星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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んー、嵐がすごい。
おはようございます、作者です。
さて、多分今回は今までで一番熱い回だと思います。友人のお墨付きなのでちょっとだけ自信あり
楽しんでいただけると嬉しいです。


俺がお前を支えてやる

 

 咆哮とともに全力で繰り出した拳は、確かにシュウジの頬を捉えた。

 

「オラァッ!」

「ぐは…………っ!?」

 

 そのまま思い切り振り抜けば、突然のことで反応できなかったあいつは簡単に吹き飛んでいった。

 

 三メートルほど宙に浮き、池の中に落ちる。すぐに水しぶきを上げながら上体をもたげ、俺を驚愕の目で見た。

 

 右頬にアザのついた呆然とした顔を見て、俺は荒々しい足取りで近づいていくと襟首を掴み上げる。

 

「は、ハジメ、おま、なにを……」

 

 珍しく、困惑した顔で狼狽るシュウジ。生まれてこの方、こんな顔一度だって見たことはなかった。

 

 いつだってヘラヘラ笑って、何もかも何でもないような顔をして、いつも本当の顔なんざ絶対に見せない。

 

 それがいつも悔しくて、イラついて……それなのに、やっと見せた心があんなくだらないことだと? 

 

「…………もういっぺん言ってみろ」

「……え?」

「もういっぺん同じこと言ってみろって言ってんだ、このバカがっ!」

 

 無抵抗のシュウジに、至近距離で叫ぶ。しかし意味がわからないという顔をするだけで返事はしない。

 

 なんだよ、そのなんで怒ってるんだって顔は。自分がどんなことを言ったのかすらわかってねえのか? 

 

 ……いいや、その通りなんだろう。今のこいつは本気で、自分にその価値しかないと思ってるんだ。

 

「……俺が。俺たちが、お前が作られた人格だからって、ただの戦う駒にするって、そういう風に扱うって、そう思ったのか」

「っ、だって俺は、女神にとって都合がいいだけの人形で……」

「だから、心も存在する意味はないって?」

 

 口をつぐむシュウジ。図星ですという顔に、怒りのケージが限界を超えた。

 

「ふざけんなァッ!」

 

 力や記憶が他の誰かから受け継いだものだからって、心まで作り物だと!? そんなふざけた話があってたまるか! 

 

「与えられた記憶? 借り物の力? そんなこと知るか! お前はお前だろうが! 今ここにいるのは、紛れもなく北野シュウジだろ!」

「──っ!?」

「前世の記憶だと思ってたものが、改変されて植え付けられた記憶だからって、それがどうした! それでお前という、今ここにいる人間の心まで偽物だなんて、違うだろ!」

 

 確かに始まりは先生……女神によるものだったのだろう。それは今更、覆しようのない真実でしかない。

 

 真実を否定するほど楽観的な経験はしてねえから、今更それを否定しようなんて気はさらさらない。

 

 だとしても! 

 

「過去が偽物で、他の誰かものだとしても! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()!?」

「俺、の、時間……」

「俺は許さない。たとえお前自身がどれだけ自分を貶めたって、この十七年まで嘘だったなんて俺が言わせない!」

 

 前世がなんだ、真実がなんだ。それが俺たちが一緒に生きてきた時間まで否定する権利があるのか! 

 

 違う、絶対に違うっ! こいつを作った女神にだろうが、こいつ自身にだろうが、誰にだろうとそんなことは言わせない! 

 

「なあ、そうだろ!? ずっと一緒に生きてきたじゃねえか!」

 

 楽しかった時も、嬉しかった時も、辛かった時も、これまで俺の隣にはいつもこいつがいた。

 

 だから、知っている。決して誰かに作られたものじゃない、こいつ自身の心を。

 

「少なくとも、それは嘘じゃない! 俺とお前が刻んだ時間だ! だから!」

 

 俺がこいつと確かに生きてきた時間は、確かに本物なんだ。

 

 それをこいつもわかっているはずだ! 

