黄金長方形を夢見て(改)   作:パッパパスタ

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20th century boy

 

 

 

 

 視界一面に広がる暗闇。

 

 その暗闇は夜よりも暗く、絵の具の色よりも黒く、星空のような暖かみもない。

 そして辺りに広がる暗闇は徐々に私の体に近づき、私を染めてゆく。

 

 まただと思いながら、自分以外誰も居なくなった教会の中で両手を組む。本当はその暗闇の先には何もいないことなんて、とうの昔に分かっているのにーーーだが、今の私にできるのはこれしかない。

 すると、もう二度と聞こえるはずのない彼の声が耳に響いてくる。

 

 

 ーーーーなぜ、なぜ俺を置いていったんだ

 

 

 ごめんなさい。あなたを見捨てた私を、どうかーーーー

 

 

 ーーーーお前のせいで

 

 

 ただ、元気になって欲しかった。いつものように、私を笑顔で見守ってくれるあなたが幸せでいられるように。

 

 わたしがあなたを連れていったから。

 どうか、どうかこのようなことで許されるとは思っていないが、そう考えながら私は自らの体を痛めつける。私が、私を痛めつけることによって、少しでもあなたの苦しみが和らいでくれたら、ただそれだけを願って。

 

 

 あの日、あの時ーーー私は、逃げることしかできなかったーーーッ!

 

 組んだ手には爪が食い込み、破れた皮膚からは腕から血液が流れ出す。

 あの時の、今もーーー私はいつも自分の身のことしか考えることのできないクズだ。

 未だに脳裏に浮かぶあの瞬間。あそこで彼が私を庇って逃げさせた瞬間、何故か彼のあの言葉に『ホッと』したのだ。あの大きな熊から逃げれると思ったから?

  分からない。

 自分の命が助かると思ったから?

 

 分からないーーーッ!

 どこにでもある村の、どこにでもいる少女でしかなかった私は、あの時彼に言われるがままに逃げるしかなかった。

 走って、走って、走って、走って、走る。

 後ろからは熊のおどろおどろしい鳴き声が聞こえてきて、その度に私を震え上がらせる。しかし私は止まらない、いや止まれなかった。

 たとえ木の根に引っかかり転けようが、転けた拍子に顔に泥がかかろうが、片っぽの靴が脱げようが彼に言われた通りに村へ向かってひた走る。降り始めた雨によってぬかるんだ地面にもう片足のくつがはまっても靴を脱ぎ捨て走り続けた。

 

 1分、1秒でも早く村の大人を呼んで彼を助けに行くために。

 やっとの思いで村につき、大人達をかき集めて彼の元へ行こうとした私を止めたのは、森に詳しい猟師の大人だった。

 彼が言うには今も尚振り続けている強い雨の影響によって、今行けば土砂崩れや川の氾濫で自分達も危ないということだった。

 しびれを切らした私は、止めようとする大人達を振り切り、壁に立てかけてあった猟銃を手に取り走り出した。しかしまたもや彼の元へ向かった私を邪魔したのは土砂崩れによって倒れた何本もの大木。

 がむしゃらに猟銃で打ってもビクリとも動かないその大木と反比例するかのように、私の心はポッキリとへし折られた。

 

 雨がやみ、数日後猟師達に加え村の大人たち総出で例の大木を退けたものの、見つかったものは泥にまみれでところどころに彼のものだと思われる血がついている衣服だけ。でもその少ない品はここでなにがあったのかを物語っていた。

 木には熊がいた証拠となる爪痕や、根元から折られた木が数本あった。

 

 引き続き彼の捜索が行なわれたがしかし、大人達の懸命な捜索も虚しく彼の服以外のものは森の中からは何も見つからなかった。

 

 そう、私と彼を襲ったあの大きい熊でさえも、全て。

 

 全てが雨に流されたかのように、大木に残された爪痕と服以外は綺麗さっぱり見つからなかった。

 そして捜索が始まってしばらくたった時、川の下流で彼の物と思わしき『右腕』が見つかったという声が挙がった。その後しばらくして、彼の捜索は彼が川に落ちて流されたという事で打ち切られた。

