星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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どうも、ありふれたの5話を見てこの回完全に無駄じゃねえ?と思った作者です。

シュウジ「うす、シュウジだ。前回は砂漠で迷子の兄ちゃんを助けたな」

ハジメ「猫みたいにいうなよ……てかフィーラー完全ゴ◯ラとかそんな感じの生物だな」

ユエ「でも、読者さんからの印象、薄い」

ウサギ「作者の文章力不足。アクセス数的にも」


作者:グフっ(グサリ


香織「そ、そんなこと言っちゃダメだよウサギちゃん!」

美空「事実だしいいでしょ。で、今回はアンカジとやらに向かうみたい、それじゃあせーの!」


「「「「「「さてさてどうなる真実編!」」」」」」


アンカジ……なるほど、だいたいわかった。

「なるほど……話はだいたいわかった」

「はい……」

 

 腕組みをしていうハジメに、褐色肌の兄ちゃん……【アンカジ公国】王子ビィズ・フォウワード・ゼンゲン君はうなだれる。

 

 ん?説明飛ばしただろって?しょうがないなぁ。ここはお兄さんがみんなのために説明してしんぜよう!どう?嬉しい?

 

『ウゼェ』

 

 辛辣ゥ!……こほん、ではでは。

 

 ランズィっていう領主のおっさん……つまりビィズ君の親父さんが治めるアンカジ公国は海産物の運搬の要所で重要な場所である。

 

 んでもってハイリヒ王国の中でも信頼の高い大貴族なわけだが、そんな公国で四日前、謎の高熱で多くの人が倒れた。

 

 原因は不明、医療関係の人間が総出をあげて治療・究明に当たったが結果は芳しくなく。せいぜい症状を遅らせるのが精一杯。

 

 さらにはそいつらの中からも発症者が出た。治癒の魔法を使えるやつも手が足りず、混乱の中……いよいよ死者が出た。

 

 治療を受けなきゃたった二日で死ぬという事実にさらに大混乱。そんな折に一人の薬師がふと水を鑑定してみたら、毒が検出された。

 

 すぐさま調査をしたところ、なんと水源のオアシスが汚染されていたのだ。砂漠にある国としては、当然大打撃である。

 

「で、魔力の暴走を鎮める〝静因石〟と飲める水の調達に護衛隊を連れて領主代理として国を出たは良いものの、あんたも病気にかかってて行き倒れた、と」

「ああ……両親も妹も病に倒れ、民たちが苦しんでいる中情けない……!」

 

 ありゃりゃ、こりゃ随分と気に病んでるみたいだねぇ。ま、見るからに責任感強そうだしそうもなるか。

 

 でもそのおかげであっさり飲み込まれちゃった護衛隊と違ってサンドワームのスイーツにならなかったんだから良いのか悪いのか。

 

『いや悪いだろ』

 

 でぇすよねぇ。

 

「君たちに、いや貴殿達にアンカジ公国領主代理として依頼したい。どうか、私に力を貸してはくれないだろうか」

 

 深く頭を下げるビィズ君。領国とはいえ一国の王子みたいな存在が頭を下げるのは、それだけで重要な意味だ。

 

 しばし、車内が沈黙に包まれる。ああいや訂正、おもり役のウサギと天使二人が戯れる声は聞こえてる。

 

「さてさてみなさん、どーするよ?」

 

 そう聞けば、我が仲間達は俺を除いて二つの反応に別れた。明らか助けたそうな顔をするやつか、それとも無表情か。

 

 前者はとーぜん美空やシアさんをはじめとした優しい奴らで、後者はハジメやユエ、足プラプラさせてるエボルトなどなど。

 

 とりあえずエボルトの座ってるとこに摩擦度を下げる魔法かけてすっ転ばせながら、答えを聞く。

 

『テメェ後で覚えとけよ……!』

 

 あらやだ怖い(棒読み)

 

「私は、助けたい。それが治癒師(わたし)の仕事だし」

「わ、私も!」

「できれば助けてほしいですぅ」

「だとよ色男さん?」

 

