黄金長方形を夢見て(改)   作:パッパパスタ

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ホワイト・アルバム&ザ・グレイトフル・デッド ①

 

 

 

 

 アメリカを真っ二つにするように走る陸の海ーーーアリゾナ砂漠が灼熱を齎す太陽によって黄金に輝いている。

 

 小さな砂粒一つ一つが煌めいている黄金の大海を切り開いていく、人の手がどこにも感じられないその自然の中で、一際目立っているモノが一つ。

 都心部を除けばこの時代では見かける事の少ないないだろうそれは、金色の砂飛沫を辺り一面に撒き散らしながら勢いを止めることなく前へ進んでいく。

 何よりも早く、それ以前に地球上に存在していた何よりもという精神から生まれた人類の叡智の結晶である動く鉄の塊ーーー列車がそこにあった。

 

 その中で、二人の男が向かい合わせに座っていた。

 

 一人は水色の髪に赤縁のメガネをかけた男で、もう一人は特徴的なスーツを着こなす金髪の男。

 その男達は何故列車が砂漠を横断しているのか、そもそもこんなモノは元々存在しないはずであるという事を知っている。それが技術によるモノではなく、数十年経とうと常人では実現し得ることができないことも。

 

 「しっかしよォ〜、うわさには聞いていたがとんでもねえな。“汽車含めた空間丸ごと”っつうんだから、質感とかもマジもんだなこりゃあーーー」

 

 水色髪の男が、ペタペタと車内を触りながら感心した様子で辺りを見渡している。

 片手で一本の髭すら生えていない顎を少し撫でながら、もう片手では欠片のホコリもついていない車体を撫でている。高級感溢れる色調の壁から、豪華な飾りで彩られた額縁、窓へと移りーーーーしかし、その手は途中で動きが止まった。

 

 「悪くねぇ、目で見た質感も、肌で触った感触もーーー。だが、()()()()()()のが一個ありやがる」

 

 その一言と同時に、その男は座席に無造作に足をかけた。

 そして、そのまま上げた足を後ろに下げるとーーー男は突如として赤子の起こす癇癪の様に勢いよく座席シートを蹴り始めた。

 

 「この配色だけは気にくわねぇなぁ〜ッ。国色の一つすら入っちゃいねぇーーー! ()()()は俺達を舐めてんのかァーーー!?」

 

 1、2、3、4、5と蹴られるたびその羽毛を散らしていく座席シートの形が変わっても治る事のない癇癪は、なおもエスカレートしていくように見えた。が、

 

 「ーーー落ち着け、ギアッチョ」

 

 金髪の、薄いチェックの模様が描かれたワンセットのスーツを着込む男が手慣れた様子で、突如激昂した水色髪の“ギアッチョ”を嗜めた。

 男達はこれから自分達が何を行うのか、それを認識しているにも関わらずいつもと変わらない様子で座席に腰をかけている。

 

 「半径50m圏内のすべてを自分がイメージした世界に閉じ込めるーーー強ェのは確かだが、使用中は本人は攻撃できないおろか身動きすら取れねぇっつうのは確かにネックだ」

 「ーーーー俺達ぁこれから、一人じゃ何も出来ねぇ奴の尻拭いをさせられるんだぜ、プロシュート」

 

 右手に持った白い布で拳銃のホコリを拭き取る金髪の男ーーープロシュートに対して少し苛立った口調で、水色の髪の男がぼやいた。

 すると、プロシュートの拳銃を拭く手が突然に止まった。そして、唐突に立ち上がる。慣れた手つきでそこに球を一つ込めると歩き出し、ギアッチョの前で立ち止まった。

 

 そして徐に、銃口を向けた。

 

 「ギアッチョーーーー銃ってのは、一体何のために6発も球を込める事ができるか知ってるか?」

 

 座席を蹴り込んでいた足を止めたギアッチョの指がピクと動く。

 

「何のマネだーーー」

「いいから答えろ」

 

 あくまで、冷静な口調のまま問いかけるプロシュートとは対照的に、銃口を向けられているギアッチョの眉間にはシワが寄った。

 

 「物知り博士のつもりかーー? お前は昔からよォ・・・。大方、より多人数を殺せる様にだろうがよ」

 「違ぇ。ーーー()()()()()()()()()()()()()()()からだ」

 「ーーーーつまり何が言いテェーんだ。てめえは」

 