 

 それはまだ彼の死を認めたくなかった私に、ナイフで体を刺すかのような衝撃を与え、そうしてやっと自分の犯した罪に気づいた。

 

 

 そうだ 私が、私が彼をーーー私は彼を殺してしまったのだ。

 

 

 そこから、どう家に帰ったのかは覚えていない。気がついたら、彼の服の切れ端を握りしめながら家にたどり着いていた。

 家に入ると、家族から何やら声をかけられていた気がするが、もはや私の耳には何も入ってはこなかった。

 

 私の責任だーーー。私が、殺した。

 

 その日から、私の贖罪の人生が始まった。 

 朝、昼、晩と、暇さえあれば教会へ行き、手を合わせ祈る。こんなことになるまでは一度も行こうとすら思えなかった教会へ、私は行くようになった。

 これはただの私のエゴだ。

 こうすれば彼の苦しさが和らぐかもしれない。こうすれば彼が少しでも私を許してくれるかもしれない。こうすればーーー私の罪が軽くなるかもしれない。

 

 こうなってしまったのに、未だに自分の事しか考えていない自分に吐き気がした。

 

 私の献身を見て、神父から都会の方にある大教会に行く事を勧められた。あなたならば、そこにいけば更なる献身ができるだろうと。そう言われた時、彼に言われた言葉が頭をよぎった。

 彼にははっきりとは言わなかったが、今までなら都会に行くつもりなんて、微塵たりとも思い浮かばなかった。

 私も、彼と一緒に村を支えていきたかった。今までと同じように、なんて事のない平和な日々を。家畜の世話をしながら、その日の作業を終わらせて、そのままーーー。 

 

 だが、今の私はそんな未来を想像することすら許されないだろう。

 

 その後、結局神父の言う通りにカトリックの洗礼を受けた。そして数年後、なけなしの持参金携えながら、都会にある大教会に向かった私は、そのままそこでシスターとなった。

 

 だが、その罪は今も尚私から離れる事はない。この穢れしてしまった私の体。穢してしまった私の手は、何度聖水で洗い流しても消えることはない。きっと、この罪は一生消えることはなく、私が死ぬまで、私が死んだとしても消えることはないのだろう。

 

 懺悔しても許される事はないのだろうが、どうか、どうかこの祈りが彼にどどきますようーーーーー。

 

 

 

-----

 

 熊にボロボロにされ、死に体の状態で彼にーーー“先生”とやらに拾われてから数年、彼は休む事なく自分に“勉強”をさせた。

 といっても、文字通りの本を使うようなものではなく、まさしく肉体言語と言われるものである。

 

 はじめは体力作りからだった。てっきりハナからあの“鉄球”とやらを教えてくれるのだとワクワクしていた自分は落胆したものの、しかしその体力づくり生半可なものではなく、そのようなことを考える暇をもない程に過酷なものだった。

 

 急に原っぱに投げ出されたかと思うと、そのまま身動きがうまく取れない状態で這いずりながら家に帰らされたりなど。

 

 だが、初日からおよそ半年までは、それでもまだ易しい方だったのだろう。実際に、それ以外では半年までは足が動けるようになるために、鉄球の回転を体に馴染めるといったような感覚的なものばかりであった。だが、体が次第に言う事を聞くようになってからというもの、急激にその過酷度が上がっていった。

 

 その一日のメニューがこれだ。

 

* 腕立て伏せ 疲れるまで

* 上体起こし 疲れるまで

* スクワット 疲れるまで

* ランニング 疲れるまで

 

 おそらく、どこかの国の兵士も流石にここまではしていないだろうドン引きするほどの練習量の多さに一体何度逃げ出したくなっただろう、そして更に驚くなかれ。コレを『片腕』の状態で俺にやらせるのだ。

