いつも二番目の自分   作:オランジーナ33

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お読み頂きありがとうございます。今回は導入みたいなものなので、本編は2話からです。よろしくお願いします。


一話

ものすごく息が苦しい。心臓は限界を訴えるように荒れ狂い、肺は酸素を求めて限界まで呼吸を求める。それでも止まらない。止まらせてくれない。

 

「…4、3、2、1、はい」

 

やっと訪れたと思った小休止もありえない速さで終わりを告げる。普段なら十秒あれば息を整えたりできるが、極限状態の今ではそれもままならない。手が重い。パンパンだ。足も上がらない。思考もぼやけてきた。

 

「鬼コーチが…」

 

声にならない声でそう呟いて、早く終われと思いながら考えるのをやめた。

 

 

 

俺は新橋奏太。現在高校二年生。受験の時に少し背伸びして、県内で二番目の公立高校に入学することに成功した。と言ってもなにぶん田舎者で偏差値は高いと比べるとさほど高くはないが家族は喜んだし自分的には満足いく結果ではあった。ちなみに母の母校であったことも喜びの一助となったようだ。高校では特に高校デビューなどもしなかったためわりかし普通に過ごしている。昼休みには学食に行くし、休み時間は適当に駄弁ったりする。かといってリア充てきにワイワイ騒ぐというよりはおしゃべりするという感じだ。イケてるいけてないでいうとどちらだろうか。あまりクラスの女子と話さないというところを見るといけてない部類なのかもしれない。まぁ、クラスの人とあまり絡めないのには理由があったりするのだが…クラス会出れてないし…

いけてるいけてないは置いといてそれなりに楽しく高校生活は送っている。強いて言えば部活動をしていないためたまに肩身の狭い思いをするくらいだ。

 

「次、生物だぞ」

 

丸めたノートで頭を小突かれる。ぼーっとしていたらもう移動しないと次の授業に間に合うか間に合わないかの時間になっていた。この小突いてきたやつは堂島公平同じ中学出身で一年の時から同じクラスだ。中学の時はほとんど絡みがなかったが同じ中学から来た男子が俺らだけということもありよくつるんでいる。

ていうかそれ、俺のノートなんだけど。まるめるなよ。

 

「それ俺のノートなんだけど」

 

思っただけだったはずがつい口から漏れていたようだ。

 

「あ、わり。まあ、読めれば問題ないっしょ。」

 

「問題あるんだよなぁ。まぁいいけどさ。」

 

あいかわらずがさつなやつではあるが時間ギリギリなのにおいていかないあたりいいやつではある。たまにムカつくけど。こいつは俗に言う地頭がいいやつなのだ。ふつーに宿題やってこないくせに模試などでは大体上位にいる。その度に職員室に呼び出されているが何だかんだで順位はいいのでそこまで厳しいお咎めはないようだ。ただし、所属してるバスケ部の顧問にはしっかりと報告がいっているらしくベンチから抜け出せないでいる。ざまあみろ。

 

「今日の小テスト何が出るんだろうな」

 

「さあな。まぁ、特にペナルティもないしテキトーに流せばいいだろ。」

 

ふたりして小走りで移動しながら生物室へと急ぎながら公平からの他愛もない話に返事をする。二年になってから理系の選択科目は、物理選択者と生物選択者で別れて行う。男子が多い理系では、物理選択者が多く必然的に生物選択者が移動する羽目になる。そこまで遠いわけではないが移動教室が重なると大変ではあるから物理選択者が羨ましい時はある。自分は物理基礎で五十点より上を取ったことがないため物理を選ぶのは論外だが。(一年では物理基礎、生物基礎どちらもやる。どちらもやった上で好きな方を選ばせるというこの学校の方針なのだ。)

 

「お前は良いよなー。一年の時からずっと順位一桁だし。」

 

公平が言う。

 

「別に、生物だけできただけだよ。総合じゃお前に勝てないし。」

 

事実、俺は生物以外は微妙である。中学の時に自分は周りよりできると思っていた数学や社会は高校に入学してから井の中の蛙だと思い知った。

 

「でも、担任の科目いいと心象いいだろ?」

 

公平が内申点あがんねーかなーとぼやきながらそんなことをいう。お前は宿題をやって来ないからそれ以前の問題だ。

公平の言った通り生物の教科担任は俺たちの担任でもある。ちなみに一年の時も担任だった。一学年に8クラスあるのにどんな偶然だよとも思ったが、1/512の確率だそんなこともある。あるよね?

 

「あの担任がそんなこと気にするかよ」

 

「それもそうだ」

 

俺たちの中での担任の評価はなかなかにひどいものだ。日頃の行いなので仕方ない。どこかで『何言ってんの?まじで?』と聞こえた気がしたが幻聴だろう。

適当に話をしていたら生物室に着いた。時間ギリギリ。セーフそう思いながら生物室に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から言うと急ぐ必要はなかった。俺たちの担任兼教科担任は急な用事とやらで自習課題だけ置いてどこかへ行ってしまったらしい。なにかと抜けている人である。また何かやらかしたのだろう。

見張る人もいないため教室内には弛緩した空気が流れておしゃべりも聞こえてくる。一応県内二位の進学校のため、自習課題にまじめに取り組む人もいるが二年の春ということもあり、だらけている人が大半だった。俺はもともと生物が好きだし、すぐに終わりそうなため課題に目を通す。

 

「あ、終わったら貸して?」

 

