屍人フレンズ   作:ドラ麦茶

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6・かるわりちほー

 なぽりん屍人と双璧をなす異界最強屍人の一人・ウ○コ屍人をなんとか振り切ったあたしたちは、田堀地区からさらに南下し、刈割地区へとやって来た。なだらかな丘の斜面に棚田が広がる、田舎特有ののどかな風景だ。

 

「さて、現世へ戻る旅・西回りコースも、いよいよ後半に差し掛かりました。ここは刈割地区です。羽生蛇村の中でも、特に風光明媚な所なんですよ」安野さんは、空に向かって両手を広げた。「ご覧ください。空一面を覆うように、七色の光のカーテンがなびいています。綺麗ですね」

 

 あたしは空を見上げた。間もなく陽が昇る時刻。かなり白み始めて薄明るいくらいで、光のカーテンなど存在しない。

 

「いえ、何も見えません」あたしは正直に答えた。

 

 安野さんは周囲に手のひらを向ける。「ご覧ください。あたしたちの周りを、蝶のようなクリオネのような天使のような蛾のような生き物が、キラキラ輝く光の粉を振りまいて飛んでいます。なんと幻想的な光景でしょう」

 

 あたしは周囲を見回すが、そんなモノはどこにもいない。「ですから、何も見えませんってば」

 

「そうですか。見えませんか。それは残念です。ま、見えたらえらいことなんですけどね」

 

「はい?」

 

「この先、そういった光景が見えるようなことがあれば、すぐに言ってください。まあ、見えた時点ですでに手遅れですが」

 

「さっきから、なにを言ってるんでしょうか?」

 

「いえ、気にしないでください。宮崎さんなら、まず大丈夫でしょう。さて、この地区の名所は、なんと言っても教会です。と言っても、この時間はまだ閉鎖されてるので、入ることはできません。なので、申し訳ありませんがこの場からの案内になります。丘の上をご覧ください」

 

 言われた通り見てみると、丘の頂上にクラシックな雰囲気の教会が見えた。

 

「あれが、眞魚教の総本山・不入谷(いらずだに)教会です。かの有名な『お母さん開けて』のテレビCMが撮影された場所ですね」

 

「はい? CMですか?」

 

「放送当時、あまりに怖すぎるため苦情が殺到し、放送中止になったというのは有名な話です。しかし、寄せられた苦情というのは、実はたった七件しかなく、話題作りのために中止にしたのではないか、という意見も出ています」

 

「この異界パークのことをテレビで宣伝しているということでしょうか?」

 

「もちろんです。集客のために必要なことですから」

 

「こんな危険な場所に人を呼ぶのはやめてください」

 

「まあそう言わずに。あたしだって、一人でいるのは寂しいんですから。では、次に行きましょう」

 

 棚田が広がる丘を右手側に見ながら、川沿いの道を南に向かって歩く。しばらく進むと、身体がビクンと震え、棚田の上からあたしたち二人を見下ろす視点が見えた。屍人に見つかった合図だ。丘の方を見ると、棚田の上に屍人が立ってこちらを見ていた。二足歩行をしているので半屍人化と思ったら、その顔に人間の面影はほとんど無い。顔中いたるところにフジツボのようなブツブツが張り付いており、かろうじて口の周りだけ人間っぽさを残している。なんだ? あの気持ちの悪い屍人は。海水浴中、転んだひょうしにフジツボでケガをして卵が体内に入り寄生されたのだろうか?

 

「あれは、頭脳屍人さんです」安野さんが言った。「頭脳屍人と書いて、ブレインと読みます。半屍人からさらに屍人化が進んだ形態のひとつで、その名の通り、屍人さんの中ではかなり頭が良いヤツです。他の屍人さんのように目についた人間を片っ端から襲うのではなく、弱い人間を狙ったり、仲間を集めて集団で襲ったりといった頭脳プレーを得意としています。また、屍人語だけでなく人間の言葉が話せるのも特徴ですね。どういった条件であの形態になるのかはまだ判っていませんが、生前に学のあった人がなっているようにも思います。進化した屍人さんの中では比較的人の姿を保っている方ですが、海洋生物が張り付いたような顔になるので、他の屍人さんより嫌悪感を抱く人も少なくありません」