 優しいトリオ……性格ゆえかシアさんは二人とすぐ仲良くなった……が視線を向けるハジメにからかうような口調で問う。

 

 口を真一文字に結んだハジメは、隣にいるユエを見下ろす。ユエは何も言わず頷くだけ、いつも通りハジメに委ねるスタンス。

 

 次いでウサギ達をみると、チビたちを抱きしめてむふーっとしてたウサギはサムズアップした。隣のティオも頷く。

 

「パパ、助けてあげないの?」

「…………」

 

 おおっとここでミュウ選手から無邪気な質問だァ!これにはハジメパパの無表情も苦笑いに《ドパンッ!!》うわっ銃使った。

 

「な、なんだ今のは……!?」

「突然実弾を発砲とかひどない?」

「変なこと考えるお前が悪い、ていうか避けられるから問題ないだろ……まあ、仕方がねえな。俺は良いよ」

 

 やれやれって感じで頭をかくハジメ。三人の顔がパッと明るくなり、わーっと抱きついた。また苦笑して受け止めるハジメ。

 

 うーむ、ハジメもだいぶ柔らかくなってきたな。美空はともかく、他二人も受け止めるとは。私はとても嬉しいです。

 

『お前はどのポジだ』

 

「そういうお前はどうなんだよ」

「俺ちゃん?」

 

 そりゃあ、最初から決まってる。もちろん俺は、アンカジ公国の人間たちを……

 

「……シュー」

「雫?」

 

 不意に、雫がアロハシャツの裾を握ってきた。その消え入りそうな声に、少し驚いて彼女を見る。

 

 雫は、なぜかとても悲痛そうな目をしていた。わずかながら指は震えており、まるで何かを恐れているようだ。

 

 こいつどうしたんだ?とルイネにアイコンタクトをとるも、ルイネもルイネで神妙な顔で目を伏せる。

 

「お前らどうしたんだ?」

「……助ける…………よね?」

「あ、ああ。今そう言おうとしていたが」

 

 今更なんでそんなことを? そう思いつつ答えると、雫はホッとした顔をした。ルイネもふっ、と小さく息を吐くのが聞こえる。

 

 ……わからん。こいつらのことなら大抵わかるつもりだが、どうしてこんな反応をされてんのか検討がつかねぇ。

 

『ホルアドのでビビってるんじゃね?』

 

 いや二人とも俺の本性知ってるんだから今更ないだろ……まあ、わからんこと考えても仕方がないか。今はアンカジのことだな。

 

「で、依頼の内容はあんたをアンカジまで帰すこと、静因石を取ってくること、それと使える水の確保だな?」

「あ、ああ」

 

 聞けば静因石は【グリューエン大火山】で採取できるらしい。それを取りに行ける国の冒険者は絶賛病気でおねんね中だ。

 

 アンカジ公国の人口は27万人超、相当量が水と一緒に必要になるが……大魔法使いのユエさんや異空間がある俺たちにゃ関係ない。

 

 まっ、ちょーど【グリューエン大火山】の大迷宮を攻略しにいくとこだし、元々リベルたちはアンカジで留守番させようと思ってた。

 

「タイミングとしちゃ渡りに船ってとこだねぇ」

「だな。おい、出発するから全員席につけ」

「ま、待て!王国に行くんじゃないのか!?」

 

 はーいと返事をして座り始める皆に、ビィズ君が慌ててハジメの肩を掴んで叫ぶ。

 

「あ? なんで」

「なんでって……先ほど〝金〟のプレートを見せてもらったから冒険者は貴殿達でいいとして、水が必要だろう!」

「ああ、心配すんな。アテはある。だからさっさと座れ。じゃないと後部ガラスに張り付く羽目になるぞ」

 

 有無を言わさぬ口調でいうハジメに、ビィズ君は困惑しながらも機嫌を損ねるのは良くないと判断したのだろう。大人しく座る。

 

