星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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以前投稿したありふれたの作品は警告とともに閉ざされました。それでもキャラだけをと活動報告に上げてありますがw
今回はそう言うことがないよう頑張ります。
これはお試しのようなもので、人気でない場合はやめる可能性があります。
楽しんでいただけると嬉しいです。


【第1章】奈落
その男、転生者につき


 暗闇の中、急速に小さくなっていく光。

 

 無意識に手を伸ばすも掴めるはずもなく、途轍もない落下感に絶望しながら、少年ーー南雲ハジメ(なぐもはじめ)は恐怖に歪んだ表情で消えゆく光を凝視した。

 

 ハジメは現在、奈落という表現がぴったりな大溝を絶賛落下中なのである。目に見える光は、地上の明かりだ。

 

 ダンジョンの探索中、巨大な大地の裂け目に落ちたハジメは、遂に光が届かない深部まで落下する中で走馬灯を見た。

 

 

 

《READY GO!》

 

 

 

《EVOLTECH ATTACK!》

 

 

 

「ハジメェェエェェエッ!!!」

 

 しかし、不意に上から声が聞こえる。それにはっと我を取り戻して、ハジメは自分に近づいてくるそれを見た。

 

 紫と白、銀色で構成された、まるでエンジンのようなパイプの飛び出た装甲と黒色のスーツに身を包んだ、蝙蝠の翼を生やした怪人。

 

 やや特撮チックな格好をしたその怪人は、白いブレードの光るアーマーをつけた手を必死に自分へと伸ばしていた。

 

「シュウジ!」

 

 その怪人の名前を呼びながら、ハジメはあらん限りに手を伸ばし、そして……… ついにシュウジと呼んだ怪人の手を掴んだ。

 

 ほっと安心したように、怪人…シュウジはマスクの下で顔を緩める。すると自然と背中の翼が消滅し、シュウジは胸の中にハジメを抱きしめた。

 

 そうして、二人仲良くゴゥゴゥと風を切りながら落ちる中、シュウジとハジメは頭の中で共通のことを思い浮かべていた。

 

 日本人である自分が、ファンタジーという夢と希望が詰まった言葉で表すにはかなりヘルハードな世界に来るまでの、経緯を。

 

 

 

Ciao(チャーオー)……!》

 

 

 

 そんな二人の耳に、やけに軽快な渋い男の声が、響いたのだった……。

 

 

 ●◯●

 

 

 月曜日。それは一週間の内で最も憂鬱な始まりの日。きっと多くの人が、これからの一週間に溜息を吐き、前日までの天国を想ってしまう。

 

 ……なーんて真面目に脳内語りしたりして。俺以外は誰も聞いてないのに。そもそも頭の中だからわかるわけないっぺ。

 

『俺も聞いてるぞー』

 

 おっそうだな。

 

 よっすみんな、俺の名前は北野終司(きたのシュウジ)…我ながらこの名前終わりを司るとかなんか厨二っぽいし、どっかの天の道を行く人みたいだな。

 

  ま、あながち間違いでもないんだけど。え、なんでかって?その理由はただ一つ、俺の中にあるものがいるからだ。

 

『何さっきから一人で騒いでんだ?』

 

 そう、エボルト(こいつ)がな。

 

  エボルト。とある世界の地球外生命体で、星を崩壊させてそのエネルギーを自分のものにする、かなりヤベーやつである。

 

  こいつは生まれた時から俺の体内にいて、ずっと一緒にいる。飯食うときも風呂入ってる時も、四六時中ずっとだ。

 

  なんでそんなの飼ってんの?っていう質問に答えると、俺もわからん。なんか気がついたらいた。

 

  んで、前世の記憶を持っていて、特撮好き…中でも、仮面ライダービルドがかなり好きだった俺は、当たり前だがこの星狩りだけは勘弁してくれと思った。

 

  だがこのエボルト、ビルドジーニアスによって喜怒哀楽すべての感情を手に入れ、さらに俺を転生させた女神が教育した特別製らしい。

 

  どうやらその女神とやらに俺はあったことがあるらしいが、制限がかかってるため覚えてない。なのでそこは割愛する。

 

