星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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ふぅ、ギリギリ間に合った。
どうも、作者です。定期更新と対峙更新を続ければ、いずれ読者の方も戻ってくると信じて今日も頑張ります。
あ、この話から数話とんでもない厨二が続くので悪しからず。
楽しんでいただけると嬉しいです。


ただ一つの

「事は、こいつが自分の命を絶ったことから始まる」

 

 クッションに腰かけ、楽な体勢でエボルトは語りだす。いつも通りの姿勢であるのに、ハジメたちは緊張を覚える。

 

「だいたい950年ってとこか?その時、こいつのいる世界に異変が起こり始めた。カイン、頼めるか?」

「ええ」

 

 カインがメガネのアンダーリムをなぞる。するとリビングに紫色の光が広がり、その姿を変えていった。

 

 やがて完成したのは、カインの記憶を再現した幻覚。激しく雨が降りしきる荒野の中、大きな影と小さな影がそれぞれ一つ。

 

「この年、ちょうどカインは世界意思の命を受けて対象を暗殺していた」

 

 地面に横たわる影は、グロテスクな化け物。おそらくこの場に子供達がいたなら泣き出しただろう姿をしている。

 

 その上で巨大な異形の心臓がついたねじれた白い槍を持つ影は、一人の人間。薄汚れたローブを纏う、男だった。

 

「……マスター」

 

 この場の誰より見覚えのある後ろ姿に、ルイネは呟く。それにハジメたちは反応し、男を注視した。

 

 フードの裾から見える顔は、今のシュウジに比べると平凡な顔立ち。中の上、といったところだろうか。

 

 だがその冷徹な青い瞳には怜悧な冷たさが宿っており、ただの幻覚のはずなのに思わず全員身震いした。

 

「その手際はまさにお見事、最強の暗殺者の名にふさわしい……とまあ、そいつは置いといて。それから8年後、また新たな命が下った」

 

 紫の光が上書きされるように塗りつぶされ、幻覚が切り替わる。目の前に現れたのは、三十メートルはあろうかという巨人。

 

 

 

 

 

 ヴオオオオオオオオオオオ!!!!!

 

 

 

 

 

 それは唸り声をあげながら、ハジメたち……いや、そのすぐ前に立つ黒ローブの男めがけて大きな拳を繰り出す。

 

「きゃっ!?」

 

 幻覚とわかっていても、シアが驚いて悲鳴を上げる中──巨人の腕は細切れにされた。

 

「……え?」

「シア、落ち着いて。これはただの幻」

 

 次いで両足が消え失せたように細切れにされ、どうと倒れた巨人は地面からせり上がった磔台に拘束された。

 

 暴れる巨人の胸の上に、男が現れる。そうすると白いナイフを持った手を後ろに引き、一瞬で消えた。

 

 次に現れたのは、磔台の下。ナイフを血振りした瞬間、巨人の首が落ちて振り回していた片腕が脱力する。

 

「すげえな……」

「これが、前世のシュー……」

「……?」

 

 どうやらあの強さは前世でも十二分だったようだと感心するハジメと雫。それは二人のみならず、ユエたちも同感だ。

 

 そんな中、ルイネはあることに眉根を寄せる。その表情をちらりと見て、エボルトは怪しげに笑った。

 

「この時もこれまでと変わりなく、カインは対象を抹殺……そして7年後。また命令は下された」

 

 三度、幻覚はその形を変える。

 

 今度現れたのは、百を超える騎士の亡骸。一人残らず地面から突き出た大きな白い串によって絶命している。

 

 血の海の前で佇むのはやはり、ローブの男。手に持つ白いナイフからはポタリ、ポタリ、と血が流れ落ちる。

 

「待て、それはおかしいぞ!」

 

 そこでルイネが声を荒げた。

 

「ダメだよルイネさん!まだ傷が塞がってない!」

「激しく動いちゃダメです!」

「今はそんなことはいい!」

 

 ソファーから立ち上がり、美空たちの制止も聞かずにエボルトに歩み寄る。

 

「まあまあ、落ち着け。話は最後まで聞こうぜ?」

「そんな間隔で世界が命令を下すはずがない!そもそも私は、マスターからそんな話は聞いたことがないぞ!」

「だが実際、こうして命令が下され、こいつらは消された。それが証拠だ」

 

 しかし、エボルトは手で厳格に視線を促すのみ。その言葉の正当さにルイネはく、と唸る。

 

 しかし、シュウジがあまり話したがらないこともあり詳しく〝世界の殺意〟について知らないハジメたちは首をかしげた。

 

「なあ、この化け物どもが現れるのはそんなにヤバいことなのか?」

 

