Fate/Apocrypha ~星に願いを~ 作:風鈴火山
英霊召喚を終えて静まり返った玉座の間。
魔術師達は誰もが口を開けずにいた。
そんな空気を砂で出来た城を崩すように打ち壊したのはサーヴァント、桜色の髪の少年だ。
「はぁ~い。こちらに注目!」
第一声はなかなか緊張感に欠けるものだった。
彼はクルクルと軽快に回りながら他のサーヴァント達を見回す。
ふと玉座に腰掛ける
「え~~、皆知ってる顔知らぬ顔あるとは思いますが~。
──自己紹介しようか!」
少年は今思いついたかのようにあっけらかんと告げた。
彼はまずは自分からと、聞かれてもいないことを語る。
「ボクはライダー! 真名はカービィさ! よろしくね」
カービィとは、“アーサー王伝説”や“イリアス”を筆頭とするギリシャ神話等に並んでメジャーな伝説“春風物語”の主人公である。
平和な国プププランドに訪れた旅人。
様々な敵を自らの特異な能力で打ち倒し幾たびも平和を守った勇者である。
彼の人柄を代表する逸話はこれだろう。
──街の人間全員が三日かける料理を一人で、たった一日で食らいつくす大食らい。
カービィは自分の自己紹介は終わったのだから、当然とばかりに標的を捜す。
周りの視線などお構いなしに、手始めにと皮の軽鎧を纏う青年に歩み寄った。
彼にはランサーと思しき青年も尊敬、歓喜を帯びた視線を送っている。
「キミの
「──サーヴァント・アーチャー。我が真名はケイローンです」
問いかけたカービィにアーチャー──ケイローンは穏やかに答えた。
ケイローン。
大地と農耕の神クロノスと女神ピュリラーを両親に持つ、半人半馬のケンタウロス族が誇る大賢者。
ヘラクレスやアキレウス、イアソンをはじめ数々の英雄達を指導した人物。
しかし、ある時ケンタウロスとヘラクレスの争いに巻き込まれてヒュドラの毒矢を受ける。
彼はその地獄の苦しみに堪えられず、持っていた不死性を捨てることでようやく安楽の死を得られたという。
「──そっか。よろしくね、ケイローン」
「ライダー。真名ではなくクラスで呼びかけたまえ」
ダーニックがそう言ってカービィを窘めた。
真名はサーヴァントの正体。そのまま弱点を知らせることに繋がるからだ。
たとえばケイローンは死因となったヒュドラの毒は天敵であるし、カービィも死因ではないが弱点として毛虫が存在する。
カービィのものは間抜けな話だが、そんなものにでも一瞬気をとられれば英雄同士の戦いでは命取りとなる。
真名は秘匿するのが聖杯戦争の定石なのだ。
しかしカービィは軽く謝るのみであまり懲りた様子ではない。
そんな彼は続いて若草色の髪の青年に駆け寄った。
「キミの真名はなにかな?」
「──待て、ランサー。お前は喋るな」
カービィに答えようとした青年をゴルドが手で制した。が──
「我が真名はアキレウス! よろしく頼むぜ、ライダー」
「なっ」
ランサー──アキレウスは構わず己の真名を告げた。
後ろではゴルドが顔を引き攣らせている。
アキレウス。
ヘラクレスと双璧をなすギリシャ神話の大英雄。
叙事詩『イリアス』にてトロイア戦争に参戦。
“兜輝く将軍”ヘクトールに翻弄されながらも、最終的には劣勢だったアカイアの戦況を覆した。
しかし彼はヘクトールに友を殺されたことにより激昂し、討ち取った彼を戦車で引きずり回す暴挙に出る。
その振る舞いに激怒したアポロンの加護を受けたパリスによって弱点である踵と心臓を射抜かれて疾風のような彼の人生は幕を閉じる。
つまり、サーヴァントになった彼も踵は弱点なのだ。
そして真名が割れればそれはすぐに発覚することも確実。
そんなある意味心臓を晒すようなアキレウスの行為にゴルドは拳を握りしめて震えている。
「ランサーッ」
「あ~~。まあ待てよマスター」
詰め寄るゴルドにアキレウスはまあまあと声をかける。
「アーチャーはケイローン。俺の師匠だぜ? どうせ真名は分かることだろう」
「そもそも真名開示は申し合わせていたことじゃありませんの?」
アキレウスの言うことは最もであるし、スージーのからかうような言葉と視線にゴルドは歯ぎしりしながらも押し黙った。
「うん。よろしくね、ランサー」