  女神教育の結果、エボルトはいい意味で人間が大好きになったようだ。それなら安心と、俺はこいつを受け入れた。今じゃあるやつを除けば唯一無二の親友だ。

 

『よせやい、照れるだろ』

 

 はいはい。

 

  とまあ、そんなわけで生まれてからこいつと一緒にいる。あ、ちなみにパンドラボックスは5歳の誕生日にいつのまにか部屋にあった。

 

  転生してからは、前世がしがらみの多い人生だったので自由気ままに生きてる。やりたいことをやりたいように、だ。

 

  とりあえず、転生特典でハザードレベルの上がりやすい体を与えられたらしいので、とにかく鍛えて鍛えて鍛えまくった。

 

  山籠りしてるときに、鍛えてますからが口癖のおっさんと知り合ったりしたけど、とにかく鍛えた結果、ハザードレベルが測定不能になった。嘘だと言ってよバーニィ。

 

  あとは親友作ったり彼女作ったりエボリューションしたりして、現在高校生である。とりあえず全力で人生エンジョイってます。

 

 はい、自己紹介終わり。

 

『あ、終わったか?じゃあさっさと入れよ』

 

「ほいほい」

 

  んでもって、今は教室の扉の前。エボルトに急かされたので中に入る。すると複数のやつに囲まれてるあるやつの背中が見えた。

 

「だからーー」

 

  むっ、世界で一番嫌いな男を発見。これより攻撃シークエンスに入る。

 

『おい、あれやるのか?』

 

 おう、脳細胞がトップギアだぜ!

 

  カバンを背中に固定して、腰を落とし、半身を引く。狙いをよく定める。

 

 そして右足にドンっと力を込めて……

 

「霧子さんキーークッ!!!」

 

  きりもみ回転しながらその男めがけて一直線。途中で片足を引っ込めて、足を叩きつける。

 

「ごはぁっ!?」

光輝(こうき)ーーーっ!?」

 

  必殺、俺の霧子さんキック(仮称)を受けると、そいつは吹っ飛んだ。隣にいる熊みたいなやつが悲鳴をあげる。

 

 

 ドガシャアン!

 

 

「ふう、スッキリ!」

 

  机をひっくり返しながら落ちたそいつに対し、着地した俺は爽やかに汗をぬぐった。やっぱこれに限る。

 

「シュウジ!?」

「おはようハジメ、お前も脳細胞はトップギアか?」

 

 そして側でポカーンとしていた少年ーー我が幼馴染にして親友、南雲ハジメに、俺はサムズアップしながら歯を光らせた。

 

  ちなみにこのポーズ、今世はイケメンだからいいが、前世はフツメンだったのでやったらキモいだけである(泣)。

 

『そうだな(嘲笑)』

 

 ヤメロヨォ!(裏声)

 

「っと、そういやこれ。面白かったぜ」

 

 ふと思い出して、背負っていた通学カバンを下ろして中から文庫本を取り出す。カバーが付いているが、ライトノベルだ。

 

「あ、それ貸してた本。ありがとう」

「南雲くん、何それ?」

 

 俺がハジメにラノベを渡していると、それを横からひょいと覗く少女が。見慣れた少女である。

 

 その少女は名を白崎香織(しらさきかおり)という。別名白っちゃん(呼んでるの俺だけ)。学校で二大女神と言われ、男女問わず絶大な人気を誇るとてつもない美少女だ。 

 

 腰まで届く長く艶やかな黒髪、少し垂れ気味の大きな瞳はひどく優しげであり、スっと通った鼻梁に小ぶりの鼻、そして薄い桜色の唇が完璧な配置で並んでいる。 

 

  文字通り黄金比を体現したような美貌だが、〝雫〟の方が絶対可愛い。うん、これ世界の真理(大げさ)。

 

「よー白っちゃん、おはよーさん」

「あ、おはようシュー君!またギリギリに来たね」

「おう、まあにゃー。なんだ、はじめんと同じように注意でもするか?」

「いやシュウジ、はじめんって何よ……」

「ふふっ、そんなことしないよ?小さい頃からなんだもん」

 

 そう白っちゃんとやりとりをしていると、今までハジメにのみ向いていた嫉妬と怒りの視線が俺にも注がれる。

 

  が、前世は殺意と悪意の中心にいた俺には、この程度無駄無駄無駄ァ(ラッシュはしてません)!

