またネタを増やしていこうかなと思案中。
楽しんでいただけると嬉しいです。
見渡す限りの、澄み渡るような青。
空は地平の彼方まで晴れ渡り、太陽の光が燦々と降り注ぐ。だが決して暑すぎず、穏やかで過ごしやすい。
時折、優しく吹くそよ風が何とも心地いい。ただ、どれだけ見渡しても、何一つ〝物〟がないのは少々寂しいか。
右を見ても左を見ても、上も下も全部青……まあ、それも当然か。なぜなら俺たちが今いるのは──海の上なのだから。
「ング、中々美味いな」
「ハジメ、お塩いる?」
「ん、サンキューウサギ」
ウサギから瓶を受け取り、食べていた焼き魚に振りかけてかぶりつく。うん、結構いい感じだ。
「しかしまあ、こんな真っ青な景色でも飯はうまいもんだな」
「……ちょっと骨が面倒臭い?」
「はは、それは仕方がない」
見渡す限りの大海原。四方を水で囲まれた中、俺とウサギはフィーラーの上でのんびりと魚を楽しんでいる。
あの後、俺たちはなんとか迷宮を脱出した。
男の言う通り、マグマを防ぐ住処で神代魔法……〝空間魔法〟を手に入れ、ユエに結界を張ってもらいこいつの口内に入って脱出。
あとは任せて、しばらくして海底火山を潜って地上……海上?に帰ってきた。まったくフィーラー様々だ。
で、今はエリセンを目指してのんびり海の旅を楽しんでる。すでに三日、水は魔法で確保、飯は海から魚を釣って色々料理してた。
ギシャァアア!
薪の火に炙られた魚をとって頬張っていると、突然海の中からサメみたいな魔物が飛び出てきた。
「あ、来た」
「問題ないだろ」
緊張感なくサメを眺めていると、海中からフィーラーの触手が現れてサメを拘束。そのまま海の中に引きずり込んだ。
それから少し振動を感じ、フィーラーが口を動かしているのがわかる。 今捕まえたサメを食べてるんだろう。
こんな感じで、海の魔物もフィーラーの餌になってた。俺たちはのんびりしてればいいので、これまでで一番楽な旅かもしれん。
「づっ……」
そんなふうに考えていると、左腕の関節が燃えるように痛んだ。危うく魚を落としかけて、ウサギがキャッチする。
「……平気?」
「まあ、最初よりは全然な」
ボロくなったローブの裾をまくれば、そこにあるのは元に戻した義手……ではなく、エボルトの異形の腕。
どうやら無茶な使い方をしたせいか、癒着してしまったようなのだ。幸い普通の腕のように使えるので、あまり困っちゃいない。
「エボルト本人に直接外してもらうしかない以上、ちょっとした痛みくらいなら耐えるさ」
「……ん、もしまた痛んだら言ってね。いい子いい子するから」
そう言って微笑むウサギは、マジで天使に見えた。なんなら痛くなくてもいい子いい子はしてもらいた(ry
「私を抜いてイチャイチャするとは、羨ましい」
「うおっ」
「あ、ユエ」
どこからともなくユエが現れ、膝の間に座り込んでくる。そしてむすっとした顔でグリグリと後頭部を擦り付けてきた。
ちょっとした嫉妬をする吸血姫に苦笑しつつ、頭を撫でる。途端にユエの顔はフニャリとなって、ウサギと顔を見合わせて笑った。
「シアは?」
「寝てる。結構頑張ったから」
「じゃあ、しばらくは起きないね」
「まあ、せっかくの機会だ。寝かせとくか」
後ろを見ると、広場の中心には簡易的な建物が建っていた。おなじみ、シュウジ製簡易拠点である。
その中で泳いで魚を乱獲……マッチョ状態だった?そんなの見てないし覚えてない……シアを想像し、心の中で労った。
「八重樫の方は?」
「……あんまり、良くないかも」
「そう、か」
シュウジがああなってから、八重樫は沈み込んでる。時折、眠っている時にすすり泣きもしていた。
あの暴走の理由がわからない以上下手なことは言えない。もし、同じあいつの恋人のルイネがいたら変わるんだろうが……
ちなみに、そのルイネはなんとか持ち直したそうだ。携帯で連絡を取り合って、アンカジ組とはエリセンで合流する予定にしてる。
「最初に聞いた時はびっくりしたよな、たった数時間で目が覚めて暴れたってんだから」