 今にも血管が浮き出る手前のギアッチョに対し、プロシュートは少しも臆する事なく近づく。 

 

 「いいか、ギアッチョ。お前のホワイトアルバムは強い。それこそ一人で対抗組織をぶちのめしちまうぐらいにな」

 「あぁーー?」

 「だが、俺達は兄弟であり、“チーム”だ。一人一人が強ェに越したことはないが、完璧な人間なんてこの世に誰一人としていねぇ。拳銃が一発じゃよく狙わねぇと人一人すら殺せないように、足りねぇ部分はもう一発が補う。二発じゃ足りなきゃ三発目だ」

 「ーーーーあぁ」

 「つまりは冷静さだ。それさえ分かってりゃあ、お前は成長できる。そうじゃなきゃあーーー“あいつ”を取り戻すことすらできねえ」

 

 それだけ言い終わると、プロシュートは静かに向けた銃口を降ろし、懐へ拳銃を仕舞い込んだ。

 

 「だから俺達がいるーーー。それが確実だと見込まれた上で、俺達がここにいるんだ。やり方はーーー分かってるよな?」

 「チーーーッ、当たり前だ。にしても、わざわざこんな片田舎まで飛ばされるなんてよォ〜、俺たちゃ相当ツイてないぜ」

 「急を要するーーー標的が鉄球使いだからだろうな」

 

 プロシュートは手元にあるターゲットの写真をじっくりと見入る。どこかの瞬間で写真に収めたのだろう、男の腰元に写っている鉄球が目立つように光に照らされていた。

 

 ーーー黒い鉄球。

 それについては()()()()()()()()()()()()祖国では見る機会はなかった。ネアポリスにおいては武器として、護衛官や処刑人は鉄球を所持している。使い方は様々で、攻撃、捕縛、治療など用途は多岐に渡るがーーーそれでもそういった鉄球使いの色は黒ではなく、緑やオレンジをしている。故に、黒色の鉄球は異質さを放つ。

 

 「ーーーー上は、そんなご執心なのか?」

 「俺たちが知る意味は無い。が、そうだろう」

 「ーーー黒い鉄球、だったか?”あの街”ですら見たことねぇな」

 「ああ」

 「一度頭のイカれちまったジジイから聞いた覚えがある。緘口令が敷かれてるらしいっつぅのに、ベラベラとよぉーーー」

 「ーーーーーおい、合図だ」 

 

 と、ギアッチョが続きを発しようとしたそのタイミングで、列車の最前列の方から間の抜けた様な鈍い汽笛の音が鳴り響いた。

 

 「始めるぞ」

 

 プロシュートが座席から腰を上げ、前へ一歩進む。と、その輪郭がうっすらと“ぼやけた”。 

 

 「ーーーーーグレイトフル・デッド」

 

 プロシュートがその名を呟くと、ぼやけた輪郭から抜け出るように、白い体をしたエイリアンがその姿を現した。

 数個の脚の様なものを操りながら、頭の辺りに位置する幾つもの目玉はギョロギョロと蠢めいている。

 

 「ホワイトアルバムーーー」

 

 ギアッチョもまた、同じように呟くと、その体にまとわりつく形でピッタリとした白いスーツが体から浮き出した。

 

 「俺の老化は熱で左右される。最も安全に最大効率で列車全体を満たすために、空調室から俺は動くわけにはいかない。そして、この中で動く事ができるのはーーーー」

 「冷気を纏った俺のホワイトアルバムだけーーーだろ? 安心しろ、いつも通り五分でケリをつける」

 「慢心はするな。”聖教会の護衛”の情報もある」

 「ーーー相手が誰だろうが関係ねぇ」

 

 プロシュートはギアッチョが別の車両へ移っていくのを確認した後、人一人が十分に腰をかける事の出来る空調室のドアを開け、“予め具現化されていた”全室に繋がる換気口を全開にした。

 そして、そのハッチを開く。

 

 

 俺達“兄弟”の障害は全て取り除く。鉄球使いは総じて呪われた一族だ、必ず国に持ち帰る。ーーーーそして、ヤツから“弟”を必ず取り戻してやる。

 

 

 

------

 

 

 

記憶の奥。目を閉じなければ思い出せないような過去。

 