 

 しかし、悪感情には人一倍強く、同級生(こいつら)のように平和ボケした奴らの殺気なんざ歯牙にも掛けない俺がハジメに対しての視線に思うところがないかと聞かれれば、絶対に否だ。

 

  よってハジメを変な目で見ている奴ら全員に、文句あんならお前らも霧子さんキックぶっ込んでやろうか?あ?って顔しといた。

 

  するとあれよあれよと言う間に、視線を外す軟弱者ども。俺が187cmとかいうバカでかい体してるのもあるだろう。

 

  ちなみにスタイルは抜群である。脱いだらすごいぞ?もう腹筋とかバッキバキ。それでいて腰にくびれもあります(自慢)。

 

 そもそもただの一介のオタクであるハジメがなぜクラスメイトたちから敵意を向けられ、その原因たる存在である白っちゃんに話しかけられているか。

 

『話をしよう、あれは今から36万……いや、1万4000年前だったか』

 

 エルシャダイじゃねえんだよ。

 

 まず、俺の幼馴染かつ親友であるハジメはオタクだ。創作物、漫画や小説、ゲームや映画と、そういうものが好きである。

 

  また、両親もそちら関連の仕事をしているのでなるべくしてなったとも言える。まさにエリートオタクなのである。

 

  ちなみに俺も前世からそういうジャンルのものは大好物で、よくハジメと一緒にアニメ全クール夜通しとかしてる。昨日もした。

 

『マジで全裸になって観てたなお前ら……』

 

  いやほら、それは深夜テンションがアレしてアレしたんだよ(必死)

 

 しかし別にオタクだからといって、ハジメは本来ならここまで敵愾心を持たれるいわれはない。

 

  外見にしたってパッとしないものの、髪は短く切りそろえているし、寝癖もない。別に寝てる間にリーゼントとかにしてない。

 

  体型にしたって、極端に太っているわけでもなければ、かといって痩せぎすなわけでもない。てか俺と小学校の頃から鍛えてる(強制)から細マッチョ。

 

  ちなみに好きなキャラの違いでよく殴り合いになる。前世の家業で習った寝技なんか教えるんじゃなかった。後悔。

 

  コミュニケーション能力もしっかりしている。成績は平凡、運動能力はぶっ壊れ性能になりかけてる。

 

  基本的に〝趣味の合間に人生〟のスタンスで生きているため趣味を優先しがちで、学校での生活が少々だらしない。

 

  けど、俺は知ってる。その気弱な笑みの中には見知らぬ人でも助けられる優しさが秘められていることを。

 

  それが、俺の知る南雲ハジメという人間だ。

 

  無駄に暑苦しかったり、逆に冷たすぎたりしない、まさに理想の親友である。もうまじ最高、女の子なら好きになってる。

 

『おい、俺は?』

 

 お前は俺の半身だろブラザー。

 

『ヤッター/(°▽°)/』

 

 な、の、だ、が。

 

 人間っつーのは面倒なもので、そんなハジメと同じ〝平凡〟である男子生徒たちは、クラスのマドンナ的存在である白っちゃんに話しかけられていることに「なんであいつだけ!」と嫉妬を向けてるわせだ。

 

  逆に、女子生徒たちは面倒見がよく責任感が強い白っちゃんに、何度も笑顔で話しかけられているのに〝趣味の合間に人生〟の生活態度を改善しないことにイラついてる。

 

  まあ、こっちはそうでもない。俺がビルドでいう石動ポジで、なんとか仲を取り持ってるので。せいぜい呆れてるくらいだ。

 

 ここで親友ならば俺がハジメの生活態度を直してやるべきではないのか、とでも誰かが言いそうなものだ。

 

 だが断る!(ドヤ顔)

 

『ええ……』

 

  あいにく、そこらの有象無象の意見なんざどうだっていい。俺的には今のハジメがベストマッチ!なのだ、むしろずっとこのままでいい。

 

  それに、もうエボルト同様生まれてからの付き合いだ。やるときはやるということがよくわかっている。

 

