艦娘の活躍を描写するのが意外と難しい事に気付いた。
着任してから既に3時間。
ある程度落ち着いてきた所で、本日の任務の内容説明を漣と、建造されたばかりの『雷』に行っていた。
そう、先ほどの建造で作られたのは『ダメ提督量産装置』と名高い『雷』だった。
一見すると元気の良い少女にしか見えないのだが、彼女で身を持ち崩す……ロリコンに覚醒し、その上に彼女に母性を見出しマザコン?になる提督が続出したのだ。
……男女問わずに。
実に恐ろしい話だが、まぁ、所詮噂は噂だ。
気にするほどでもあるまい。
「任務概要を説明する。本案件は、発案者は私となる。内容は当鎮守府正面近海の近海警備を主とした安全の維持と貴艦らの航行の実践演習を兼ねた任務だ。鎮守府正面近海は比較的安全とは言え、それでも敵、深海棲艦の駆逐艦級が出現する領域でもある。油断をすれば、海の藻屑となりかねんが、その程度の事は十分承知していよう。単艦で無謀な突撃でもしない限り、そこまで気を張って挑む任務でもないのも確かだ」
そこまで言った後部屋の明かりを消し、プロジェクターで海図を表示する。
「問う鎮守府の正面海域をある程度進んだ後、二つの航路の内いずれかを進んでもらう事になるだろう。北東は敵主力が居ないとされるだが、はぐれた深海棲艦の艦隊が出現する事があるとされている。逆に敵主力のいるとされる南東の航路は、別の戦場となる海域への航路にもなっており、敵が来るとすればこちらからだ。こちらからは軽巡洋艦級の敵も来る事があるから油断は出来ない」
言いながらPCを操作してスライドを変えていく。
北東は「はぐれ」と書いたデフォルメ駆逐艦深海棲艦の絵。
南東は「主力」と書かれた深海棲艦の群れの絵だ。
「任務は正面海域の警戒でも十分だが、余力があれば北東、或いは南東のどちらかへと進出するのが望ましいだろう。だが、現状必要なのは最低限の安全確保だ」
投影されている映像の中で、正面海域の辺りを赤丸で囲った後、『ここだけで大丈夫!』と赤文字が表示される。
「諸君がその実力を遺憾なく発揮するのならば敵わない、と言うことは無いだろう。本案件は別段急ぐものでもない、寧ろここで功を焦って負傷を負う方が鎮守府として致命傷になりかねん。中破判定となった場合は敵を追わず、必ず帰還しろ。必ずだ」
俺はそこまで言い切ると質問はあるか、と問いかける。
「ご主人様。中破でも夜戦すれば勝てそうな場合なんかはどうしますか?」
「夜戦はなしだ。諸君の本領がそこにあったとしても、余剰戦力が存在しない今、態々賭けに出る必要は無い……あっても出すつもりは無いがな。他に質問はあるか?」
更に尋ねると、今度は雷が手を上げて質問してきた。
「提督っ!海域を移動中に他の艦娘にあった場合は?私達って、海で単艦で出てきちゃう場合も有るわよ」
「はぐれ艦娘の事か?可能ならばウチに引っ張って来い、無理強いする必要は無いが、そういった艦娘は基本保護するのが国の方針だ」
「引っ張ってきた艦娘はどうなるの?」
「ふむ、本人との面談後、本人の意思次第ではウチに所属、或いは他所に回される。また、本人が戦う事を望まない様ならば艤装解除後に一般人としての生活が出来るよう、連絡艇で本土に送られる。他にはあるか?ないな。では、出港準備後速やかに出撃してくれ」
=>Sazanami view
「それじゃー、頑張ろうね雷!」
「まっかせなさい、わたしが付いてるんだから大丈夫よ!」
雷が自信ありげにそう言ってくれるのは、少し頼もしい。
「それよりも、提督のこと、どう思う?」
「ご主人様の事?」
はて、どう思うかと言われても…。
「なんだかんだで、まだ少ししかお話してないわけでー……。でも、悪い人じゃぁ無いんじゃない?」
「だといいんだけど。さ、早く行きましょ」
雷がひょいっと防波堤から海に飛び込む。
私も続いて海へと。
そういえば、普段は気にしないけど気になった事が一つ。
「けど、今更だけど不思議よね」
「なにが?」
「私達ってば、確かに軍艦だったけど……今の姿で海の上に『立ってる』って絵面が」
「……言われてみるとそうだけど。まぁ、私達艦娘なんだし、普通普通!」
雷は気にしない様子で鉄塊……碇を振り回す。
あれ、当たったら小破位は余裕でしそうだなー。
さて、それじゃあ……。
「駆逐艦漣、出る!」
機関の調子は良いようだし、これは良い感じにがんばれるかも!
