星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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どうも、作者です。
最初から読みかえして諸々考えた結果、一つの結論に達しました。
すなわち、ギャグが足りないと。
何が何でもギャグに張り切っていたあの頃に対して、あまりに真面目だと。ですのではい、この章が終わったらはっちゃけます。
ですのでどうかお付き合いいただけますよう、よろしくお願いします。



それは残酷な

 ミュウの生家は、特にこれといって変わったところはなかった。周りの家と変わらない、普通の民家だ。

 

「パパ、あそこなの! あそこがミュウのお家なの!」

「わかってる、もう少しで母親に会えるぞ」

「良かったね、ミュウちゃん!」

「うんなの、リベルちゃん!」

 

 肩の上でワクワクして体を揺らすミュウと自分のことのように喜ぶリベルに、姉妹みたいだなと微笑む。

 

 そして前に視線を戻して……ミュウの家の玄関先に、見覚えのあるやつがいるのに気がついた。

 

「あれは……」

 

 玄関先の壁に背を預けているのは、エボルトだった。いないと思ったら、どうやら先回りしていたらしい。

 

 ほどなくしてエボルトは足音で俺たちの接近に気がつくと、壁から離れてこちらに近づいてくる。

 

「ようお前ら。待ちくたびれたぜ?」

「そういうお前こそ、先回りしてるとはな」

「ハハッ、ちょいと驚かせようと思ってね」

「…………」

 

 ……妙だ。笑う顔とは裏腹に、エボルトは何やら得体の知れない、気味の悪い雰囲気を醸し出している。

 

 美空にアイコンタクトを取るが、肩をすくめられた。香織とルイネにも確認してみるが、同じ反応だ。

 

「なんだ、お前たちの仲間か」

「まあな。案内ご苦労、もう行っていいぞ」

「あ、ああ。くれぐれもレミアには変なことをするなよ」

「誰がするか。俺は別にスケコマシじゃねえ」

 

 ならいいが……と疑わしそうな顔でユエたちを見てから、ミュウの母親の名を言った男は踵を返して去っていった。

 

 その視線を受けた八重樫とルイネを除く女性陣に、シラーっとした目で見られる。スルーして家の戸を叩いた。

 

「モテる男は辛いねぇ」

「うるせえエボルト」

 

 からかってくるエボルトの脇腹に肘鉄を入れていると、少し軋んだ音を立てながら扉が内側から開かれる。

 

 

 

 

「おや、珍しい客ですね」

 

 

 

 そして出てきた人物に──俺は思わず、肩車しているミュウの足を両方とも手放しそうになった。

 

 「わわっ!?」というミュウの声に慌てて足を掴み、頭から地面に落とすという大惨事をなんとか防ぐ。

 

「いえ、必然ともいうべき来客でしょうか」

「シュウ、ジ?」

 

 俺たちを出迎えたのはミュウの母親ではなく……シュウジだった。後ろからも、唖然とした空気を感じる。

 

 まだ昏睡状態かと思っていたのに、もう目覚めたのか。そう認識しようとして、直前で待ったをかけた。

 

 もう一度、よく見てみる。今度は頭のてっぺんからつま先までよく観察して、最後にメガネをかけた顔に戻る。

 

「……お前。シュウジじゃないな?」

 

 〝回帰〟の状態によく似ているが、違う。

 

 具体的にどうというわけではないが、長年一緒にいたせいかこいつは別人だとわかった。

 

「ご明察。さすがは〝彼〟の相棒ですね」

「貴方、誰なの……?」

「確か貴女は……八重樫雫と言いましたか」

 

 まるで他人のような口ぶり。シュウジの顔で、声で、しかし凍てついた彫像のような能面で話すそいつ。

 

 何がどうなっているのかわからずに困惑していると、雫をそっと押しのけてルイネが前に出てきた。

 

 シュウジのような男がルイネに視線を移す。ルイネは男をじっと見て、やがてハッと息を飲んだ。

 