 だからこそ、こんな空気の教室でも平然とハジメに話しかけ、周りを切り捨てている。感情がない頃のエボルトくらい興味ないね。

 

  俺の中での優先順位は一に楽しいこと、二にハジメと彼女、三に趣味のこと。あとは知らん。

 

 それで大丈夫なのかというと、ちっぽけな悪意を気にする性格ではないし、物理的にかなり強いので無問題。

 

  つか、人間としてとある一部分が壊れている俺からしたら、前世と同じような世界なら面倒なので全員殺してる。

 

 それにさあ、俺知ってるんだよね。白っちゃんがまだ自覚してないだけで、〝あの時〟以来ハジメのこと好きなの。

 

『恋する乙女の邪魔をするなんてとんでもない!』

 

 だろ!?さすがブラザー、わかってるね!

 

 でもなぁ。ハジメ彼女いるからなぁ。

 

 

 

 それも踏まえて結論。俺は現状維持を望みます!てか邪魔する奴は実力で黙らせます!

 

 

 

  流石のクラスメイトたちも、俺相手に自分から挑もうなどとは考えはしない。誰だって無駄な怪我を負うのは嫌なのだ。

 

「それじゃあそろそろ…」

 

 今日もいつも通り、ハジメが白っちゃんに会話を切り上げる挨拶をして終わりかと、そう思った時。

 

「お、おい北野、いきなり酷くないか!?」

「あ?」

 

 あーめんどくせーのが起きちまったよ。

 

『いや、それなら蹴らなきゃいいんじゃ……』

 

 すまん、本能だから!

 

『本能覚醒!ってか?』

 

 いやそれはジュウオウジャー。

 

『アーァーアァアー(イケボ)』

 

  エボルトと会話しながら、俺は仏頂面でそいつに振り返る。すると立ち上がったそいつは俺をにらんでいた。

 

 天之河光輝(あまのがわこうき)。いかにも勇者っぽいキラキラネームのこのサノバビッチ(クソ野郎)は、容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の完璧超人だ。

 

 サラサラの茶髪と優しげな瞳、百八十センチメートル近い高身長に細身ながら引き締まった身体。誰にでも優しく、正義感も強い(思い込みが激しい)。

 

  加えて、おそらく俺が世界で一番嫌いな男である。 前世で死体の山を築き上げた俺からすれば、こいつの存在は甘すぎて毒に等しいのだ。

 

「おいおい光輝(こうき)、また喧嘩はやめてくれよ」

「龍太郎の言う通りね」

 

 さらに畳み掛けるように、光輝の後ろにいた男子生徒と女子生徒が声を発する。

 

 男子生徒の方が、坂上龍太郎(さかがみりゅうたろう)

 

  天之河(ゴミ)の親友であり、短く刈り上げた髪に鋭さと陽気さを合わせたような瞳、百九十センチメートルの身長に熊みたいな体格、見た目に反さず細かい事は気にしない脳筋。

 

 こいつは努力とか熱血とか根性とかそういうのが大好きな人間なので、ハジメのように学校に来ても寝てばかりのやる気がなさそうに見える人間は嫌いなタイプらしいのだ。

 

 故にどこかハジメを見下しており、 俺は一発でこいつが嫌いになった。人間皆千差万別、お前の好き嫌い押し付けんな。

 

『全く愚かだ。だからこそ人間は面白い!』

 

  おーいエボルトさーん昔のあなた出てますよー。

 

 んで、女子生徒の方が……

 

「おはようシュー。彼女に対して挨拶もなしなんて、冷たいわね?」

 

  人目をはばからず、そいつは俺に抱きついてきた。それはもう、背中に手を回してぎゅーっと。

 

  おっほ(メロン)の感触が……いかんいかん。俺としたことが、最愛の人に挨拶もなしなんてロクデナシにもほどがあるぜ。

 

『ロクデナシッ !ロクデナシッ !』

 

 ヤメロヨォ!(2回目)

 

「おーごめんよ雫、我が愛しのプリン「だーめ、許さないわ。んっ♪」んむっ!?」

 

  突然、そいつは俺の唇を奪った。今度は悪意ではなく、女子どもはきゃーっ!と黄色い声をあげ、男子どもはまたかよこの野郎的な感じの目線をよこしてくる。

 

  それから数秒して、ようやくそいつは離れる。恥ずかしさで文句を言いたい気分になったが、しかし「ん?」と可愛らしい仕草で見上げてきて、結局何も言えなかった。

 

『ふん、雑魚め』

 

 ねえさっきからあたりキツくない?

