黄金長方形を夢見て(改)   作:パッパパスタ

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TATTOO YOU!

 

  

 ひぃひぃと、血反吐を吐きながらもなんとか修行を続けた数年後が今の自分である。 

 思い返せば、ああもうそんなに経ったのかと物悲しくなっている自分がいて、それと同時にまだそれだけしか経っていないのかと落胆する自分もいる。

 日が沈むまで終わることのなかった先生からのしごきの時は、太陽が憎たらしく見えたほどだった。

 だが、それも最早目を瞑ってもおぼろげであるほど過去の事。訓練が実際にどれだけしんどかったのか、それもあやふやである。

 

 しかしそれほど経ったとしても、いまだに初めて人を殺めた時の事は瞼に浮かぶように覚えている。 

 いかに相手を苦しめることのなく、最初の投球で身動きを止め対象を殺すことができるか。

 その時には既に、自らの鉄球を操る技術自体は完成形と言うまでには程遠いものの、人一人苦しめずに殺すことができる程度には仕上がっていた。

 

 しかし、そこで自らの障害となったのが扱い慣れていない『義手』による弊害。

 それまで鉄球操作に全力を注いで修行を続けてきたが、それはあくまで片手ーーー右手の“重量”を無視した動きであって、『健常者』を想定した動きではなかった。

 

 例えば、手が増えれば鉄球を振りかぶる時。後ろ足にかかった全体重の『力』を前方へと運び出す瞬間、本来であれば正常に伝達されるそれは増えた方の肩が邪魔をするせいでうまく運べなくなる。

 この情報が正確かどうかは分からないものの、片腕一本は体重のおよそ6%ほどであるというのをどこかで聞いた覚えがある。

 

 たかが6%、されど6%。

 操縦者の緻密な力の運びを感じ取り、風をその身に纏いながら眼前の空を切っていく鉄球は、受ける力と入れられる方向が少しでもズレるとまったく予想がつかなくなってしまう。

 

そして、初めて人の命を奪うその一旦を担ぐという意味を知ったその日。

 前足を力強く踏み出して、何十回と積み重ね繰り返された行為により、一気に鉄球を持つ先の手は最高時速にまで達した瞬間。義手の重さによる微細な体重の変化によって、鉄球の表面に掘られた模様から()()()()()()

 

 しかし、あの女が見計らってくれたのか、はたまたただの偶然か。 

 運悪く初陣から大きい仕事というわけではなかったために手痛い反撃を喰らうことはなかったが、その影響でなるべく苦しめることなく殺すと決めていたのに、無駄に焦って一撃で致命傷を負わすことができなかった。

 

 月明かりすら照らさない暗がりの中で、鉄球は目標へとまっすぐ突き進みながら相手の肩甲骨と肩甲骨の間に当たる。そして、暗闇に響く豚が叫んだような醜い声。

 

 瞬間、ハズしたーーーと頭がその言葉で埋め尽くされた。

 

  理由は一つではなく、他にも目標が金持ちのせいなのか脂肪がやけに厚かったということもあったのだが、咄嗟に懐から取り出した護身用の拳銃を震える手で構えて、今度は外さないようにとギリギリまで近づくと、暗闇の中へ闇雲に乱れ撃つ。

 パン、パン、パン。

 当然近くでそんなものを撃ったことで、軽い音とともに顔には男の血と脂肪やら何やらが混ざった不純物がかかった。  

 濃厚な、ウサギやらトナカイやらの臭いとは違う、どうとも言い表せない匂い。その中に鉄の匂いが混合されて鼻腔をなぐる。

 

 既に殺人という行為自体には吹っ切れていた部分もあったが、さすがにその日は用意されていた自宅に帰るやいなや一晩中ベッドでうずくまるほどには気が滅入ってしまった。

 情は捨てていた、といえば嘘になる。

 闇雲に撃った一発目。二発目に撃ったあと。一瞬ではあったが、その度に聞こえたうめき声が次第に弱まっていく、そのことが自分の心を確かに苦しめていた。

 その日は女も、珍しく何も言わずの抱きしめてくれたのを覚えている。

 

 しかし、それから数年経って。そうやって心を動かしていたのはいつまでだったかと物思いに耽る事すら無くなった。

 たった一人を殺すだけ。ただそれだけで心を痛めていた自分が片手で始末をつけれるようになった。今ではたとえ子供が命乞いしたとしてもその声は耳にすら入ってこないというのに、悲しいというか嬉しいというのか。

 心臓が、まるで頑丈な箱に包まれた気分だった。

 

 