=>Admiral side
「ふむ、行ったか」
「はい。……提督、海軍司令部より長期目標の一つとしてメガフロートの拡張指示が出ています」
嫌な予感がする。
絶対面倒くさい指示だろう。
「どんな指示だ?詳細は?」
「詳しくは書面に書かれていますので、どうぞ」
ざっと目を通し、重要なところだけ要約すると。
「母港能力の拡張、建造用工廠と入渠用工廠の拡張、指定された種類の艦娘を揃える……か。どれも直ぐに出来る物ではないな」
「えぇ、ですので海軍司令部からも長期で構わないとの通達が含まれて居ます。ですが、もう一つ、極秘任務……ありますよね?」
でかでかと「極秘」とスタンプが押された書類。
目を通すと馬鹿げているとしか考えられない作戦が記されていた。
「あるが……これ、本気か?どう考えても『陸』の任務だろう?」
「えぇ、だからこそ陸軍で最も作戦達成率の高い貴方が、このメガフロートの提督として選ばれたのです」
「……馬鹿げているな。最新鋭パワードスーツの稼動テストで、陸にあがって巣を作った敵や、海上の深海凄艦の群れの中に突っ込めだと?」
「詳細は司令部との通信でどうぞ」
そうして訪れた通信室。
ここだけは他の施設と違い、かなり豪華だ。
小さいモニタと大きいモニタの二つがある。
外には衛星通信用の大型アンテナもあるので、どれだけ本気なのかがわかってしまう。
色々と諦めて、覚悟を決めて通信を開くと、付いたのは小さいほうのモニタだ。
出てきた男性……襟章から元帥と思われる……に名乗り、敬礼する。
男は太って見えるが、その反面、目付きは異様に鋭く細い目は獲物を狙う蛇の様でもある。
『芝村元帥だ。敬礼と挨拶は不要だ。余計な時間を使うつもりは無い。要点だけ話せ』
のっけから色々飛ばしてるな、この元帥。
というか、今思い出したぞ。
芝村元帥って言えば海軍きってのヤリ手じゃないか!
陸軍にも大きなコネを持つ上に、日本の大企業の殆どにも顔が利く上に本人も相当な資産家!
『見た目と性癖はともかく奴が動けば必ず何かが変わる』と言われてるあの芝村か!!
