お久しぶりです。
どうにか、7部のアニメが始まって小説がすっごい盛り上がってほしい今日この頃です。
2ndSTAGE 開始直前
ーーーー2ndレース開始直前。
レースの舞台は1stStageより少し進んでアリゾナ砂漠。
走行距離はなんと1200kmであり、ゴールまでの推定日数はおよそ12〜18日ほどとかかるとされており、ようやく文字通りの前人未踏であるスティールボールランレースの本領が発揮される場面になるだろう。
周りを見渡せば、既に多くの参加者が馬に乗った状態でスタート地点に並び始めている。
自分も同じように並びながら、愛馬の“ヘイ・ヤァ”がスタートラインの白線部分を脚でなぞっているのをぼんやりと見ていると、馬の嗎がすぐそばから聞こえてくる。
横を見れば、昨夜見たぶりのホットパンツと既に準備満タンだと鼻を鳴らす彼女の愛馬“ゲッツ•アップ”がそこにいた。
「あいつはーーー?」
「縄でぐるぐるにして部屋に置いてきた」
2ndレースのスタートは1stレースの時のゼッケン順ではなく、総合ランキング順に横並びで並んでいく形になる。
故に、馬に乗り上がってライン上に並ぶ自分に声をかけてきたのは、自分より一つ上の順位であるホットパンツだった。
思い返すのは優勝候補が横並びになった最終直線時。
一足先にゴールしたジャイロツェペリを除けば、その他全員が全く同じ位置に横並びしており、誰が勝つかなんてのはほぼ運だと思っていたが、やはり抜け目なかった。
ゴールの真横で競っていたからこそ分かったが、彼女が最後に取り出していたのはーーーースプレー缶。
監視員にバレないように全員が一直線に並んだ瞬間にそこから噴き出していた“肉”は、彼女の馬の鼻先に張り付くと、そのまま元から鼻がその長さであったように同化をした。それによって、他馬よりも僅かにゴールラインに近づく事が出来たのだろう。
ジャイロの妨害がバレていたように、彼女もまた降格を喰らうかと考えていたが、他参加者を妨害したわけでもなく、監視員にも見つかっていなかったのかランクはそのままだった。
まぁ、仮に気づいていたとしても、噴出されたスプレーが肉となって馬の鼻先に同化したという奇妙な現象なのだから一般人が証明出来るはずもない。
だがどちらにせよ、彼女がそういったモノを使えるのだという事は理解した。
「ああいう女はケリをつけない限りいつまでもついてくるぞ」
「ケリっつったってーーーんなこといっても相手は一般人だぞ」
ホットパンツが開口一番に物騒な事を言い出す真意は昨日の出来事にある。
白昼堂々の真逆、真夜中に誰にも気づかれないように行われた見知らぬ女による凶行。
実際のところは見知らぬ女では無かったが、それでもほぼ面識がない状態には変わりない。ホットパンツの助けもあって退ける事ができた、が動揺したのは事実だ。本当なら警備員や何やらに突き出すべきなんだろうが、少しだけであったとしても事情聴取やなんやらで時間を取られるのは確実。故に縄でぐるぐる巻にして部屋に放りこんだ、というオチである。
だがそれを彼女はお気に召さなかったようだ。
「ああいう輩はいずれ障害になる」
「ああいう輩ってーーースタンド使いだからか?」
「そういう事じゃあなく……チッーーーめんどくさい奴だな」
「なんじゃそりゃーーー」
それにしても昨夜の夜這い女ーーーフルネームはナナ•スボックというそうだが、気色の悪い性癖持ちだった事にはとても驚いたし、それ以上にスタンド使いだとは砂粒一つ分すら想像していなかった。
影遊びだのなんだのと言っていたーーーーー“影”が基本である能力者である彼女だったが、確かに簡単な能力であるからこそ強かった。人が生きている上で必ず付き纏う影を操り、彼女の影と接着してしまえばその途端四肢の自由を失い、支配下に陥る。おそらくホットパンツの助けがなければ切り抜けられなかったと言っていいだろう。
そして、何よりそんな身近にスタンド使いが居た自体信じられない事である。“あいつ”といいマジェントといい、おそらくこのホットパンツもだろうが、それに気づかない自分の鈍感さに呆れてくる。もしかすると今まで関わった人で、不思議さを感じた相手は大概そうだったのかもしれない。
「お前も含めて、スタンド使いは結構多いのか?」
