星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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どうも、ソフトウェアアップデードで最高にイライラしている作者です。
さて、前回の最後を少し修正しました。そしてまたまた長くなったので前後編にわけました。
楽しんでいただけると嬉しいです。


【挿絵表示】


前に載せたかな?カインの容姿です。下手ですけど。


全力で

 

 

「あ? おい、いきなりなんだ」

 

 突然苦しみだしたカインに、エボルトが困惑した声を上げる。この期に及んで、またなにかあるのか?

 

 もう色々と聞きすぎて頭がパンク寸前の俺たちはどうすることもできず、ただカインのことを見ることしかできない。

 

「えっ、わ、私何か聞いちゃいけないこと聞きましたか!?」

「いえっ、これ、っは……!」

「お、おいおい、一体なんだってんだ。そんなの予定になかったろ」

「申し訳ありま、せん、エボ、ルト」

 

 エボルトでさえ原因不明の苦痛に胸を押さえて、カインは絞り出すように言った。

 

「彼に、全て、聞かれ、ました……!」

「なっ……!」

 

 驚愕し、目を見開くエボルト。それは俺たちだって同じだ。

 

 あいつがこれまでの話を聞いてただと!?

 

「たった今暴走したら人格を入れ替えることになってるって言ってたじゃねえか!」

「どうやら、眠った、フリをして、あえて話を、グッ……!」

「くそっ、よりによってこんなとこで!」

 

 もしまた、こんなところで迷宮の時みたいに暴走されたら、間違いなく家が──いや、エリセンそのものが沈む。

 

 比喩ではなく、あれを見たかぎりだと間違いなくそうなるだろう。しかし、人格をまた眠らせる方法なんか知らない。

 

 とりあえず放心状態の八重樫たちをウサギとシアに守ってもらい、全員でカインを包囲する形を取る。

 

「もう、私では、止められない……!」

「チッ、どうすることも……!」

 

 ここは迷宮より遥かに狭いし人も多い、やるにしてもあまりにも不利すぎる!

 

「南雲、ハジメ……!」

 

 突然、名前を呼ばれた。

 

 こちらを見たカインは、ふらついた足取りで近づいてくると両肩を掴んでくる。

 

 間近で見たカインの目は、それまでの闇のような黒一色が七色に染まっていた。

 

 これは、迷宮で暴走した時の……!

 

「君が、彼を止めてくれ……!」

「俺が……?」

「私はもう、消えてしまう……!もとより私は、残留意識を技能として残していたにすぎない……!」

 

 技能……残留意識を……やっぱり、シュウジの持っていた[+回帰]が関係、いやカインそのものだったのか。

 

 それだけ、こいつはシュウジのことを気にかけていた。

 

「お前、残っていた自分の存在を賭けてでも、あいつのことを……」

「頼む……!死者である、兵器である私に彼は救えない……でも、君なら……!」

「どうしてそこまで……」

「私は間違えた……!走ることしかできず、止まることも、誰も止めてくれる者もなかった……!」

 

 行きすぎた一殺多生の理想、その果ての世界の破滅。

 

 これまでの話で嫌というほどに理解してきた、その後悔と苦悩。

 

 それを、俺の肩を掴む震えるその手から強く感じる。先ほど話していた時よりも比べ物にならないほどに。

 

「でも、彼には君が、君たちがいる!」

「……!」

「私や、元よりいたエボルトでは不可能なんだ。彼と人として、共に生きてきた君たちこそが……!」

「……俺で、いいのか?」

 

 あの時何もできず、言葉を届けてやることもできなかった俺がやっても。

 

 逡巡する間にも、カインの表情は苦悶に歪んでいく。きっと相当な精神力を使っているんだろう。

 

「だから頼む、彼を一人には……ぐぅうっ!?」

「お、おい!」

 

 最後まで言い終える前に、カインはまた胸を押さえて何歩か後退りした。チッ、もう時間がないってことか!

 

 

 

 

 

「…………お願い」

 

 

 

 

 

 どうすればいいのか迷っていると、どこからか聞きこぼしてしまいそうになるほどか細い声が聞こえてきた。

 

 それでもはっきりと聞こえたその言葉に振り返ると、発生源はウサギたちが背後に守っている八重樫だった。

 

 いつの間にか目覚めていた八重樫は、頬に一筋の涙を流して言葉を続ける。

 

「お願い……南雲君……シューを……シューを助けて……」

「……八重樫」

「あの時……私が呼んでも、届かなかった……止められなかった……」

「………………」

 

 それは俺だって同じだ。シュウジが暴走した時、止めることはおろかろくに近づくことさえできなかった。

 

 俺ではあいつを、助けてやれないかもしれない。いつだってあいつに守られていた俺では、どうすることも……

 

「おいおい、何迷ってんだ?」

 

 その時だった。エボルトが小馬鹿にしたような声で、そう言ってきたのは。

 

「そこは助ける、って断言しろよ」

「……俺には、その力がないかもしれない」

「ハッ、そいつはおかしいなぁ!」

 

