星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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どうも、感想をもらえると極端に更新が早くなる作者です。

シュウジ「今回からあらすじを担当するシュウジだぜ。えー前回は、あのカス山がやらかしてくれたんだよな?」

エボルト「同じくあらすじ担当のエボルトだ。俺たちが作った回復ジュースもあったな」

シュウジ「そうそう、あれあれ!いやー二人の反応面白かったよ。作った甲斐があったね」

エボルト「よかったな。で、今回はどうやらやばい奴が出るみたいだぜ?大丈夫なのか?」

シュウジ「大丈夫じゃない?それじゃあせーの、」


シュ&エボ「「さてさてどうなる迷宮編!」」


絶望へと フェーズ1

  橋の両サイドに現れた、赤黒い光を放つ魔法陣。どちらとも異常に大きく、加えて俺たちが脱出しようとしている方の魔法陣の周りには無数の魔法陣が出現している。

 

「……なんか砂糖に群がるアリみたいじゃね?」

「もしそうなら色的にヒアリか?」

「シャレにもならねえな。まあ、それよりもっとヤバいだろうけど」

 

 それを見て、俺は脇から騎士団員さんを落としながらエボルトとのんびり会話する。緊急事態の時ほど、冷静でなくてはならない。

 

 いつでも撃てるように、俺はネビュラスチームガンを、エボルトはトランスチームガンを背中合わせに構える。気分はアウトローだ。

 

 どちらが先に来ても確認できるように視覚を共有していると、まず最初に、俺の構える階段側の魔法陣から奴さんが現れた。

 

 

 

 キシャァァァァァアアアアアアアアアッ!!!

 

 

 

 それは、巨大な水色の、蛇型の魔物だった。体長は目算で15m以上、最も当てはまるのはコブラだろうか。その身からは凄まじい威圧感が溢れ出る。

 

「なんか、どことなくお前とかブラッドの召喚する蛇に似てね?」

「ああ、あのベ◯スネーカーの使い回しの……」

「おっと、それ以上は言ってはいけない」

 

 軽口を叩いている間にも、小さな魔法陣からおびただしい数の魔物が召喚されていく。うわ、目がチカチカするぅ。

 

 魔法陣から出てきたのは剣を持った、厳つい見た目の骸骨。確か、〝トラウムソルジャー〟とかいう魔物だったか。

 

 どこぞの死の支配者のように鮮烈な赤い眼光を光らせるカルシウム野郎どもは、既に百体近くに上っており、リアルタイムで増え続けている。

 

「どんどん防虫ならぬ、どんどん膨張ってか。笑えないねえ」

「そりゃ同感だ。で、そっちはどうだ?」

「…自分で見てみろよ」

 

 エボルトが呆れたような声で言ったので、試しに視覚共有で通路側を見る。そして全く同じように、ハッと笑った。

 

 

 

 グルァァァァァアアアアアッ!!!!!!

 

 

 なぜなら通路側にいたのは、体長十メートル超の四足で頭部に兜のような物を取り付けた魔物だったからだ。

 

  瞳は赤黒い光を放ち、鋭い爪と牙を打ち鳴らしながら、頭部の兜から生えた角から炎を放っている。まさに読んで字のごとく、悪魔のごとき見た目だ。

 

「アラン!生徒達を率いて〝トラウムソルジャー〟を突破しろ!カイル、イヴァン、ベイル!全力で障壁を張れ!ヤツを食い止めるぞ!光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」

 

 隣で、ベヒモスと巨大コブラを交互に見たメルさんが怒号と共に矢継ぎ早に指示を出す。動き出す騎士団員たち。

 

「シュー、エボルト!助力を頼めるか!?」

「当たり前っすよ」

 

 さすがにこの状況でいつまでもネタに走るほど、俺は楽天家でもなければ、間抜けでもない。やるときはやる、それが俺のポリシーだ。

 

「後ろに同じ、だな。さっさとこいつらをぶちのめして、また飯でも食いに行こうや」

「ってわけで、あのベヒモスとやらの情報くれます?」

「わかった!」

 