「さぁな。他の参加者に聞いてみるか? 仮にそうであったとしても、自分から手の内を見せる奴は居ないだろうがーーー」
「そりゃあそうだろうな。だが、あれが実際どういうものなのかは知りたい」
「なんだ知らなかったのかーーー? 意外だな。 呪われた力とも言われるが、発現原因は様々だ。生まれながら持つ者もいれば、後天的に発現した者もいる。それにーーこれから行く砂漠も“関わり”がある」
「砂漠がーーーか?」
「行けば分かる。まぁ、奴の事は邪魔になれば排除する。それだけ言っておく」
「ーーーん」
スタンドってのは思ったより外的要因によって生み出されるのかーー? 体に別の人間を閉まったり、絶対防御や人をも溶かす毒針、明らかに一生物が扱っていいものじゃあない。それが砂漠?によって生み出されるなど、使いようによればとんでもない軍事力になる事も想像に易い。だが、いま考えたとしても疑問は尽きない。
懐中時計に目をやると、時刻はスタート時刻の数分ほど前。いくらかの緊張感が体を包み始めるが、横のホットパンツは全くそれを感じさせない。
自分もあまり緊張するタイプではないと思っていたが、今回ばかりは優勝したい気持ちが強い。優勝してーーー賞金を手に入れなければならない理由があるからだ。
そのためにはーーー。
すると、ちんまりした背丈の男が急に視界に入り思考が止まる。男はこちらをじっと見つめてくると、何回か手元の資料とこちらを見比べている。
どこか見覚えのある、スタートの受付を担当していた係員がいた。同じ人物ーーーーかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。胸元の名札に書いてる名前が異なる。いくらなんでも似過ぎだが、双子だとか、そういう縛りでもあるのか?
「着順でーーーホットパンツさんと、ガソリンさんですね! 同じで大丈夫ですので、どちらかのサインをお願いします!」
「ああ」
「片方だけーーーー?」
馬から降りたホットパンツが係員にペンを借りると、そのままスラスラとサインを書き始める。
「まとめて書いておいたーー」
「いや待てーーーおいおい、ようやく冷静になった。何でお前が書く、まず許されるワケが」
「ゼッケン番号、鼻紋も一致という事で、はい、ありがとうございました! ホットパンツさん、“ガソリン”さん、引き続き頑張って下さい!」
「おい、ちょっと待てーーッ!」
出場時は本人のみのサインだった筈だった点も含めて、自分が関わる事なくサッサと終わった目の前の出来事に頭が追いつかず、声を無視して先へ行く係員の背中を目で追う事しかできない。
俺の名がーーーーガソリン? なんで名前が変わってるッ!? 出場登録時には確かに本当の名前を書いたハズだし、第一書き換えられたとして何でそんな手間暇を俺なんかに……。
しかし、その疑問を解消する間を空けてくれるワケもなく、目の前のホットパンツは淡々としていた。
「何を呆けている。お前の名前だろう」
「そんな名前じゃあないぞーーー」
「そりゃあそうだろう。変えたからな」
それがさも当然かのように言い退けているが、順番がおかしい。完全事後報告かつ名前を変更したワケが分からないーーー、というかできるものなのか? 何度考えても、確かに、元の名前でエントリーして既にレースはスタートしていたはずだ。
「経緯はともかく、理由を教えろッ」
「それが上の“決定”だからだ。私がそれに対してどう思おうが、覆る事はないし、否定もしない」
「上ーーー? なんだそりゃ」
「私の上ーー、欧州に拠点を置く一つの組織だが、それだ」
「それがなんで俺にーーー、しかもガソリンなんてヘンテコなモンにしやがって」
「さぁ、実際に変更したのは私じゃあない。だからお前の元の名も知らんがーーー前よりも良くなったんじゃないか?」
あまり深く話そうとしない事からも、何やら話しづらい事柄があるのが感じ取れる。が、護衛するも何も、その対象に対しても詳しく説明してもらわない事にはこちらも両手を上げて守ってもらおうとも思えない。
ーーーもしかして、自分は既にとてつもなく大きなモノに巻き込まれてしまってるんじゃあないのか
「それに、変える必要が分からない。まず、お前が俺を護衛するっていうワケもまだ納得してるワケじゃあないからなーーー」