 全員の相違を代表して問いかけるハジメに、ルイネは険しい表情で振り向く。

 

「……これらは皆、たった一体で、あるいは一集団だけで世界を滅ぼしうる力を持つものたちだ」

「…………マジで?」

 

 あまりに大それた答えに目を見開くハジメたち。

 

 もう一度幻覚を見て、カインの手によって串刺しにされ、殺された騎士たちをまじまじと見る。

 

 これが、世界を滅ぼす力を持った存在。あまりに圧倒的なカインの力で、そうは見えなかった。

 

「例えば、最初のあの怪物は元は人だったんだとよ。だが魔法の耐性が非常に高かったために魔女たちにモルモットにされ、結局魔力を吸い続けて無限に成長する化け物になったらしい」

 

 そんなハジメたちに、カインは淡々とした口調で幻で出来た怪物の説明をする。

 

「その時の対象は魔女たちと、そしてこいつ自身。放置してそのまま成長すれば、世界中の魔素エネルギーを吸い尽くしたでしょう。他にも……」

 

 あの巨人は世界中の魔物が突如激減、余剰した魔力が凝縮して生まれた本来ありえない怪物。

 

 たった一体で百万体分の魔物の力を持つ巨人は、 放置していれば他の魔物も食らってさらに成長しただろう。

 

 あの騎士団は人を超える力を求め、龍を嬲り殺しにした挙句死の間際に龍が放った呪いを受け、亡者と化した。

 

 魂を求めて彷徨い、朽ちた身体から死を撒き散らす。あらゆる魂を貪り尽くすまで、その進行は止まらない。

 

「以上です。危険性をご理解いただけましたか?」

「ひえぇ……すんごく怖いですぅ……!?」

「なんて、殺伐とした世界……」

 

 シアが全身をブルブルと震わせて青い顔をしているユエに抱きつき、そんなユエをウサギが撫でる。

 

「そんなもんが出るのかよ、あいつの世界……」

「ああそうだ、()()()()()()()()()

 

 戦慄していたハジメたちは、ルイネの言葉の意味を図りかねた。彼女はエボルトを見下ろし、目で続きを訴える。

 

 エボルトは面白そうに笑い、手でジェスチャーした。カインが再び幻覚を作り直し、新たなものを見せる。

 

「さらにその5年後だ。また命令が下された」

 

 幻覚で形作られたのは、どこかの都市。燃え上がる街の中央に、人の顔が無数に張り付いた巨大な樹が生えている。

 

「それがこいつだ」

 

 毒々しい鱗粉を紫色の葉から降らせる巨大樹は、しかし次の瞬間どこからともなく迸った白い閃光に飲まれる。

 

 一拍おいて、太く決して折れなさそうな幹が半ばから斜めにズレた。そのまま地響きを立てながら滑り落ちる。

 

 唖然とするハジメたちの前に、黒いローブの男が着地した。その手にはやはり、白く長大なナイフが。

 

「あれは、一体なんだったの?」

「より精神的な調和を取ろうなんて言って、儀式まがいのことをして地下に眠ってた悪魔を呼び起こした愚かで浅ましい人間どもの末路さ。国一つ飲み込まれて見事に全員お陀仏だ」

 

 ではあの幻覚は、飲み込まれた人間たちの末路であるというのか。もしあれが他に広がっていたら、と考えてゾッとする雫。

 

 ここで、ハジメは目の前の幻覚、エボルトの解説、最後にルイネの言葉からあることを疑問に思った。

 

「待て、国滅ぼしができるような奴がそんな頻繁にポンポンでてきたら大惨事だろ」

「そう、それだよハジメ殿」

 

 ハジメの言葉はまさに、ルイネにとって的を射たものだった。

 

「そんなことになってしまっては、生命のバランスがおかしくなってしまう。それこそ、()()()()()()()()()ほどにな」

 

 本来〝世界の殺意〟の抹殺対象となるような存在は、それこそ100年に一度の出現でもおかしくはない。

 

 だからこそ〝世界の殺意〟には千年もの時間が与えられ、その中で現れる何体か、多い時でも十数の対象を狩るのだ。

 

「しかし、マスターが命令を遂行したのは今のこの幻を見ても四回。歴代の〝世界の殺意〟の中で最も少ない代では、5回しか命令は下されなかったという」

「……つまり、異常事態ってことだな?」

 

 あまり事情に詳しくはないハジメだが、これまで数々の迷宮で生き抜いてきた経験はこれは危険だと訴える。

 

 奇しくも、それは正しかった。その証拠に、ルイネはやや重苦しい面持ちではっきりと頷く。

 

「その通りです」

 

 カインもハジメの言葉を肯定し、メガネをあげて自らの作った幻覚を見る。

 