 正直最後の方まで行くと朝始めたのにもかかわらず少し空が赤くなり始めるほどまでに時間は経過しているが、気絶することも許されてはいない。

 一度途中で大事な大事な片腕の筋肉から変な音が聞こえ始め、少し休憩を取りたいのですがと言ってみるもそれは即座に断られ、実際に気絶するとその都度先生のオカルト鉄球の効力で治される。

 

 しかし、慣れというのは恐ろしいもので、正直以前までなら道半ばで諦めていただろうが、ものの数カ月続けているとそれもあまり苦しさを感じなくなる。

 

 そして、修行の中で息を一度も荒らげることがなくなったその日の夜に、先生からあることが追加された。

 

 教えられた場所にある掘っ立て小屋の扉を開けると、そこには月明かり日照らされ、渦をまく漆黒の鉄球が一つ。

 

 「これがお前の鉄球になる。触れ、一生モンだぞ?」

 

 先生がそのとき一体俺に何を言いたいのかは分からないが、どうせ聞いたって何も教えてはくれないだろうと半ば諦めその鉄の球に触れた。

 

 感想ーーー丸い、渦がある、冷たい。

 

 正直拍子抜けの感じがするが、これもきっと意味があるのだろうと絶えず鉄球を右腕で撫で回していると、先生が一言。

 

 「慣れろ。そして、その鉄球が自分の体の一部だと、自分の血肉なんだと、そう認識できるまでは手放すな」

 

 そしてその日から、鉄球と向き合う日々が始まった。

 

 

 朝五時、目を開ける。なにやら手に違和感するのを感じると、そこには縄で手と結ばれた鉄球が一つ。

 

 腕立て伏せ。左手で丸い部分を掴みながら、そのバランスの悪いまま地面に垂直になり腕を地面へと降ろす。

 

 上体起こし時、スクワット時、ランニング時ーーー。そのすべてを鉄球と共に過ごした。

 

 最初はその球自体の重さを感じた。バランス、走りその全てに違和感を感じていた。少し経つと慣れてきて、腕を上げ下げする時にしか気づかないほどには慣れてきていた。もう少し経つと、鉄球は鉄ではなくゴムほどの重さで、手のひらから取ると逆に違和感を覚えるほどにまで吸着していた。

 しばらくするとーーー鉄球は長年連れ添ったペットのように、手のひらからこぼれさせても、その裏をつたって俺の体にクルクルとまた登ってくるようになった。

 

 試しに目の前の草原の隅に隠れているうさぎ目掛けて鉄球を投げた。元々のこの時代で生まれた自分のスペックというのもあるのだろう、寸分違わず脳天へ直撃しウサギは昏倒した。

 そして、鉄球は()()()()()()()()()()()きた。

 

 そして、ようやく先生の言っていた事がかけらだけではあるが理解できた。

 感じたのは何も“全て”ではない。見えたのは“全て”に至る道ではあったが、感じたのは“途方もない全てがあるという感覚”だけであった。

 すぐに伝えに行こうと、修行を一時中断して先生の掘っ立て小屋に急ぐと、そこは最早もぬけの殻だった。

 

 彼がよく足をかけていた場所、ひび割れた机には『長方形の石』のようなものが一つ。そして、メモ?かはたまた手紙のつもりなのか。ひび割れた机に刻まれた文字。

 『北に50キロ 2番通りの裏手』

 何も言わぬ先生に従う義理は、正直ないと言えばなかったのだが彼の言うこと全てに着いていくこと数年。それだけで自分が何をすればいいのかは“感じていた”。

 

 

 

 それから更に数年後。

 

 「ああーーー痛い、痛いけど……まぁ無いよりはマシだな」

 

 義手をつけることにおいての多大な課題の一つである『幻肢痛』ーーー元々ない部位がまるであるかのように痛みを感じるという現象を抑えるように、幻の部位を撫でる。

 

 視界の隅には薄汚れた写真が一つ。

 昨日の晩に手に入れたものではあるが、これを期に、自分はただの人間に戻る。

 