 俺の言葉を、心底おかしいと言う様子で笑うエボルト。

 

「何がおかしい?」

「お前はその程度で諦めるタマだったか?力が足りないから目的を諦めるような軟弱男が、こいつの親友ねえ」

「……っ!」

 

 聞き捨てならない言葉に、そんなことをしている場合ではないとわかっていてもエボルトの襟首を掴み上げる。

 

 そして睨みあげるが……エボルト怯むことなく、より一層楽しそうに笑うだけだ。

 

「そう、その目だハジメ。それでこそお前だ」

「何……?」

「お前はこの世界で、どうやって生きてきた。どうやって目の前の困難を打ち砕いてきた。それを思い出してみろ」

「──!」

 

 エボルトの言葉に、生まれ変わった時……オルクスの奈落での記憶が走馬灯のように流れてきた。

 

 

 

 最初に、おそらくは檜山の魔法によって奈落に落ちた時。

 

 

 

 爪熊にやられ、片腕を失った時。

 

 

 

 瀕死になったヒュドラの時。

 

 

 

 俺はその時、一度たりとて諦めたか? たとて一度折れたとしても、そこから絶望に抗うことを放棄したか?

 

 否、断じて否だ。

 

 たとえ絶望しようが、相手の実力が上だろうが、生きるために食らいついた。

 

「俺は、何を恐れて……」

「ようやく思い出したか。そう、何者も恐れず自分の目的のために打ち破る、それが南雲ハジメだ。今のお前はただ、ひよってるだけなんだよ」

 

 ……ああ、なるほど。確かにこいつの言う通り、俺はひよってた。

 

 シュウジがあんなんなっちまって、その真実を聞いて……尻込みしたのだ。これまで散々、守られてきたから。

 

 だから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そんな心底ふざけた、クソッタレな諦観で決めつけた!

 

「……そんなの、許さねえ」

「だったらどうする?逃げるか?それとも立ち向かうか?」

 

 そんなもの、最初から決まっている。ただ少し動揺してわからくなっただけだ。

 

 俺の邪魔をするものは、たとえそれが俺自身の恐怖であったとしても……

 

 

 

「全部、ぶっ壊す」

 

 

 

 全て排除し、望むものを掴み取る。

 

「なら、やってみろ」

「上等」

 

 不適に笑い、襟首から手を離す。ジャケットの位置を直したエボルトはニヒルに笑うと、手を床にかざした。

 

 すると、床に黒い穴……ワームホールが広がる。それは俺と、苦しんでいるカインだけを捉えていた。

 

「ハジメ!? 何する気なの!?」

「ちょっくら、あいつと二人で話をつけてくる」

「だったら私たちも──!」

 

 ワームホールに踏み込もうとする美空を、手で制する。その後ろに続こうとしていたユエたちもだ。

 

 そして、ただ目で訴えた。

 

 それだけで俺の覚悟とのほどはわかったのだろう、皆出しかけていた足を引いた。

 

「……無理、しないでね」

「心配すんな、ちゃんと帰ってくるさ……」

 

 勿論、あのバカ野郎と二人でな。

 

「行ってこい。俺の十七年の苦労、無駄にすんなよ?」

 

 心配そうに見守る美空たちを最後に、俺はカインと共にエボルトに瞬間移動させられた。

 

 目の前が漆黒に染まり、体がなんとも言えない浮遊感に包まれる。何度か経験している転移系の魔法に似ていた。

 

 それも刹那の瞬間の出来事、気がつけば視界は元通り……ではなく、全く別の景色を映し出している。

 

「ここは……オスカーの隠れ家か」

 

 転移させられたのは、今の俺の原点とも呼べるオルクス大迷宮の最奥。数ヶ月ぶりだが変わりはない。

 

 ここなら、多少暴れたって問題はない。エボルトのやつ、いいところに瞬間移動の座標を残しておいたな。

 

「さて、あいつは……」

 

 周囲を見渡し、視界のうちには見当たらないことを確認すると滝の落ちる轟音がする背後に振り向く。

 

 

 

 

 

「…………………………………………」

 

 

 

 

 

 そこに、あいつはいた。

 

 俺の真後ろ、滝の水が流れ込む貯水池の縁に佇むあいつは俯いていた。そのため、顔が窺えない。

 

 カインか、それともあいつか。一見して分からないが……長年一緒にいたせいか。自然と、どっちかわかった。

 

「シュウジ、か?」

「…………ハジメ」

 

 ゆっくりと顔をあげる。そして見えた瞳は──ひび割れた、七色。

 

 表情も、立ち姿も、雰囲気も……紛れもなく、俺が長年間近で見てきたあいつのものだった。

 

 北野シュウジが、帰ってきたのだ。

 

「……聞いてたんだな」

「…………結構早く、目が覚めてな」

 

 最初の会話はそれ。カインが言っていた通り、俺たちが話していた時にはもう目覚めいていたらしい。

 

「は、はは。はははははははははははははははははははははははは!」

 