 それを確認して、ハジメが魔力操作でシートを通常モードに戻すとハジメが運転席に、俺が助手席に乗り込み発進した。

 

 急発進によって突然正面からGがかかったビィズ君が「うわぁ!?」と転げる音がした。エボルト回収しといてー。

 

『おーう、ついでに着くまでの間にこいつの解毒しとくわ。いざって時話せる奴いねえと困るし』

 

 サンキュー相棒……さて。

 

「なんでさっきからそんなジト目向けてくるのん?」

「お前、また八重樫に心配かけるようなことしたろ」

「ええ……(困惑)」

 

 まさかの決めつけられたでござる。えっ問答無用で俺が悪いの?

 

 とりあえずルイネの龍の耳で聞こえちゃうので後部座席と前を隔てる壁をポチッとなしてから話しをはじめる。

 

「そりゃ確かに普段から色々ふざけちゃいるが、あんな顔させるようなことは絶対にしない。それは約束できる」

「んなことはわかってんだよ、親友歴十七年だぞ。それを踏まえた上で、何かやらかしたんじゃないのかっつってんだよ」

「うーん……」

 

 首をひねるが、心当たりはない。まるで目の前に広がる砂嵐に包まれた砂漠のごとく理由は不明瞭だ。

 

 強いていうならば、この前のこと。でもそれはあの時説教されたことで一応は決着ついたし、雫も普通そうだった。

 

「それ以外となるとわからんなぁ」

「そうか…………まあ、なんだ。マジで困ってたら相談くらい乗ってやるよ」

「……ハジメ」

 

 やだなにこのイケメン。ちょっと照れてんのか頬が赤いが、やけにその横顔がキリッとして見える。

 

 普段はヒドゥイ扱いされてるが、昔から悩んでる時には真っ先にこう言ってくれる。やっぱ、そこは変わってねえんだな。

 

 ……まったく。今世の俺は、この身に余る奴らばっか近くにいるねぇ。

 

「へへっ、そんじゃあ晩飯一回でどうよ」

「別にそういうのは……ってのは野暮だな。乗った」

 

 パシン、と軽くハイタッチしながら、俺たちはアンカジ公国を目指すのであった。

 

 

 ●◯●

 

 

 アンカジに到着したのは、二時間くらい経ってからだった。一応緊急ってことでハジメが結構飛ばした。

 

「おー、白い。いかにもアラビアン」

「正確には乳白色って感じか」

 

 フューレン以上の外壁も、その奥に見える建築物も軒並み乳白色。あれでタージマハルとかあったら面白い()

 

『完全インドじゃん』

 

 踊ってるインド人ってどんな歌で動画作ってもだいたいあってるよね。

 

 タージなマハルはないとして、外壁から伸びる光柱が砂を防いでいるようだ。遠目から見ても結構な出来の結界だな。

 

 入場門にも設置されており、完璧に砂を入らないようにしてるのがわかる。あ、門番は事態があれだからか投げやりでした。

 

 入ってすぐ、狭い通路を車で移動するのは面倒なので降りる。そしてその際、高台にあったので国を一望できた。

 

「はい、足下気をつけてなー」

「うん……わっ、すごーい!」

 

 ミュウが寝てしまったので助手席に潜り込んでいたリベルが、一緒に車を出た途端声をあげて手すりに走り寄る。

 

 バビュンとか擬音つきそうと思いつつ写真撮って追いかけてみれば、そこからはアンカジという国の全てが見渡せた。

 

「おー、こりゃあ絶景絶景」

 

 東には巨大なオアシス、そこから国中に伸びる無数の水路。北には広大な農業地帯があり、西側は領主館ってとこか。

 

 知ってはいるが、砂漠の中の水の国って感じだ。女神様からの知識としては持ってるが、やっぱり直に見ると違うねえ。

 

「美しいが、人気はないか」

「そりゃあね」

 