「それについては納得しなくてもいい、こっちの都合だからな。お前が嫌がっても、私は護るだけだ」
あくまで決定事項だと言わんばかりにそう告げるホットパンツ。その目は、確かに嘘を言っている人間には見えない。昨夜の出来事でも、あれほど騒がしくしていただろうに助けてくれたのは彼女だけだった。謎は多いが、だからこそ、そんな自分を護ると誠心誠意言っている人間に対してこちらも邪険に扱う理由はないのかもしれない、だがーーーー
「悪いがーー自分の身は自分で守る。そりゃあ昨日の夜の事は感謝してるが、もう優秀な護衛が俺にはついてる」
「誰だ、それはーーー」
「ーーーな、パーシー」
「チュウ」
もぞもぞと、胸ポケットで遊んでいるパーシーに声をかける。
子供の頃は自分がそこまで動物を好きだという自覚はなかったが、こうして共に過ごしてみると、やっぱり好きだった事を実感した。それはもう、こいつがいるなら例えレースが一人旅だったとしても寂しさを感じることはないだろうと思うほどに。まぁーーー元々そのつもりではあったが。
指で頬を撫でてやると、くすぐったそうに体をよじる様がどうしてかこう、愛らしさを誘って、すぐに構ってやりたくなる。
案外自分は絆されやすいタイプなのかもしれないと思った程だ。
「動物がーー好きなんだな」
「それもあるし、拾った俺にはこいつを育てる責任がある」
「ーーーーそうか」
「意外かーー?」
自分がどう見えてるかなんて思考した事すら無かったが、ホットパンツの返事から見てもよくよく考えれば動物好きーーーには見えないのだろう。村でも、あまり動物に懐かれた記憶もないし、きても素通りして動物に好かれていた奴の所に行っていたしな。あれは確かーーーいや、誰だったか名前を思い出せない。今思えば十数年単位の前の話で、忘れているのも当然と言われれば当然、か。
だが、目の前のホットパンツも、最早性別も分からなくなったその子と同じく動物に好かれやすいタチなのだろう。
「ーーーいや、そうでも、ないのかもしれない」
「なんだそりゃ」
加えて想定していた返答とは違っていたために思わず面食らう。てっきり興味がないのかと思っていたが、思った通りどうやらそういうわけではなかったらしい。その証拠にホットパンツはこちらを向いて、パーシーの方に目線を送っている。
「お前はーーー立派なやつだな」
「ーーー?」
彼女の問いに思わず首を傾げるが、彼女はすぐに何でもないと言い放つ。が、視線は未だパーシーを捉えたままだ。もしかして触ってみたいのかもしれない。
「お前も動物が好きなのか?」
「好きーーーかは忘れた。もう当分、この馬以外は触れていない」
「じゃあ、触ってみるか?」
先程からもぞもぞと、早く解放しろと言いたげだったパーシーを手から出すと、そのままホットパンツに跳びついた。
「キャッーー」
誰が発したか一瞬わからない甲高い声が聞こえた後、ぐらっと馬上のホットパンツが驚いた事で揺らぐーーーが、意識の外から茶色のロープが伸びる。
「おっと“ご婦人”ーーー」
「ーーーッ婦人じゃあない」
「なんだ、“名前表”見た感じてっきり夫婦かと。じゃあパートナーか、そりゃ悪い事をしたな」
そこに現れたのはマウンテン・ティム。
インタビューでも語られていたように、その卓越したロープ捌きは事実だったようで、今も崩れ落ちそうになったホットパンツの体を馬上から伸ばしたロープで引っ掛ける形で支えていた。
「気安く触るな」
「何やら訳アリと見たがーーー見かけよりウブだな。ーーー悪かった、大人しくスタート位置に戻るよ」
キッと、自らに向けられた眼光に手をあげると、ロープを手繰り寄せたマウンテン・ティムはそのまま去っていく。
「ーーーーお前あんな声出せるのか」
「ーーーー黙れ」
無口であまり喋りたがらないタイプだと思っていたが、案外面白いやつなのかもしれない。
side ジョニィ•ジョースター
「おいおいーーレースに集中しろよなァ‥‥、イチャイチャしやがってよぉ〜」
参加者のうちジャイロを除いて唯一の鉄球使い、名前はーー確かランキング表に乗っていた。ガソリンーーに女の方はホットパンツ、だったか。
どう考えてもどちらも偽名だろう。結局あそこは関係があったのか。知り合ったばかりのようにも見えたがーーー、ランキング表に載ってた二人の姓からして、兄妹、いや夫婦か?