 真面目モードでいう俺たちに、メルさんは大きく頷いてベヒモスの情報を提供してくれた。相手のことを知るだけでも有利になるってもんだ。

 

 で、メルさん曰くあのベヒモスは六十五階層の魔物であり、かつて〝最強〟の称号を持つ冒険者ですら叶わなかった、正真正銘のバケモノみたいだ。

 

 なるほど、こりゃあ随分と悪質なトラップだ。まさにオーバキル、俺とエボルトはともかく、あの甘ちゃん勇者やクラスメイトどもには悪夢以外の何者でもあるまい。

 

「全員生還する確率は無いに等しい、か。まあ……」

「俺たちがいなかったら、の話だけどな」

 

 絶望的なこの状況で、俺とエボルトは口を裂けるように釣り上げて笑った。ああ、この精神を削り取られるような感覚。久しぶりだ。

 

 どうやらそれはエボルトも同じようで、感覚を共有しているが故にその心のうちに血のような炎が噴き上がるのがわかった。

 

「エボルト、あのカメ野郎を頼む。ブラッドスタークでいけるか?」

 

 ちなみにエボルは使わない。どうしてだか、エボルは俺とエボルトが融合している状態でないと変身できないようになっているのだ。

 

 おのれ、ディケイドーーーッ!(違う)

 

「早速ふざけてんじゃねえか……ま、せいぜい頑張ってみますかね。んで、お前は?」

 

 エボルトの問いに答えることなく、俺は異空間に手を突っ込む。そしてそこからあるものを取り出し、ひらひらとかざした。

 

 俺の取り出したもの…それは赤いボディカラーに青と金色の装飾、惑星図のような円盤と青いレバーのついたもの。

 

 そう、()()()()()()()()()()()()()()。もしもの時のために、秘密裏に開発した切り札の一つ。

 

「俺は、実験だ」

「……りょーかい。そんじゃあ、行きますかねぇ」

 

 楽しそうな口調で言ったエボルトが、異空間からコブラロストボトルを取り出す。それに俺も、エボルドライバーを腹に当てた。

 

 エボルトはボトルを数回振ってキャップをセットし、トランスチームガンに装填した。同時にベルトが腰にまきつく。

 

COBRA(コォブラァ)……!

エボルドライバー!

 

 トランスチームガンのおどろおどろしい変身待機音がなる中で、俺は異空間からメガネと杖を取り出す。

 

「ならば、答えは一つ……!」

 

 やや高めな声とともに、思いっきり膝で杖を叩き折った。バキッといい音を立てて、破片を飛び散らせて折れる杖。

 

「あなたに忠誠を、誓おぉおおおおおおお!」

「ブフッ」

 

 そして、狂気の滲んだ笑顔とともにそう叫んだ。俺が内海さんのモノマネを始めた時点で震えていたエボルトが噴き出す。

 

 茶番をやり終えて満足した俺は、ぽかんとしているメルさんや他の一同を無視して杖を投げ捨てる。そして手の中に二つのボトルを召喚した。

 

 シャカシャカとやや硬い動きでボトルを振り、同時にキャップをセット。逆さにしてエボルドライバーのスロットに挿し込む。

 

 

コウモリ!

発動機!

 

 

エボルマッチ! 》

 

 

 コウモリとエンジンのシルエットが浮かび、エボルマッチのロゴが出現。変身待機音が鳴り始める。俺はレバーを回し始めた。

 

「っぐ、ああぁぁっ!?」

 

 ベートーベン交響曲9番を模した音楽が流れる中、ドライバーから出てきた赤と紫のガスに俺は激痛を覚え、苦悶の声をあげる。

 

 ここぞという見せ場で変身しようと、一度も変身にエボルドライバーを使ってはいない。だからこれはネタではなく、本物の悲鳴だ。

 

 しかし、全身に吸い込まれていくうちに痛みは治まり、再びレバーを回す。すると毒々しい赤と紫のパイプが周囲に突き刺さっていった。

 

 「うおっ!?」とメルさんが飛び退く中、曲が止まって次の段階に移行する。それに備え、俺は眼鏡を外した。

 

 

ARE YOU READY?