 風に乗った草木の香りが漂う緑の世界で、幸福な事柄事以外は何も知らない私がそこにいた。

 

 『どうしてあの子には家族がいないの?』

 『それはねーーーー、うーん、なんといったらいいかねぇ』

 

 幼い頃の自分は、弟を除けば一人しかいなかった年の近い住人に興味を持っていた。彼がそこまで年が離れていないというのに、少し大人びて見えていたからだろうか。

全てが新鮮に見える子供の時分からすれば、そこまでとはいっても、自分より少し体格のでかい事は大きかった。

 また、彼は村の中で唯一彼用に充てがわれた家にたった一人で住んでいた。

 それもあって、そんな少年に何故か目を引かれた私は、たまに村へと帰ってくる両親にふいにそんなことを聞いた。

 

 単純な結末を言えば家族に先に立たれていた訳ではあったのだが、死などを明確に理解していない子供に対して答えにくいことであったのだろう。困った顔をして返答を詰まらせていた母を覚えている。

 

 彼はいつも、屋根に上って高い位置から村を見渡しながら、ここいらでは珍しい黒髪をたなびかせていた。

 

 そして、そこで何をするわけでもなくただため息をつく。

 

 ついたかと思えば気合を入れるように自らの頬を叩くと、屋根から降り、身の丈に合わない藁に悪戦苦闘しながら農作業を手伝いにいく。

 

 その時は変わってるヤツとしか思えなかったが、彼は不思議と村の人々に好かれていた。

 それには彼自身の働き者の性格もあってだろう。

 なのに、彼が帰るのは彼だけが住む小さな小屋。そこに彼の家族といえるような人はひとりとして見えなかった。 

 

 だから、遠目からだったとしてもそれが酷く寂しそうに見えて。

 いくつかの出来事を経て仲良くなった後に何回も家へ誘った。

 

 けれど、いつまで経っても彼から寂しさが消える事はなかった。

 今考えれば、私はそんな彼に同情していたのかもしれない。

 

 

 ーーーーもしあんな出来事が起きていなければ、彼と今も一緒に生きていたとしたら、その寂しさを私は消せていただろうか。

 

 

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 次第に聞こえてくる、体に伝わるガタガタとした柔らかな振動が大きくなっていき、唐突に瞼の裏に明るさを感じた。

 

 

 「ーーーー?」

 

 

 目を開けると、嫌な奴が視界に入った。

 こちらに背を向け、日差し避けのために走行中に被っていたマントをブランケットのように体にかけ、背中を向けて眠る男。

 

 “彼”とあのまま過ごせていたら、もし私が彼を見捨てていなかったら見れていたかもしれない光景。

 

 彼があのまま成長していたら。

 そんな事を考えさせる目の前の男ーーー今はガソリンだったか、私が知る前に名を変えられてしまったが故に、本来の名を知る事はついぞ無かったが。

 嫌な記憶をフラッシュバックさせる、先日自らの護衛するべき相手となった男の一部が目覚めの瞬間に映ったことで変に目覚めの悪さを感じた。そして、その理由を思考する自分に対しても。

 

 

 本当に、ーーー嫌になる

 

 

 もう何も考えたくない。

 

 

 そう考えながら、瞼の重みをゆっくりと感じる。

 再び体に押し寄せる、気味の悪い眠気に身を任せ、目を閉じる。

 

 ガタンゴトンという音ともに、体を一定の間隔で揺らす振動がゆりかごのようで心地が良い。

 

 

 音が耳に入ってくるたび、次第に聞こえてくる音が小さくなっていく。

 まぶたの裏が、明るかった世界が暗闇を帯びてくる。

 その暗闇の中に、落ちる。見えない底までどんどん落ちてーーーー

 

 

 ーーーーーーーいや、待て。

 

 

横たわる身体を反射で起こし、勢いで自分の頬を思い切り平手で打つ。

 寝惚け頭で思わず自分の本能に流される所を寸前で抑えた。

 

 鋭い痛みが右頬全体にじんわりと広がっていく。

 ーーーーとても痛いが、おかげで目が覚めた。

 

 

 明るさを取り戻していく視界の中で、急ぎ辺りの状況を確認する。

 場所ーーーー気品あふれる茶色を基調とした、豪華に彩られた明らかに一般人用に作られた様には見えない部屋。

 