隣で公平が持参していたらしい本を読みながら言った。写す気満々である。これで生物も成績がいいのだからイラっとくる。イラッときたから痛いタイプのデコピンをした。公平はなんだよ!と言っているが気にしない。写させてやるのだそれなりの対価が必要なのである。世の常は等価交換。鋼の錬○術師で勉強できる常識である。

余談だが、生物の授業は担任の意向で、成績の良い順に好きな席を選べる。俺の前回の順位は二位。選びたい放題である。視力の関係とポリシーで一番前にしか座らないからあまり関係ないのだが。ちなみに公平は五位。上位者たちは好き好んで俺の隣になど座らないため公平が俺の隣に落ち着いた。前回三位の女の子の隣を選んびサムズアップしてよろしくなとか言っていたがちょっと引かれていたので心に傷を負ったらしく今回はおとなしく俺の隣にいる。強く生きろよ。俺から見てもあそこまで露骨に選ぶのはキモいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういやさー」

 

読書もひと段落したのか公平が話しかけてきた。読書家であるこいつが読書中に話しかけてくることは珍しい。

 

「んー」

 

課題とにらめっこしているため生返事を返す。

 

「次の大会いつ?」

 

公平からの質問に課題を一回中断していつだったか思い出す。

 

「6月の第1土日だな。」

 

「場所は?」

 

「鳥取」

 

「お土産よろしく。」

 

「覚えてたらな」

 

いつもの受け答えをする。ちなみに毎回きちんと買ってきてはいるのだがネタに走ることが多いためその土地のきちんとしたお土産を公平がもらったことは片手でで数えられるほどしかない。

 

「今回は公欠取れたのか?」

 

「なんとかなー。移動日も入れるとどうしても前後の日は休まないといけないから助かるわ」

 

「あの校長頭固いからなー」

 

「まったくだ」

 

ちなみに、この時教科担任は俺の公欠を取るために東奔西走していたらしい。非常にありがたく、感謝もしているのだが、後日に言われた、『疲れたわーまじで。あ、公欠とれたの俺のおかげだからお土産わかってるよな?まじで』で台無しだった。相変わらず大人らしくない先生である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1日の終わりを告げるチャイムが鳴る。今日も一日の授業が全て終了し、周りの生徒たちは部活やら駅前に買い物やらと青春エネルギーを撒き散らしながら帰る準備をしている。公平も例外ではなく部活仲間たちとじゃれあいながら走っていった。こういう時に部活生が羨ましい。部活をしていないとどこか入りづらい空気を感じるのだ。

 

「あ、また明日なー」

 

と、思うと顔だけ扉から出して別れの挨拶をする。

 

「おう、また明日」

 

律儀なやつだと思いながら答える。何だかんだで良いやつなのだ。宿題出さないけど。

 

俺もよっこらしょと腰をあげる。俺からしたらここからが一日の本番のようなものだ。学生が何を生意気なと思うかもしれないがそう思えてしまえるぐらい今からのことが大変なのでしょうがない。

俺は青春エネルギーを撒き散らすことなく直帰組として駐輪場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、行きますかね」

 

家に着いた俺は着替えて荷物を持ち忘れ物がないかチェックしてから玄関に立つ。親は仕事のため愛猫のアリスだけがお見送りだ。かわいい。デブだけど

 

「良い子で待ってろよ」

 

ひと撫ですると愛猫はゴロニャーンと鳴いてその場で横になった。可愛い。デブだけど。

 

家を出た俺は最寄りのバス停へ。生憎地下鉄のない田舎のためバスしか移動手段がないのだ。バスで1時間、そこから徒歩20分。前にバス代をケチってチャリで行っていた時期もあったが帰りに死にそうな思いをするため断念した。公平にそのことを言うと『遠すぎだろ』と笑われた。おのれ部活動生。俺も学校で練習したい。

 

バスに揺られて1時間。そこから歩いて20分。ようやく目的地の前に来た。今は春先でまだ大丈夫だが、夏場のことを考えると憂鬱になる。原付にでも乗ろうか、でも校則がなーなどと考えながら入口の扉をくぐった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちはー」

 

店番の成(じょう)さんに挨拶する。ここの店長のお父さんだ。見た目は40歳ぐらいなのだが実年齢は60近いらしい。超元気な人だ。

 

「おー、ケイゴ。もう来てるぞ。」

 

「相変わらず早いですねーあいつ。」

 

成さんと喋りながらいつもすると決めているストレッチと軽めの運動をする。以前に肩周りを少し痛めて以来欠かさずしていることだ。自分の体はまず自分でケアしろ。俺たちの鬼コーチの言葉であり、コーチたちの方針だ。俺もコーチたちがいない時でもしっかりとケアできるためこの方針に賛成している。ストレッチや運動関係は意見が色々あり、コーチによっては合う合わないがあるため、自分にあった意見を持つコーチにつけたことはラッキーであった。

 

「でも、あの人練習中は人が変わるんだよな…」

 

成さんと話しながらそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルーティーンのストレッチと運動も終えていよいよ準備完了。練習場へ足を踏み入れる。

 

室内であるための熱気と独特のチョークの匂い。そして、ガンバっと聞こえてくる常連さんたちの掛け声。

 

そう、ここは“ボリダリング施設”。タイタンボルダーパーク。

 

「今日も頑張りますかね。」

 

そう言って壁でのウォーミングアップを始めた。

 

 




続きます
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