 

 

「変身!」

「蒸血」

MIST MATCH!

 

 叫ぶのとともに、視界が凝縮したパイプに包まれる。後ろから、エボルトが蒸血する声が聞こえた。

 

 

バットエンジン フッハッハッハッハッハ……!

CO COBRA! COBRA……!

FIRE!

 

 

 エボルドライバーからの声とともに、視界が一気に開ける。するといくつものパネルやスーツのホログラムが目の前に浮かんでいた。

 

 手を見下ろしてみると、黒いスーツとブレードのようなものがついた、紫と白で彩られたアーマーに覆われている。

 

 同じく白と紫の胸の装甲には銀色のレリーフ、顔を触ってみると、パイプのついたマスクが手に触れた。

 

 そう、俺は確かに偽悪の科学者、内海成彰と同じ、仮面ライダーマッドローグへと変身していた。憧れのものへと変身した喜びが心の底から溢れてくる。

 

「……ていうかこれ、なんかア◯アン◯ンみたいだな」

『そんなもんだ。さあ、戦いを始めようじゃあないか!』

《ライフルモード!》

 

 パシッと俺の肩アーマを叩いたエボルトは、スチームブレードとトランスチームガンを合体させるとベヒモスへと向かっていった。

 

 それをちらりと横顔で振り返って見送り、俺も右手にネビュラスチームガンを、左手にスチームブレードを持つ。

 

「それじゃあメルさん、バックアップは頼みましたよ……北野シュウジ、行っきまーす!」

 

 隣で呆然としているメルさんにそういうと、俺はネビュラスチームガンを撃ちながら巨大コブラへと駆け出していくのだったーー。

 

 

 ●◯●

 

 

「ハッ!」

 

 ネビュラスチームガンを乱射……まあ狙い撃ちだけど…し、何体かのトラウムソルジャーの頭を吹っ飛ばす。

 

 すると、半分くらいのトラウムソルジャーたちがこちらを睨み、殺意をみなぎらせて剣を振りかざして向かってきた。

 

  ゲームと同じ……というほどでもないが、どうやら上手い具合にトラウムソルジャーたちのヘイトは俺に向かったようだ。

 

  これ幸いと、俺は仮面の下で笑いながら、目を閉じて魂の中に眠っている暗殺者としての〝私〟を呼び覚ます。

 

 すると、それまであった感情全てが消えていき、どんどん心が冷たくなっていく。北野シュウジが消え、〝世界の殺意〟と呼ばれた男が目を覚ます。

 

「……ハァアア」

 

 そして完全に凍てついた瞬間、()は目を見開いて静かに一歩踏み出した。

 

 

 スパッ。

 

 

 次の瞬間、()()()()()()()2()0()()()()()()()()()()()()()()。ピタリ、と動きを止める、他の骸骨たち。

 

 私は手に持つスチームブレードを振り、骨片をとる。そしてトントンとこめかみの部分を叩いて静かにいった。

 

「さあーーもう眠る時間だよ」

 

 言い終えるや否や、加速。魔法陣から新たに出現していた骸骨の頭全てを撃ち砕き、あるいは切り刻む。

 

 〝トラウムソルジャー〟は三十八層に現れる魔物。戦闘能力はそれなりであり、正面から全て相手するのは不毛と判断。よって暗殺を開始した。

 

 動きを止めている間に、どんどん現れては消えていく骸骨たち。だがしばらくしてハッと我に返ったように、私と()()()に襲いかかった。

 

  その瞬間、同様に呆けていた子供たちは不気味な骸骨の魔物と、その奥に佇む大蛇にパニック状態になる。

 

 

 隊列など無視して、我先にと階段を目指してがむしゃらに進んでいく。騎士団員の一人、アランが必死にパニックを抑えようとするが、目前に迫る恐怖により耳を傾ける者はいない。

 

 

 それに思わず、私は仮面の下で嘆息した。やはり彼ら彼女らにかつての私のような破壊者になれる素質は、万に一つもない。

 

「きゃっ!」

 

 早々に切り捨てて骸骨たちを全て消そうと思ったところ、一人の少女が突き飛ばされて転倒した。

 

 そして、私ではなく子供たちに向かっていた骸骨の一匹が接近し、剣を振りかぶった。あげた顔を絶望に染める少女。

 

「……はぁ」

 

 

 バンッ!

