Fate/Apocrypha ~星に願いを~   作:風鈴火山

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戦前─束の間の平穏

ミレニア城塞の眼下に広がる街トゥリファス。

英雄達の大戦の舞台となるとは知リもしない人々が喉かな暮らしをしている。

その町並みの中を歩く三人の男女の姿があった。

 

「ねぇねぇスージー、ボク次はあれ食べたいな!」

「待てやライダー、テメェはもうあれだけ食ったろうが。マスター、オレはあっちのアイス?とかいうのが食いてー」

「アンタ達……んん、貴方達、もう少し遠慮してくださいませ」

 

一人は桃色の髪の少年。

脚を見せるハーフパンツとピンクのパーカー姿。

 

一人は金髪の髪をポニーテールに纏めた少女。

腹部を見せるチューブトップに赤のレザージャケットを羽織っている。

 

一人は艶のあるピンクの髪の若い女性。

所々にピンクの模様が入った、落ち着きのあるスーツ姿。

 

元気溌剌な少年少女を新米教師が引率しているような雰囲気である。

手入れの整った自分の髪をぐしゃっと握りしめた女性──スージーは溜息を隠さず吐き出した。

そもそも事の始まりは、この少年──ライダーが言い出したことにある。

 

 

 

 

 

 

「お出かけしたい!」

 

突然ライダーが部屋に押しかけてきて第一声がこれである。

まず最初にスージーは頭を抱える。

 

「貴方、社長のサーヴァントでしょう。どうして(わたくし)の所に?」

「いや、だってボクのマスター、ボクそっちのけで地下に入り浸ってて近寄りづらいんだもの……」

 

彼が言うにはマスターであるハルトマンが彼をほったらかしているので暇を持て余してこちらにやって来たそうだ。

さらに、話を聞いていたセイバーまでもが、

 

「いいじゃねえかマスター。オレも連れてけ、暇だったんだ」

 

と言い放ったこともあって、流石に自分のサーヴァントとは上手くやらねば聖杯大戦にも支障が出ることをわかっているスージーは渋々二人の付き添いという形でトゥリファスの街へ繰り出したのだ。

とはいえ──

 

「あなたたち、どう考えても食べすぎですわよ…!」

 

英霊(サーヴァント)が無銭飲食で捕まるなど笑い事にもならない。

二人のここまでの食事・娯楽の料金を払っているスージーは彼らの消費している金額が何度見直そうが明らかに二人分のそれではないと愕然としていた。

 

「──だァ~! 観光できるかと思ってたのに、全然目新しいもんがねぇなァこの街は!」

 

ベンチにどかりと座り込み、買ったスナック菓子を頬張りながら不満を口にしたのはセイバー。

スージーがその隣に静かに座った。

 

「ま、諦めてくださいませ。城塞の眼下に広がる街ですもの、中世風じゃなきゃ格好がつきませんわ」

「じゃあ明日はシギショアラとかいう街に……」

「シギショアラも中世の町並みが売りですわよ」

 

うげ、と声に出すセイバー。

どうにも、現代の建物を見られなかったことが不満らしい。

そこへ、現地の子供達と戯れていたライダーが駆け寄ってきた。

 

──クレープを両手に持ちながら。

 

「お待たせー。……食べる?」

「おっ、気が利くじゃねえかライダー」

 

ライダーからクレープを一つ奪い取ったセイバーは豪快にかぶりついた。

その様を見ていてスージーはハァ、と溜息をつく。

 

──アタシはもっと、クールな剣士様をと思ってたのに……

 

スージーが触媒に使ったのは、ブリテンの円卓の欠片であった。

アーサー王の下に集った騎士達が囲んで語り合ったというだけあって数多の騎士の触媒となる。

 

湖の騎士(サー・ランスロット)

太陽の騎士(サー・ガウェイン)

 

代表的な二人を挙げたが、この二人に限らずアグラヴェインやトリスタンといった騎士達も召喚されうる。

当然、“叛逆の騎士(モードレッド)”とてその対象だったのだろう。

 

(アタシはガウェインとかに来てほしかったのに…)

 

()()()()()()()()()()()()()()を持つライダーはともかくもして、セイバーは単なる趣味のようなものなのだからもう少し自重して欲しいものである。

複数の英霊に該当する触媒の場合は相性の良い英霊が選ばれるそうだが、そうだとはこの時のスージーにはとても思えなかった。

 

 

 

 

 

 

一方、シギショアラ。

中世の雰囲気が残る歴史ある町並みを歩く二人がいた。

一人は桃色の髪を三つ編みに束ねた少女。

 

一人は紫紺の外套を纏う、藍色の髪をした中性的な青年。

 

「わ~……ねぇねぇマスター、これ可愛くない!? 食べるのがもったいないな~」

「ならば何故頼んだ」

 

動物を模したケーキを見て目を輝かせながら言う()()に対し青年の反応は淡泊だった。

青年の名は内藤(ないとう)貴志(きし)

数十年前から名をあげているフリーランスの魔術師である。

封印指定の魔術師を何人も仕留めた実績があるが、どのような魔術を使うか全く知られていない男だ。

その貴志はジトリと己のサーヴァントを見つめた。

視線を受けて“地”のライダー──アストルフォはキョトンと見つめ返した。

 

アストルフォ。

シャルルマーニュ十二勇士の一人。

天真爛漫にして脳天気の美丈夫とされ、幸運と数々の魔法道具で冒険を切り抜けてきた騎士。

 

そう貴志は、アフォガードにコーヒーをかけながら己のサーヴァントの事を再認識していた。

ライダーを召喚してから振り回され、ここ数日気の休まる時のなかった貴志は口の中に広がるアイスの味を噛み締めながら、また真面目な顔つきに戻った。

 

「ライダー。そろそろ戻るぞ、シロウ神父と作戦会議だ」

「えーー。ボク、あのキャスター苦手なんだけど……」

「ごちゃごちゃ抜かすな。それでも騎士か」

 

ライダーは耳を引っつかまれてみぎゃー、と声をあげてようやく、名残惜しげにしながらも喫茶店を後にした。

貴志はそんな様子を見て溜息を隠さない。

 

桃色の髪を靡かせながら歩く姿を、彼は誰かに重ねていた。

 

 

 

 

 

 

 

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