 要するに、コレを最期に俺はこの薄汚れた夜の世界ーーー人を殺す事で生計を立てるような環境からおさらばするということだ。

 

 先生の元から離れてーーーというより先生が俺から離れてからというもの、おとなしく俺は北へちょうど50キロ進んで大国アメリカの御座所である大都会へ足を踏み入れた。

 

 そして、刻まれた文字通りに名前のついていない店の裏手に入ると、そこにはサングラスをかけたいかにも上流階級ですといった毛皮のコートを着た女が一人。

 みすぼらしく、浮浪児のような俺を彼女が視界に入れると、こちらへ近づいて一言。

 

『ーーーおかえり、あなたが“次”なのね』

 

 彼女に言われるがまま裏路地を出て、明かりがきらびやかに光る表口から入ると、目の前には俺のために用意してあったかのようなスーツが一式。

 加えてーーー『右腕の形をした器具』が高そうな机に置かれていた。

 思わず呆けた顔で見上げていると、再び彼女が口を開き、ピンぼけした写真を一枚胸ポケへ押し付けてきた。

 

 そこには、サングラスをかけた裕福そうな男が1人写っていた。

 

 『目には目を、歯に歯をーーーだから。じゃ、後はよろしくね』

 

 

 直接的な言葉はなかった。

 けれども、その数時間後ーーー初めて自分の意思で人を殺した。

 

 

 

-----

 

 目を刺すような光を放つ、乱立されたネオンサインに嫌気が差していたあの頃の自分とは違う。

 

 なんとなく、今日は空がきれいだなと見上げると、宙に浮かぶ星がかわりに辺りを輝き照らしている。

 しかしそんな幻想的な雰囲気はすべて、濃厚なアルコールのにおいでぶち壊されていた。それも芳醇なぶどうの、西洋酒のにおいではない。例えるならそう、医務室の消毒液のようなきつく、お世辞にも上品とは言えない。匂いではなくもはや臭いである。

 そんな通りの煌びやかな繁華街の裏に隠されたように存在するある酒場の一室。

 

 その部屋はのんだくれの集まる部屋である一方、世間で言う裏稼業を依頼するために利用される部屋である。

 依頼人達は国の最大勢力である麻薬カルテルの元締め、蒸気機関車の部品の製造で大成功を収めた企業の社長や政府の要人の依頼からだたの一般人まで。復讐や殺し、他企業への妨害工作までなんでもござれ。

 基本的に、依頼といえども先に言った通り依頼内容は多種多様に広がっていることもあり、内容によってはとてつもない額の金が動くこともある。

 そのような仕事に置いてミスる、失敗するという事は軽い口調で『サーセン、失敗しちゃいました』などでは許されるはずもない。 

 失敗なんてものをすることがあれば、そこでオワリだ。

 それ故に、依頼を引き受ける側もそれ相応の技術を持った人間を選ばなければならない。

 相応の技術を持った人間、それはひとえに“どれだけ証拠を残さずに、なおかつ完璧に依頼を完遂できるか”だ。いくら腕っ節が強かろうが誰がやったかすぐ分かるような証拠を残す仕事人に一体誰が依頼をしたいと思うだろうか。

 

 だからこそ報酬金額が他のものと比べ物にならない仕事を任されるということは、言い換えるならばその界隈で一際信頼されている人物だと言っても良い。

 

 そこでは、少しほど前から、ある噂が一人歩きしていた。

 

 曰く、奴は依頼された仕事はどんな内容であっても必ず完遂する。

 曰く、目撃者は全員皆殺しにするので誰もその人物の顔を見たことがない。

 ーーーそして、その男に殺された人間は指一本すら残らないという。

 

 

 

 「で、だ。こんな恥ずかしい噂を流して、お前は一体全体何がしたい。ーーーお陰で大通りすら歩けねぇ」

 

 真剣な顔をして問い詰める。が、ふわぁっと撒き散らされた煙に思わずむせてしまう。 

 そんな俺の反応を見ながら楽しんでいるように、目の前の女は口元に笑みを浮かべている。

 