「ん、さすがはシュウジの恋人」
「エボルトがいなかったら傷が悪化してたから、褒められたことでもないけどな」
いずれにせよ、ボロボロと言っていいだろう。これでシュウジに何かあったら、いよいよ酷いぞ。
……まあ、俺も親友がどうにかなるのなんて見たくはない。
なんだかんだで、あいつは一番大事なダチなのだから。
●◯●
「……ん?」
それからしばらく三人でのんびりやってると、ふと海中に気配感知が引っかかる。魚よりもっと大きなものだ。
「ハジメ、どうかした?」
「……まだあーんしてない?」
「いや、そうじゃない」
その正体はすぐにわかった。ザパンと音を立てて、二十人ほどの三又槍を持った奴らかが出てきたのだ。
エメラルドグリーンの髪に扇状のヒレのような耳。どう見ても海人族の集団は、なんでか大半がビビっていた。
「……あなたたち、何?」
「お、お前たちこそ、こんな化け物に乗って何者だ?」
「あ?……ああ」
そうか、海の中泳いできたんならフィーラーのことを見てるか。そりゃこんな怯えた顔してるわけだ。
同時に、何やらものすごい殺気立っていた。下手な動きをすれば、すぐにでもその槍を突き出してきそうな雰囲気を出してる。
「とりあえず、こいつは下手なことしなきゃ危害は加えない。だから変な気を……」
「うわぁああああああっ!?」
言ってるそばから、向こう側から声が聞こえてきた。振り返ると、海人族の男が宙を舞っている。
フィーラーの触手が海中から覗いてるあたり、おそらく肌を突っつきでもしたんだろう。アホである。
悲鳴をあげて落下した男は海に落ちる直前でもう一本出てきた触手に捕まり、そっと海に降ろされた。
「……というわけだ。無闇矢鱈と刺激しないように」
ガクブルして浮いてる男を見て、仲間たちは激しく首を縦に振った。よし、これで話し合えるな。
「えっとな、俺たちは遭難者だ」
「遭難者だと?」
「ああ、少しヘマやらかしてな。で、今はエリセンに向かってるわけなんだが……」
時間が経って恐怖が薄れて、また殺気立たれても面倒なので簡潔にこっちの事情を説明していく。
シュウジ……仲間がエリセンにいる事、そいつを迎えにいくこと。あ、ついでにミュウの護衛依頼の書類とプレートも見せた。
すると男達は驚いて、しばらく仲間内だけで話し合った後、リーダーと思しき男が一番前に来て話し出す。
「すまないが、名前を聞かせてくれるか?」
「あ? ハジメだけど」
「やはりそうか……仲間から話は聞いている。エリセンまで我々が案内しよう」
「仲間?」
仲間と聞いて美空達のことが思い浮かぶが、今朝連絡を取った時にはちょうどアンカジを出たと言っていた。
シュウジはあの様子ではしばらく目を覚まさないだろうし、愛子先生達とも考えにくい。とすると……
「……あいつか」
残りはあいつしかない。あの、老人というにはいささか力量が読めなさすぎる飄々とした笑顔が浮かぶ。
「もしかして、これを見越してた?」
「かもな。ったく、食えない野郎だ」
「……? どうかしたか?」
「いや、なんでもない。案内してくれるってんなら願ったり叶ったりだ」
「そうか。では早速……」
「でも、お前らについてくんじゃ遅いな」
「……なに?」
ザパン、とフィーラーの触手が海中から姿を表す。その数、約20本。
漆黒の触手は瞬く間に男達を捕まえていき、広場の上に転がした。終始男達は驚いたまm固まってた。
「よし。おい、エリセンはどっちだ」
「あ、ああ、あっちだ」
最初のやつみたいにガクガク震えながら、リーダーが南の方を指差す。そっちはちょうど進んでいた方向だ。
「どうやらたまたま会ってたらしいな……フィーラー、頼む」
オオォォォオオオオオ……
海の中より答え、フィーラーはそれまでのゆっくりとした速度から一転、凄まじい速度でエリセンの方向に泳ぎ始めた。
「うわぁぁああああ!?」と悲鳴をあげてしがみつく海人族たち。一方俺たちは風で消えた薪の後を片付ける。
しばらくして、速度に慣れてきたのかへたり込んだ男達に時折道を聞きながら海の中を進んでいく。