 だが、そんな生活もあと少しでおさらばだ。

 もっと早くに、血生臭い仕事など辞めて元の自分に戻るべきだったのだ。

 

 これでようやくあそこに戻る事ができるとーーーその時まではそう思っていた。

 

 

 

 

 「ーーーしっかしたまげたぜ。ここらで活動しているあんたが‘’スタンド‘’の存在を知らないなんてなァ〜」

 

 初めて人を殺した時のように、薄暗い路地の端でそんな、感傷にひたって良い気分だった俺をバカにするかのような言動でぶち壊した張本人。

 まぁ、大方偽名だろうが、この男の名はーーー『マジェント』というらしい。

 前に会うやいなや銃口を向けてきた血気盛んな男とは思えないほどに、引退するはずの俺に対して金魚の糞のように四六時中馴れ馴れしく話しかけてくる。

 だが、生憎自分は友達ごっこがしたい訳わけでもない。

 

 「んだよ冷てェなァ……。あんときはただの“お遊び”。その証拠に銃だって空砲だったじゃあねえかよぉ〜」

 

 相変わらず眠そうな目でこちらを見てくるが、実際に彼のその言葉に嘘はない。

 あの時、エネルギーを地面に受け流されつつ完全にエネルギーを吸い取られる一歩手前で回り続けていた鉄球は俺に対して銃口を向けようとしたマジェントの筋肉の動きに反応して、マジェントが向けた銃口をやつ自身に向けさせた。

 

 そしてドンッという抜けたような空気を振動させる音が鳴り響いた後。

 音はたしかに鳴り響きはしたが、銃身から放たれるはずの銃弾はマジェントの体を貫かず、俺達二人の鼓膜をわずかに震えさせただけだった。

 

 その出来事と併せると確かに、こうして殺しかけた男を目の前にして軽口を叩くぐらいなのだから本当にマジェントに殺し合う気はなかったのだろう。

 正直なところ、個人的には死んでも死ななくてもどっちでもよかったのだが、残念ながら今はそんな些細なことを気にしている暇はない。

 

 今はなによりも先にこの男、マジェントに問い詰めなければならない事がある。

 

 それは先の戦いでマジェントが『スタンド』と呼んでいたもの。

 確か、修行の中で先生から聞いた覚えがある。

 

 それは人が潜在的に持つ能力で、第六感とも呼べる代物。そして、それらを視認するには自分も同じ特殊能力を持っていなければならないと。

 

 それが、『スタンド』

 

 それは、生命エネルギーが作り出すパワーある像───とかだったか ?

 詳しくいえば、生まれつきそのスタンドを扱える人物に、後天的にスタンドが発現したものと2種類いると、先生は言っていた。分かりやすく簡単にいえば『スタンド』とは世間一般でいう『超能力』と呼ばれるものに値する。

 

 その『スタンド』は鉄球はもちろん、蒸気機関車などと比べるのもおこがましいほどの魔法と呼ばれるものに等しい力を持っている。

 何もない所から水を発生させたり、誰にも気付かれずに物を動かしたりと人によって能力はまちまちだがその身に余る力を宿しているという事に違いはなく、人を殺すことも片手間でできる『スタンド』もあると、マジェントは言う。

 

しかし、いくらなんでも超能力というのはさすがに荒唐無稽過ぎるのではないのかという気がしないでもない。

 

 しかも本当にスタンドがこの世界に存在するのなら疑問が一つ浮かぶ。先生が言っていた『スタンドを視認するには同じように特殊能力を持っていなければならない』という点だ。あいにく、自分にはそのような特殊能力に見覚えはない。

 確か、何か例外があると先生が言っていたような気がするが、それも最早確かめようのない事だ。

 

 だとしても、知っていて損はない。餅は餅屋とも呼ぶし、少し気に食わないがこいつに聞いてみるのもいいかもしれない。

 

 「そのスタンドとかいうーーー」

 「ーーーおい、いたぞ。今酒場から出たヤツだ」

 

 スタンドについて聞こうとすると、急に何かを見つけたように言葉を発したマジェント。

 目標に勘づかれないよう、こっそりと彼が指差す方には革のコートを着た男が1人。

 

 色々寄り道をしたせいで忘れかけていたが、本来はマジェントと協力してターゲットを暗殺するという仕事だったはずだ。どうやらあの男がターゲットの男らしい。

 

 実際に見るまで完全に信じていたわけではなかったが、胸ポケから写真をおもむろに取り出して見るに、確かにあの写真に写っていた男そっくりの後ろ姿をしている。見る限りどうやら本当に頭の後ろにもう一つの顔のようなものがあるようだ。