 

  ……ごほん。そろそろ紹介した方が良いだろう。

 

 こいつの名前は八重樫雫(やえがししずく)。白っちゃんの親友であり、俺の最愛にして最強、最高の彼女だ。

 

  ポニーテールにした長い黒髪と、それを纏めている三日月の形をしたレリーフがついているヘアゴムがトレードマークである。ちなみにこれ俺の手作り。

 

 切れ長の瞳は鋭く、しかしその奥には柔らかさも感じられるため、冷たいというよりカッコイイという印象を与える。

 

  百七十二センチメートルという女子にしては高い身長と引き締まった身体、凛とした雰囲気は侍を彷彿とさせる。きゃーカッコいー抱いてー!

 

『いやお前いつも抱かれてっつーより抱いて……』

 

 シャラップエボルトくん!

 

『アッハイ』

 

 事実、雫の実家は八重樫流という剣術道場を営んでおり、雫自身、小学生の頃から剣道の大会で負けなしという猛者である。

 

  現代に現れた美少女剣士として雑誌の取材を受けることもしばしばあり、熱狂的なファンが多数いる。

 

 え、俺?筆頭ファンですが何か?

 

『それどころかお前、ファンクラブ立ち上げたじゃん。会員No.1じゃん』

 

 シッ、秘密なんだから。

 

 ちなみに、八重樫道場には天之河も通っており、その腕は雫に負けず劣らずといったところだ。超絶どうでもいい。てか死ね。

 

「お、おお。すまん雫。おはよう」

「うん、おはよう♪ んっ♪」

「むぐっ」

「「「2回目、だとっ!?」」」

 

  こいつらどんだけイチャイチャすりゃ気がすむんだよ。クラスメイトと隣のハジメのジト目がそう言ってる気がした。

 

 白っちゃんと同等レベルに人気の高い雫の彼氏であることに対してまたしても男子生徒の嫉妬の感情が湧くのではないかと言う心配はない。

 

  なんでかって?俺たちの中は高校入学当時から知れ渡ってて、そのラブラブ具合は全世界最強だからだ!

 

『よっ世界一!』

 

 はっはっはっ、もっと褒めたまえ!

 

『と言うと思ったか!』

 

 ダニィ!?

 

  それに、今世の俺の外見はかなり整ってる。成績も余裕で校内一位を維持しており、十分周りから見ても釣り合っているわけだ。

 

  つーわけで、文句あるやつかかってこいやァ!

 

『ビリッ……』

 

  おいエボルトさんジーンズ裂ける音やめて!?

 

「ご、ごほんっ。そろそろいいか?」

 

 少しずつ周りが桃色になり、三回目いっちゃう?いっちゃう?よし操って窓から飛び降りさせるわ、やめてください死んでしまいます、なんてやり取りをしてると、ゴミの声が。

 

  不機嫌になった俺を雫がまあまあとなだめ、なんとか会話のできる雰囲気にする。ケッ、腹立たしい。

 

「と、とにかく南雲、さっきも言った通り、いつまでも香織の優しさに甘えないことだ。香織だって君に構ってばかりはいられないんだから」

「だから光輝くん、私は私が南雲くんと話したいから話してるんだってば」

「………ハァ」

 

  それを聞いたハジメの、いかにも面倒そうなため息を聞いて、俺の中で小さくプチッと言う音が鳴った。

 

  同時に白っちゃんの発言にクラスがざわめき、普段俺がいない時に悪い意味でハジメに絡んでいる檜山とその仲間の四人組は恨めしげな顔をする。

 

  が、ちょっくら本気の殺気を多分に含んだ目を向けられるとすぐに目をそらした。弱い。いっそのことそのまま出てけ。

 

  雑魚どもをそっちのけに、俺は天之河の肩に手を置くと、骨が砕けないギリギリの力で掴みながらヘラヘラと笑った。

 