 窓は一つ二つ、と思ったがどうやら壁に沿って一定の間隔で両側に備え付けられているようだ。外からはまぶしいほどの日光が差し込んでいる。

 

 それにガタガタと体に伝わるこの振動に、走るだけでは体感できない窓に映る景色の移り変わる速度から今私がいるのはーーーー列車だ。

 

 何故、私はこんなところにいる。

 

 

 「起きろ、おいーーーーガソリン」

 

 

 ひとまず、護衛対象の安否確認が最優先とみて、寝起きから嫌気がさした男を揺さぶりながら声をかけるも、返事すらしない。

 それに見かけでは分からなかったが、こいつ意外と体重があったのか。寝起きだからというのもあるだろうが、揺さぶる際に何か“重い”印象を感じた。

 

 というよりもどこかーーー。

 

 

 「ーーーー?」

 

 

 ガソリンの体を揺さぶることで目が覚め、視界が広がったからか気づいたが、よく見ると辺りには少なくない量の茶色い粉のようなものが散らばっている。

 

 

 ーーー列車に何かぶつかったのか?

 

 

 おそらく木片、それも列車内部のどこか。見渡すと側の座席の大部分が丸々削られている。だが、その削られている部分の綺麗さからして、誰かが人工的に削っただろう事が分かる。

 粉の散らばりようからして、常に揺れている車内にしてはそこまで時間が立っているようにも思えない。

 だが、こんな場所でそれをする事に一体何の意味がある。

 

 いつの間にか自分たちがこの列車の中にいることと関係があるかもしれないがーーーその可能性は低いと見ていいだろう。私が目を覚ました所には見受けられなかった事に加え、これが外部からの攻撃だったとしても、あまりにもまわりくどすぎる。敵が誤認させるために行ったにしては脈絡が無い。

 

 冷静に考えなければ、それを念頭に置きながら、ガソリンを揺さぶり起こす力を強める。

 

 

 「ッーーーー」

 

 

 しかし先から体が異様に重く感じていたこともあり、一度ガソリンを揺さぶる手を止めてしまった。

 

 何かーーーー、とてつもなく何かイヤな予感がする。

 生物としての本能か、はたまた第六感というべきナニカか。

 

 身体に力がはいりにくいーーー体がまだ寝ているのか?

 

 それか、これまで痛いほどの日光が降り注ぐ砂漠を横断してきたのもあって知らず知らずの内に疲れが溜まっていたのだろうか。

 

 思っていたより体が鈍ってきているのかもしれんな。

 

 それにガソリンの後ろからちょこちょこついてきていたストーカー野郎にも気を配らなきゃいけなかったのもそれに拍車をかけていた。アイツ、確か50m以上離れてるなら追いかけてもいいとガソリンに言われてから喜んで大人しくしていたが、まさかな。

 

 

 ひとまず、どうにかガソリンを起こしつつ、今の状況を把握しなければーーー。

 

 

 目を閉じてすぐに思い出した記憶は2ndレースが始まったところ。

 すぐに我先にと、1stステージと同じように、ジャイロツェペリがスタートダッシュを決めた後ろ姿を見て参加者の多くがやはり狂っていると認識していたようだったが、外の反応は思ったより好印象だったようだ。

 それもそのはず、サンドマンへの妨害行為で最終的には順位が降格されてしまったが、元の結果だけ見れば1stステージでは一位の座を勝ち取っている。もしかしたら2ndステージでもミラクルを、もしかしたら彼には何か秘策が、少なくない観客がそう思っている。

 そしてそれが表出した結果、水場の保証のない馬鹿なショートカットを目論むジャイロの後ろに幾人かの参加者がついていった。

 

 かくいう私達もそのショートカット方面へ足を進めたわけだが、私は考えなしの根無しどもとは違う。組織が手配した水場がショートカットの先にいくつか点在している事を考慮しているし、それが他の参加者に渡らない形で隠されている事も把握していた。

 その道なら、護衛対象も守りやすくなるからだ。

 

 故に、ジャイロを含めた先頭集団にそれが見つからないよう、なるべく内側を走っていた訳だが、先頭集団より内側に入って数時間は何もなかったはずだ。

 事前に持ってきた砂漠越えのための水分を含め、そういった面でも危機感はなかったから焦る事もなく、適度に休憩を挟んでいたのも覚えている。

 

