んでもってごめんなさい!午前中外に出てて全く書く時間がなくて遅れました!
とりあえず楽しんでいただけると嬉しいです。
「エボルト、どういうこと?」
「これ以上ルイネさんを苦しめる必要、ないと思うけど」
ルイネの両肩をさすっていた美空と香織に睨まれる。おお、と態とらしくおどけてみせる。
「おいおい忘れてねえか? 俺は
これで終わりじゃ、前座で閉幕になる。メインをやらずにおしまいなショーなど、面白くもなんともない。
そう言えば、と二人は怪訝な顔をする。そう、これまでのは長い前置き。俺の話はここからが本番だ。
カインに幻覚を頼むと目配せをすれば、奴は頷く。
「ルイネ。まだ話を聞いてくれますか?」
「ぐすっ……ああ」
「お二人共、彼女を頼みます」
「うん」
「わかった」
目尻に涙を残すルイネと離れ、美空たちに預けた。二人は傷を刺激しないよう、ルイネをソファに連れて行く。
全員元の位置に戻ったところで、再び幻覚が展開されていく。今度はどことも知れない丘の上、そこに立つのはカイン一人。
そして……先ほどの幻覚に現れた、黄金の光と円環。しかし光はくすみ、本来の色を損なっている。
「あれは……さっきの……」
「あれが世界意思だ。これはカインの最後の記憶さ」
世界意思と一言、二言何か言葉を交わしたカインは、右手に〝抹消〟を出現させて切っ先を自分の首に向ける。
それから一瞬、戸惑うように手を震わせた後……
「あ……!」
「ちょっと、ルイネさん」
自分首を、刎ねた。
ルイネが声をあげ、また立ち上がろうとして美空に止められた。
わずかに震え、糸が切れたように崩れ落ちる。そのまま肉体は黒い粒子になり、世界意思に吸い込まれた。
途端に世界意思の中核たる光は鮮烈に輝きを取り戻し、白い波動が丘に……世界中に広がった。
それは世界を修正する力そのものだ。
「これが奴の最後だ……最後になる、はずだった」
「終わりじゃなかったのか?」
「ああ」
だからカインと俺はここにいる。何よりも、
全ては、続いてはいけない……世界にもう存在してはいけないものを呼び覚まそうとした、一人の女の手によって。
「最初に言った通り、話の根本はカインが命を絶ったことだ。その後から、全ては始まった」
未来も、自分の存在さえ全てをかけた罪の清算はうまくいき、壊れかけた世界の流れは別の道を辿った。
その歴史には〝世界の殺意〟も、殺す対象も存在しない。文字通りカインは、最後の継承者となる。
「カインがシステムの一部になることでバグを排出することなく、輪廻転生のシステムを運行することができるようになった。代わりにカインの自我は消えたけどな」
何億もの魂が持つ穢れを全て受け止め、処理するのだ。どれだけ強靭な意志を持っていても耐えられはしない。
代わりに作られたのは平和な世界。人間同士の小競り合いはあれど、終末は訪れない時間が止まったような平穏。
「……だが、その結果に納得しないものもいた」
誰も知らないはずだった。
世界の崩壊も、それを引き起こして自分で犠牲になった男のことなんざ覚えてなかった。
だが、人間が自覚する以上に人間の執念というものはどこまでも恐ろしく、そして際限のないものだ。
「なあルイネ。お前達の中で、誰が初めにカインのことを思い出した?」
「……なに?」
訝しげに眉をひそめるルイネ。さっき質問はするなと言外に言ったが、俺からしないとも言ってない。
ルイネはしばらく考え込む。それなりに古い記憶だろうが、さすがの記憶力といったところかすぐに思い出した。
「確か、マリスだ」
「そう、奴だ。あの女が最初に、思い出せないはずの記憶を取り戻した」
〝黒の破壊者〟マリス。
三人の弟子の中で、最初にカインが次代の候補者として出会った女。一番弟子にしてカインの愛娘。
新しい歴史では教師となった奴は、修正の反動でその事実さえ消えた世界でカインのことを思い出した。
「だが……」
「どうやって、だろ? 抜け道があったんだよ、あいつにしか使えないな」
これまでに話した通り、カインという存在は消えた。歴史にも、人の記憶にも、もちろん書物にさえ残らない。
だが、マリスはたった一つ元の歴史の記憶を残しておく手段を持っていた。それが全ての元凶だ。
「でも、一体何なんでしょう?」
「ウルの街で見ただろ? 闇の呪法、悪意より生まれた怪物さ」
「……そうか、あのとき先生が使ってたヘドロみたいな怪物か」
「Exactly!」
カインは生きとし生ける者全ての記憶という記憶から抹消されたが、ヴェノムは生き物ではなく魔法。
そこに世界意思の見落としがあった。マリスはもしもの時の為、自分の記憶を複製して魔法の中に残しておいたのだ。
「〝
「……ん、全然知らない異世界の魔法。すごい」
「ハジメさん達からしたら、私たちの住むこの世界も異世界ですけどねぇ」
本来なら魔法で隠蔽された記憶から痕跡を探る魔法を、奴は記憶が失われた時の保険に自分に施していた。
新しい歴史が作られてから、三年後。魂に残っていた魔法が発動し、 ついにその時がやってきた。
