歩いていった方が良いんだよね」

「ああ、そうだ。そして、資料室でも言ったけど、お前やアルヴィンさんの事はこのチームのリーダーとして絶対に守ってみせる。だから、これからも俺についてきてくれ、鈴歌」

「……ふふ、もちろんだよ、暖士」

 安心した様子で笑みを浮かべた後、鈴歌は差し出された俺の手をスッと取って優しく握った。そして、それに対して俺も握り返すと、鈴歌は出会った時と同じような表情で言葉を続けた。

「でも、私達が暖士のことを信じる以上、その言葉は絶対に引っ込ませないし、その約束は絶対に果たしてもらうからね」

「ああ、それはもちろんだ。俺自身、その約束は絶対に守るつもりでいるからな」

「……うん、それなら良いよ。でも、もう一つだけ約束して欲しい事があるかな」

「ん……何だ?」

「私達の事を気に掛けてくれるのは嬉しいけど、自分の命もちゃんと大切にして。暖士が私達の事を大切に思ってくれてるのと同じように、私達だって暖士の事は大切に思ってるから。それに、私達の約束は『絶対に生きて帰る事』だから、たとえ私達が無事に生きて帰る事が出来ても、そこに暖士がいなかったら意味が無い。私達だけじゃなく、暖士も揃ってこそその約束は意味を成すの。だから、私達の事を気に掛けてくれるのと同じくらい、自分の命も大切にして」

「鈴歌……」

 鈴歌は強気に振る舞っていたが、俺を見つめるその目には明らかな不安の色が見えており、その事から鈴歌が心からそう思っている事がしっかりと感じ取れた。俺はその事に嬉しさを感じた後、鈴歌の目を真っ直ぐ見ながら答えた。

「ああ、もちろんそのつもりだ。さっきも言ったけど、皆で一緒に生きて帰る事こそが、俺達の一番の目的だからな」

「……うん!」

 とても嬉しそうに頷く鈴歌に対して頷き返した後、今度はアルヴィンさんの方へ顔を向けた。

「アルヴィンさん」

「……ああ、分かってるさ。私も出来る限り君達の事を守るつもりだが、自分の命だって大事にする。君達と一緒にここから生きて帰るためにもね」

「はい。だから、これからもよろしくお願いします、アルヴィンさん」

「こちらこそ、暖士君」

 右手で鈴歌と、そして左手でアルヴィンさんと握手を交わした後、脱出へ向かってまた一歩ずつ歩むために職員室のドアの方へ体を向けた。

「よし……それじゃあ早速探索を再開しよう!」

「うん!」

「ああ」

 そして、職員室のドアに手を掛けたその時、廊下の方から突然「う……うわぁーっ!!」という悲鳴が聞こえ、俺達は顔を見合わせた。

「今の声って……!」

「ああ、恐らくそうだろうが、まずは行かないといけないね……!」

「ですね……!」

「よし……行こう、二人とも!」

 鈴歌達に声を掛けた後、俺は職員室のドアを勢い良く引き開けた。




第7話、いかがでしたでしょうか。今回は謎解きの答え合わせ回になりましたが、次回からはまた探索とエネミーからの逃走を含めた回になります。
そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けるととても嬉しいです。よろしくお願いします。
それでは、また次回。

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