「あな、たは……」

「ええ、そうです」

「そんな、でも、それじゃあ……!」

 

 ルイネはどうやら、こいつが誰なのかに心当たりがあるらしい。それにしてはかなり予想外という顔だが……

 

「パパ!」

「なんでしょうか?」

「パパ、私たちのこと忘れちゃったの……?」

 

 いつのまにか足元にいたリベルが、今にも泣きそうな顔でシュウジらしき男のズボンを引いた。

 

 男は相変わらず冷たい目でリベルを見下ろす。そこで〝違う〟と思ったのだろう、ルイネに身を寄せた。

 

「説明の前に、皆さん中へ。ここで立ち話もなんですので」

 

 家へ入ることを勧めてくる男。ユエたちと顔を見合わせ困惑しつつも、ミュウを母親に合わせるためにも中に入る。

 

 そのまま男にリビングらしき場所に案内される。するとソファーに、二十代半ばほどの女性が座っていた。

 

「レミアさん、お客様です」

「あら? いったい誰かし……ッ!?」

 

 ミュウによく似た端正な顔立ちの海人族の女性……レミアさんはこちらを向いて、目を見開く。

 

「ミュウ…………ミュウなの……?」

「ママ……?」

 

 ママと呼ばれて確信したのだろう、レミアさんは口に手を当て、見開いた目に涙を滲ませた。

 

 ミュウの方もバタバタと足を暴れさせたので、肩から降ろす。その瞬間真っ直ぐレミアさんのところにすっ飛んでいった。

 

「ママ────────っ!」

「ミュウ……っ!良かった、本当に良かった……!」

 

 もう二度と離さないというように、固く抱き合う母娘。涙を流しながら再会と、互いが無事だったことを心から喜ぶ。

 

 これには心にくるものがあり、温かい目で見守る。後ろからは、美空やシアたちと思われる鼻をすする音が聞こえた。

 

 しばらく再会を喜びあって落ち着いたところで、レミアさんに近づく。こちらに気がついた彼女は、突然頭を下げた。

 

「彼からお話は伺っています。娘を保護してくれて、本当に、本当にありがとうございました。もうなんとお礼を申し上げたら良いか……」

 

 彼、と聞いて男を見る。しかし奴は何もいうことなく、ただメガネの位置を直すだけだった。

 

 ……とりあえず、今はレミアさんの方が先だ。こんな深々と頭を下げられては居心地が悪い。

 

「顔を上げてくれ。別に普通のことしたっていうか、成り行き上仕方がなかったというか……」

「いいえ、そのおかげで私はまた娘と会うことができました。私にできることなら、一生をかけて恩をお返しします」

 

 参ったなこりゃ。少なからず感謝はされると思ってたが、まさかここまで言われるとは予想外だ。

 

 いや、亜人族の同族に対しての絆を鑑みると実の娘なら当然とも言えるのか。一族総出で故郷を飛び出したカム達の例もある。

 

「とりあえず、ミュウは無事に連れて帰ってきた。今はそれだけにしてくれ」

「うん!パパね、ミュウのことたくさん可愛がってくれたんだよ!それにリベルちゃんはお姉ちゃんみたいだったし、ユエおねーちゃん達も優しくしてくれ……」

「あらあら、皆さんによくしてもらったのね。それに……さすが、彼のいう通りの〝パパ〟ですわ」

 

 うふふ、と何故かちょっと赤い頬に手を当て、こちらに微笑んでくるレミアさん。あ、ヤバイ。背後が冷たい。

 

 いったいこの人に何を教えたと男を睨むが、いつの間にか跡形もなくいなくなっていた。

 

 あいつ、本当なんなんだ……?