 見てくれは美しいものの、ハジメのいう通り全体的に陰気な空気に包まれていた。こっから見てもほとんど外に人がいない。

 

 観光地でもあるのこれなんだから、どれだけ切迫した状況下にあるのかよくわかる。さっさとやることやって助けないとな。

 

「……すまない、できれば活気ある我が国をお見せしたかった。この事態が解決したら是非案内させてくれ」

「お、ビィズくん。もう大丈夫?」

「ああ、エボルト殿や、使徒様のおかげだ」

「ぶいぶい」

 

 車から出てきたエボルトがピースサインをする。どうやら解毒はうまくいったようだな。

 

 血色もいいから、回復魔法も使ったか。そのエキスパートである治癒師コンビ……カップル?……を見ると、こっちも笑顔で頷いた。

 

『ところで最近変な声夜に聞こえない?』

 

 おいバカやめろ消されるぞ。

 

「さて、時間がない。父のもとへ行こう、あの宮殿だ」

「りょーかい。ってことでリベル、さあこい!」

「がってんしょーち!」

 

 重力魔法を使って、リベルは俺の肩の上にひらりと乗った。最近ノリがわかってきた我が娘である。

 

 全員車を出たところでハジメが宝物庫にしまい、高台から繋がってる橋を使って宮殿に向かった。

 

 歩く順番は俺onリベルとハジメ、その後ろにビィズ君、美空に白っちゃん、雫とルイネ、ユエとシア、ウサギとミュウ、最後にティオ。

 

 うむ、改めて見ると随分と同行者が増えたもんだ。エボルト?すでに吸収済みですが何か。

 

『一緒の外見してるから傍目からだと混乱するしな』

 

 そろそろオリジナルの外見でも考えたら?こう、どっかの胡散臭いアラフィフ数学教授みたいな。

 

『どこのジェームズ・モリアーちゃらさんだ、ピンポイントな』

 

 ほとんど言ってんじゃん。

 

「しかし、やっぱ特産品はカレーかね?」

「どんだけインド思考してんだ。そこはココナッツだろ」

「ハジメもインドじゃん」

「久しぶりに飲みたくなったんだよ」

「割と美味しいよねーあれ」

「じゃあ私はね、ばーなな!」

「バナナな。ていうか結局インドかい」

「な、なあ」

 

 ハジメとリベルで三人、たわいもない会話をしているとビィズくんが遠慮がちに話しかけてきた。

 

「どしたビィズ君?」

「わ、私はこのままでいいんだろうか?」

 

 ビィズ君は現在、中型サイズのカマキリに乗っていた。原因は排除できても、衰弱した体力までは戻らないから配慮した。

 

 最初は魔物だとビビってたものの、車を先に見たからか、はたまたおとなしいのがわかったからか静かに乗ってたんだが……

 

「何か文句あんのか?」

「いや、そうではなく。子供もいる中、私だけ楽をしていてもいいものかと……」

「病人なんだから気にしなーい気にしなーい。俺なんて運転飽きてエボルトに押し付けて寝るとかザラだし」

 

『それは気にしろ』

 

 ちょっと何言ってるのかわかんない。

 

「そ、そうなのか?いやしかし……」

 

 ブツブツと言いながら悩んでたが、無意識に少しでも足を休めたかったのか、ビィズ君は宮殿に着くまで乗りっぱなしだった。

 

 門はビィズ君がいるので顔パスで通過、親父さんは執務室にいるとのことで子供達をティオをつけて庭に案内してもらってから向かった。

 

「父上、失礼します」

「ビィズ!? お前なん……いや待てなんだそいつは!」

 

 執務室に来て早々、親父さん突っ込む。自分の息子が巨大カマキリに乗ってきたらそりゃ驚くよね。

 

 とりあえずビィズ君はソファに座ってもらって、カマキリはおやつに鋼材あげて異空間に戻した。

 

 親父さんはしばらく混乱してたものの、息子が無事ということでとりあえず会話の席に。さすがは観光地の領主といったところだ。

 