「なるほどな……さすがはマリスだ」
「じゃあ次の質問だ。お前とネルファはなぜ記憶を取り戻した?」
「突然会いに来たマリスが、私とネルファに自分の記憶を魔法で共鳴させた。そのショックで思い出したのさ」
「へえ。じゃああいつを追いかけていこうなんて提案したのは?」
「ああ、それもマリ……ス…………」
微笑むような顔が、一瞬で彫像のように固まった。自分の言っていることの矛盾に気がついたように。
ああ、ようやく気付いたか。そうだよ、その顔だよ。
俺はその反応をするのを期待していたんだ。
「じゃあ、最後の質問をしよう──
この質問をする俺は今、どんな顔をしているかな。気遣うような顔?それとも申し訳なさそうな顔かねぇ。
いや、断じてそのようなことはありえない。なぜなら俺が今、この胸に感じている冷たい感情は──
「────マリ、ス」
──これ以上ないほどの、愉しさなのだから。
「まさ、か。そんなはず、は……」
「ルイネさん……? 」
「ちょっとルイネさん、しっかりして!」
茫然自失とするルイネを美空と香織が必死に揺さぶる。だがあまりにショックなのか、全く反応しない。
壊れた人形のように「そんなはずはない、そんなはずはない……」と繰り返すルイネに、美空が俺を睨みあげた。
「エボルト、どういうことッ!」
「俺は質問をしただけだぜ?話をちゃんと聞いてなかったのか?」
「またそうやって、おちょくるような……っ!」
「おっと」
ここまで来てあくまでふざけた姿勢でいる俺に頭が来たのか、美空が詰め寄って襟首を掴んでくる。
「ルイネと御堂は、先生に嘘を教えられた」
それを制するように声をあげたのはハジメだった。
美空が振り返る中、壁にもたれかかって腕組みをしたハジメは俺を見る。
「事実と言ってることが矛盾してる。そうだろ?」
「……ああ、そうさ。お前の言う通りだよハジメ」
カインは消えたのではなく、自分達の夢を実現させるために報酬を譲渡して転生した。
奴は記憶の蘇ったルイネたちに世界の崩壊と修正という真実ではなく、ありもしない嘘を与えた。
「いやはや、ハジメは頭の回転が早くて助かるぜ」
「どうして、そんな嘘を……?」
困惑から頭が冷めたのか、美空は手を離して数歩ほど後ずさる。
襟首を直し、俺は咳払いして話を再開した。
「真実に嘆き、怒り、奴は狂っちまったのさ」
数え切れないほどの人々を救い、私や姉妹たちを教え導いてくれた愛しい愛しい父親の末路がそれ。
そんな結果を、他人への嫉妬に狂い闇の呪法なんてものを覚醒させた女が果たして許容できるだろうか?
無論、ノーだ。
奴は全てを憎んだ。仮初めの幸せに浸っていた自分も、のうのうと生きている人間たちも。
「だから欲しがった」
仮初めの平穏などいらない。父のいないような世界なら──
「自分の思う通りに、全部を
──全部、壊しちまえってな。
「だから嘘で巧みに操って奪い取ったんだ、ルイネたちからあるものを」
人間が嘘をつく理由など二択だ。何かを騙して奪い取るためか、相手を傷つけないためなんて自己満足か。
奴は前者だった。自分の目的のためにルイネたちのあるものを欲し、お得意の外面と嘘で丸め込んだ。
「まさかお前らも、姉弟子が自分たちを騙すなんて思いもよらなかったよなぁ?」
「嘘だ……嘘だ、そんなのは嘘だ! だってマリスは、私たちにまだ希望があると教えてくれたんだぞ!」
これだけ言ってもまだ信じる、か……前から思ってたが、暗殺者のわりに情に厚すぎる節があるんだよな。
あのネルファや……あるいは奴くらい割り切っていれば、この事実の捉え方も違うのかねぇ。
「なら、これを見てもまだそう言えるか?」
カインが幻覚を使い、ビジョンを映し出す。
自分の記憶ではなく、意識の共有で繋がっている俺の記憶だ。
赤い靄がかかり、幻覚が写したのはどこかの研究所のような施設、複雑な形状の装置が多くある一室だった。
「これは、私たちが転生した時の……」
そこにたのは今と変わらない外見のルイネと、転生した今の容姿ですら雲泥の差がある絶世の美女……ネルファだ。
そして、肌に張り付くような専用のスーツを着たルイネたちの他にもう一人。眼鏡をかけたショートカットの女がいる。
「アレがマリスだ。今とは全然違うだろ?」
「ああ、たしかにちびっ子じゃねえな。でも……」
「ハハッ、言いたいことはわかるぜ?」
何よりの違和感は、顔に張り付く笑顔。
一見親しみやすいが、これほど不気味な表情も中々ない。
『それじゃあ、頼んだぞ』
『御方と共に待っていますわ』
『ええ、すぐに追いかけていきますよ』
決意を宿す目で言うルイネたちに、にこりと奴は笑う。ハッ、いつ見ても寒気がしやがる顔だ。
最後の会話を交わして、装置を操作するマリスを除いて二人は装置に入った。蓋が閉まり、マリスが装置を操作する。
複雑な音を立てて次々と棺桶に繋がる装置が作動していき、やがて一つの機能を始動させて激しく稼働し始める。
そして振動と各装置の点滅、棺桶から放たれる光がいよいよ最高潮に達し、ルイネたちの入っている転生装置……いいや?
