Fate/Apocrypha ~星に願いを~ 作:風鈴火山
現世に生きる少女に憑依する、という少々特異な形で顕現した
彼女は14対14という前代未聞の戦い──聖杯大戦の舞台トゥリファスへと向かっていた。
ヒッチハイクをしてトゥリファスに向かうルーラーは、そのクラスの為に高い感知能力で、サーヴァントの気配を感じとった。
そして、そのサーヴァントの戦意も。
車を降りて歩き始めれば、すぐにその姿は見えた。
黄金の鎧を纏った、大槍を携える青年だ。
「──ルーラー、だな」
「……“地”のランサーですね」
ルーラーは静かに戦装束に換装し、ランサーは軽やかにアスファルトに降り立った。
真っすぐにこちらを見つめ、戦意をぶつけてくるランサーに、ルーラーはキッと引き締めた表情で対峙する。
「ランサー。私を害することに何の利があるというのですか」
「知らぬよ。オレはマスターに、此処でお前を仕留めよと、命じられた」
それだけだ、と何の感慨も見せず告げるランサー。
やむを得ないとルーラーが旗を構えたその瞬間──
「うゎぁぁぁぁ!!どいたどいたァ!」
「ム、ォオォォォォ!」
ランサーのいた地点を星が通り過ぎた。
咄嗟に飛び退いたランサーを尻目にガリガリと地面を削りながら徐々にスピードを落とす謎の星型の飛行物体には、簡素な革の衣服を纏う少年と紫髪の男が乗っていた。
「ふぃーーっ、危ない危ない。久しぶりでテンション上がっちゃったな!」
ポンと降りてきたのは桃色の髪の少年。
朗らかな笑顔で、今張り詰めていた空気が何処かへ吹き飛ばされてしまったように、ルーラーもランサーも言葉を失った。
「……“星”の、ライダーですね」
落ち着いたルーラーが少年をそう呼んだ。
「うん。そう、ボクこそは“星”のライダー!」
「そしてワシがそのマスター、ゲインズ・ハルトマン・ユグドミレニアである。お初にお目にかかる、ルーラーよ」
少々よろめきながらも星から降りてきた男──ハルトマンは整った佇まいでルーラーに声をかけた。
そしてその打算に満ちた視線を静かにランサーに向ける。
「“地”のランサー。貴様がルーラーを殺害しようとしたのを我らは見たぞ。裁定者たるルーラーを害そうなどルール違反の極地にあるであろう。大人しく、我がライダーとルーラーの沙汰を受けるがいい」
そう珍しく意地の悪い笑みを浮かべながらハルトマンはランサーを再度睨みつけた。
ランサーは特に釈明するでもなく、寡黙な様子で槍を構える。
落ち着いた場でルーラーは──
「“星”のライダー、“地”のランサー。此処で戦うのならば異存はありません。私が手出しすることはありませんので存分に力を振るってください」
「……ム?」
参戦しないと、宣言したのだ。
今まさに襲われようとしていたのは自分だというのに。
ハルトマンは一瞬唖然としたが、すぐに冷静さを取り戻すと蓄えた髭をゆっくりと撫でた。
「では、ルーラー。貴女はライダーが万一敗れたときどうなさるおつもりか」
「それはそれです。私の事情を考慮して彼らの戦いに介入することは
「…………」
どうやら言っても無駄らしいと察して黙り込むハルトマン。
それを見ていたランサーとライダーは向き直った。
「──どうやら、お前と二人で殺し合えるらしいな。ライダー」
「そうみたいだね。ランサー」
にこやかにしているライダーは懐からナイフを取り出した。
神秘の欠片もない、年季がある品というわけでもないそれをどうするつもりかと思えば、変化はすぐに訪れた。
ナイフが、彼の魔力に覆われてしなやかな剣に変貌したのだ。
もはや、それは宝具の域に達している。
間違いなく宝具の能力か、彼の固有スキルによるものだ。
何の変哲もないナイフがサーヴァントを傷つけられる武装に変化した様を目の前で見たランサーは特に驚いた様子もない。
ライダーは静かに剣の切っ先をランサーに向けた。
いつまで続くかわからぬ静寂が引き裂かれる様は呆気なかった。
「ッ!?」
いつの間にか飛び立っていた星が再びランサーの背後から襲い掛かったのだ。
それはランサーの背に直撃して遥か遠くの岩山に突っ込んだ。
しかし星は速度を落とさずライダーへと向かう。