 

「ナルホド。海洋生物ですか。確かに、あの屍人の顔はフジツボに覆われているみたいですね」

 

「はい。フジツボだけでなく、額からタコの足のような物がいくつも垂れ下がったり、顔に二匹の巨大ナマコがくっついたような姿の屍人さんもいます」

 

 あたしはその姿を想像してみる。ウネウネ動く数本のタコ足、ぬめぬめと光り輝くナマコ。あまりに気持ち悪い姿に肌が粟立つ思いだ。

 

 あたしは両腕の肌をさすった。「……なんか、あんまりお近づきになりたくないですねぇ」

 

「ご安心ください。頭脳屍人さんは頭が良い分、力は弱くなっていることが多く、人間が近づくと逃げて行くことがほとんどです。その代わり、多くの部下を従えているのが最大の特徴と言えるでしょう。犬屍人さん、蜘蛛屍人さん、羽根屍人さんは、知能が著しく低下しているので、ほとんどの者が頭脳屍人によって統括されています。故に、頭脳屍人を倒すと周囲の犬屍人たちも行動不能になるんです」

 

「ナルホド。中ボスみたいな存在ですね」

 

「もうひとつ大きな特徴として、奇行種が多いのが挙げられます。通常、屍人さんは村で生活し、生きている人間を見たら仲間にするために襲い掛かって来るんですが、頭脳屍人さんの中にはそう言った屍人のコミュニティーに参加せず、特定の人間を執拗に追いかけたりする者がいるんです。主に、生前の恋人とか、家族とか、特別目をかけていた人とかを追いかけます。そういった奇行種は、他の人間には目もくれない場合が多いですね。ただし、その行動を邪魔したりすると、ブチ切れて襲ってきます。非常に執念深いため、攻撃しても全然怯まなかったり、全然ダメージを受けなかったりするので注意してください」

 

 棚田の上の頭脳屍人はしばらくこちらを見ていたが、やがて顔を背け、警戒するように周囲を見回し始めた。もう、あたしたちには目もくれない。

 

「さて、行きましょうか」

 

 安野さんが歩き始めたので、あたしも後に続く。

 

 そして、一〇分ほど歩いたところで。

 

「お疲れ様でした。ここがゴールです」安野さんが言った。

 

「え? もうゴールですか?」驚くあたし。ずいぶん早いゴールだ。道中は頭脳屍人の説明だけだった。川や用水路を渡るとき橋代わりの軽トラックや倒木を通ったくらいで、特にイベントらしきものは無かった。いや、別にイベントがやりたいってワケじゃないんだけど。

 

「この刈割地区は素通りするだけです。特にこれと言ったイベントはありません。これは手抜きとかじゃなく、この地区は、ホントにイベントが無いんですよ。イベントが無いのがイベントと言いますか……しいて言えば、屍人さんに見つかっても襲われないのがこの地区のイベントです。でも、今の異界ではどの地区でも人間を襲わないようにしているので、どうしてもイベント感が無くなってしまうんです」

 

「そうなんですか。まあ、早く目的地に着くのならその方がいいんですが、少し物足りないですね」

 

「そうですか。当パークをお楽しみいただけているようで、何よりです。そんな宮崎さんのためなら特別にイベントを用意しても良いんですが……でも、困りましたね。ツチノコを見つけるイベントはまだ本物が用意できてませんし、石碑を倒してないから石灯篭に火を灯すイベントもできないし……あ、そうだ。給油車に火を点けて自爆するっていうイベントならすぐ用意できますけど、チャレンジしてみますか」

 

「結構です。早く行きましょう」

 

「そうですか。では行きましょう。まあ、安心してください。次の地区は、かなりスリリングなイベントを用意しています」

 

「頼みますよ、ホントに」

 

 と、いうわけで、あたしたちは刈割地区を後にし、次の目的地・波羅宿地区へ向かった。

 

 

 

 

 

 

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