 そして、そのまま馬の調子を気にしながら進んでいき、夜の帳が世界を覆い始めたほどでーーー急に霧が濃くなりだした。

 それは辺り1m先も見渡せないほどで、気がつけば全く周りが見えなくなっていた。

 一応は振り返ってみたものの遠くの方に見えていたストーカーもその姿は見えなかった。無論、ストーカー如き野垂れ死のうがどうでもいいーーーー、がガソリンは守らなくてはならない。

 ガソリンがある程度戦えるという事はある程度1stステージの時に認識していたが、急な護衛という事もあり、情報収集が出来ていなく、不安点も多い。鉄球使いがまさか国外にいるとは思っていなかったのもそうだ。

 先の見えない中で、離れないようにガソリンのと馬体を寄せ合いながら、辺りの地形を確認し進んでいく事少しの間、その時だ。

 そこから気づいたらーーー()()()()()()()()()のだ。

 

 霧に包まれた瞬間からなのか、それともそれより前からずっとなのか。

 全容は理解できないものの、流れは理解した。だからこそ、分かった事は一つある。常人の想像しうる範囲外の出来事、理解ができなかったり、技術では再現不可能なこの状況は、敵の攻撃()()()()によるものだ。

 

 そうと分かれば次の行動を決めるのは容易い。蹴ってでも引き摺ってでもガソリンを叩き起こし、身の隠す事ができる場所へ移動させる。未だ体に上手く力が入りにくい状態だが、ひきずれば人一人運ぶくらいなんとかなるだろう。

 そして、その後に申し訳ないが無理矢理にでもこの列車を止める。一体どこに連れて行かれているのか、現在地の確認とその他諸々。

 コース上から外れているのは当然と見て、時間はあまりない。

 

 急がなければと、意を決してガソリンを動かそうと掴んでいる腕に力をこめるが、やはり違和感を覚える。

 

 やはり、おかしい。体がどうにもーーー、寝ぼけてふやけてしまったのか。

 動作の全てに、気持ちの悪い違和感を感じる。まるで未だに、夢のなかにいるかのような気分でーーーー

 

 

 「ーーーーーなァんでお前は起きてやがる」

 

 

 おぼつかない体に喝を入れ、懐から取り出したモノで声の先へ鉛玉を放つ。

 

 辺りを包む乾いた音が3回鳴ると、それは真っ直ぐに声の方へと着弾した。

 

 

 「ーーーーーオイ、話ぶった切りやがってテメェ、聖教徒だろ。俺の嫌いなァよお〜ーーーー」

 「ーーーーー。」

 「奴らは決まって救いがなんだとか言いながらーーー肝心の俺達は視界にすらいれなかったからな・・・」

 

 ブツブツと何かを言っている男へ視線を向ける。 

 何故まだ喋ることが出来ているーーー銃弾が命中したのにも関わらず、だ。

 

ーーー間違い無いか。

 

 身に覚えのない現象、どう考えても辻褄の合わない気味の悪い事象に陥った時は総じてスタンドによるもの。 

 

 既に、敵の手の中だったかーーー。ここまで近寄らせたのは不覚だったが、躊躇はしない。例えそれが自分の勘違いだったとしても、それはその時に考えればいい。

 

 疑わしきものは罰する。聖人でも何でもない私には、それが人を護衛するものとしての“責任”だと考えている。

 

 故に、手遅れになる前に拳銃を放ったと言う訳だった、が。

 

 

 「”俺達”のターゲットが見当たらねえなあ」

 

 

 そしてそれは寸分狂わずやつに着弾した。視線を向ければわかる、が。見た通り、奴には一つも効いた様子は見えない。

 

 だが、衝撃を受けたのは事実らしい。私の視線の先には、幾らか体をのけぞらせた“全身を覆うスーツ”を身に纏った男が、マスクの中からこちらを覗いている。

 

 白のスーツ、というよりは防護服のようにも見えるがーーーそれが能力なのか?

