Fate/Apocrypha ~星に願いを~ 作:風鈴火山
ロンドン。
魔術協会の総本山『時計塔』
古株の貴族達が踏ん反り返り、新進気鋭の若き魔術師達が切磋琢磨する学び舎。
その廊下を悠々と歩く男が居た。
「入りますぜ、ベルフェバンの爺さん」
「ヒョヒョヒョ。久しいの、“
ドアの向こうで待っていたのは特徴的な笑い声を響かせる眼鏡の老人だ。
年季の入った椅子をクルリと回して老人はこちらに振り返った。
「猟犬は、どうにも好みじゃねえ。“猛犬”がいいな」
軽口を叩くケルに対し時計塔“召喚科”学部長ロッコ・ベルフェバンは意地の悪い笑みを浮かべている。
「トゥリファスの一件は聞いているな?」
「ああ、もちろんだ。ユグドミレニアの鎮圧に向かった魔術師が全滅しちまったんだろ?」
ベルフェバンは重々しく頷いた。
唯一生還した、というよりかは生還させられた魔術師が持たされていた、紅い宝石から映し出された映像が脳裏に浮かぶ。
───────────────
魔術協会より派遣された魔術師達はミレニア城塞を目前にしていた。
誰もが、戦闘に特化した殺しのプロ達。次々と結界を突破して進行していく。
──他愛ないな。
慢心を隠さず一人の男がそう呟いた。
その男が手をかざしてまた一つの結界を破ろうとしたその時──
閃光が走り、男とその周りを一瞬で消し去った。
地面に窪みができた光景を前に傍に居た魔術師達も狼狽する。
混乱しながら、誰かが上を見上げようとした瞬間だった。
「その汚らわしい眼で妾を辱めようとするか、鼠が」
氷のように冷たい声が響き渡った。
魔術師達が反応し皆一様に声の方向を見ようとするがその視界は瞬時に茨で埋め尽くされた。
その様に圧倒的な力量差を感じ恐慌状態に陥った魔術師達は虚空に浮かぶ無数の魔方陣に既に包囲されていた。
「泥でも啜っておるが相応の鼠風情が、この美貌を目に入れようなど思い上がったものよ」
爆音が轟き、地面には何かが焼け焦げた跡だけが残っていた。
───────────────
「
ベルフェバンは告げた。
それに対しケルは不信感を隠さずに言う。
「おいおい、サーヴァントと戦えってんならお断りだぜ? 無駄死には一番嫌いなやつだ」
「命は惜しまぬと言いながら勝ち目がないのには行かない。
相変わらずだの。まあ安心しろ。
──お主にはサーヴァントを召喚しマスターとして戦ってほしいのだ」
「はぁ?」
間抜けな声をあげたケルに対しベルフェバンはニタリとした笑みを崩さない。
「大聖杯は状況に応じて聖杯戦争の補助を行うそうでな。全サーヴァントが一つの勢力に統一された場合対抗するサーヴァントの枠を用意するシステムも存在していた」
「それをその生き残りが起動させてたってことか」
ベルフェバンは頷き、ケルは思案する様子だ。
そして何かを決めたように口を開いた。
「幾つか質問いいか?」
「ああ」
「一つ。サーヴァントを召喚する触媒」
「もちろん、こちらで用意してある」
そう言ってベルフェバンはケースを取り出した。
開かれたケースの中に入っていたのは鏃が赤茶けた矢だった。
「なんだこりゃ?」
「とある英雄が猿を射殺した矢だ」
「それって──」
ベルフェバンは何も答えない。
それこそがその矢の正体を如実に告げていた。
「……二つ。こっちのマスター」
「我々が派遣したのはこの五人だ」
「──なるほど。こいつらなら殺し合いしたり背中預けたりの仲だ。問題ねぇ」
「そして聖堂教会から派遣された監督官兼マスターだ」
「この規格外の戦いに監督官とかいるのか?」
ケルがごくごく自然な疑問を投げかける。
それに対しベルフェバンは
「なるほどね……ちなみにだが、勝ったら聖杯はどうするんだ?」
「勝利の後、我々が確保する。無論、根源に容易く辿り着く代物を前に魔術師が冷静でいられるかは保障せんがな」
魔術協会も確保の手配を進めているだろう。
しかし、もしそれをかい潜ることができたのなら。
つまりはどうなろうが自己責任なのだ。
その全てを理解したケルの瞳は参戦の意思を無言で語っていた。
「OK。その依頼受けた。ただし、報酬は一部前払いで、2000万ほど頂きたい」
「用意しよう。契約成立だな」
用が済むと見るや、彼はそそくさと部屋を出て行った。
☆
ルーマニア、首都ブカレスト。
その外れの空き家にケルは居た。
「
彼はルーン文字を家の床に刻んだ。
それによって張られた結界に満足しながらケルは手慣れた様子で魔方陣を描きはじめた。
ケル・トライフ。
彼は、アイルランドの長い歴史を誇る魔術師の家系に生まれて育ったルーン魔術の使い手だ。
常に文字を刻むことで発動するルーン魔術を扱う以上魔方陣を描くことも難しくない。
魔方陣を描き終えたケルは持って来ていたケースから矢を取り出した。
それを魔方陣の傍に置くと、詠唱を開始した。
「素に銀と鉄。礎に契約の大公。
──願いを託すは“地”──」
ケルは自信を持って呪文を紡いだ。
「──抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」
魔方陣より現れる閃光と暴風に思わず目を閉じた。
それが収まったのを見計らってはケル目を見開いた。
彼が呼び寄せた
「サーヴァント、セイバー。召喚に応じ参上した。
──問おう。汝が、余のマスターか」
気高き赤毛の少年だった。
ルーン魔術とかは『ランサーとバゼットのルーン魔術講座』の内容を参考にしています。
若干独自解釈もあるかもしれませんが。