 どこか、彫るのに失敗したヤツと同じ匂いがするがそれには触れないでおこう。

 歩き方や一人でいる所を見る限り、そんなに気をつけなきゃいけないような敵じゃなさそうにも見える。

 まぁ、問題はーーー

 

 「前に言った通り、俺の能力は無敵だ。あんたの鉄球と組めば最強、俺たちの向かうところ敵無しだぜッ!」

 

 ーーーこの男、マジェントだ。

 

 根は悪いやつじゃあないと思う。こっち側の人間の割には日常会話もできるし、冗談も言えるメンタル性もあると思う。だがいかんせん少し上から目線ではあるがーーーこの男の調子に乗りやすい性格が少し、いや大分もったいない。

 出会って数日しか経ってないがこいつの性格はだいたい把握できた。総合的な評価としてはマジェント自身の無敵の能力としては逆の、良くも悪くも『下っ端のクズ』のようなもの。

 軽々しい口調とともに人をすぐ信用するという点は、おそらく自分でも最強とも思えるような能力からの自信から来ているのだろうが、まさしくその評価を身体で表しているだろう。

 

 しかし、実際に目で見て実感するまで、『スタンド』というものが存在するとは全く思っていなかったが、マジェントと出会ってからその考えは変わった。こいつの体格、どんな衝撃を受け流すことができる割には“貧弱”すぎると言っていいだろう。それこそ、能力のおかげなのだろうが、正直いって現実味はあまりない。

 しかしながら、これまでこの世界で修行してきたことを踏まえれば分かることではあるが、頬をつねれば痛いし、寝て起きても夢から覚めることはない。まぎれもなく、これは『現実』だ。 

 

 それに何度も言うがこの仕事は自分にとって最後の仕事となる。だからこそ考え事をしている間に死ぬなんて締まらないこと、もってのほかだ。

 

 ああは言ったものの、マジェントがいるからそんな心配は一欠片もしなくても良いといってもいい。

 正直なところ、素直に彼の能力は最強と認めるしかないだろう。

 スタンドを被っている時はどんな能力でもマジェント自身を傷つけることが出来ない彼の能力は、張り合う矛のない最強の盾だろう。

 聞けば、どうやら防御中は動けないというデメリットはあるそうだが、基本的にスタンドを脱がなければダメージが入ることは無いそうだ。前のように調子に乗って不用意に脱ぐことがなければ、まず負けることはないだろう。

 

 「ーーーじゃあ、手筈通り殿は任せたぜ」

 マジェントの3、2、1という指合図とともに、いつも使っているの鉄球とは“逆側”にある鉄球をターゲットの方へと放り投げる。 

 

 狙いはターゲットの胸あたり。

 

 腕、肩、背中、腰、太腿、足と力を込めていくイメージをする。

 

 “先生”の言葉が頭に浮かぶ。力を入れるとは硬くなることじゃあなく、流すことにあると。

 

 足で踏ん張り太腿をなるべく伸ばし、腰を入れる。下半身の力を伝達させやすくするように背中を丸め、腕からエネルギーを放り投げる。

 

 決して力任せに振うわけではない。

 あくまで鉄球は道具ではなく、自分の手足と同じく、慈しみ大切に扱う。

 『鉄球』に礼儀をーーー鉄球の“一族”に対して礼儀を払うーーー。

 

 修行をする中で何度も先生に口を酸っぱくして言われ続けていた事だ。

  

 体全体のエネルギーを込めたその鉄球は寸分違わずターゲットへと吸い込まれていく。

 

 「ッッ!!」

 

 回転によって生まれる風の音に気づいたターゲットは、咄嗟に隠れようと酒場の裏路地へと潜り込もうとする。

 

 ーーーだがもう遅い。

 

 以前までの鉄球の技術では難なく逃げられていただろうと、かすりもしなかっただろうと簡単に推測できる。

 そう“以前の”鉄球であれば。

 

 ターゲットへ吸い込まれていく鉄球は、何故かターゲットへ届く前に途中で弾け飛んでしまう。

 

 そして、弾け飛ぶ鉄球からランダムに飛び出していく14の『衛星』

 

 師匠のあの掘っ立て小屋に隠されるように置いてあった2つ目の鉄球。

 ご丁寧に残してあった厚めの本に詳細が書かれていた、彼の一族のとはまた違う家系から盗まれた鉄球の技術。

 古来からネオポリス王国ーーー師匠の一族の生まれ故郷では、罪人の処刑を担当するツェペリ一族と、指名手配犯や逃げた罪人を捕縛する事を目的とした師匠の一族が存在していたそうだ。