 

 

 私は襲いかかってくるトラウムソルジャーを適当に切り刻みながら、銃をそちらに向けて発砲した。崩れ落ちる骸骨。

 

 別に、何か特別だから助けたわけではない。ただ信念も、覚悟もない当然のような殺しを見たくなかっただけだ。

 

 そんなものは、私だけで十分だから。

 

「え、あれ…?」

「早く逃げなさい。任務の邪魔です」

 

 瞬間移動をした私は、少女の襟を掴むと立ち上がらせ、その背中を押した。そして骸骨たちに向き直る。

 

 しかし、一向に逃げる気配がない。疑問に思い後ろを振り返れば、少女は私を見上げている。髪で隠され、その表情はうかがい知れない。

 

「どうしたのです、早く逃げなさ…」

「………………お師匠様

「……何?」

 

 小さなそのつぶやきに、一瞬〝世界の殺意〟の効果が切れて〝私〟が揺らぐ。しかしすぐに聞き間違いだと納得して、技能を使い私に戻る。

 

「さあ、早く」

「あ、うん…ありがとう」

 

 一言お礼を言って、彼女は剣を抜きながらトラウムソルジャーと交戦する、子供達の元へと走っていく。

 

 その背中が、ふと黄金の髪を揺らす一人の女の姿と重なった。

 

「……今日はよく幻覚を見ますね」

 

 クイッと眼鏡をあげるように仮面をなぞり、戦闘でずれたカメラアイやセンサーを調節。再び骸骨狩りを開始しようとした。

 

「ひゃあぁあっ!?」

 

  ……のだが、聞き覚えのある声がして、私はそちらを振り返る。すると、そこでは一人の女騎士が骸骨たちに捕らえられていた。

 

  というよりは、両手両足を抑えられて担ぎ上げられている。やけに胸が主張されており、無駄に官能的だ。

 

「き、貴様ら離せっ!くっ、いつもならこんなはずは……!」

 

  金髪の髪を振り乱し、そんなことを言っているのは……案の定、今の私の知人であるセントレアという騎士だった。

 

「………はぁぁぁ」

 

  深く、それはもう深く溜息を吐きながら、銃を構えて引き金を引く。それに担ぎ上げていた数体の骸骨が沈黙した。

 

  こちらを振り向いた隙に一瞬で潜り込み、剣を振るって全ての骸骨を骨粉へと帰る。そして落ちてきた女騎士の足を捕まえた。

 

「わっちょ、しゅ、シュウジ殿、感謝する!だが下ろしていただけると」

「もとよりそのつもりですよ」

 

  ジタバタともがいている女騎士を落とす。女騎士はしばらく悶えたあと、近くに落ちていた剣を拾って「それではご武運を!」と子供達の方へ行った。

 

  一瞬気分が萎えたが、とりあえず今度こそ骸骨たちの方に向き直る。敵の総数は、センサーによるとおよそ百数体。

 

  絶望的といえば絶望的な数だが、まあかつて暗殺……いや虐殺した数十万の国軍とは、比べ物になりはしない。

 

 ひどく落ち着き払った心境で、冷静に骸骨たちを知覚できないスピードで銃殺、あるいは斬殺し、〝暗殺〟していく。

 

 気づかぬうちに苦しみを与えることなく命を断つ。それすなわち、暗殺なり。我が名は〝世界の殺意〟、苦しみを与えず眠りへ誘うもの。

 

 しかし骸骨にも、どうやら脳はなくても知恵はあるようである。動く前に封殺しようと、全方位から襲いかかってくる。

 

「笑止」

 