「お茶、どうぞ」
「あ、ありがとう?」
「ちょっと! 一体何事!?」
「ハジメさん!」
ウサギが淹れたお茶を男達に配っているのを眺めていると、異変に気付いたのか八重樫が建物から出てくる。
傍らにはシアもおり、走り寄ってきた二人は床に座り込む海人族達をみてギョッとした……ダジャレじゃねえぞ。
「えっと、南雲くん?この人たちは?」
「いきなり出てきて、道案内してくれるっていうんでな」
「はぁ……」
首を傾げつつも納得する二人。それから二時間くらい男たちの案内を聞きながら、エリセンを目指した。
「あっ、ハジメさん! 見えてきましたよ、町ですぅ!」
「おぉ、ほんとに海のド真ん中にあるんだなぁ」
シアが瞳を輝かせながら指で【エリセン】と思しき、海上に浮かぶ大きな都市を指す。どうやらついたようだ。
フィーラーに頼んで限界まで姿を隠してもらい、建物を広場の床下に解体・収納してから桟橋と思しき場所に止まる。
ざわざわと桟橋にいた海人族が騒ぐ中、先に海人族たちを下ろして俺たちも降りた。すぐにフィーラーは海中に潜っていく。
全員降りたところで、警備と思しき海人族と人間の兵士たちが人垣を押しのけて狭い桟橋の上にやってきた。
海人族に目で促し、事情を説明させる。兵士のリーダーらしき男は一言二言質問をして、こちらに来る。
「あんたは?」
「私はこのエリセンの守護を任されている兵団の長を務めているものだ。貴殿が南雲ハジメか?」
男の声は、どこか抑揚がなかった。表情は虚ろで、まるで何かに操られているようにも見える。
男は依頼書とステータスプレートの開示を要求してくる。ミュウの故郷で面倒事起こすのもアレなので、大人しく渡す。
差し出したものを受け取り、男はそれをよく見て確認すると「よし、いいぞ」とあっさり返してきた。
「先ほど話は聞いた。この街を楽しんでくれ」
それだけ言って、男は踵を返す。そのまま衛兵達と一緒にどこかにいってしまった。
「なんだか、やけにあっさりとしてますねぇ」
「ええ、てっきりもっと詰問されるかと思ったわ」
「案外、八重樫がいたからだったりしてな」
なんにせよ、シュウジの様子がわからない今長時間こんなとこで拘束されるのは嫌だったので助かった。
依頼書とプレートをしまい、さあ海人族の男にミュウの母親の家に案内してもらおうと思った瞬間。
「パパ──────!」
突然、上から声が聞こえてきた。
●◯●
「「「「「!!?」」」」」
聞き覚えのある声に、全員で上を見上げる。
そこには太陽を覆い隠す、漆黒の影が。その陰から小さな影が分離して、こちらに向かって落ちてきた。
少しして、それが空飛ぶクルーザーのようなものだとわかる。それに乗るのは、二人の幼い少女だ。
「まさか、あれは……」
「リベルちゃんと、ミュウちゃん!」
「にゃっはー!」
「パパ────!」
八重樫の叫んだ通り、乗ってるのは運転席にリベルと、その後ろにミュウ。我が家のちびっこ二人組だった。
先ほど以上に周りがざわつく中、俺たちの頭上付近まで降りてきたクルーザーからミュウが飛び降りてくる。
「っと、ミュウ。良いタイミングで来たな」
危なげなくキャッチして、そういう。ミュウはもともと笑っていた顔をさらに明るくした。
「えへへ、早くパパに会いたかったの!」
「……うちの娘天使か」
『パパ、だと……ッ!?』
なんか後ろで外野が阿鼻叫喚になってるが、この最高に愛らしく笑うミュウに比べたら知ったことじゃない。
「ふう、ごりよーありがとうございました!」
「ん、リベル。それ、重力魔法で操作してる?」
「あ、ユエおねーちゃんだ。うん、すごいでしょ、えっへん!」
胸を張るリベルに、ユエがふっと微笑んで頭を撫でる。ここにシュウジがいたらシャッター音の乱舞だろう。
そんなふうに思っていると、遅れて黒竜……ティオの背中から、美空と香織、二人に支えられてルイネが降りてくる。
「ルイネさん、大丈夫?」
「ああ、すまない、手間をかけさせる」
「ふぅ、疲れたのじゃ」
