Fate/Apocrypha ~星に願いを~ 作:風鈴火山
彼は皆が困りきっていた我が儘大王を成敗した。
人々は感謝し彼の家を作った。
彼は楽園の一員となった。
それから彼は──
悪夢を封じた。
狂気に堕ちた道化師を倒した。
虹を奪った闇を払った。
絵画の魔女を倒した。
盗賊達と宝を取り合った。
美しき女王を滅した。
そして、
“星の侵略者”達と戦い、彼の物語は──
ルーマニアの都市、シギショアラ。
中世の町並みを残す趣深い通りを歩く男の姿があった。
深緑を基調としたスーツを着るケルは“地”のマスターの集合地であるシギショアラの教会を目指していた。
天蓋付きの階段を上った、その先には一人の少年が佇んでいた。
「はじめまして。貴方が、ケル・トライフさんですね?」
「そういうお前さんは、教会から派遣されたっていうシロウ神父であってるかね?」
頷いた少年──シロウは微笑みながらケルの先を歩きゆっくりと教会の扉に手をかけた。
中は清潔にされ、厳かな雰囲気が漂っていた。
その内部を見渡してケルは懐疑的な表情に変わる。
「どうしましたか?」
「他のマスターはもう来てるって話だったが」
「彼らなら既に行動を開始していますよ」
返答を聞いてもケルの目は疑念を宿している。
それに気づいているのかいないのか、シロウは彼を小部屋に案内していく。
《サーヴァントはいるか、セイバー?》
そう念話で自分のサーヴァントに問いを投げた。
《いや、わからん。……だが、アサシンが潜んでいるやもしれぬ。実体化させてくれ、マスター》
「お連れのサーヴァントは実体化させないのですか?」
セイバーとシロウの二人からそう言われて、ケルはああ、ぶっきらぼうに答えた。
未熟ながらも確かな王の覇気を持つ赤毛の少年が虚空より姿を現した。
少年をシロウはなにやら品定めをするような目で見つめていた。
「…どうした」
「いえ、なんでもありません」
首を横に振ってそう答えたシロウ。
それではこちらも、と彼が己のサーヴァントの名を呼んだ。
現れたのは、暗闇のようなドレスを纏う退廃的な美女だった。
「我は“地”のキャスター。よろしく頼むぞ、ケルとやら」
──セイバー殿もな。
そう妖艶な表情で言うキャスター。
双方が顔合わせ、簡単な自己紹介を終えてシロウは本題を切り出した。
「さて、早速ですが現状報告を。ユグドミレニア側は既に七騎のサーヴァントを召喚。アサシンを除く六騎はミレニア城塞に待機しています」
「なるほどな。真名が割れた者は」
「残念ながら」
真名が判明していないのは仕方がないことだろう。
むしろ戦いさえまだ始まっていないのだから当然と言える。
「ですが、ステータス程度ならば確認できています」
シロウはそう言って資料を差し出した。
それを見ていたケルは違和感を覚えて、眉をひそめる。
「んだ、このキャスターのステータス。真名が知名度のある英霊だとしても、妙に高いぞ」
ケルが訝しげに見たのは“星”のキャスターのステータス。
筋力:B 耐久:C 敏捷:B++ 魔力:A 幸運:E 宝具:A+
キャスターのステータスは基本的にこの程度だ。
筋力:E 耐久:E 敏捷:C 魔力:A 幸運:B
英霊は知名度・マスターの能力等によってステータスが多少上下するといっても筋力・耐久・敏捷の三つ全てがC以上になるのは
まるで
「この三つがここまで高いのは妙だ。殴り合いでもすんのか、あっちのキャスターは?」
「さて、美貌も伝承通りだとするならば、剣を振るい魔術を使う英霊には心当たりがありますが」
シロウがそう言う隣で、心なしかキャスターが彼に向ける視線が厳しくなった気がする。
ケルもその条件が揃うサーヴァントには一人心当たりがあった。
クィン・セクトニア
“春風物語”に登場した浮遊大陸フロラルドの女王。
神にも等しき美貌の持ち主ともされるが、傲慢で冷酷な女王であったとされる。
地上の侵略を目論むも、カービィによって倒された“妖艶の悪女”。