 「ーーーあらぁ、別に嘘は言ってないじゃない」

 

 まったく悪びれる素振りも見せず、ロクに換気もせずに部屋の中でタバコを吸い続ける目の前の女。赤を基調としたドレスを身に纏い、大きく開かれた胸元から見える彼女の婀娜さの前では貴族の男達でさえも誘惑に負けてしまうだろう。ただし、誘惑に負けて手を出してしまえば最後、翌日の太陽を拝むことはできることはできないと思うが。

 サングラスをかけた容姿端麗の女。

 彼女がいつ生まれ、どこの出身でいつ名が知られるようになったのかは知るものは誰もいない。世間からすれば謎という言葉は彼女にあるためのものと言っていいだろう。年齢自体彼女本人は20代と公言している(正直絶対にそれはあり得ない)が、その体はどう見ても20代とは思えない艶めかさを放つ。

 

 「懐かしいわねぇ、あなたがここに来てもう何年が経つかしら....」

 

 こちらの問いかけには耳も貸さずにうんうんと深く頷く彼女の態度には最早脱帽物だが、生憎今日は遊びに来たわけでもない。

  

 1人になってからの、跡を継ぐ、いわゆる後継者としての修行の日々。

 今まで教えられてきた多くの技術を自分なりに改良しながらここの仕事を繰り返すという地獄のループ。

 この女と先生は一体どこで出会ったのだろうか。話を聞く限りではただの昔馴染みなのだろうが、先生は何も答えてくれなかった。ーーー別に、深く知りたいわけでもなかったが、先生が去った今、もうどうでもいい。それに、彼女は仕事をこなす度に遊べる程度の金を与えてくれるので生活には困ってはいなかった。が、もちろん逃げ出せるほどの多くの金はもらえない。

 

 しかし、そんな日々を過ごすこと早10年程、数々の仕事をこなしコツコツと金を貯めていた自分は遂に、その地獄の日々を今日で終わりを迎えることに成功した。

 

 「それで、今日は何の用?お薬、武器?それとも、あ、た、しーーーーって冗談よ冗談。………そんな恐い顔しないでってば」

 

 どうやら笑えない冗談を言うこの女に向けた殺意が顔に出ていたようだ。

 が、この女が一体どんなに腐ってもあまりあるほど借りがある。

 というよりは正直いうと彼女がいなければ俺は今まで生きていけなかったといっても過言ではない。実際のところ、ここにきて間もない頃は彼女と一緒に生活をしていた。頼まれたからだのなんだのと、有無を言わさず連れて行かれた自分だったが、どちらかといえば世話をしたのは自分の方だった。

 服は脱ぎ散らかし、食器も洗わない。そして夜は決まってベロベロになって帰り、そのままのテンションで絡んでくる。

 

 思い返せばため息がでるあの時から数年、俺はだいぶ学んだはず、この女に流されれば本末転倒だということは既に何回も何回も......。今日ここに来た目的を忘れてはいけない。

 

 「まったく……ここまで大人にしてあげたのも私だっていうのにーーーほら。あなたの最後の依頼よ」

 

 サッと彼女がアンティーク調の机の引き出しから取り出した顔写真付き紙の束。どれもその一つ一つに細かなメモや、付箋に似た紙切れが貼り付けられている。

 彼女はその紙の束をパラパラとめくり、その内の1つを俺に見せた。

 

 「この男には国家転覆の疑いがあるわ、分かるとは思うけど、依頼人が誰か聞きたい?」

 「聞いたって言わないだろ。 もう分かってるよ」

 「せいか〜い」

 

 依頼っていうよりは命令って言った方が正しいかしら、甲高い声でそう言いながら置かれたターゲットの写真には男が写っていた。人相からして20代後半から30代前半ほど。ターゲットは1人なのだろうか、国家や大富豪、貴族相手ではない事から()()の仕事にしては拍子抜けのような気がしないでもないが。