 私は駒のように回転し、銃を撃つ。するとエネルギー弾は急速にカーブし、一周しながら骸骨たちの頭を粉砕した。

 

 力を失った体は崩れ、しかし慣性の法則に従ってその手から剣が飛び出てくる。わずかに体をそらすことで回避し、逆に第二陣の骸骨を串刺しにした。

 

 そのあとも殲滅を続けるが、いつまでたっても骸骨は増えるばかり。これではキリがない。ならばと、私は異空間に手を入れる。

 

 そしてそこから、六つの銃口が浮き彫りになった黒いボトル……ガトリングフルボトルを取り出して優雅な動きでシェイクした。

 

 骸骨の攻撃をかわしてカウンターで撃ち殺しながら、キャップをセット。銃のスロットに挿し込む。

 

《フルボトル!》

「さらに、特大サービスです」

 

 体内で構築していた破壊魔法を付与し、私は銃口を上に向けて引き金を引いた。

 

 

《ファンキーアタック! フルボトル!》

 

 

 すると特大のエネルギー弾が打ち上げられ、空中で無数に分散して降り注ぐ。それはまさしく、紫色の死の雨。

 

 雨は骸骨たちの体を跡形もなく粉々にし、それまでショーを見るように静観していた大蛇にすらダメージを与える。

 

 

 

 

 

 キシャァァァァァァァァアアアアッ!?

 

 

 

 

 

 大蛇が悲鳴をあげ、骸骨たちがこちらを怯えたような目で見ながら砕けていく中、私は静かに仮面をなぞった。

 

 やがて、雨は止む。雨は骸骨たちを召喚する魔法陣をも粉々にし、増援を打ち止めにした。これでこの場にいる骸骨は、せいぜい五百かそこら。

 

 私の周囲にいた骸骨は全滅しており、あとは子供達と騎士で対応できるだろうと、銃を下ろした。

 

「……っと、そろそろ時間切れですか」

 

  さて、次はあの大蛇を殺そう歩き出したところで、急激に〝私〟の存在が心の底に沈んでいく。

 

  数秒もしないうちに、〝私〟は〝俺〟に戻った。ふぃーっと息を吐いて、首を回す。あっコキコキって鳴った。

 

「2回目だけど、結構疲れるなこれ。前は一瞬使っただけだし」

 

  完全にいつもの口調でそういう。さっきまでの俺は、〝世界の殺意〟の技能で昔の自分を憑依……いや引っ張り出した状態であった。

 

  その間は、能力が極限まで研ぎ澄まされ、かつてと同じ動きを昔以上の力で可能とする。十分という制限時間付きだけどな。

 

  まあ、そこはおいおい派生技能を身につければ伸びていくだろうという算段で使っていたが、なかなかに強力だ。

 

  しかし、口調や人格まで前世の方になるとは思わなかった。セントレアさんのこと結構雑な扱いしてたしな。

 

「セントレアさんにはとりあえず後で謝っておくとして……さて。それじゃあ今度は、俺と遊ぼうか?」

 

 

 

 キシャァァァアアァアアァアアァァァアアァッ !

 

 

 

  皮膚の表面から煙を出しながら、怒りの咆哮をあげる大蛇に、俺は仮面の下で不敵に微笑んだ。

 

 

 ●◯●

 

 

 大蛇はうなり声をあげながら、怒りの炎を目に宿して警戒している。てっきり怒りに任せて突っ込んでくると思ったが、案外用心深いらしい。

 

「まあ俺からはいくんだけどね」

 

 躊躇なくネビュラスチームガンの引き金を引く。いかに強靭な外皮や外殻を持っていたとしても、エネルギーそのものには意味をなさない。

 

 蛇の身体構造を基準として、長い胴体に的確に撃ち込んでいく。狙うは筋肉の継ぎ目だ。そこを強引に解けば……

 

 しばらく狙っていると、筋肉の連結が解けた大蛇はガクンともたげていた鎌首を崩す。そのまま転倒すれば楽に仕留められるんだが。

 

 

 キシャァァァァァァァァアアアア!