 

 だが、気になる一番の点は肩についている赤の輪郭をした十字架のマーク、聖十字架の紋章。ネアポリス王国で数ある兵士の中でも数十人しかなることの出来ない聖騎士の証ーーー私でもそれが誰だか一眼見れば分かる程だがしかし、記憶にある軍の一覧にいる顔とは一致しない。

 

 

 「思いの外早いお出ましだな、たかが一人の人間に聖騎士が出張るとはーーー訳を聞こう。まぁ、話せたらだがーーー」

 「“おハジキ”が効くわけねぇだろーーー?」

 「ーーーああ、今理解したよ」

 

 

 キンキンキンと、金属が何かで堰き止められたような、甲高い反響音が耳を伝っている。それはスーツの男間近で鳴り響いていたが、次第に音は小さくなり、完全に途絶えた。

 

 

 「超低温は”静止の世界”だーーーー。お前が眠たさに目を擦らせよォとしてる所で打った弾なんて、俺の氷のスーツ上の表皮1ミリすら削れねぇ。“ここ”で完全に静止した」

 

 

 ほらな、と男がマスクの上をなぞると潰れた銃弾がカランコロンと床に転がった。

 

 恨みがましく見つめる私と対照的に、マスク越しの奴の顔には笑みが浮かんでいる。

 

 

 「強がらなくてもいい、いくら防具をつけようが、銃弾が直撃したんだ。肋の一本でも折れて呼吸すら辛いだろう」

 「バカがーーー、俺の話聞いてたか? 低温世界で動ける物質は何もネェって、言っただろうがァよおーーーッ!!」

 

 

 撃たれて数秒後とは思えないスピードで奴が地面に右腕を叩きつけると、それを中心に地面に白く、透き通った氷が驚くスピードで広がっていく。

 

 

 「ッーーーーー!」

 「これが俺の”ホワイトアルバム”ーーー、顎外してやるよ神の奴隷がァッ!」

 

 

 こちらの足目掛け伸びてくる氷をジャンプすることでかわし、座席側へと飛びうつることで氷を回避する。

 

 氷と銃弾すら受け付けることの無い白のスーツ。それにさっきの“俺達の”というセリフーーーある程度だが分かった。

 

 

 「何が目的ーーーいや、言わなくても分かるがな」

 「ーーッ、いちいちイラつかせやがって。好き好んで奴隷になるような奴は昔からそうだァーー。分かってるなら鉄球の男ォだせッ!」

 「お前もその奴隷以下のヤツに従ってる癖にくだらん。それに、護衛の言葉の意味を知らないのかーーー?」

 「ーーーーーーーッ避けるな、うざっテェーーッ!!」

 

 

 右、後ろ、左とステップを踏みながら氷の手をすり抜け、そこから一歩後ろに下がる。

 ーーーーやはり少し、時間が欲しいな。

 

 

 「全身を覆うスーツ、それに瞬間凍結をさせる異能。確かーーーネイプルズの三兄弟。全員豚バコに入れられ処刑されたと聞いていたが、それが最初の追っ手とは随分豪華だな」

 「ネアポリスだ!他所の言葉で呼ぶんじゃあねェ、癪に触るなァ!!」

 

 

 ーー当たりか。

 ネアポリスで一時期名を上げていた殺し屋三兄弟。三兄弟の卓越したコンビネーションで息もつかぬ間にターゲットの命を刈り取る様はまさに死神と言われ、噂では呪術を使い超常現象を味方につけていたとされるが、それはおそらくスタンド能力であっただろうことは想像に難くない。

 中でも、真ん中の弟の側ではつむった目が開かなくなるほど周囲の気温が低下していたらしい。

 王の血筋を狙った事で始末された事からよく記憶していたが、飛んだ嘘っぱちだったな。

 一番上の兄の名はプロシュート、一番下はペッシ、そして真ん中は確かーーー

 

 

 「ギアッチョーーーだったか」

 「てめぇらーーーやっぱり調べはついてやがったか」

 「なに、その能力に、お前自身が話した“俺達”という存在のヒント。実際はほぼ勘だったがーーー図星だな」

 「チッーーーそれなら話が早ェ。ならヨォーーー早めに今世に諦めがついて良かったなぁーーッ!」

 

 

 スーツの男、もといギアッチョが前へ一歩踏み出すのと同時に冷気がこちらへ流れ込んでくる。

 噂通りの冷気、触れた部分を基点として凍結させる能力ーーー距離が必要だ。

 

 体が痛むから使いたくはなかったがーーしょうがないか。

 

 懐から蛇腹になった金属を取り出し、それらを一つ一つ繋げていく。慣れた手つきで一つ、また一つと組み立てられたモノはこの地では西部開拓者が主に使うーーーー面に対して非常に大きな破壊力をもたらす最新兵器。