 

 「彼自身を殺すのは簡単ね、おそらく貴方じゃなくてもいい。ただし、問題はーーーーー」

 「用心棒ーーーーーだろ?」

 「ええ、本業はそっちじゃないみたいだけどね」

 

 ターゲットの上に重ねるようにして置かれたもうひとつの写真。

 先程のターゲットの写真とは違い前からではなく後頭部を取られた男の写真。普通ならばこれだけで用心棒の特定などは難しいだろう。

 しかしこのターゲットは“そこ”が違っていた。最早ターゲットが視界の片隅に入るだけで認識することができると言ってもいいほどに分かりやすいのだ。

 

 綺麗な剃られた頭には新聞紙に書かれてある文字の羅列と、うなじの少し上の辺りには顔のような刺青が入ってある。思わず笑ってしまうほどの個性の強さだが、正直ここまでいくともう暗殺系統の隠密も糞もないような気もする。

 だがやはりこの目立つ格好、バレたところでなにも支障はないという自信の現れだろうか。

 

 

 「気をつけなさいよ、なんでもこの用心棒ーーー『複数』いるらしいの。なんでも撃っても撃っても数が減らない、挙句の果てにはなんとーーー死体からまたもう1人がでてくるのよ──ッ!」

 

 

 死体からまたもう1人の人間が出てくる……ねぇ。

 ここだけ聞くと何かのマジックショーのように思えるが、ここまでいくと魂とかそういうオカルト系なんじゃあないかと思ってしまう。いくら鉄球の技術があるといえども鉄の球ごときじゃ成仏は少しーーーいや、ないと断定するのは良くないか。

 それに、鉄球というものもオカルトのようなものだしな。

 

 すると彼女は自分を驚かせたかったのだろうか、そんな自分の反応を見て彼女は大袈裟な素振りをしている。

 

 「怖いでしょ〜? でも安心しなさい、そんなこともあろうかと〜ーーーー助っ人を呼んでおいたわ!」

 「ーーー珍しいな」

 

 助っ人という、この仕事を始めて母今まで聞いたことのなかった単語を前にして、思考がそのまま口に出た。

 この系列の仕事は基本的に初めから2人組(ツーマンセル)でもないかぎりコンビを組むこと自体そうそうない。初対面の相手となんぞコンビネーションもクソもないからという事もあるが、それにこんな世界では、裏切なんて数えきれないほどある。

 しかも自分からあんな噂を流しておいて最後の最後に顔バレをさせて、なおかつ俺の引退した後の生活でさえ脅かそうとするなんてことはおそらく誰にもマネはできないだろう。さすがだと、思わず拍手してしまいそうになる。

 拍手と同時に拳も出してしまう気持ちになるのは否めないが。

 

 「ハッハッハ!褒めても何も出ないわよ〜。それにそんな心配しなくて大丈夫よ。自分の身は自分で守れる人だと思うし、まぁでも助っ人といっても文字通りあなたを“守る“ぐらいしか出来ないと思うけど....」

 

 それは肉壁という意味か、相棒として背中を守ってくれるという意味なのだろうか。人権もあるような体裁を保ちながら実質は毛一本分すら存在しないこの世界ではまるで虫のように簡単に命が散っていく。やり直しは効かない。そんな中で肝心の助っ人が役立たずでただの足でまといなんてものはもう、自チームは負けたも同然だろう

 

 すると何を考えたのか、彼女は唐突に備え付きのダーツの束から1本を手に取った。

 残念ながら、ダーツでは彼女に勝った経験がない自分には真似できないが、壁に向かって投げられたそれは寸分の狂いもなく的の中心へと吸い込まれていった。

 

 「ーーー今のは誰でもできる事、いえ、ちょっと言葉を間違えたわね。“今のは練習をすれば“誰でも出来るようになる物、簡単に言えばあなたの鉄球を操るのと同じような【技術】によるものよ」

 

 そんなことを言いながら彼女は2つ目のダーツを俺に握らせ、どこから出したか分からない水が入れてあるコップを目の前に置いた。

 