 

「ママ!あし!どうしたの!けがしたの!?いたいの!?」

 

 そんなふうに疑問を抱いていると、ミュウの金切り声が聞こえる。

 

 そちらを向くと、レミアさんの包帯でぐるぐる巻きにされた両足を見てミュウが涙を浮かべていた。

 

 これが海人族たちの言ってたやつか。足全体となると、本当に下半身に酷い怪我を負っているらしい。

 

「ミュウ、大丈夫よ?カインさんを連れてきた方に頂いた……その……補助器具で歩くことは……」

 

 一瞬部屋の隅をちらりと見て、すぐ目をそらすレミアさん。頭にはてなマークを浮かべたミュウがそっちを見る。

 

 つられて見ると、そこには4本足の魚型アーティファクトが。じっと無機質な目でこっちを見つめている。

 

「……あれ、ハジメの魚くん一号?」

「……ハジメ、あれはないし……」

「いやいや、違うから。え、なに、あいつこれ置いてったの?」

「え、ええ……」

 

 やや引きつった笑顔で頷くレミアさん。聞けば割と高性能のようで、フォルムだけになんともいえないとか。

 

「パパぁ!ママを助けて!ママの足が痛いの!」

 

 どうやらミュウも見てないことにしたようで、こっちに叫んでくる。うん、そりゃ母親があんなの使ってたらな。

 

「美空、香織、頼めるか?」

「あはは……」

「さすがにあれは、ねえ……」

 

 苦笑気味に治癒師二人組がレミアさんの前に跪き、断りを入れてから足に触れて魔法で診察・治療する。

 

「二人とも、どうだ?」

「……ん、特に致命的なことはないよ。でもデリケートな場所だから、後遺症なく治療するには時間がかかるかも」

「少しずつ癒していくのがいいと思います。それまで、不便だと思いますけど、必ず治しますから安心して下さいね」

「あらあら、何から何までありがとうございます」

 

 とりあえず、治せるらしい。ミュウの顔がパァっと輝く。本当なら写真を撮りたいが、あまりそういう気分でもない。

 

 それから適当に宿を取ろうと出ていこうとしたところ、今回の恩返しとして泊まらせてもらうことになった。

 

 最初は遠慮したが、ミュウの「パパ、どこか行くの?」というここにいるのが当然という疑問の顔に敗北。

 

 そして、ミュウとレミアさんは久々の親子水入らずで話がしたいと別室に行ったわけだが……

 

「それで、だ」

 

 リベルの子守を任せたティオ……案外上手い……を除き、リビングに残った俺たちはそいつらを見る。

 

 一人はシュウジが〝回帰〟を使った時のようにメガネをかけた男。不穏な動きをしないかよく監視する。

 

「剣呑な雰囲気だねぇ」

「妥当、というところでしょう。我々はあまりに不可解な点が多い」

 

 その隣にいるもう一人は、エボルト。

 

 エボルトはこいつを見ても何も言わなかった。一番シュウジの近くにいて、いの一番に反応しそうなのに、だ。

 

 つまりこいつは、この男のことを知っている可能性がある。いいや、今こうして笑いながら隣にいること自体がその証拠だ。

 

 ちなみにさっきいなくなった男だが、昼食の準備をしていた。ここ数日はあまり動けない家主に代わって家事をしているとか。

 

「お前が誰なのか、そろそろ教えてもらおうか」

「そうですね。ではまず、自己紹介から始めましょうか」

 

 そこそこ広いリビングの中、半円状に座っている俺たちの前でそいつは立ち上がり、名乗りをあげる。

 

 

 

「我が名は〝カイン〟。かつて〝世界の殺意〟の名を受け継ぎ、秩序のため人を殺し続けた殺戮兵器。以後お見知り置きを」

 

 

 

 優雅に礼をする男。そうか、こいつはカインっていうのか……って、待て。

 

「お前今、〝世界の殺意〟って言ったか?そいつはどういうことだ。それはシュウジが前世で持っていた称号のはずだが」

「ええ、その通り。そして私が〝北野シュウジ〟です」

「なに……?」

 

 一体どういうことだ。シュウジの称号を名乗ったかと思ったら、今度は自分がシュウジ本人だと?