 

 

 「ショットガンだ」

 

 

 ドンッという鼓膜を破りそうな音と共に、体があまりの衝撃で後ろへとのけぞる。

 その衝撃は痺れとなって腕から全体へと広がっていく。

 煙と共に冷気の霧が晴れていく。

 ーーーが。

 

 

 「ーーーー三度目の正直ってか? 二度あることは三度あるとも言うだろうがッ! どっちかにしろどっちかにィーーーッ!!」

 

 

 数発の銃弾は先程と同じように擦り切れる音と共にギアッチョにスーツへめり込んだまま、そのまま動きを止めた。

 

 

 「学ばねェバカがーーーーッ」

 「ーーーーー!」

 

 

 そして、ひるむことすらなくそのまま男はこちらへ無我夢中で距離を詰めてくる。勢いは全く落ちることのないまま、与えられたダメージというものはスーツ頭部に薄く見えるヒビのみ。

 

 

 「バカな、この頑丈さーーーーこいつ、無敵かッ」

「前後左右、死角は1ミリもねぇぞーーッ!」

 

 

 凍りついた床をペンギンが滑るように、男が隙に乗じてさらに距離を詰める。

 

 

 「なら、これはもういらないな」

 「あぁーーーー?」

 

 

 今ここにあるもので一番殺傷能力を持っているであろう“武器”をあえて相手の眼前に放り投げる。その行為に、奴の体には否応なく一瞬の硬直が生まれる。

 その隙に自由になった右手で空を掴むと、次の瞬間にはそこに見慣れたスプレー缶が生じていた。そして、迷いなくスプレーを投げ、咄嗟に口で咥える。

 一気に止め口が解除されたスプレーからはとめどなく肉が放出されていき、迷いなく自らの背中に向かっていくと、そこには新しい“腕”が生成される。

 その”腕”は生成されたと同時に頭上にあったつり革をつかむと、私の体を浮遊させる。

 

 すると当然、私を包みこもうとした氷はその凍らせる対象を失いそのまま後ろへと広がっていく。

 

 

 「曲芸師かァーー? だが空中じゃあお前は無防備だろーーーッ」

 「ああ、”仕込みナイフ”だ」

 

 

 つり革の揺らぎが自らに伝わる勢いそのまま、右足を男の顔面に蹴りを放つ。

 足には衝撃を受けて突き出たナイフが光る。

 目的はーーーーー僅かに入った頭部のヒビ。

 

 

 「ぶぎゃ―ーーーっ」

 「女だからとあまり舐めない方がいいーーーそういう奴らは今まで大抵数十秒でブチ殺してきた。自分の防御力に過信しすぎだ」

 

 

 図体に対して思ったよりも呆気なかったな。

 

 そして、突き刺さったその勢いのまま、男の体を地面に叩きつけ着地する。

 

 その衝撃で足元にいるギアッチョの体はもがき、ジタバタと体を動かすものの数秒してその動きを止めた。

 

 

 (終わったかーーーー)

 

 

 ふぅと一息つきながら、突き刺した足をぬるっと元に戻す。

 

 

 「ーーーーーフゥ、フゥ……」

 

 

 やはりバカにはしたが腐っても相手はスタンド使い、想定よりも体力の消耗が激しい。それに、倒したとは言ったが謎が解けたわけではない。聖騎士達の狙いはーーーおそらく“遺体”、つまりは黒色鉄球な事は分かっている。だが、何故処刑されたはずのコイツがこの紋章を背負っているんだ…..最早形振り構っている場合では無いというワケか。

 

 となればやはり、ガソリンを引き摺ってでもこの列車から連れ出す事が最優先事項。

 必ず、聖騎士の奴らは集団で任務に取り掛かる。

 “十数年前の国外逃亡者”に対しては聖騎士以外も含めて最大50人体制だったと聞く。

 

 だからこそ、早く、早くこの場からーーーー

 

 

 「ーーーッグゥ…….ハァーーーッ!ハァーーーッ!」

 

 

 思わず、膝から崩れ落ちる。

 ダメ、かーーーーー。疲れで思考が定まらない。それに、息切れが、治らない。

 

 明らかにおかしいーーーー激しいとは言えいつもは数回深呼吸をすれば治るほどの動きだ。

 