 

「……それだって。カインの記憶や力があったからできたことだ。それがなければ、俺はお前の隣にいなかったかもしれない」

 

 そう叫んで、訴えても……けれど、シュウジは否定した。

 

「なっ……」

「それに……俺のカインの記憶は改竄されていて……もう元のものじゃないんだ」

 

 先ほど聞いた話が頭をよぎる。

 

 女神は自分を否定した父を拒絶し、新たな人格を作り出した。

 

 一番大事な記憶まで改竄したそれはもう、別物だ。

 

「じゃあ、俺はなんだ、俺は誰だ……いいや、誰でもない」

 

 自虐的に笑い、自分を嘲るその顔は、見ているだけで心が冷えそうだった。

 

「俺自身には──何も、ないんだよ」

「それ、は……」

 

 また、言葉が詰まった。その間にもシュウジは言葉を募らせていく。

 

「そんな俺がいて、なんになる。お前たちと、どう接しろっていうんだよ」

「お前、何を…………っ!」

 

 

 

 ………………ああ、そうか。

 

 

 

 こいつは今、自分という存在を確かめるのが()()んだ。

 

 自分の全てが借り物だったと知って、これまでの自分を思い返して怯えているのだろう。

 

 まるで、インプットされたものを自分のものと信じ込んだロボットのようだと。

 

「もう、無理なんだ……何者でもない俺が、これ以上どうやって生きたらいいのか……何もかも、全然わからない」

 

 苦しげなその顔に、ホルアドでの言葉を思い出す。

 

 あのときこいつは、自分が救えず殺してしまった者たちへの責任を負うと言っていた。

 

 その覚悟の根底を支えていたのは、カインの記憶。無敵の殺戮兵器としての自負が、命を奪った事実を受け止めていた。

 

 でも、違った。北野シュウジはカインじゃなくて、カインを模して作られた何かだった。

 

 それは責任に対する心の強さを失わせるのと同時に、シュウジの中にあったアイデンティティを失わせたのだろう。

 

「……だったらっ!」

「………………?」

 

 こいつが一人で受け止められないって、どうしても生きていいのかわからないっていうなら……! 

 

 

 

 

 

「俺がお前を支えてやる!」

 

 

 

 

 

「……………………え?」

 

 シュウジが、初めて自分から顔を上げた。

 

 その顔にはこれまでにないほどの驚愕が浮かび上がっている。

 

 緩みかけていた手をもう一度握りしめ、襟首を掴みなおして、シュウジの目を見てはっきりと伝えた。

 

「お前が自分を認められないっていうなら、俺が認めてやる! 前を向くのが怖いっていうなら、一緒に見てやる! お前が、これまで俺にそうしてくれたみたいに!」

「ハジメ、お前…………」

 

 シュウジは、目を見開いて。

 

「……どうにてそこまでしてくれるんだ。俺は、ただの人形なのに」

 

 しかしすぐに俯いて、小さな声で呟く。

 

 それに俺は、ふと少しだけ離れておもむろに口を開く。

 

「…………なあ、シュウジ。覚えてるか? お前はいつもいつも、俺を励ましてくれたよな」

 

 もうずっと昔、記憶も朧げなほど幼い頃から、こいつはいつも俺を支えてくれていた。

 

 いじめっ子に泣かされた時、趣味で行き詰まった時、美空への告白に悩んだ時。いつだって一番最初に気づいてくれた。

 

 なかなか言い出せないでいる俺が苦しんでいた時、誰より最初に受け止めてくれたのは……他の誰でもない、こいつなんだ。

 

「軽く肩を叩いて、いつもよりもっと明るく笑って、あの公園に連れてって青空を見せてくれた。それがどんなに救いになったか、わかるか?」

「……!」

 

 ピクリと、肩が震える。俺は畳み掛けるように声を大きくした。

 

「あのどこまでも広がる青空に比べたら、自分の悩みなんてクソくらえって思えた! やってやるって思えた! 全部、お前のおかげなんだよ!」

 

 あの時の気持ちを、今も忘れちゃいない。いいや、一日だって忘れたことはなかった。

 

 一人で悩んでいるとひどく辛くて、泣きそうになって……そんな時に誰かがそばにいてくれることが、手を差し伸べてくれる奴がいて。

 

 それが、すごく嬉しかった。

 

「その時、お前はカインの力とやらを使ったか?」

「それは、使って、ねえけど……」

「そうだろ!? 超常の力なんてなかった! お前はただ心から励まして、力付けてくれた! たったそれだけのことなんだよ!」

 

 そうだ、それまでカインの力のおかげなはずはない。紛れもなくシュウジの心だ。

 

 こいつが俺を見て、こいつが俺を励ましてくれた。そこに他の何かが介在する余地なんてありはしない! 