 割とトントン拍子に話は進んでいった。息子が連れてきたということもあって一定の信頼が置かれたのが大きいかにゃ。

 

「俺がオアシス調査。ハジメたちが水の確保で、美空たちが患者さんたちの対処って感じでおk?」

 

 全員頷いたところで、各々に指示を出していく。結果こういうグループになった。

 

 俺と雫がオアシスに。ハジメ、ユエ、ウサギ、ルイネが水の確保に農業地帯で作業。美空、白っちゃん、シアさん、エボルトが医療院。

 

 ティオは念話で伝えたが、引き続き子供のお守りだ。変態なのに子守り上手いんだよね、あのドMドラゴン。

 

「んじゃ解散ー。また後でここで落ち合おうぜ」

『了解』

 

 頷いて、ハジメたちは部屋を出てそれぞれの持ち場へと向かっていく。俺も立ち、隣に座ってる雫に手を差し出した。

 

「さ、行こうかマイプリンセス?」

「もう、人前で恥ずかしいこと言わないの」

 

 そう言いつつちょっとにやけてるのが、これまた可愛いポイントである。普段かっこいいとか凛々しいとか言われてるからね。

 

 ビィズ君と親父さんの生暖かい視線を受けつつ、雫の手を握り瞬間移動でオアシスに行く。さっき見たとき座標はつけといた。

 

「はい到着」

「っと、いつも思うけどこの技能反則よね」

「超便利だけどな」

 

 軽く言葉をかわしつつ、オアシスを見る。キラキラと輝く水面は、全く毒があるようには見えない。

 

 が、看破魔法を使えばかなり紫色に見えた。おおう、こりゃダメだ。下手して大量に飲めば一日で死ぬぞ。

 

「さあて、お仕事といきますかね」

 

 

 ●◯●

 

 

「さてさて、アーティファクトでここの水は綺麗に管理されてるって話だが」

「確か、領主さんの話だと〝真意の裁断〟っていうんでしたっけ?」

「その通り」

 

 街を砂嵐から守っているあの光の正体であり、設定者の隙に入れるものを選べる結界型のアーティファクト。便利だね。

 

 さらにこのアーティファクト、探知機能もあるらしく、オアシスを害意を持って穢そうとすればすぐさま領主んとこに連絡が行くんだと。

 

 そんななかなか郵趣なアーティファクト君な訳ですが……

 

「これ、見事に中にいるわ」

「いる? 毒物が投げ込まれたとかじゃなくて?」

「うん、いる。これ魔物だわ」

 

 先ほど使った看破魔法は本来は罠を感知するための魔法だ。それに〝害〟としてくっきりと何かのシルエットが見えた。

 

「とりあえず引っ張りだすか。雫、迎撃用に刀出しといて」

「わかったわ」

 

 とはいえ、観光用のためか、桟橋とか色々あるし、淡水魚とかもまだ毒が浸透してないとこに生息してる。

 

 ならばここは技能の出番だ。念の為雫に数歩下がらせて、オアシスに手をかざすと〝念動力[+吸引]〟を発動させた。

 

「っし、釣れた!」

 

 念動力は見事にそいつを捉え、手の方へと強制的に引き込む。

 

 当然逃れようと水中で暴れるそいつだが、莫大な魔力で押さえつけると水面に向かってどんどん引き上げていった。

 

 

 シュバ!

 

 

 と、ただ身を引くのでは不十分と判断したか、無数の触手が飛び出してきて俺めがけて飛んでくる。

 

「ところがどっこい、こっちにゃ頼りになる剣姫がいるんだな」

「フッ!」

 

 瞬間、抜刀の構えに入っていた雫の剣閃が煌めく。縦横無尽に斬撃が飛び、触手を一本も残さず一刀両断した。

 

 やられた驚きのためか、そいつの動きが一瞬止まった。モチのロン見逃すはずがなく、指を折り曲げて大きく腕を引いた。

 

「これが異世界の一本釣り……なんてなぁ!」

 