 思わず瞼が下がりそうになるが、根気で意識を取り戻す。

 

 貧血ーーーのわけがない。傷は擦り傷すら負わなかったはずだ。

 

 

 「ーーーおいおい、派手な動きしてくれたじゃあねえか。

 そんなに動いたらよぉーーーいくら女でも()が切れちまうんじゃあねえかあ?」

 「ーーーーなッ」

 

 

 声は先程トドメを刺したはずの男の死体から。

 貫いたはずのマスク越しから、男の余裕そうな声が漏れ聞こえる。まるで、そんな攻撃意に返していなかったとでも言う様に。

 自らの生存本能が警告を出し、瞬時に男の射程範囲から離れようとするも、力が入らず一歩も動けない。

 

 

 「ーーー、ふぅ。はぁーーーー、はぁーーーー」  

 

 

 仕留めきれなかったかーーーー。

 首を切り落とさなかった自分の詰めの甘さに反吐が出る。そして、男の言った息切れの事も、妙に頭に引っかかった。

 先程から妙に息が切れる事に関して、加えて、先程まではあまり感じていなかった身体の疲れ。だがそれは、視界に入った自分の両手を見る事ですぐに明らかになる。

 

 

 「なんだーーーー? これは」

 

 

 手の甲に広がるシワの一つ一つが、水に浸かりすぎてふやけてしまった時のように鮮明に浮かび上がっている。そのシワは手の甲の全体を覆い尽くしたかと思えば、手首から腕全体へとゆっくりと刻まれていく。

 

 同時に、全身が圧迫感に満たされる。体が自然と前傾姿勢になり、地面へと手がつく。

 体に力がーーー、意識すればするほど抜けていく。

 これは、毒ガスかーーー? だが、周囲にはそんな匂いなどカケラもーーーー

 

 

 「おいおいどうしたーーー、おばあちゃんヨォ」

 「ーーーーー!?」

 

 

 手で顔に触れれば皺が一つ、また一つと刻み込まれていくのを感じる。それは深く、広く広がっていくのと共に思考もまた、水底に沈んでいくような重さを感じさせる。今まで感じたことの無いーーー腕の重み、足の重み、筋肉の重みーーー、重力が敵になったかのような。

 油断、したーーーー。

 

 

 「兄弟のーーーー兄は“老化”か」

 「ケッーーー、そこまで分かるとはストーカーか? てめぇ、いや体感したからこそーーか」

 

 

 ネアポリスの三兄弟、その一番上の兄まで生存してここに来ていたとはーーー次男であるギアッチョでさえ“こう”であったのだから、普通に考えれば兄だって同じなのは自然であるが、なるほど。“四肢の自由を奪う”という噂は違いないーーーー息切れ、それにシワーーー老化を急速に促進させる呪いか。

 なら、兄弟は他にもこの車両にいると見て間違いない。

 

 

 「手間かけさせやがって、これだから聖職者はよぉ〜……」

 

 

 次第に失われていく手足の感覚が、嫌に寂しく感じていく。

 

 瞼が落ちていく。

 

 

 せめて、ガソリンだけでも“肉”で覆い隠さなければ全てが終わってしまう。

 最後の抵抗とばかりにスプレーの取手に手をかけるも、ボタンを押す手は男が視認しただけで氷漬けになり、ぴたりとも動かなくなった。

 

 

 「女は落とした、あとはターゲットのみーーーだ」

 

 

 

 耳鳴りとともに、敵の声が遠くなっていく。

 

 

 そして、瞼が落ちるのとともに世界が暗闇に包まれた。

 

 

 

  

 

 






 本体:ギアッチョ
 能力名:ホワイト•アルバム
 能力説明:自らの周囲にあるもの全てを凍らせる事ができる能力。汎用性とステータスに優れており、能力で作り上げられた氷のスーツは弾丸すらも通さない。

 【破壊力:A / スピード:C / 持続力:A / 射程:C / 精密動作性:E / 成長性:E】

 本体:プロシュート
 能力名:ザ・グレイトフル・デッド
 能力説明:生物を老化させるガスを放出する。老化させられた者は体力だけでなく知性、判断力も衰える事となる。

 【破壊力: B / スピード: E / 射程距離: B / 持続力: A / 精密動作性: E / 成長性: C 】
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