「おいおーい、天之河さんよぉ。別にハジメは白っちゃんに対して甘えたことなんて一度としてねぇし、そもそも白っちゃん違うって言ってるぜ?自分至上主義のご都合解釈も程々にしとけよぉ〜。じゃないと……殺すぞ?ア"ァ?」

 

『おい、本性出てるぞ』

 

 えーなんのことかぼくわからなーい。

 

「な、何をいってるんだ北野? 俺はただ、やる気のない南雲に注意をしていただけであってーー」

 

 プチッ、と何かが切れた。

 

「それが妄想だつってんだろうがよ!なんでハジメの生き方をお前に強制されにゃならん!こいつにはこいつの好きなことがあって、それに熱意を向けてるだけだ!テメェとハジメは違う人間だって、一体何百回言やぁわかんだこのおぼっちゃまが!」

「シューッ!」

 

  雫が叫ぶ。それにハッとして、自分の手の中にエボルトの赤いオーラが集まっていることに気づいた。

 

  内心慌てながらそれを霧散させ、またヘラヘラとした仮面を被りなおす。そしてポンポン、と天之河の肩を叩いた。

 

「とにかく、気をつけろよ〜」

 

 そう言うのと同時に、タイミング良いのか悪いのか始業のチャイムが鳴り響いた。

 

  それと同時に教師が教室に入って来て、俺はハジメを促して自分の席に向かう。また歯止めが効かなくなったらたまったもんじゃない。

 

  んで、教師の方は見飽きたのか、何事もないように朝の連絡事項を伝える。そして当然のごとく授業が開始された。

 

 ふとハジメの方に目線を向けると、雫がこっそりとハジメに向かって謝罪している。それに肩をすくめて答え、腕を枕に夢の世界に旅立つ親友。

 

 さてさて、そんじゃあ俺も寝ますかねー。

 

『昼になったら起こしてやるよ』

 

 んーさんきゅー。

 

『某旦那の声で起こしてやるよ』

 

  ハリーハリーハリー!とか言わねえだろうな?

 

 

 ●◯●

 

 

 教室のざわめきに、僕……南雲ハジメは意識が覚醒していくのを感じた。

 

「……んにゅ」

 

  居眠り常習犯なので、起きるべきタイミングは体が覚えている。その感覚から言えば、どうやら昼休憩に入ったようだ。

 

 僕は突っ伏していた体を起こし、お弁当をゴソゴソと取り出す。シュウジの作ったものだ。なんかあいつ、女子力異常に高いんだよね。

 

  パカッと弁当を開けながら、何となしに教室を見渡すと、購買組は既に飛び出していったのか人数が減っている。

 

  それでも僕たちの所属するクラスは弁当組が多いので、三分の二くらいの生徒が残ってた。

 

  それに加えて、四時間目の社会科教師である畑山愛子先生(二十五歳)が教壇で数人の生徒と談笑していた。

 

「私が来た!」

「あ、うん」

 

  と、そこで幼馴染にして、親友であるシュウジが来た。なんか顔が劇画調になってるように見える。

 

 ふと後ろを見ると、八重樫さんが残念そうな顔をしている。なんであっちと食べないんだろ。天之河くんが嫌いだからかな。

 

『その通りだぜ。なんか天之河の近くの空気吸いたくないんだと』

 

  あ、エボルト。そうなんだね。シュウジの天之河くん嫌い、相変わらずだなぁ。

 

  僕は、エボルトのことを知ってる。シュウジに前世の記憶があることも。だからって、なんてことない。

 

  シュウジはシュウジだ。僕の唯一無二の親友で、兄弟みたいな、家族みたいな、そんなやつ。そこに前世がどうとか関係ない。

 

  と、それはともかく。いそいそと机をくっつけて、二人で弁当を食べる。シュウジがハイテンションに喋って、僕がツッコム感じだ。

 

「ハジメ、いるー?」

 

  十分くらい経った頃、不意に教室の入り口から僕の名前を呼ぶ声が聞こえる。そちらを振り向くと、そこには一人の女の子がいた。

 

「おー空っち、こっちこっち!」

 

  シュウジが空っちって呼んだ女の子は、僕たちを見つけるとパッと笑顔を咲かせて、トテトテと教室に入ってくる。

 

