Fate/Apocrypha ~星に願いを~ 作:風鈴火山
「何度見ても美しいものよな」
ダーニックもその言葉に静かに頷き、自らもそれを見つめる。
それは、一言で表すなら、小さな星。
もう十四騎もサーヴァントを召喚してなお輝く程に溢れている魔力。
魔術師と英霊が求める願望機、大聖杯──
──そう
現在のこれを指し示す
ゲインズ・ハルトマン・ユグドミレニアが破損した大聖杯に手を加えて作り上げた願望機である。
正確に言うと、破損して不安定な大聖杯を完璧に管理する膨大な魔術式なのだ。
「とはいえ、ハルトマン。貴様はただの願望機が望みではないと言ったな。何を創るつもりなのだ」
ダーニックはそう言って振り向き、暗闇に佇むハルトマンを見た。
「ワシは……ノヴァを再現するのだ」
「なに?」
ダーニックは訝しげな視線をハルトマンに送る。
ハルトマンは気にもせずに続ける。
「ギャラクティック・ノヴァを知っているだろう?」
「……彗星か」
ギャラクティック・ノヴァとは“春風物語”に登場した願望機だ。
曰く、それは“幸福を齎す箒星”。
神代の魔術師達の土地ハルカンドラにて製造された魔術品なのだ。
数多の魔術師の家系がつくろうとしたが、どれもが不完全な模造品で終わっていた。
「ワシの一族はそのハルカンドラの流れを汲んできた家系である。ワシは完成されたノヴァの力で以て一族の、いや、人類の永久なる繁栄を手にするのだ」
「ハルカンドラ、か。妾も聞いたことがあったな」
「女王陛下……」
キャスターが口を開いた。
成程、キャスターも“春風物語”に登場した、しかも魔術師だ。
それらの知識は生前からあるのだろう。
「しかし、ハルカンドラは我らの時代から存在が眉唾ものの土地、秘境であったのでな。そこの
キャスターはそう、大したことはないと言い捨てた。
「しかし、かつてこれ程のモノを見ることはなかったぞ。まさにこれは神の領域に迫る逸品ぞ」
「恐悦至極、である」
キャスターの賛美を受けてハルトマンは頭を下げる。
「喜べ。そなたたちの願いは叶うであろう。なぜなら、我らには勇者がついているのだからな」
キャスターは、ライダー──カービィのことを言っているのだろうとダーニックは容易に読み取ることができるが、わからなかった。
──なぜ彼女は、自分を滅ぼした相手にここまで好意的でいるのかが
☆
「──なァ、マスターの願いってなんだ?」
ふと、思い出したようにセイバーは同じ部屋にいる彼女に、そう声をかけた。
スージーは少し面食らったように、らしくないキョトンとした表情を浮かべていた。
「ほら、聖杯にかける願いだよ」
「ああ………」
セイバー──モードレッドが召喚されてから見てきたスージーという女は何処か余裕がない、というのが直感を合わせた彼女の見解だ。
命を懸ける戦争で緊張している、というにしても過敏なのだ。
「
「なんだそりゃ。つまらねぇの」
「……魔術師ですもの。そう言うあなたの願いは、一体なんですの?」
うまく話を返してきたスージーは、自分の所へ踏み込まれるのを避けているようだった。
願いを問われたモードレッドは、勝ち気な笑みを浮かべて言った。
「オレの願いはな、選定の剣に挑戦することだ」
「ああ、アーサー王が引き抜いたという……」
「そうだ」
カリバーン。
ブリテンの王となる者のみが引き抜くことができるという岩に突き刺さった選定の剣である。
これを引き抜いたその瞬間、アーサー王の栄光と、その結末は決まっていたのかもしれない。
「あの父上は、最期までオレを認めなかった。……オレの方が、武勇も、
父に認められることがなかった。
声を荒げてそう叫ぶモードレッドにスージーはどこか遠い目をしていた。
「………たとえオレが聖杯なぞの力で王になろうとあの人はオレを認めない」
「そう。だから、選定の剣に挑むと、いうわけですわね」
「そういうことだ」
「──もし引き抜けなかったらどうするつもりですの?」
モードレッドはこの問いに、分かりきったことを聞かれた子供のような小馬鹿にしたような顔をして答えた。
「オレはアーサー王の唯一にして正当なる後継者だ。引き抜けない筈がない」
「そう、ですか………なら、その後継者様に相応しい戦い、見せてくれるということでよろしいですわね」
「当ったり前よォ! 父上の息子たるオレが勝つのは、当然のことだ」
自信満々に答える様子に、偉大な
☆
「ウゥ~……!」
「スゥ……むにゃ………」
純白の花びらが舞う城塞の一角に唸り声と寝息が響いていた。
音源は、花嫁姿の少女──バーサーカーと桃色の髪の少年──ライダーである。
「ウゥ───!」
バーサーカーは花畑を自分の領域だと主張しているようだ。
唸り声をあげながらライダーを激しく揺さぶっている。
それでもライダーは口の端から涎をたらしただらしない顔から変化がない。
「……もう、食べられないよ………」
「ウー!」
バーサーカーが実力行使に出てポカポカとライダーを叩き始めた頃に、彼女のマスターであるカウレスが姿を現した。
「ん? おいおいバーサーカー、どうしたんだよ」
「……ウゥゥ」
「…? ああ、ライダーか」
カウレスは爆睡するライダーを指差すバーサーカーと周りの様子を見て何が言いたいのかを大まかには理解した。
ここは先日バーサーカーと話した場所だ。
彼女の願いを確認した時に、花を渡されたのは記憶に新しい。
どうやら、その時からバーサーカーはここを気に入ったらしく、だからライダーが花畑のど真ん中で眠り込んでいるのが面白くない、ということなのだろう。
バーサーカーをカウレスが宥めようとしているうちに、どこからともなく茜色の蝶がひらひらと飛んできた。
それは軽やかにバーサーカーの前を横切り、白い花の間を抜けて、ライダーの鼻にピタリととまった。
「……ゥ」
どうやらそれに興味が移ったらしいバーサーカーはそっと音を立てずに近寄って、ライダーの顔を覗き込むような形になってジッと蝶を見つめ始めた。
一先ず落ち着いたらしいバーサーカーにカウレスが胸を撫で下ろしたのも束の間。
「ふぁ、ふぁっくしょん!!」
なぜか刺激されたライダーの鼻腔は唐突にくしゃみを引き起こした。
バーサーカーは、飛び退いて、当然蝶は驚き飛び立ってしまったのである。
「ふあぁぁ~~。よく寝た………」
「ウゥゥゥ…!」
「ん、バーサーカー?」
彼方へと飛び去った蝶を見送ってから向き直ったバーサーカーは低い唸り声とともに身構えた。
「ウアァァァ!」
「えぇーー!? 待って待って、ボクなにかしたのーッ!?」
「………………ハァ」
飛び掛かったバーサーカーに好き放題されるライダーを見ながらカウレスは苦笑いして、溜め息をついた。
バーサーカーを信頼してか、カウレスはその場に座り込みしばらく彼らのじゃれあいを見守ることにした。
彼らのじゃれあいはセイバー主従が来るまで続くことになる。