『……っ! 今っ!』
奴が装置を止める。
激しく震えていた棺桶が急激にブレイクダウンし、音を響かせ、激しく火花を散らしながら停止した。
濛々と煙が立ち込める中、奴は恐る恐る棺桶に近づいていく。そして、設置された透明なケースの中身を覗いた。
そこにあるのは力強く脈動する赤い光の玉と、金色の光に縁取られた仄暗い緑色の、異形の光の玉。
ルイネとネルファの、魂だ。
『……………………あは』
それを見て、奴は。
『あは、あははははは、あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!』
とても可笑しそうに、嗤った。
『ああ、ありがとう愛する姉妹たち!私のために大事なものをくれて!これで私は、お父さんに会いに行ける!』
大事そうに、愛おしそうに。
本当に嬉しそうな顔で、奴はかつて自分が妹や家族と呼んだルイネ達の魂を見つめる。
ひとしきり嗤った後、奴は装置からケースを外して、文字通りの棺桶を置いたまま部屋を出て行った。
その5秒後だ。棺桶が爆発し、幻覚の爆炎が視界を覆い尽くしたのは。
「な? これでわかっただろ? あいつはお前らの魂が欲しかった、だから利用した。それだけの話だ」
「そ、んな……」
絶望した顔をするルイネ。他の奴らも目を伏せるか、呆然とするか、口に手を当てて悲鳴を抑えるか。
下衆な愉悦、次に同じかそれ以上の罪悪感。
元からある負の感情と、植えつけられた善性が同時に沸き起こった。
「話を続けよう……ルイネたちの魂を手に入れた奴は、世界意思に会いに行った」
幻覚が映すのはいつかの丘、カインが自刎した場所。そこには円環が激しいスピードで回る世界意思がいた。
まるで激しく焦っている人間のような動きだ。実際、内部ではいたるところにエラーが出てんだけどな。
「奴やルイネ達に記憶が戻ったことにより歴史に矛盾が生じ、消えたはずのバグが一気に溢れ、大混乱中の世界意思に奴は提案した」
『私がエラーを正しましょう。だから、その力をくださいな?』
「もはや正常な判断ができないほどに混乱していた世界意思は、奴に渡したのさ。世界で最凶の武器をな」
奴はルイネ達の魂を自分に取り込み、魂の格を上げて元からルイネとネルファの三人で受け継ぐはずだった〝抹消〟を手に入れた。
世界意思から白い粒子が降り注ぎ、奴の右手に刻印が刻まれる。そこからカインと同じナイフが生まれた。
『ありがとうございます。それでは──消えてください。私からお父さんを奪った報いとして』
それを、世界意思に投げ打った。
パリィィイインッ!!!
〝抹消〟は寸分違わず中核を貫き……世界意思は木っ端微塵に砕け散ってしまった。
「なっ!!?」
ルイネが絶句する。ハジメたちも全く同じ表情だ。
そう、奴は世界意思を消した。たった一瞬、無防備に等しかったその瞬間を狙って。
そして白い世界意思の残骸が降り注ぎ、手に入れた。世界すら創造できうる力と……かろうじて残っていたカインの残骸を。
『お父さん!やったよ!私やったよ!ねえ、褒めてよお父さん!』
陶器のようにひび割れたカインの生首に、それは嬉しそうに笑いかける奴。
その目にはもう、正気は一片もない。
「そんな、マリス……嘘……だろう……?」
「残念ながら本当だ。奴はカインが全てをかけて守ったものを、カインのためにバラバラにしたんだよ」
父のために世界も、家族ですら道具にした悲しみと愛に狂った女。ある意味じゃあ人間らしい姿だ。
それからずっと話しかけていたが、しばらくしてカインの自我がないことに気づいたのかピタリと動きを止める。
『……そっか。もうお父さんの意識、ないんですね』
いつのまにか元の冷徹な顔に戻って、奴は立ち上がる。
すると、奴の姿が変わっていった。白衣は純白のドレスへ、短かった髪は伸びて黄金に。
最後に、眼鏡を外して露わになった瞳は……
『待っててね、お父さん。私がすぐに──
その言葉を最後に、奴は忽然と姿を消した。そこで一旦カインにアイコンタクトをして幻覚を消す。
「……おい、今のって」
ハジメが、酷く強張った顔で声を漏らす。ああ、そういやこいつはシュウジから聞いたんだったな。
「そうだ。マリスの正体は──シュウジを転生させた女神だ」
楽しんでもらいたいと思うほどカオスになる。うん、わけわかんねえなこれ。
とりあえず次回も頑張ります……もう月さんとか楓さんとか読んでないのかしらん。