「わかりました。今回の『アーマードスーツ開発計画』ですが、本気ですか?」
『冗談に時間を使うつもりは無い。これが実現できないのならば人類は深海棲艦に敗れる可能性が増える、それだけだ』
「……わかりました。作戦概要の説明をお願いします」
『それは私の副官にさせよう……小鳥、任せるぞ』
そういうと、芝村元帥は通信画像から外れ、ヘッドセットをつけた女性が通信画像に映る。
『少佐、私は芝村元帥の秘書官の高梨小鳥大佐だ。今後、開発計画、最初の任務のミッションプランの説明は私が請け負う。では、早速だがミッションプランの説明だ』
説明が始まると、大きい方のモニタが点いて、色々な画像込みでの説明が始まる。
『メガフロートの南西10km地点にある小島に深海棲艦が棲みついたとの情報がある。元は小さな漁村ぐらいしかない小島だが。人が居るという事から奴等の餌場になってしまったのだろう。人工衛星からの映像によれば駆逐艦イ級8と軽巡洋艦ホ級3だ。作戦地点へはマルレが運転する高速連絡艇で向かう事になる。質問は?』
「生存者の扱いは?」
『生存は絶望的だろうが、もしも見つけたのならば救助しろしかし、優先度は高くない……分かるな?』
「……了解しました。最善を尽くしましょう」
『他にはあるか?』
「……提督である私がこういった事をするのは彼女達に対する裏切りにも似た感情を覚えます」
『しかし、何時までも頼り切りではいられない。それに、海戦は彼女達の独壇場だが、陸戦においては彼女達は『艦艇である』という制約に縛られその実力の半分も発揮できない。しかし、深海棲艦共はどういうわけか陸上に上がると適応し、進化してしまう。こうなると陸上では別の対抗手段が必要なのだ。かつて開発したパワードスーツではもはや不足なのだ』
その言葉に少し疑問を覚える。
「パワードスーツで不足?私が以前朝鮮半島上陸作戦に参加した際はそんな感じはありませんでしたが……」
あぁ、と高梨大佐が頷き答える。
『内地に潜む深海棲艦……いや、陸上棲艦が進化したのだよ。例えるなら、軽巡から戦艦といえる位に』
「戦艦レベル?どんな恐竜的進化ですか、それはっ!?」
『だからこそ、新兵器の開発が必要なのだ。この案件は貴官一人ではなく、他にも幾人かの人間が請け負っているが、殆どが陸上戦闘のデータだ。貴官のように海上戦闘のケースが多いであろう人間は少ない。貴重なデータを期待するぞ。さて、長々と話しているワケにもいかんな。『小島奪還』作戦開始だ』
「……了解。これより『小島奪還』を開始します」
こうして俺の戦いもまた、始まった。
=>Sazanami view
「ほいさっさー!」
深海棲艦の駆逐ナントカ級の砲撃をかわし、相手の動きを見る。
意外とすばやいのねー。
「漣!素早いからどっちかが牽制して動きを止めて、トドメさしましょ!」
「あ、それいーですね。んじゃ、私が牽制しますからイカちゃんがトドメで!」
私はそれだけ言って機関の出力を一気に上げて動きながら敵に牽制攻撃を仕掛ける。
「あ、ちょ!なによイカちゃんって!?あーもう、勝手に行っちゃって!!」
後ろで何か聞こえるけど、気にしない気にしない!
撃ち過ぎても後の戦いを考えると大変だから敵の的になって避ける事も考えなきゃね。
「けど、避けるのもまた大変な、ワケ……キャァ!?」
砲弾が側面を抉るように駆け抜けていく。
実際に煙突部分を抉ってたみたいで、腰に衝撃が来てきつい!!
私に隙が出来たのを好機と見たか、敵駆逐級が大口を開ける。
口からは魚雷っぽい何か気味悪いのが吐き出される寸前だった。
「いっくわよ~!ッテー!!」
離れた位置、敵駆逐級の死角から12.7mm装砲の連射と魚雷が何本も敵駆逐級に当たる。
いわゆる会心の一撃って感じ?うん、私の危機を救ったのは本命のイカちゃんだった。
「ヒトの事言えた義理は無いけど、足が止まった駆逐艦ほど脆い物ってないわよねー」
「まぁ、そうね……っと、それよりも漣、怪我とかは無い?」
イカちゃんがすぃーっとこちらに近寄って様子を伺ってくる。
私は艤装内部の様子を妖精さんに尋ねてその返事を貰う。
「うーん、煙突が少し抉られて、衝撃で機関に軽いダメージ、かな?うん、小破には届かない程度!」
「そう?まぁ漣がそういうんだったら信じておくわ。けど、少しでも危なくなったらわたしを頼りなさいよ?」
安心させてくれる笑みを浮かべながらイカちゃんがそういう。
か、かわいいなぁ!イカちゃんってば!
イカちゃんの笑顔だけでご飯(鉄鋼)が美味しく頂けちゃうよ!
ハ!コレがメシウマ!!
現代の人たちも中々奥の深い!!
とりあえず!
「うん、その時はヨロシクネ!イカちゃん!」
「い、イカちゃん言うなー!」
そんな風に騒ぎながらも弾薬や燃料の残りを相談し、私達は更に進撃する事を決めた。
この進撃が、後の運命を決定付けるものだとは、誰も思いやしなかった。