 「じゃあ次、あなたに渡したそのダーツでこの水の温度を上げてみなさい」

 一瞬、何を言っているのか分からずに体の動きが止まってしまった。

 それはダーツでやる意味があるのだろうか、というよりダーツではそのような芸当は不可能だ。

 鉄球で限界まで振動させたダーツを使えば可能性はゼロではないが、その前にダーツが耐えきれずに壊れてしまう可能性が高い。コップやダーツ自体を振動させたり色々と試行錯誤をしてみたが、ダーツに直接火を付けようとした所でダーツを取り上げられてしまった。

 

 「それは『反則』よ。まぁ、彼もあなたからすればその『反則』に近いのだけれど。ダーツで的の中心に当てるまでは【技術】。水を沸騰させるなんて本来の用途と掛け離れた芸当、技術じゃどうにもならない」

 

 ーーーそれこそ、超能力みたいなものじゃあないとね。

 

 

 

 

 

 「あんたがーーーゴホッーーあの?」

 

 

 指定された店の扉を開けるやいなや、入口の影から銃口を向けられるという熱烈な歓迎を受ける。咳混じりのその平常な声とは裏腹に警戒心が高いと思える。その声と、店の奥にある鏡に反射した姿から銃口を向けた人物が男だと推測ができた。

 

 だが自分もこの世界に身を置いて長いで。このような事態にはもう慣れたと言ってもいいだろう。反射的に出した左手で銃口を逸らしながら、残った右手で腕を掴みそのまま背負い投げをする。すると大抵のヤツは背中に受ける衝撃で思わず銃を手放してしまう。

 

 「甘いな」

 

 が、どうやらこの男は‘’半端‘’ではなかったようだ。

 投げられた力を利用し、ぐるんと身を翻しながらそのまま距離をはかられてしまう。離れたと同時に鉄球を投げ込むも、何故か男は避けることをしない。それどころかまるで逆の、下半身を狙って投げられた鉄球の弾道上に入る。

 

 降参するかのように屈んだその男は両手を地面へ着けると、何かを呟いた。

 

 「20th century boyーーー」

 

 その言葉と同時に、男の体をなにやらバッタのような飾りが頭についたスーツのようなものが覆った。

 

 (ーーーなんだありゃ)

 

 男の体表から滲み出る様にでたナニカ。その事に奇妙さを感じつつも、鉄球は真っ直ぐに男の顔面へと直撃したと言っていいだろう。だが何故か男は痛みに声をあげることも無い。それ以前に、ぴくりとも動かない。感じる違和感を振り払う様に2発目の鉄球を投げると、着弾と同時に男の真下にある床に亀裂が走った。

 まるで、エネルギーそのものが男を通して床へと逃げていっているようにも見えた。

 

 「あんた、なんで俺の攻撃が効いてないんだって顔してるぜ…」

 

 地面から手を離した男は再びこちらへ銃口を向け、勝ち誇った笑みを浮かべている。

 

 「冥土の土産に教えてやるよ。この‘’防御体勢‘’をとっている時の俺はなーーー」

 

 男の言葉と共に、俺の方へと向けられたはずの銃口はしかし、瞬間男の腕へと衝撃が走ったと同時に何故か()()()へではない、銃口を向けた()()()へと向いた。

 

 

 「『無敵』なんだぜッーーーって……あら?」

 

 

 ────ドンッ!

 

 

 くたびれた小さい部屋に、乾いた音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 






 本体:マジェント•マジェント
 能力名: 20thセンチュリーボーイ
 能力説明:マジェントが体に身に纏う形で発現する、防御タイプのスタンド能力。身に纏っている間は如何なる攻撃も周囲に拡散され、本体がダメージを受ける事はない。
 なお、スタンド展開中には身動きを取る事はできない。

 【破壊力:なし / スピード:C / 射程距離:なし / 持続力:A / 精密動作性:D / 成長性:C】

 
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