「よう、案外早かったな」
ルイネを手頃な樽に座らせたところで近づいて、人状態に戻ったティオを含めた四人に話しかける。
その瞬間、首が百八十度回転しているのではないかと思う速度で美空と香織が振り返り、一瞬で抱きついてきた。
「ハジメ!」
「ハジメくん!」
「うおっと。すまん、また心配かけた」
「もう、本当だよ。何度気を揉ませる気だし」
「うぅ、良かったよぉ〜……」
弱々しい声音だが怒ってくる美空に、泣きじゃくる香織。流石に弱ってしまい、なされるがままになる。
すると、背後にもう一人分重さがかかるのを感じた。見ると、ティオがなぜか抱きついてきている。
「……ご主人様」
「なんだ、お前まで。蹴ってほしいのか?」
「いや、それも大変魅力的な提案じゃが……今しばらく、こうさせておくれ」
「……まあ、無茶な役目任せたしな。好きにしろよ」
それからしばしの間三人はくっついたままで、全男の海人族からさっきの集中砲火を浴びせられることになった。
全員離れてユエ達の方に行ったところで、ルイネを見やる。どうやら完治していないようで、服の下に包帯が見え隠れしていた。
「お前、大丈夫なのか?」
「なに、雫殿を守れたのなら安いものさ。とはいえ、しばらく戦いは控えたいがな」
冗談めかして言っているが、電話で聞いた話じゃかなり危なかったらしい。なのにここまでタフなのは、さすがシュウジか。
とはいえ、見るからに戦える状態じゃないしな……それをあいつがやったと思うと、少し複雑な気分だが。
「まあ、治るまでは休んでろ」
「心遣い、感謝する」
「そういやエボルトは?」
「はて、先程から姿が見えないが……」
「……ルイネさん」
そこで、八重樫がおずおずと行った様子でこちらにきた。そしてルイネをの前にやってきて、気まずそうにする。
「その、改めてごめんなさい。私が不注意なばかりに、あなたに大怪我を……」
「今ハジメ殿にも言ったが、気にすることはない。私がやったことだ」
「でも……」
「そう暗い顔をするな。マスターが悲しむぞ?」
八重樫はハッとして、少し恨めしげな目でルイネを睨む。しかし全く圧はなく、ルイネは微笑んでいた。
「その言い方は意地悪ね」
「あいにくと、マスターの弟子なのでな」
「ねえ、ママ!早くパパに会いにいこ!」
「パパ、早くママのところに行くの!」
今度はリベルが乱入してきた。シュウジに会えると思っているからか、その目はキラキラしている。
ミュウも全く同じ目をしており、それはやはり数ヶ月ぶりに実の母親と再会できるからか。なんにせよ、油を売るのもここまでだろう。
「おい、ミュウの母親の家まで案内してくれるか?」
「は、はい」
先ほどそうしたように、リーダーの男の先導……あとは多くて邪魔だからどっか行かせた……エリセンの居住区画へと向かう。
その道すがら、そういえばとなぜあの時あんなに殺気立っていたのか聞くと、どうやらミュウとその母親が原因らしい。
知っての通り、ミュウはフリートホーフに攫われた。そして母親が探していた時、その仲間が海岸で足跡を消そうとしていた。
怪しいと思い近づいたところ、案の定証拠隠滅のためそいつらに魔法で殺されかけ、何とか生き延びたらしい。
結果、下半身を大きく痛め、泳ぐことはおろか歩くこともままならない。そのことがあの殺意の理由だ。
「亜人族は仲間意識が強いから、当然といえば当然か」
「ああ、まあな……と、着いたぞ。ここだ」
そうこうしているうちに、ミュウの実家にたどり着いたようだった。
──
オマケその1
エリセンに向かう道中で
海人族の男「そ、そういえば」
ハジメ「あん?」
海人族の男「海にこんなものを流したのはお前たちか?」
ハジメ賛歌の詰まったボトル
ハジメ「……おい」
ユエ&ウサギ&シア「(全力で目をそらす)」
とりあえず全部回収して宝物庫に入れときました
読んでいただき、ありがとうございます。
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