ライダーは軽く飛び上がり、星の中央へ軽やかに着地した。
これこそライダー──カービィの宝具[
ライダーはそのままランサーを吹き飛ばした方向へ一直線に向かう。
今のワープスターの突進だけでも並の英霊を充分殺せる威力だったが、岩石さえ焼き尽くして現れたのは無傷のランサーだった。
それが当然であるかのようにライダーは間髪入れずに剣を構えて、ランサーへと突進する。
──鋭い銀と輝く黄金が交差した。
ランサーは静かに驚嘆していた。
彼のその超人的な技量によって放たれた七十を超える槍撃を受けながら、ライダーには大きな傷はない。
「浅い……いや、再生しているのか」
ランサーが呟いたように、ライダーの傷はみるみるうちに塞がっていく。
これはライダーの保有スキルの一つ、“星の胃袋”の効果である。
大食らいだという伝承から発展したスキルであり、あらゆる存在を食べて自らに反映してきた彼を象徴するスキル。
彼が摂取した存在は全て魔力に変換されるのである。
この魔力を単純に補充に使ったり、再生に回すことでライダーは力を発揮する。
ちなみに、特に変換効率が良いのはとあるトマトである。
しかし、彼を回復頼りの軟弱者と侮ってはいけない。
ランサーの槍撃は全てがまともに受ければ致命傷にいたる威力だった。
つまり、尋常ではない防御力を持つならばいざ知らず、ただ再生するだけならば
現在ライダーが傷を癒している様子は、彼がランサーの七十の槍撃を凌ぎきる技量を持つことを示していた。
──ありえない。
ほんの一瞬、そんな考えが脳裏を
懐かしいとさえ思える強敵との邂逅は、生前の唯一の好敵手との戦いを想起させた。
ワープスターに乗って様子を伺いながら、ライダーは表情を引き締めていた。
(あの槍、とても速くて、重い。速さはメタナイト級、威力はデデデ級かな)
静かに、ランサーの技量を分析していた。
いや、とライダーは自分の記憶を思い返した。
たった一人、凄まじい実力の者がいた。
──
紙一重の死闘を思い起こさせるこの敵は、珍しくライダーを、言うなれば燃えさせた。
もとよりこれが戦い、殺しあう儀式とはいえ、なんだかんだでこの少年も一端の戦士なのである。
ランサーの上空を旋回するワープスター。
金粉のような淡い光を振り撒きながら輝く星の夜空を、一瞬昼間に戻ったかと錯覚させる赤い光が包み込んだ。
ランサーのスキル“魔力放出”である。
その燃え盛る炎となった魔力を噴出してランサーはワープスターの目前に迫っていた。
当然、避ける間はない。
再び、銀と黄金が夜空に軌跡を描いて互いを狙う。
ワープスターの先端に飛び乗って身の丈程もある槍を軽々振るうランサーも、そもそも全体で見ても広くないワープスターの上で器用に跳ね回りながら斬り返すライダーも、間違いなく一級の英霊であった。
☆
やがて、山の隙間から朝日が差しはじめた頃。
ライダーとランサーは千日手に陥っていた。
互いに一度間を置くべく距離を取り、最初に対峙していた地点に戻ってきた。
「………このままでは日の出まで打ち合うことになりそうだな」
ランサーが淡々と所感を述べる。
朝になれば此処も人が通る。そうなれば神秘の秘匿も守られない。
それは魔術師である彼らのマスターにとって本意ではない。
「……うん。名残惜しいけど、ここが限界かな」
ライダーもランサーの言葉を肯定した。
ランサーは槍を下ろし、ライダーの剣はいつの間にかただのナイフに戻っていた。
ランサーは相手にもこれ以上の戦意がないと確認すると、背を向けて立ち去ろうとした。
「──またね、ランサー!」
その背に、そんなライダーの声がかけられた。
ランサーは少し、戸惑ったような、驚いた顔をして──
「お前は……不思議な男だな」
霊体化して去っていった。
朝日を見つめて立ち尽くすライダーにルーラーが歩み寄ってきた。
「見事でした、“星”のライダー。さすがは春風の勇者、ですね」
「う~~ん。なんかそんな風に呼ばれるのは照れ臭いな……」
そんな彼に不機嫌そうなハルトマンが視線をぶつけてくる。
「戻るぞ、ライダー」
「あ、はーい。じゃあねルーラー」
来ていた車に乗り込んで二人は去っていった。
これは緒戦。
聖杯大戦の序章にすぎない。