魔術はもちろん剣の使い手だという伝承のためセイバーの適性もあると思われる。
……結局、ステータスが不自然に高い理由は解明できていないのだが。
「とはいえだ。コイツの可能性は高いな。それにどっちにしてもこのキャスターはバッチリ準備してるんだ。十中八九“工房”、下手すれば“神殿”を造っているかもしれん。ぶつかるこっちのサーヴァントは大丈夫か?」
「ええ。そちらのセイバーも優秀なようですし、ランサー、アーチャー、バーサーカーもこのキャスターに拮抗する力を持つと断言できます」
「そいつはいい」
「ともあれ、これでこちらも七騎揃いましたね。──さて、セイバーの真名を教えていただけますか?」
シロウの要求に黙り込むケル。
命を預ける味方ならば戦力は明かした方がよいだろう。
しかし、どうにもこの主従は胡散臭い。
《セイバー、お前はどうだ?》
《余は……反対だ。このアサシンの目は、他を省みぬ暴君の目だ》
《そうかい。暴君と“理想王”なら、まあお前さんのほうがいいわな》
セイバーの意見を聞いて決意したケルはゆっくりとソファから立ち上がった。
シロウはおや、と声を出して呼び止める。
「どちらへ?」
「俺のサーヴァントは“最優”なんでな。悪いが勝手にやらせてもらうぜ」
「我々と共同戦線を張る気はないと?」
「別にあんたらと敵対するわけじゃねえんだ。遊撃隊とでも思ってくれ」
ニヤリと不敵な笑みを見せて彼らは教会を去っていった。
バタリとドアが閉じたと同時にケルは全力で走り、階段を駆け降りた。
「ハッ、ハッ……追っ手はいるか、セイバー?」
《いや、いないな。だがアサシンもあちら側かもしれぬ。油断するな》
念話で忠告するセイバーにそうか、と返した。
《……マスター。余はな、少し安心したぞ》
何気なくセイバーが語りかけてきた。
「何に?」
《汝があの怪しげな者どもに与する男でなくてな。──やはり、共に戦う者は勇士がよい》
「そうかい。俺が勇士なんて立派なもんになれるかね……ま、仲良くやろうぜ」
──なかなか良い相棒を呼び出せたな。
ケルはそう心の中で呟きながらシギショアラを駆けていった。
教会にはシロウとキャスターの二人が残されていた。
「……気付かれましたかね」
「怪しまれてはいるだろうな。よかったのか、マスター。奴らをあのまま行かせて」
「仕方がないでしょう。まだ“星”の陣営が残っているのだから、いらぬ敵は作るべきではありません」
ジトリと見つめるキャスターにシロウは笑顔でそう答えた。
「──セイバーが抜けて戦力は大丈夫なのか?」
ここで、三人目の声が彼らの中に割入ってきた。
シロウ達が視線を向けた先には藍色の外套を纏った、中性的な顔立ちの青年が立っていた。
青年は黄金の瞳を真っすぐとシロウに向けている。
「大丈夫ですよ。セイバーの真名はラーマです。油断はできませんが、もしもの時はこちらのランサー、アーチャー、バーサーカーの誰かで当たれば十分に対処可能ですよ」
シロウは何故か、知り得ない筈のセイバーの
しかしそれをさも当然とばかりに、キャスターも青年も気にしていない。
「……フンッ。まあいい。だが忘れるな。貴様が聖杯から遠ざかるようなことをすればこの同盟は直ちに白紙だ」
「わかっていますよ。私が諦めることはないので、安心してください」
そう言ってシロウは気が立っているらしい青年をなだめた。
あの天真爛漫にも程がある少女騎士に振り回されている青年に対する同情が多分にあるのだろう。
シロウは召喚された“地”のサーヴァント達を改めて確認する。
『
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『
──さあ、
聖杯大戦を始めよう。
男は荒野を歩いていた。
美しい黄金の剣を引きずりながら屍の山を越え、血の河を渡る。
男は誰かを捜していた。
町を抜け、山の上に立つ
男は確かに
友の面影を見つけ、何も護れぬ己を呪って。
男は何処へとも知らず歩き続ける。
それが、