 どう言葉をかけようかと思っていれば、突然笑い出した。目元を手で覆い隠し、空虚な音を響かせる。

 

 ……何笑ってるんだ、なんて言えなかった。誰だって自分のあんな話を聞いたら、嗤いたくもなっちまう。

 

「全部、全部嘘だった!俺が抱えてきたもの!志していた理想も、何もかも借り物だった!」

「………………」

「先代に学んだ心も!マリスとの親子の思い出も!ネルファとの出会いも、ルイネへの愛だって!全部全部全部全部全部!」

 

 頭を抱えて叫ぶシュウジに、何も言えない。何かを言おうとしても、頭の中に何も浮かんでこない。

 

 その経験をしていない人間に、他者の苦しみはわからない。せいぜいできるのは同情くらいで、それは今何よりも許されない。

 

「俺が女神に都合よく作られた人格だって!?なら今までの俺の苦悩は、苦しみはなんだったんだ!それでも貫こうとした意思はなんだったんだ!」

 

 こいつの持つカインの記憶は、先生……女神が植え付けたもの。()()()()()()()()()ではない。

 

 だからきっと、天之河に叫んだあの決意もカインのものなんだろう。

 

 こいつの、シュウジの思いじゃあ……ない。

 

「こんな、こんな俺に何ができる!何もかもが借り物で偽物の俺が何を守れるって言うんだよ!」

「………………っ!」

 

 偽物と言った瞬間。シュウジの姿がブレて、何人かの誰かの幻影が重なった。

 

 幻覚で見たカイン、赤い外套の褐色肌の男、黒い鎧の女、金色の獣、頭頂部が色の濃い灰色の髪の男。

 

 恐らくはシュウジの原型になっただろう誰かたち。

 

 いつくも苦しむ顔が重なる姿は、ひどく不気味だった。

 

「くそ、くそ、くそぉ……!」

 

 それとは反対に、湖面に映ったシュウジの姿は………………のっぺらぼうの、機械じみた白い人形だった。

 

 それを見て、嫌と言うほど自覚する。

 

 あれが全て本当の話だったと、シュウジがそうであると、わかってしまう。

 

 こいつは、本当に。誰かによって作られた人形だったんだ。

 

「俺には何もない!最初からこの手には、何も持ってない!何もかもあいつや、他の誰かから奪ったものだ!」

「……シュウジ」

「こんな俺じゃあ、本当に生きてきたお前たちのそばにだって……!」

 

 そう言ったシュウジが突然、右手を掲げる。そこに浮かんだ刻印から現れるのは、今日何度も見た白いナイフ。

 

 あらゆるものを世界から〝抹消〟できる、究極の力。取り出された刃に、ジワリと嫌な予感が胸に広がる。

 

「こんな、こんな俺なんか……!」

 

 俺の予想は、いつだって悪い方向に当たってしまう。シュウジがナイフを逆手に回転させ、両手で握ったのだ。

 

 そこまで見れば、何をしようとしているのかなんて馬鹿でもわかる。俺は即座にドンナーをホルスターから抜いた。

 

「うわああああああああああああっ!!!」

「っ!」

 

 

 ドパンッ!

 

 

 コンマ一秒差。ラビットエボルボトルと魔力を全力で突っ込み、技能で電磁加速させた弾がナイフを弾く。

 

 危うくシュウジの胸を貫くところだったそれは震えていた手を離れ、くるくると宙を舞い、解けるように消えた。

 

 シュウジは呆然として、自分の手の中を見る。そこにすでにナイフはなく、あいつはその場で膝をついた。

 

「は、はは。消えることさえ、できないのか」

「………………」

「なんでだよ、ハジメ。なんで、邪魔するんだ」

「……当たり前だろ」

「っ……そう、だよな。生かしておけば、戦力として、使えるもんな」

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………………………………………………………………こいつ、今なんて言った。

 

 

 

 

 

 

 

 生かしておけば戦力として使えるなんて、そんなふざけたことを、言いやがったのか?

 

 

 ガシャン!

 

 

 ドンナーを乱雑に投げ捨てる。それだけじゃない、まだシュラークの収まっているホルスターごと外してそこらに投げた。

 

 コートも脱ぎ捨て、ネクタイを引きちぎるように外す。

 

 そうすると袖をまくり、動きやすいようにした。

 

 半身を引き、腰を落とす。前に置いた足に体重をこめ、異形の左手を力一杯握りしめて。

 

 そして言った。

 

「シュウジ……歯ァ食いしばれ」

「……え?」

 

 呆けた顔で俺の方を見たシュウジに、その瞬間全力で踏み込む。

 

 たった数メートルの距離を、一瞬で詰めて──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんの、馬っ鹿野郎がぁああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全力で、横っ面を殴り飛ばした。

 




誰がやると思う?万丈だ(違う
ということで、エボルトが戦兎を励ますあのシーンに少し寄せました。
次回、本音と本音のぶつかり合い!
今更だけど原作乖離しすぎてんな……
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