 叫ぶのと同時に、水面が下から弾けた。そして紫のオーラに包まれて、十メートルほどの超巨大な影が宙を舞う。

 

 まるで水の塊みたいな濁った色をしたそいつは、一言で言やぁスライム。こっちの世界の名称だとバチェラムっつー魔物。

 

 が、通常の十倍のサイズだ。こいつは大物も大物が釣れやがったな。

 

「雫さん、やっておしまい!」

「当然!」

 

 帽子を脱ぎ、天高く放り投げる。

 

 すでに納刀を済ませた雫が跳躍し、ある程度の高さで空中で静止した帽子を踏み台に、さらに高く飛んだ。

 

 それはまさしく、天を舞う天使の如く。いや違うわ、女神だったわ。それくらいじゃないと足りないわ。

 

 とにかく雫は一瞬のうちにバチェラムに肉薄し──

 

 

 

「八重樫流〝亜流〟奥義──《音断》」

 

 

 

 文字通り、その場の音ごとバチェラムの赤く輝く魔石を一刀両断した。

 

「はっ!」

 

 パンっと弾けるバチェラムの体、その残骸がオアシスに落ちないようブラックホールを出現させて回収する。

 

「っと、おかえり」

「はい、ただいま」

 

 その間に落ちてきた雫をキャッチして、終わりだ。うむ、予定通りすぐに片付いたな。

 

「どうせだから汚れた水も回収しとくか」

 

 ブラックホールを消さずに大きさだけ調整して、看破魔法を使いながら汚染された水を虚無に還していく。

 

 それが終わると、最後に三分の一まで減ったところに[+吸引]で地下水脈から水を引っ張ってきて補充した。

 

「よし、これでいい」

「お疲れさま」

「雫もな」

 

 地面に雫を下ろして、回転しながら飛んできた帽子を受け止めて被り直す。いやー砂漠だけあって水場でも帽子ないと暑いわ。

 

「で、なんだと思う?」

「魔人族……でしょうね」

 

 この前のことがあるからか、やや遠慮がちにいう雫。笑って大丈夫だと俯いた頭を撫でつつ、その意見に同意した。

 

 あのバチェラムは、女神様からの知識にある神代魔法の一つで作られたんだろう。おおよそ毒素生成の固有魔法ってとこか。

 

「戦争前にこっちにダメージ与えちゃるって魂胆だろうな」

「そうね、愛子先生を狙ったウルの街での襲撃にこの前のこと、そしてきた大陸の要所であるこの国を狙った今回……状況は整いつつあるってことかしら」

「嫌だねぇ陰湿で………………ん?」

 

 ふとした拍子にオアシスを見ると、何かキラキラと光るものが浮いているのが見えた。

 

 異空間から鋼糸を取り出して釣り糸を投げるみたいに飛ばし、その何かに巻きつかせて手元に引き寄せる。

 

「ほいキャッチ、と」

「おおー」パチパチ

「拍手どうも。さて、こいつはいっ、た、い…………」

 

 糸を外して手の中に収めると、それがなんなのか見て………………絶句した。

 

「なにこれ、牙? さっきのスライムのかしら」

「………………………………………………」

「……シュー?」

「っ!」

 

 顔を覗き込まれて、はっと我を取り戻す。すると目の前には不思議そうな目をした雫の顔があった。

 

「どうしたの?」

「あ…………いや、なんでもない。そうだな、バチェラムの一部だ」

「そう。なら一応回収しておきましょうか、毒があるかもしれないし」

「……そう、だな」

「それじゃあ帰りましょう。あ、帰りは歩いていかない?」

「ああ、それもいいな」

 

 よかった、と微笑む雫は先に歩き始める。その後ろ姿はさっきまでバチェラムを細切れにしてたとは思えないほど軽やかだ。

 

 俺ももう一度自分の手の中にある牙を見つめて……しかし頭を振って浮かんだ考えを消すと後を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙を…………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を、異空間に放り込んで。

 




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