 

 

 だがうまくいかないのは世の常、紫色のオーラを放出したかと思うと、みるみるうちに傷が治っていった。オートリジェネ付きかよ。

 

 それどころか、何やら筋のようなものが口の方にいくのが透けて見える。本能的な危機を感じた俺はとっさにネビュラスチームガンを撃った。

 

 

 ゴバァッ!

 

 

 次の瞬間、大きく開けられた大蛇の口から大量のエネルギー弾が飛び出す。少し驚きながらも、冷静に引き金を引いて相殺した。

 

 最後の弾を打ち消した瞬間、その巨体からは考えられないほどのスピードで大蛇が接近してくる。

 

 全てを防いで、油断する一瞬の隙を狙ったのか。それにしてもオートリジェネに技を模倣とは、なかなかにファンキーなやつだ。

 

 頭の中で攻略法を組み立てながら、突進を回避する。そして空中で回転しながら背中にエネルギー弾を撃ち込んだ。

 

 が、そっちには弾かれる。ありゃりゃ、ネビュラスチームガンなら楽勝だと思ったんだが。要改良だな。

 

「それなら、こっち!」

 

 鱗の継ぎ目を狙って、思い切りスチームブレードを突き刺す。今度はちゃんと通った。絶叫を上げて暴れまわる大蛇。

 

 振り落とされて隙を見せるのは勘弁なので、切っ先を引き抜くと背中をけって跳躍、今度は頭に飛び乗る。

 

「そらよっと!」

 

 そして、ギョロギョロと蠢く巨大な両目にエネルギー弾とスチームブレードをお見舞いした。

 

 

 キシャァァァアアアっ!?

 

 

 回復するとはいえ、一時的に視覚を失った大蛇はのたうちまわる。その隙にさっと飛び降りて、クラスメイトどもに当たったらあれなので、適当に蹴って荒ぶる尻尾の軌道を調節した。

 

 555回くらい蹴ったところで飽きてきたので、異空間からルインエボルバーを取り出して思いっきり尻尾をぶった切る。

 

 

 ズパンッ!!!

 

 

 するとそんな子気味良い音を立てて、三メートルくらい尻尾が宙を舞った。切断面から勢いよく、大量の血が噴き出す。せっかくの純白ぼでーにかかるのは嫌なので、退避した。

 

「にしても、スッゲェ切れ味だなこれ」

 

 ドロドロとした紫色の血液が滴る、ルインエボルバーをまじまじと見る。さすが女神様特性、いい仕事だ。

 

 

 シャァァァアアァアアァアアッ!

 

 

  とりあえず血ぶりして異空間に戻しておくと、怒り心頭ムカ着火ファイヤーな大蛇が起き上がった。ものすごく舌が荒ぶってる。

 

  ちなみに近くでビタンビタンしてる尻尾はまだ再生されていない。さすがに損傷が大きすぎたのか、非常にゆっくりだ。

 

  だがその眼光は全く衰えを見せず、むしろ自分で燃え死んじゃうんじゃないの?ってくらい憎悪の炎で燃えてる。

 

「さあさあ、来いよ魔物。俺とワルツを踊ろうぜ?」

 

 

 キシャァァァアアァッ!キシャァァァアアァッ!

 

 

  理解してるのかしてないのか、手招きをした俺に舐められていると思ったのか、ブチ切れたご様子の大蛇は攻撃を仕掛けて来る。

 

  それに俺は静かに笑い、情報収集を開始した。相手を殺すためにその能力を理解し、対抗策を立てるのだ。

 

  そして俺は、大蛇の攻撃を反撃することなく、ただひたすらに観察し続けた。時には防御、時には回避をして情報を集めていく。

 

 

 シャァッ!

 

 

「そいっ!」

 

  時に毒液をセクシーポーズで回避し、

 

 

 アアァアアァァッ !

 

「あーらよっと!」

 

 時に鎌鼬の嵐をグルコ◯ミン運動で避け、

 

 

「ほほいっ!」

 

 

 シャァッ!?