 

 もしかして、意識は別物だが体はシュウジってことなのか?いや、それにしては何かが違うような気が……

 

「……本当だ、ハジメ殿」

 

 男の言葉を肯定したのは、他ならないルイネだった。

 

「ルイネさん、どういうこと?」

「この人はそっくりな別人ではなく、まぎれもなくマスターということだよ。なぜなら前世のマスターの名は……〝カイン〟なのだから」

 

 やや重苦しい表情で告げられた事実に、全員息を呑む。じゃあこいつが本当に、シュウジだっていうのか?

 

 そうなると、更に謎は深まる。仮にこのカインを名乗る男がシュウジだったとして、ならなんでルイネはこんな顔をしている。

 

 苦しげに瞑目するルイネの表情はまるで、知りたくないことを知ったかのような顔だ。

 

「じゃあ何か?シュウジは二重人格だったってことか?」

「そういうわけではない。私はあくまで残滓、ただ一時的に拝借しているに過ぎない」

 

 ますます首をかしげる俺たち。そんな俺たちに例えば、と男は異空間から手の中にミニチュアの車を出す。

 

「いつも使っている車が故障したとします。しっかりと直るまでは、使うことはできません」

 

 ミニチュアカーを握り潰してバラバラにする男。するとまた異空間を開いて、真新しい別のミニチュアカーを出した。

 

「ではどうするか。簡単です、修理されるまで別のものを使う他にない」

「……つまりお前は、シュウジが直るまでの代理品ってことか?」

「ご名答。私は北野シュウジですが、しかし北野シュウジではない。同じ〝カイン〟の記憶を持った、より〝カイン〟に近いもの、というところでしょうか」

 

 シュウジよりさらに、前世のシュウジに近い存在。そう聞いて、俺の頭に浮かぶのは一つの技能。

 

 派生技能[+回帰]。シュウジが時折使う、人格を前世に近い状態にして短時間戦闘に特化する技能だ。

 

「それなら、シューは今どうなっているの!?一体どこにいるの!?」

「八重樫……」

 

 立ち上がり、八重樫がカインに詰め寄って両肩を掴んだ。これまでの不安が爆発したのか、声に余裕がない。

 

「八重樫、やめとけ」

「南雲くん……でも」

「今そいつに何かしたって、あいつがすぐに戻ってくるわけじゃない。そうだろ?」

「ええ」

 

 頷くカイン。八重樫は下唇を噛み、キッとカインをにらんでから元の場所に戻った。

 

「賢明な判断、感謝します」

「そうしなきゃ話が進まないからな。だが八重樫の言うことも最もだ。お前はどこから出てきた?シュウジはどうして傷ついている?」

 

 先ほどの例え話からして、シュウジはおそらくあの暴走で何かしらのダメージを負ったんだろう。

 

 その代わりに、こいつがどこからか出てきてシュウジの体を使っている。おそらくは[+回帰]が関係してるんだろうが……

 

「それを説明するには、私では相応しくありません。彼に聞いた方がよろしいでしょう」

 

 澄ました顔でカインが指差したのはエボルト。いつものようにだらけた体制でいたエボルトは俺?という顔をする。

 

「丸投げとは、やってくれるなぁ」

「私などの言葉よりも、貴方の言葉の方が信憑性が高いと判断しました」

「それもそうか」

「やっぱりお前、あいつの暴走について何か知ってるのか」

「まあな……仕方がねえ、話してやるとするか」

 

 笑いながら立ち上がり、ぐっと伸びをするエボルト。

 

 それからこちらを見て、すっと表情を消した。あまりに鮮やかな代わりように、少し肝が冷える。

 

「お前らに教えてやろう。北野シュウジという男の、真実をな」

 

 それを聞いて、後悔する結果になるとも知らずに。




いくらなんでも投稿時間が遅すぎるので変更しました。
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