帽子の位置を悩みながらどこかを見つめるジャイロの視線の先には、1stステージ上位に差し込んでいたその二人がいた。
その視界の隅には先からボソボソ喋っているジャイロがいるが、危うく失格になりかけた時ほど苛立ちは見えなくなったが、陽気に振る舞っているように見えるーーーけどこれが彼の素のような気もするな。
彼が一体何を考えているのか。彼が日常生活で行う動作一つ一つにも回転の秘密が隠されているかもしれない。
いや、今は彼から回転の技術を盗むことに専念するべきなんだろうが、夕べ見たものがちらついてしょうがない。
夕べの出来事ーーーそれは全くの偶然だった。
2ndレース開始前夜のコテージで、喉が渇いただとか、外の景色を見たいだとかの理由でなく、ただ単に眠気がこなかったので、ひとしきり外を歩こうと自分の部屋からモゾモゾと抜け出た。
“ジョニィ・ジョースター様”と書かれた扉を閉めて、横を振り向くと隣の扉が開いている事に気づいた。左の部屋はーーー“ジャイロ・ツェペリ”の表示、こんな時間に一体どこに。
もしかして、それがジャイロの回転の秘密に繋がるのかもしれない。
そう考えると、もう既に体はジャイロを探しに動き出していた。目を凝らしながら外を歩き回ること数分、しばらくすると一人コテージから抜け出て誰かと話し込むジャイロを見つけた。
聞き耳を立てるのは良くないのだろう、だが人の好奇心に戸を立てることは出来ない(と、著名な誰かも言っていた気がする)
こっそりと近づき、内容を聞く。
小声で話していたこともあって深くは聞き取れなかったが、何やらジャイロは怒っているようだった。そして聞こえたのはーーー誰かの始末ーーーつまり殺害だった。名前の部分、その肝心なところだけが聞き取れなかったのがアレだが。
だが、ある程度推測はできた。なぜかというと、わずかに聞こえた同じ鉄球使いという部分。そして、ジャイロと競り合っていたと話相手の誰かが言っていたし、十中八九林越えでジャイロと競っていた彼の事だろう。
まとめるとつまり、ジャイロに殺しの依頼がなされたってことーーーいや、どちらかといえば命令されていたようにも聞こえたが、その瞬間にジャイロは何か反論していたように見えた。
だが、何か交換条件を出されたのであろう、風の音が邪魔して聞き取れなかったが、その後はジャイロも反論することなく、黙り込み、相手の男は闇の中へ消えていった。
ジャイロは何か、賞金以外の目的でレースに参加しているのだろうか。
おそらく普通の奴ではないとは思っていたが、やはりジャイロはアッチの人間だったのか。
それに、あいつーーージャイロと同じように鉄球を使うガソリンも、ジャイロの反応を見るに、普通の奴ではないと見て間違い無いだろう。
もし本当にジャイロが奴を殺すというのなら、僕はどうするだろう。奴がとんでもなく悪い人間なのだとしたら、別にそのまま殺されてもなんとも思わない。たがそうでないというのならーーーいや、正義や悪だとかそんなものを考えるのは無駄か。
ただ、あの謎の鉄球の技術を知っているのはジャイロと奴の二人だけだ。
そしてそれを教えてくれるのは現状、ジャイロ1人だけ。僕が再び歩けるようになるには、大人しくジャイロに従っておく他にない。奴を殺す事で僕が再び歩けるようになるのなら、僕はなんだってする。
人殺しでもなんでも、やってやろうじゃあないか。
ーーー
暗がりの中で、小太りの男が一枚の写真を片手に持ちながらプルプルと震えている。
その身に秘める怒り、憎しみ、後悔が男の体を蝕む。
「殺したッーーー! 確かに始末したはずだァーーーッ!!」
思わず、溢れる怒りを抑えきれずに写真ごと紙束を地面に叩きつけた。
大きな音に驚いたのか、片側で寝転んでいた猫が跳ね上がり、急いで部屋から抜け出していく。
それと同時に、男の側使いである召使いも男の機嫌の悪さを感じ取り、どこかビクビクとしている。
「処刑担当はーーグレゴリオツェペリ、奴をここに呼べェーーーッ!」
側使い達は男の命令を受け、急いで部屋から退室していく。
男の怒りは尚も収まらず、その身を震わすばかり。
自らがカケラも残さないと因縁を排除してきたが、その時初めて残してしまったものを認識し、それが怒りとなって男の感情に表出してきたのだ。
男の名はステルス。
役職はーーー高位の聖職者である。欧州にあるネアポリスという大きな国の、その中でも上位に位置する存在であり、男の一族も代々高名な者を輩出してきた過去のある由緒正しいものだ。だからこそ、男は自らの名に泥を塗るような輩は排除し、因縁も取り除いてきた。
男は自負があった。自分の人生は勝利が約束されたものであり、物語であるのならば自分が主人公であると。