「この時点で、世界の崩壊は始まっていた」

「世界の……崩壊?」

 

 地球においては滅多に聞くことのない言葉に、あまりピンとこない雫。それはハジメや美空なども同じだ。

 

 そんな彼女たちに見せつけるように、カインの手によってどんどん幻覚は移ろい、過去の記憶をたどっていく。

 

 屍肉が寄り集まった死の赤子、世界中に致死性のウィルスを撒こうとした男、悪魔を食った元人間。

 

 頭部が腹部に、手足が逆についた怪物の群れ、異形の怪物と化した王、龍と人の複合魔獣、エトセトラエトセトラ。

 

「これは……」

「嘘、こんなに……?」

「たくさんの、怪物……!?」

「なんなんですかもう!どれだけいるんですかぁ!」

「すごい……」

「み、美空……」

「ちょ、怖いからってそんな抱きつかなくても……」

 

 次々と現れる強大な怪物たち。幻で再現されたそれは人外も多いが、殆どが元は人間……あるいは未だ人間であるものも。

 

 全てをカインが殺し、容赦なく存在を消していく。正確に再現された幻覚は、その様子を忠実に再現した。

 

「4年、2年、1年……どんどん命令の間隔は短くなり、やがて世界中に超短期間で抹殺対象たちは出現するようになりました」

「シュー……」

 

 その後ろ姿は、あの時迷宮でたった一人で魔人族の女とその配下の魔物たちを蹂躙した背中にとても似ていて。

 

 やがて、幻が止まった時──カインの足元には骸の山が出来上がっていた。今にもむせ返るような血臭が漂ってきそうだ。

 

「950年目以降の40年で抹殺した対象は21。その数だけ人が死に、国が滅びました」

「それだけのことが起こっても、誰も覚えていない。全く世界の修正力ってのは恐ろしいねぇ」

 

 化け物たちの山の幻覚に、数え切れないほどの人の死骸が重なる。それに比例するように、男はより濃く血に濡れた。

 

「ヒュ〜♪ いつ見ても迫力満点だ」

 

 口笛を吹くエボルトに、ハジメは山の頂上……そこでたった一人で腰掛けるカインを見上げた。

 

「……ああ、確かにな」

 

 いつか、ハジメはシュウジに聞いた。

 

 その人生は空っぽで、偽物で、汚れていて、歪んでいて、最低最悪で穢らわしい、真っ赤な道だったと。

 

 感情が空っぽな顔も、空虚な目も、返り血で染まったローブも、見た目は美しいが血に濡れたナイフも。

 

 全くすべて、その通りではないか。

 

(あいつは、こんなことをずっとやってきたのか。一人で、千年も……)

 

 知らぬ血濡れの姿に、ハジメは改めて自分の親友がどういう人生を送ってきた男なのかを認識する。

 

 迷宮で変化する以前から、どこかで自分たちと違うとは思っていた。それは腕の強さが主だったが……

 

(シュー。貴方はその手で、どれほどの人を……)

 

 それは雫も同じだ。

 

 自分が寄り添うと決めた孤独と恐怖、その根底にある凄惨な過去に胸が締め付けられる。

 

 虚ろに俯く表情に、脳裏にホルアドで見たシュウジの壊れそうな笑顔がよぎって雫は目を伏せた。

 

「世界意思にコンタクトを試みましたが、返答は皆無。変わらず命令が下されるだけでした」

 

 ですが、と一度言葉を切って。カインはメガネの位置を直す。

 

「大方、予想はできたのです」

「……その予想ってのは?」

「寿命だよ。世界のな」

 

 ハジメの疑問に、エボルトが答える。その答えは聞いたもの全員に新たな疑問を持たせた。

 

 世界の寿命。その言葉はあまりに曖昧で、ハジメにはよく理解できない。

 

「お前らは輪廻転生についてどう思う?」

 

 悩ましげな顔のハジメたちに、よっと立ち上がったエボルトは新たに語りだす。それに伴い、幻覚が変化した。

 

 殺戮の記憶から、どこまでも白い平原に。その中心で、白い無数の光の中心で輝く黄金の光と、周りをめぐる円環。

 

 先ほどまでの光景から一転して美しいそれに、女性陣は思わず見惚れてしまう。

 

「そうだな……美空。お前はどう思う?」

「えっ?えっと……別の人に生まれ変わる?」

「正解。じゃあユエ、お前は?」

「……記憶を失う?」

「それも正解だ……じゃ、ルイネ。お前は?」

 

 答えのわかりきった質問をするエボルトにルイネは短く嘆息し、答えた。

 