 そして加えてもうひとつ、王族を護衛するというただ一つを目的とした一族の技術。

 

 その名も『壊れゆく鉄球(レッキングボール)』 

 

 この鉄球によって巻き起こるのはーーー左半身失調。

 

 何も左半身失調のような、という比喩ではない。あまりに強い衛星の衝撃波により一時的にかすっただけでさえ左半身失調になってしまう。 王を襲った輩を1歩も逃がすまいとする先人達の意志が宿ったかのように、ターゲットの逃亡を許さない。

 

 「がッ!」 

 

 左の視界が見えなくなった影響か、ターゲットは壁にぶつかり道の真ん中へと出てきてしまい、衛星とは別に飛んだ鉄球に巻き込まれてダウン。

  

 「拍子抜けだな」

 

 そう言いながら、生死確認のためターゲットへ近づく。

 死体の頭を見るとリアルに顔の刺青が入っている。仮面っぽくも見えたが、ガチの刺青。この頭の文字の刺青もすごいなぁ。入れるのに数日かかってそうだ。それに痛みも───。

 そんなことを思いながら首の脈を確認しようとしゃがんだ。

 

 

 刹那、意識外から襲い来る無数の銃音。

 

 

 「ーーーーなんてな」

 

 不測の事態、特に命をかけるような仕事。それに最後の最後に死ぬなんてことは、言うのは二回目だがーーーそんなことにはなりたくない。

 それに、何も今回の依頼の時だけじゃない。毎回騙し討ちには十分気をつけているし、師匠にも、何故かあのサングラスの女にも何回も言われた事で頭にこびりついている。どうやら、思ったより今回のターゲットは拍子抜けだったようだ。

 

 「マジェントーーーッ」

 「おうよッ!」

 

 

 そして突然隣の建物の2階から俺と発射された銃弾の間に割って入り込むマジェント。

 

 無敵の、気をつければ負傷することのない彼だからこそできる戦法。

 手を地面に貼り付けスタンドを被り、2階から落ちる衝撃とともに無数の銃弾の衝撃ごと地面へと受け流す。

 

 

 「ーーー20th century boy」

 「良いタイミングだーーー」

 

 なにもマジェントの能力は自分を守ると言うだけではない。真価を発揮させるためにはそうーーー彼を『盾』にする。

 カウンターによって投げられた鉄球は、敵の1人の腕に当たり筋肉反射を受けて、残りの数人を始末し最後は自分自身に銃口を向ける。

 

 「なんだてめえらあーーーッ」 

 

 それが彼らの遺言。最後の力を振り絞り銃口を俺に向けようとするが、悲しいかな。引き金をひいて発射された弾は、銃口の向きを変えることが出来ず引き金をひいた彼自身が撃ち抜かれた。

 

 「まっ、当然の結果だぜ」

 

 防御形態を解き、コートについた汚れを払い落とすマジェントがあたかも自分が手を下したように言っているが、まぁいい。

 確かに今回はマジェントがいなかったら人数的にキツかったと思うし、一応感謝の気持ちを述べておくべきだろう。

 

 「ーーーッ、おうよ!

 やっぱり俺たちは無敵のコンビだぜ!これからもよろしく頼むぜーーーー()()

 

 まさに物語の登場人物のように頭の中に疑問詞が浮かぶ。

 ・・・・・・一体こいつは何を言っているのだろうか。自分はもうこんな裏稼業からは足を洗うつもりで、あまつさえこいつ自身にも何回も伝えた覚えもある。しかも旦那なんて言われる筋合いはまったくないし、鼻の頭をかきながら若干照れてる感じを出してるのがヒジョーに気色悪い。

 咄嗟に頭をフル回転させて考えること数秒。よくごまかしで言う、もしまた道で会ったら酒を一緒に飲もうみたいな約束だと強引に頭に言い聞かせながら、散らばった衛星を集めながらそそくさと帰る準備をし始める。

 

 確かにこの『衛星鉄球』も強くていいんだが、手元に帰ってくることはないし付属の衛星が小さすぎるのもあって拾うのもとても手間がかかる。回転の技術で石ころを削ってもできるっちゃできるんだが、やはり強度の面で少し心許ないという問題がある。

 

 失くしたらやはり列車のレールとかの鉄を削って地道に作らなきゃ行けないのかと思うと、少し使う気が失せるというものだ。

 わざわざなにもない暗闇の中をマッチで照らしながらこんなちっちゃいのを探してるなんて、傍から見たら頭のおかしい奴にしか見えないだろう。

 

 目を凝らしながら、マッチを路端で左右に振ると光に反射してひときわ闇の中で輝いている玉が1つ。

 