 

 

  逆に、再生しかけていた尻尾を三枚おろしにする。

 

  そんなこんなで戦っているうちに、大体の能力の全貌を掴むことができたので様子見をやめる。大蛇はゼェゼェ言ってた。

 

「ふむ、能力は五つか」

 

 メガネをあげるように、仮面の表面をなぞる。仮面の裏に表示されたパネルでは、収集されたデータの整理が行われていた。

 

 大蛇の能力は、再生する能力、相手の技を模倣する能力、毒液を吐く能力、全身から刃を生やす能力、相手を石化させる能力だ。

 

 どれもこれも凶悪であり、このいやらしい悪意満載なトラップにふさわしい魔物だ。だが、決して対処できないわけではない。

 

「ってわけで、さっさと始めますか」

 

 とりあえず攻略する能力の順番の大筋を決めると、おもむろに一歩踏み出す。そして大蛇の眼前へと躍り出た。

 

 

 シャァッ!

 

 

 まさに飛んで火に入る夏の虫だと言わんばかりに、目を怪しく光らせて俺を石化させようとする。しかし、その前に俺は動いた。

 

「ちょっと痛みますよー、我慢してくださいねー」

 

 歯医者さんみたいな声で言いながら、異空間から取り出した極太のナイフを両目に突き刺す。そしてそのままにした。

 

 慣れてきたのか、悲鳴もあげない大蛇は舌で拘束しようとしてきたので、ニュルッとかわして次の段階に映る。

 

「竹の子狩りじゃあ!」

 

 次に、スーツに包まれた腕で長大な毒牙を掴み、全力で引っこ抜いた。さすがに予想外だったのか叫ぶ大蛇。

 

「はいはい、お薬を飲みましょうね〜」

 

 構わず血の吹き出す元栓にナイフで蓋をして、次は口の中に異空間から取り出した平たい物体を喉に貼り付けとく。

 

 ちゃんと固定したのを確認すると、最後にアクロバティックな動きで頭の上に乗り、ルインエボルバーを取り出す。

 

「人のことを蹴るいけない尻尾()はめっ、ですよ!」

 

 そして思いっきり横に凪いで、胴体の部分を全部切り落とした。当然落下するので退避する。

 

「ふい〜、下準備完了っと」

 

 地面に着地すると立ち上がり、ルインエボルバーでトントンと肩を叩いた。あっこれちょうどいいわ。今後肩たたきに使おう。

 

「さてさて大蛇くん、そろそろ反撃してもいいんだぜ?」

 

 

 シャァァァアアアアッ!!!

 

 

 テメェに言われなくともやったるわボケ、と言わんばかりに、頭だけになった大蛇は大口を開けて毒液を吐こうとした。

 

 が、いつまでたっても何も出てこない。激しく困惑したような仕草を見せる大蛇。だが、ならばと魔力を収束させた。

 

 また何か模倣した技を使おうとしたらしいが、やはり不発。大蛇は、訳が分からず怒りの咆哮を上げた。

 

 それから俺はずーっと大蛇の目の前に突っ立てたが、一向に攻撃が発動する様子はなく、また胴体が再生することもない。

 

「不思議か?なんで能力が一つも使えないのか」

 

 しまいにはジタバタともがきはじめた大蛇に、俺は挑発するような声で言った。ピタリと動きを止め、殺気を纏う。

 

「おお、こわ。まあ説明してやるよ。つっても、能力を発動できないようにしただけなんだが」

 

 まず目や牙の根元にナイフを突き刺し、再生を阻害した。もし治ってもナイフが突き刺さったままでは、石化能力や毒液は使えない。

 

 そして次に、口の中に魔力を霧散させる魔道具(メイドイン俺)を設置して模倣したわざと再生能力そのものを封印。

 

 最後に胴体をぶった切ったのは、そもそも刃に変わる体がなければ意味がないからだ。あとは丸裸の獲物が残るだけである。

 

「まあ人間じゃないお前にクドクド言っても意味ないし、この後予定詰まってるんで、そろそろ終わりにしようか」

 

 そう言って、俺は大蛇を全力で蹴り上げた。巨大な頭が宙に浮かび、格好の的となる。

 

  それを見上げながら、俺はエボルドライバーのレバーを回した。再び交響曲9番がリズミカルに流れる。

 

 

READY GO!