  クラスメイトたちが見る中、可愛らしい容姿の女の子は、机を一つ動かして僕たちの…というか、僕の隣にくっつける。

 

  そうするとストン、と椅子に腰を落として、僕に肩をくっつけて来た。対面のシュウジがニヤッとする。

 

「おうおうお二人さん、熱いねぇ」

「えへへー」

「ちょ、ちょっと美空(みそら)……」

 

  笑顔でくっついてくる女の子……石動美空(いするぎみそら)に、僕はたじろいだ。でも彼女は離してくれない。

 

  石動美空。中学時代からの、僕の彼女。白崎さんや八重樫さんに勝るとも劣らない……いや絶対優ってる美少女。

 

  すべすべとした白い肌に、桃色の唇と通った鼻筋。薄い緑色の瞳はとても綺麗で、彼女のチャームポイントだ。

 

  毛先に軽くパーマをかけた黒髪はボブカットになっており、首筋に触れて少しくすぐったい。

 

  こんな可愛い彼女がいるのも、僕が疎まれてる理由の一つだったりする。シュウジのキツい鍛え方に耐えてるのは、いざという時彼女を守れるためである。

 

  しばらく僕にくっついた美空は、持ってきた弁当を食べ始める。もう一人増えて、三人で賑やかな食事が始まった。

 

  そうして楽しい時間が流れていくのだが……不意に、本能が警鐘を鳴らす。僕と混ぜたら危険な何かが、近づいていると。

 

「南雲くん珍しいね。教室にいるの。よかったらお弁当、一緒にどうかな?あ、できればシュー君も」

 

  そしてそれは、天使のような、あるいは悪魔の笑みとともに現れた。白崎香織と言う名の、劇薬が。

 

  まずい、全裸でアニメ見ながら徹夜なんてするんじゃなかった。寝ぼけていて、普段ならすぐにわかる白崎さんの接近に気づかなかった。

 

  シュウジの方を見たら、あっやべって顔してた。ていうかエボルトが半分乗っ取ってるのか、右顔が笑ってる。

 

『ヒャッハー修羅場だぜぇ!』

 

 なんかものすごく楽しそう!?

 

  って、そうじゃなくて。いや、もう本当になしてわっちに構うんですか?と意味不明な方言が思わず飛び出しそうになりながら、僕は抵抗を試みる。

 

「……香織ちゃん、今は私とハジメがご飯食べてるから、天之河君たちのとこに行ってくれないかな?」

 

  が、その前に隣の美空がひどく低い声を出した。えっなにその声怖い、そんな声シュウジとアハーンなDVD見てるのバレた時以来なんだけど。

 

  ピシッ!と何かが割れる音を響かせながら、なおも白崎さんは笑顔を崩さない。白崎さん、強い。

 

「……なんでそんなこと言うのかな?別に、私も一緒に食べてもいいでしょ?」

「ダメ。ハジメは私のものなの。彼氏と彼女、わかる?わかったら()()()()()()()()()()()()は仲良しの天之河君たちのところに行ったら?」

 

  ピシピシピシッ!とさらに亀裂が入る。そのうちオォラァッ!とか聞こえて来そうだ。というかシュウジinエボルトが、いつのまにかブレザーとシャツを脱いで〝愉悦〟と大きく書かれたシャツで踊っている。

 

  それに少しイラッとしてると、いつのまにか美空と白崎さんの間で火花が散っていた。なんでだろう、僕にはさっぱりわからない。

 

『ハッ、雫からテレパシーが!?』

 

  急に頭の中にエボルトの声が響いて、シュウジの体が踊りをやめる。そしてシュウジに戻ったのか、目の色が赤から黒に戻って後ろを振り返った。

 

  つられてそっちを見ると、八重樫さんがどこか期待したような目でこちらを見ていた。シュウジがうっと息を詰まらせる。

 

  八重樫さんがこっち来〜い、こっちに来〜いとシュウジに電波を送り、それに苦しんでいる間に、事態は進む。

 

「おいおい、喧嘩は良くないぞ」

 

  いつの間にやら、天之河君が近くに来ていた。それに付き添うように坂上君もいる。八重樫さんは電光石火の速さでシュウジの膝の上にいた。見えなかったんですけど。

 