「それまでの記憶とともに、生前行った罪を清算する行為だ」

「大正解だ!」

 

 大仰に手を広げ、エボルトは叫ぶ。

 

「そう、人は生まれ変わる時悪行を置いていく。ではそれはどこにいくと思う?」

 

 簡単だ、とエボルトは自ら答えを言った。

 

「人間が生まれ変わる時、そこで清算された罪は輪廻転生のシステムの中に蓄積される。まるでいらないデータを集めておくようにな」

 

 世界というのは、言うなれば一つのデータバンクである。大地を、海を、空を作り、そこに生きる生命を管理する。

 

 ではそこに、有害なデータが長い間保管されていたら。当然、蓄積すればするほどシステムを汚染し、エラーを引き起こす。

 

「それこそが〝世界の殺意〟の抹殺対象。人々の残した罪が引き起こした、世界のバグ。本来存在することすら許されないものってわけだ」

 

 バグは本来の生命の流れを狂わせ、人を救いようのない悪意に陥れ、生まれるべきでない悪辣な命を生み出す。

 

 結果、世界は混乱し、動乱し、破滅する。正常に命のバランスが保たれていれば、絶対にありえることのない殺戮で。

 

「それを消すために使われるのが、この権能」

 

 カインが右手を掲げ、その掌の幻覚を解くと刻印から白いナイフを喚び出した。

 

 幻覚の中で幾度も使われた白い武具によく似たそれを、全員が注視する。

 

「世界意思から与えられた削除権限。いてはならぬ存在を消せる、唯一のプログラム」

「……〝抹消〟」

 

 シュウジを苦しめていた元凶を見て、雫は思わずそう零してしまった。当然、ハジメたちの目がそちらに向く。

 

 雫と、ついでにルイネがしまったという顔をするが、もう遅い。カインも彼女に冷たい目を向けている。

 

「どうやら彼女は知っているようですね。ルイネ、貴方が教えたのですか?」

「……いいや」

「そうですか……話を戻しましょう。我々〝世界の殺意〟とは、つまるところバグを取り除くエンジニアです」

 

 世界意思が排出した、人が転生を繰り返すたびに積み重なる、簡潔に言えば〝悪意〟の集合体を狩ること。

 

 それこそが〝世界の殺意〟の本懐。そうすることで正常に命の流れを保ち、世界の輪廻を守るのだ。

 

「しかし晩年、そのバグが異常発生した。これまでどの〝世界の殺意〟でも直面したことのない危機が世界に訪れたのです」

「……何故?前世のシュウジ……カインは、ちゃんとバグを消してた」

 

 不思議そうにいうユエにええ、と肯定して。しかしカインは、どこかくらい面持ちでメガネの位置を直した。

 

 

 

「確かに私は、一度も欠かさず命令を遂行しました。ですが同時に、()()()()()()()()()()()()()()()()

「……え?」

 

 

 

 それは、誰の声だったか。

 

 これまで世界の秩序を保ってきたと言っていたカインが、世界の破滅に手を貸していた。

 

 まるで真逆の言葉に、不気味に笑うエボルトを除いて誰もが唖然とする。カインはその中の一人に目を向けた。

 

「ルイネ。貴方は私が何をしていたか知っているはずです」

「………………貴方は、対象とされたものたち以外にも、大勢の命を脅かす存在となる人間を殺して」

 

 そこまで言えば、十分だった。ルイネは自分の言葉が孕む意味に気がついて、大きく目を見開く。

 

 それを受け止めるカインは、どこまでも冷徹な顔だ。だって当然だろう、それを誰より知っているのは、彼だ。

 

「先ほど、彼が言いましたね。世界は一つのデータバンクのようなものだと」

 

 では、たとえバグが消えたとして。そこにさらに命の数を減らす存在を殺したとしたら、どうなるだろう。

 

 答えは唯一つ。命は消えることなく()()()()()。魂というデータが増えれば増えるほど、バンクは圧迫される。

 

 バグがなくなったとしても、それと同じ量だけのデータが蓄積されていけば……いずれ致命的なエラーが起こる。

 

 それが約1000年続いたとしたらどうか。地球で言えば、軽く十数の文明が滅び、新たに生まれるのに十分な年月増え続けたら。

 

「そ、んな、あな、たは──」

 

 ルイネの声は、絶望に満ちていた。

 

 ああ、そんな残酷な話はないだろう。

 

 誰かのためと殺し、人を救ったその在り方が……

 

「ええ、そうです」

 

 そこで初めて、カインは悲しげに目尻を下げて。

 

 

 

 

 

 

 

「私の殺戮(救済)が、世界を滅ぼした」

 

 




はい、見事なまでの厨二。我ながらカオスすぎます。
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