 「ぐァッーーーち.........ちくしょおぉッ!痛てぇッ!このクソ野郎!!」

 

 続いてさらに残りを黙々と探していると、裏路地からマジェントの悲鳴のようなものと、軽い音が聞こえた。

 

 耳をうつそれが銃音に酷く似ていたこともあって、気になって頭を出して見てみると肩から血を流しているマジェントとともに、最初に殺したターゲットの死体“から”飛び出しているもう1人の死体。どうやらマジェントが手に持っているダブルバレルショットガンで殺したようだが、これはどういう状況なのだろうか。 

 

 「肩の肉が撃ち抜かれたッ!何だよーーーッ

  こいつ 急に体からもう1人出てきやがったチクショオォッ!」 

 

 初めに受けたマジェントの浮ついた印象に確かにどこか危ないと予感が告げてはいたが、こうも的中すると流石にマジェント本人の人格を疑うしかない。

 

 「なるほどーーーそういう能力だったか」

 「は...はやくっ はやく“回転”で腕の血を止めてくれよォーーー ! 」

 

 叫ぶマジェントの声で震える鼓膜を義手で守りながら、言う通りに回転で止血をしてやりオマケに骨で止まっている弾を取り出す。

 そして、視界の隅にはマジェントが殺したと思わしき死体が2つ。

 確かにしゃがみながら死体を覗き調べてみると、頭の刺青からまるで断面がくっついている飛び出している。なんか、こうトカゲが伸びたかのようにダラーンと。

 試しに足の角でつついてみるが、元から命がなかったように死体は何も動く事はなかった。

 立ち上がり死体を数える。ひーふーみー……同じような格好の男が『10』人。

 

 流石に、これで例の『体から別の人物が何人も飛び出してくる男』とやらは裏の歴史から名が消えるだろうし、これだけ死んだらさすがに体の『ストック』ももう出てこないだろう。拾い終わった鉄球を布で磨き、腰のホルダーに入れてボタンを閉じる。

 

 すると再び視界に入る、だらんと折り重なったターゲットの死体達。……何か少し気持ち悪いからやはりマッチで死体燃やしておいたほうがいいだろうか。

 しかしやはりさすがに最後までかっこよくいくはずもなく、うまい事マッチに火がつかない。

 何してんだ、とマジェントが片腕を抑えながら話す声が聞こえると、火がつかない恥ずかしさを消すように足で死体を蹴り裏路地へと入れた。後の掃除は、サングラスの女がするだろう。

 

 それにしてもーーー良かった。思わずといったふうな感じで心の中に安堵が浮かぶ。

 

 汚れ仕事を行う人間の結末は良くも悪くも決まって最後は虚しいもので、生きて引退することさえ珍しいと言われている。それこそ、それまで人の命を幾つも奪ってきたのだから当然の報いといえばそうなのだが、少し悲しい気もする。だから、生きたまま終えることができただけ、まだ幸せな方なのかもしれない。といっても、俺も腕一本ないことに変わりはないが。

 

 

 だが、ようやく、これでようやく『しがらみ』から解放されて、“あの場所”へ帰ることができる。

 それが、俺がこの仕事を辞めたいと考えていた理由。その根幹を改めて認識する事ができた。

 

 誰との繋がりがなかった俺を生かしてくれたあそこが、俺が愛情を唯一感じ取れるかもしれないあの場所へ。そこが、自分が生きていかなければならない、俺の帰る場所だ。

 

 「ちょッ、まってくれよ!旦那ァッ!!」

 

 背後でなにやらマジェントが叫んでるが、最早いちいち反応するのも面倒くさい。

 片腕を抑えながらこちらに歩いてくるマジェントに、扱い慣れた義手のほうで軽く手を振って、足早に振り切る。 

 

 「旦那ッ!待ってくれッ!!待ってくれよォォオーーー」

  

 多分、というか確定だがこれで彼と会うことは“一生”ないだろう。

 そう思いながら月を見上げ、これから村に帰ったあとの事で胸が一杯になっていた。

 

 だからこそ、その数日後に会う事になるとはーーーその時の自分には想像もつかなかった。

 

 






 本体:刺青の入った“11人”の男達
 能力名: TATOO YOU!
 能力説明:体表に描かれた刺青の部分に自由に移動する事ができる。刺青に飛び移った状態では攻撃を喰らう事はなく、代わりに飛び移った先の人間がダメージを受ける。

 【破壊力 - なし / スピード - E / 射程距離 - C / 持続力 - B / 精密動作性 - E / 成長性 - E】

 
 
 
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