男にはポリシーが1つあった。何かを取り除く時には、それを一欠片でも残してはいけないというもの。
それこそ、今までに行ってきた異端者の断罪の時でさえ、異端者が一人見つかれば、その一人の一族郎党まとめて始末をする。異端ではない証明をすればいいだとか、そういった余地は一切与えない。
それは髪の毛一本分すら許さぬものである。
もし慈悲の心を見せて、一人でも見逃すことになればどうなる? その時は何ともなかったとしても、いずれそれが自分に牙を剥く可能性がある。時間が過ぎてしまえばそれが誰の手によるものか判断もつかなくなり、完全な復讐を遂げられるかもしれない。
彼はそれが怖かったのだ。自らに跳ね返ってくるであろうモノに対して、非常に恐怖を覚えていた。
だからこそ、これまで一欠片ですら見逃さず、自らの障壁となる者を取り除いてきた。
あの時も、そのハズだった。
それは、ネアポリスにおける最重要犯罪者を国を挙げて捜索していた時。
犯罪者は男であり、王国で起こる犯罪に対処する捕縛官の役目を請け負っていた兵士だった。
兵士はかつて、王の血縁者ーーーといっても妾の子ではあったーーと恋をした。人が人に恋をする、例えそれが身分違いであろうとも、それ自体が悪い事ではない。
ただ、相手が悪かった。
その妾の子、彼女自身は宮廷で慎ましく暮らしていたが、その身分、つまりその身に受け継がれる由緒正しい赤き血をステルスもまた、狙っていたのだ。男は根回しに根回しを重ね、二人が別れるように仕向けた。だが、二人はステルスが思う以上に固く結びつき、もはや時間の猶予は残されていなかった。だから、その時すでに家督を譲り受け、高位の聖職者となっていたステルスは自らの身分と一族の力を存分に使った。
結果だけ言えば、二人は別れることとなった。兵士は正当な血統を邪念を持って無理やり奪い取ろうとした行為、または数々の婦女に対する暴行の目撃情報が上がったことがそこに加わり国家に対する逆賊として、女は最終的に家系図から名前すら抹消されることとなり、兵士と共に国外へ追放される事となった。
なぜ女まで追放したのかーーー、疑問に思うかもしれないが、理由は単純だった。既に子が女の腹の中にはいたからだった。ステルスはそれを認識しており、そうなってしまえば聖職者といえども、表立って手出しが出来なくなる。だからこそ、絶対にバレない事がわかった上で王の名を謀って処刑人を操り、わざわざ追放した後で彼らを始末させた。
彼らの処遇を含めた情報は、すぐに口外禁止令が敷かれた。故に、この事を知っている者は少数であり、今となっては覚えているものも少ない。
話はそれで終わり、処刑する事を決めた時点で、兵士の残された一族郎党はまとめて処刑される事となった。
その兵士の一族は少し特殊な家系であり、王国特有の技術である“鉄球”を代々受け継ぎながら捕縛官の任に就くことが定められていた。
故に、報復を恐れたステルスは彼らの持つ鉄球を含めた技術をまとめて王国から取り除いた。
そこに一つの慈悲も許してはいけない。将来まで燻るであろう火の種をむやみに残す必要はなかった。
そうして全てが終わり、記憶の彼方に葬りされる、そのはずだった。
だが、残滓は未だにこの世に残っていたのだ。
「ジュニア、なのかーーー?」
先程地面に叩きつけた写真に映る一人の男。何より、その手元で光る特徴的な鉄球。その仕事を代々受け継ぐ、”タン・テ・タン”と呼ばれる一族のみが所持を許され、奴等の一族の死とともに技術ごと廃棄された。はずだった。
だが、この写真に映る男が持っているものはなんだというのだ。似て非なるものだといってのけるのは簡単だが、その特徴的な模様と、黒の配色がそれを否定する。
ステルスは焦っていた。
“恐怖というものは、まさしく過去からやって来る”
前述したが、その情報すら抹消され、今では鉄球について知るものですら詳細を知る者は殆どいない。
だが、彼には分かった。実際にそれを見たわけでも、触ったことがあるわけでもないが、それが同一のものであるということが。
憎きあの男ーーー、女を含め、腹の子供ともども始末されたはずだが。いや、今まで隠し通していたのかーーー、どちらにせよ、
やつの技術をもう一度、どうにか内部に入れようと画策しているやつもいるようだが、そのような事は私がさせない。
髪の毛一本のかけらを見落とすからこそ、憎しみが生まれるのだ。そこに慈悲はいらない。抹殺、鏖殺ーーーいたという情報すら残さずに消さなければならん。
そう決断する男の司祭服は静かに揺れていた。
もし良かったら、評価や感想等もお待ちしております。