Fate/Apocrypha ~星に願いを~ 作:風鈴火山
聖杯大戦第二戦。
その火蓋はあっさりと落とされた。
セイバーは敏捷A+のステータスに恥じない素早さで町を駆ける。
彼の行く手に立つアントラー達がその手の杖を振りかざした。
無数の魔力弾がセイバーに直撃、あるいは建物を抉った。
爆煙が辺りを包むが、そこから飛び出した赤い人影。
──やはりセイバーだ。
三騎士の一角でありAランクの“対魔力”を持つセイバーにはたかが使い魔の操る、単調な魔術程度、通じはしない。
怪物でありながらそれを理解したのか、迫るセイバーを迎撃すべくアントラーは杖と盾を構えるが、もう手遅れだった。
彼らが纏う鎧など容易く切り裂かれ、巨体が地に伏せる。
数体の、蟻のような怪物達の屍を踏み越えて、セイバーはその剣を振るう。
ケルは背負っていたゴルフケースを素早く開き、中から棒──いや、槍を取り出した。
何かの骨でつくられているらしいその槍には無数のルーンが刻まれていた。
「こいつを使うのは久々だ」
ケルはそう軽く言いながら槍を構え、
先頭に飛び出してきた一体と一合打ち合い、ケルはすぐに下がる。
こちらは一人、敵は無数。
一人一人とまともに打ち合っていれば囲まれて終わりだ。
路地に入って軽くゴミ入れを飛び越える。
その時、いつの間にか片手に持っていた、ルーンを刻んだ小石を後ろに放る。
「
刻まれていたルーンが光を放ち、瞬間、追って来ていたホムンクルス達が火に包まれた。
しかし焼き尽くすには至らないその火に包まれた同胞を踏み越えて新手が迫る。
ケルが消えた曲がり角に向かうホムンクルス達は踏み込んで、ようやく気づく。
この一帯の地面、壁に刻まれていたルーンに。
「
イバラの棘の意味を持つそのルーンが発動して、ホムンクルス達は、丁度この国の英雄が行った所業を再現するが如く串刺しにされた。
目の前で串刺しにされた仲間を見て流石に怯んだホムンクルスの一体に、鋭い槍が突き刺さった。
ルーンが形成した茨の合間を縫うように放たれた、ケルの投槍である。
この槍は、魔獣の骨を削って作られた、彼の家に伝わる槍である。
神代から代々ルーンを刻みつづけて強化してきた槍は、単純に宝具級の神秘を秘めているのだ。
ケルは魔術師ではなく戦士であると教えられ、武術を叩き込まれてきた。
素早く槍を胸元に生やしたホムンクルスから引き抜き、後続の者達にそれを振るう。
長物は閉所では不利であるのが常識だが、ルーン魔術を併用して隙を潰し、巧にホムンクルスを蹴散らしていった。
☆
ミレニア城塞、王の間。
全てのマスターとサーヴァント達が集まり、魔術で映し出された光景に目を向けている。
「筋力A、耐久B、敏捷A+、魔力B、幸運B、宝具A……どの能力も高い水準を誇っています。流石は、セイバーと言ったところでしょう」
マスターはサーヴァントのステータスを見ることができる。
ダーニックは赤毛のセイバーの能力値の高さに感心したように、玉座に座る女王に伝える。
「ふむ。……もとより
キャスターが、いっそ突き抜けた清々しさを感じながらそう呟く。
ランサーは好戦的な笑顔をしながら口を開く。
「へっ。なかなかできるんじゃねえのか。
「ランサー、慢心は身を滅ぼしますよ。貴方の不死身の身体が破られぬとも限りません」
「わかってるって」
「…………」
軽口を叩くランサーに歯がみするゴルドと、窘めるアーチャー。
キャスターはライダーにその目を向けた。
「勇者よ。そなたは“地”のランサーとも戦ったが、セイバーとどちらが強いと思う?」
「うーん……ランサーは尋常じゃなかったけど、セイバーも大概、かなぁ。宝具がわかんないと実戦では何とも言えないね」
ライダーの言葉は、向けられた問いに、彼には珍しい煮え切らぬ答えだった。
「ふむ……アーチャー、そなたはどうだ?」
「ええ。私もライダーと同じ見解ですね。強敵ですがステータスも、マスターの魔術も判明しています。後は宝具の性質がわかれば、過度に恐れる必要はないでしょう」
次に声をかけられたアーチャーも穏やかな声色でそう言って除けた。
「ダーニックおじさま。あのセイバーのマスターは……」
「ああ。ケル・トライフ、アイルランド出身のルーン魔術の使い手だ」
「フン。崇高な魔術を、棍棒か何かと勘違いした野蛮人か」
ダーニックが解説したセイバーのマスターの情報に、ゴルドは軽蔑を隠さずに言葉を吐き捨てた。
そのゴルドにスージーはあら、と声をあげる。
「ゴルド様、こと戦闘においてはああいう手合いの方が厄介ですわよ。というか、敵を見くびった者から、容易く崩れていくと相場は決まっていますわ。口には気をつけた方がよろしいかと」
「ッ……小娘が…!」
「まーまーマスター、抑えろ抑えろ」
スージーの挑発的な言葉に青筋を立てるゴルドを宥めるランサー。
セイバーは退屈そうに魔術モニターを見つめている。
「あーあ、オレも早く戦いてーなー。な、フラン」
セイバーはボソリとそう呟き、バーサーカーに同意を求めたのだった。
☆
トゥリファスの夜もふけた頃合い。
そこには無数の屍が転がっていた。
「フーッ。『クーフーリンの結婚』は高望みだったかね」
返り血を浴びて身体を朱く染めたケルは槍をケースにしまい込む。
剣をぶん、と一振りして、セイバーが彼に歩み寄る。
「…汝もなかなかの勇士だな。共に戦う者として誇らしいぞ」
「そりゃあ光栄だね。伊達に槍振っちゃあいねぇもんだ」
互いを背中を預けるに足る戦士と、認める主従であった。