「応。そして先生、アンタも此処に呼ばれるとはな」
「貴方と肩を並べられるとは、聖杯戦争とは奇妙なものですね」
ケイローンとアキレウスが話しているのを後にして、カービィは白いドレスの少女に近づいていった。
「キミの名前は?」
「……ウゥ……ァ…」
唸り声をこぼす彼女にカービィは素早く彼女のクラスを察した。
彼女は『
バーサーカーは狂化によってステータスを上昇させるが、引き換えに理性を失うクラスだ。
言語能力を失うのも仕方ないのだろう。
「ねぇそこのおじさん。この
なのでカービィは傍にいた髭を蓄えた男──ハルトマンに声をかけた。
「………フランケンシュタイン」
ハルトマンは仏頂面で彼女の真名を告げた。
フランケンシュタイン。
正確にはヴィクター・フランケンシュタインがつくった怪物。
死体をつなぎ合わせてつくったそれは醜い怪物であったとフランケンシュタインは拒絶し、逃亡する。
孤独な怪物は伴侶となるもう一人の人造人間をつくってほしいと博士に願うもそれさえ拒まれてしまう。
最期には狂死した博士を見届けながら怪物もまた命を絶つことになる。
「そっか。よろしくね、フランケンシュタイン……は長いな。“フラン”でいっか」
「おいライダー、真名」
ボソリと言うカウレスにゴメンゴメンと軽く謝るカービィ。
当のフランケンシュタインは不満げだ。
とはいえ、ここでこのまま詰め寄っても仕方がないのがわかっているのか彼女も大人しくなった。
最後にカービィが見たのは、白銀の騎士甲冑に身を包むサーヴァント。
十中八九セイバーだろう。
「じゃあ、キミはセイバーかな? キミの真名は──」
「フン」
セイバーと思わしいサーヴァントは鼻で笑うと兜が機械的な音を立てて分解されていった。
スージーはその光景に目を少々輝かせている。
そして兜の中から現れたのは勝ち気な表情を浮かべる少女の顔だった。
「我が名はモードレッド。騎士王アーサー・ペンドラゴンの唯一にして正当なる後継者」
凛々しい顔に似合わぬ獰猛な笑みを浮かべる彼女にもカービィはやはり朗らかに接する。
「よろしくね、セイバー」
しかし、セイバー──モードレッドはカービィの差し出した手を華麗にかわして去っていってしまった。
「ありゃ………」
「まぁよい。戦までまだ時はある。各々自由にしておくがよい」
それまで見守っていた
☆
「──それで、お前はセイバー、真名はラーマで間違いないんだな?」
ケルはそう言って目の前の
「無論だ。汝こそ、余のマスターで相違ないな」
「たりめぇだ」
ラーマ。
インドの二大叙事詩の片割れ“ラーマーヤナ”の主人公。
彼は魔王ラーヴァナに拐かされた妻シータを救うべく猿ハヌマーンとその軍勢と共に戦い抜いた。
戦いの果て、見事ラーヴァナを打倒しシータを取り戻したラーマであったが、彼は致命的な失策を犯していた。
味方の猿スグリーバを救うため、敵の猿バーリをだまし討ちにしたのだ。
これを怒ったバーリの妻の呪いはラーマとシータを永遠に引き離すことになってしまった。
少年の姿に似合わぬ尊大な態度をとるセイバーはどこか背伸びをしているような印象だ。
しかし彼はサーヴァント。
並の魔術師など吹いて飛ばしてしまうような実力の英雄だ。
侮るようなことはもとよりするつもりはなかった。
だから──
「ほれ」
「?」
ケルは赤い厚紙に包まれたそれを彼に差し出した。
「なんだこれは?」
「チョコってやつだ。
食ってみろ、と召喚早々に促すマスターの雰囲気にセイバーは恐る恐る口をつけた。
パキリ、と音が鳴って、欠片は口の中で甘みと共に溶けていった。
「そいつはまあ、挨拶みたいなもんだ。仲良くやっていこうぜ」
「………ああ」
彼を召喚する触媒となった、妻と引き裂かれる切っ掛けの象徴は新たな縁をもたらすことになる。
ランサーにはヴラド公の代わりにアキレウスさんに来ていただきました。
師弟コンビですよやったー!
…ちゃんと釣り合いは持たせますとも。
カービィ側は独自設定という名の妄想・捏造状態なのである意味オリキャラじみてるかもしれない(おせぇよ)
オリキャラは彼だけですので頑張ります。
どうしてもモーさん以外と組む獅子劫さん思いつかなかったんや……