 

 

「むんっ!」

 

 両手をクロスし、背中に力を込めると、機械じみた巨大なコウモリの翼が展開した。それを使い、俺は大蛇へ飛翔。

 

 

エボルテックアターック!

 

 

「はぁああああぁあああっ!」

 

 そして、必殺の一撃を叩き込む!!!

 

  俺の蹴りは寸分たがわず大蛇の額に吸い込まれ、莫大な破壊エネルギーが大蛇に流し込まれた。

 

Ciao〜♪

 

  紫色に光る足を中心に、大蛇の体にヒビが入っていき、そしてーー砕けた。

 

 

 パリィィィンッ!

 

 

「うし、これで後は後ろのーーーーーッ!?」

 

  音を立てて砕けた大蛇を見て、俺はそう呟こうとして……言葉を止めた。そして仮面の下で息を呑む。

 

  空中に飛び散った、大蛇だった大量の破片。その中心から、一人の人間が姿を現したからだ。

 

  それは、見覚えのある人間だった。ほんの数時間前、迷宮に入る時に見かけた、あの鮮烈な赤髪の女性。

 

  何より、透き通る美しい全身を晒し、大蛇の中に囚われていた彼女の顔が、今は見えるようになっていた。

 

  そして、その顔は。間違いなく、この世の誰よりも知っている顔だった。

 

 

 

 

 

「〝ルイネ〟ッ!?」

 

 

 

 

 

  彼女の名前を叫んだ俺は、空中で蹴りの体制のまま硬直する。その一瞬の時間が、彼女の手を俺が掴める唯一の時間だったのに。

 

  目を閉じ、意識のない様子の彼女は、重力に従って落下していく。我に帰った時にはもう遅く、彼女は奈落の底へと消えていった。

 

  とっさに伸ばしていた手は何も掴めないまま、翼の消えた俺は地面に落ちる。受け身も取れずに背中から落ちた。

 

「くっ!」

 

  だが背中の痛みなど全く気にせず、鬼気迫る表情で奈落の底を覗き込んだ。幸い、カメラアイはうっすらとその姿を捉える。

 

  しかしそれもだんだんと小さくなっていき、見えなくなっていった。このままでは、また失ってしまう!

 

「そんなの誰が許すか!」

 

  俺は一瞬で両手にネビュラスチームガンとスパイダーフルボトルを召喚。スロットにセットして撃った。

 

 

《フルボトル! ファンキーアタック! フルボトル!》

 

 

  銃口から飛び出した蜘蛛の巣は、彼女の後を追いかけて奈落の底に向かって高速で飛んでいく。

 

  それが果たして彼女を捉えたのか。それは、俺にはわからない。俺にできるのは、力なく座り込むことだけだった。

 

「なんで、あいつがここに……?」

 

  あいつは今頃、己の悲願を果たし、祖国を取り戻しているはずなのに。それなのに、なぜこの世界、なぜ俺の前に……?

 

「なんで、なんで………」

 

  わからない、わからない。いくら考えても、わからない。

 

 

 

 ドッガァァァァァンッ!!!

 

 

 

  そんな俺の疑問は、突如聞こえてきた轟音に吹っ飛ばされることとなった。

 

「一体今度はなんだ!?」

 

 驚いて音の発生源を見ると、そこには……

 

 

 グルァァアアアァアア!?

 

 

「う、うわぁあああぁあああっ!?」

「ハジメッ !?」

 

 

 

 

 

  崩落する橋と、今まさに落ちようとしている、ベヒモスと親友の姿があったのだったーー。

 

 

 

 




突如現れた謎の女性。彼女は一体誰なのか。乞うご期待を。
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なお、ルイネに次いでア■ゾン■オ■■■ァに変身するヒロインの案を募集します。よろしくお願いします。

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