  それから僕の前で、火花を散らす二人、それにあれこれ言うも全スルーの天之河君、ため息をつく坂上君、シュウジにゴロゴロと甘えている八重樫さんと、カオスな空間が出来上がった。

 

 肩身がせまいどころか、息苦しくて死にそうである。たまにシュウジとエボルトが切り替わってこっちに変顔してなかったら萎縮しきってた。

 

「……………はぁ」

 

  深くため息を吐く。目の前の人たち……シュウジたちを除いた全員を見て、僕はふとありえないことを考えた。

 

 

 

 

 

  もういっそ、こいつら全員異世界召喚とかされないかな?と。

 

 

 

 

 

  どう見ても天之河くんたち、そういう何かに巻き込まれそうな雰囲気ありありだろうに。どこかの世界の神か姫か、あるいは巫女か。誰でもいいので召喚してくれませんかー……。

 

 現実逃避のために、内心電波を飛ばす。さて、そろそろシュウジが何か、天之河君に対して爆発するかな。

 

「あのーみんな、そろそろ……」

 

  それを止めるために、いつも通り苦笑いでお茶を濁して退散するかと腰を上げかけたところで……凍りついた。

 

 突如、天之河君たちの足元に純白に光り輝く円環と幾何学模様が現れたからだ。その異常事態に、直ぐに周りの生徒達も気がついた。

 

  僕を含めた全員が金縛りにでもあったかのように輝く紋様、俗に言う魔法陣らしきものを注視する。

 

 その魔法陣は徐々に輝きを増していき、一気に教室全体を満たすほどの大きさに拡大した。な、なにこれ!?

 

「……あー、これ行くな」

『いっちまいますなぁ』

 

  そんな中、たった一人……いや二人だけ、非常に冷静な人物がいた。シュウジとエボルトだ。

 

「ふ、二人とも、どうしてそんな……」

「ーーハジメ。俺が嫌いな人間のタイプ、三つあげてみ?」

「こんなときになに言ってんの!?」

「ほれほれ、早よ早よ〜」

 

  どんどん魔法陣の光が強くなる中、ムカつく顔で煽るようにいってくるシュウジに、僕はヤケクソ気味に言った。

 

「冗談が通じない人、何かしてるときに邪魔する人、自分の平穏を奪う人だよ!それがどうかしたの!?」

「Exactly!さすが我が親友、わかってるね!んでさ、この状況で当てはまるのはどれだと思う?」

 

  片手で八重樫さんを抱きながら、シュウジはパチン!と指を鳴らして僕に問いかける。だんだんイライラして来た。

 

「一体何を……」

 

  そこまで言って、僕ははたと気づいた。ニコニコと笑うシュウジの、黒と赤のオッドアイが、一切笑っていないことに。

 

  シュウジの嫌いなタイプ。それは、冗談が通じない人、何かしてるときに邪魔する人、そして自分の平穏を奪う人。

 

  まさにこの状況に、全て当てはまる。だとするならば、今のシュウジと、エボルトは……

 

「もしかして、二人ともーー」

「さーて、これを引き起こした奴はどーんな面白い言い訳してくれんのかねぇ?」

『ハッハッハッ、何にせよ……』

 

 

 

 

 

  その瞬間ーースッと、シュウジから表情が抜け落ちた。

 

 

 

 

 

「『ぶち殺す』」

 

  それを聞いたのを最後に、視界が白く染まった。その中で、僕は必死に美空を抱きしめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そして数秒か、数分か。

 

  光によって真っ白に塗りつぶされた教室が再び色を取り戻す頃、そこには既に誰もいなかった。

 

  蹴倒された椅子に、食べかけのまま開かれた弁当、散乱する箸やペットボトル、教室の備品はそのままにそこにいた人間だけが姿を消していた。

 

 この事件は、白昼の高校で起きた集団神隠しとして大いに世間を騒がせるのだが、それはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《HELLO EVERYONE !》

 

 

 

 

 

 

 

《THIS IS THE UNKNOWN MOTHER GOOSE》

 

 

 

 

 

 

 

《ARE YOU READY?》

 

 

 

 

 

 

 

《READY GO !》




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