 

「力なんていらない! 前世の記憶なんぞどうでもいい! そんなもんクソ食らえだ!」

「ハジ、メ…………」

「いいか、何度でも言ってやる! これまで俺が一緒に生きてきたのはカインのレプリカでも、その他の誰でもない! 北野シュウジだっ!!!」

「────ッ!!!!!」

 

 シュウジは、衝撃を受けた顔をする。

 

 俺は休むことなく、胸から溢れ出す気持ちを言葉に変えた。

 

「だから、今度は俺の番だ! お前がしてくれたみたいに、俺がお前を立ち上がらせてやる! 上を向かせてやる!」

 

 崩れ落ちてしまいそうになるなら、受け止めてやる。倒れてしまいそうになるなら、背中を支えてやる。

 

 何より辛い時に肩を組んで立ち上がらせてくれる奴がいることがどんなに大事か、よく知っているんだから。

 

「俺はお前のそういう奴にはなれないのか!? いいや、絶対になれるはずだ! 」

 

 なれるに決まってる。

 

 だって──

 

「俺たち、親友じゃねえか!」

「────っ!!!」

 

 辛い時には、悩んだ時には支え合う。それが親友だ。

 

 だからこそ、俺はこいつを親友と呼んできた。

 

 無比な強さでも、冷徹な殺戮への覚悟でもなく。

 

 俺が何より頼もしいと憧れたのは、その優しさだったんだ。

 

「俺だけで足りないなら、美空や、八重樫たちだっている! だからもう、自分が存在する価値がないなんて──」

「うわあああああああああああ!!!」

「がっ!」

 

 初めて、シュウジが抵抗を見せた。

 

 弱々しい姿とは比べものにならない力で胸を押され、尻餅をつく。

 

 顔をあげれば、シュウジが立ち上がっていた。両手で髪をかきむしり、苦しげに頭を抱えている。

 

「俺は……俺は……っ!」

「シュウジッ……!」

「う……ぐ…………うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

 

 

 

エボルドライバー! 

 

 

 

 錯乱しているのか、エボルドライバーを装着するシュウジ。そしてボトルを荒々しくスロットに叩き込んだ。

 

 

 

コブラ!  ライダーシステム! エボリューション! 

 

 

 

「変"身"ッ"!」

《エボルコブラ! フッハッハッハッハッ!》

 

 ドライバーから構築されたパイプから生成された靄と輪を纏い、次の瞬間には吹き飛ばしてエボルに変身する。

 

『ああああああああっ!』

「くっ!」

 

 走り寄って放たれた大振りのストレートを回避して、そのまま[+瞬光]でドンナーを投げ捨てたところに戻った。

 

 幸い、最初に立っていた場所からそこまで離れていない場所に愛銃は転がっていた。

 

 ドンナーを探り、ムーンハーゼボトルを出す。

 

「……何?」

 

 すると、何故かムーンハーゼボトルが白いラビットエボルボトルになっていた。

 

 まるで、最初にウサギを食べた時のような……

 

 

 ドンッ! 

 

 

「くっ!?」

 

 不思議に思っていると、背後から寒気を感じて転がる。すると頭上を赤いエネルギー弾が通過していった。

 

『フゥ……フゥ……!』

 

 明らかに暴走した様子のエボルが、トランスチームガンを構えている。あれで撃ってきたのか! 

 

 とにかく、やるしかないと思った時……ふと、ズボンのポケットに何かが入っていることに気がついた。

 

 エボルから視線を外すことなく取り出すと、それはライダーシステムのエボルボトルだ。

 

「こんなもの、いつの間に……?」

 

 考えられるとしたら……エボルトか? 

 

 どうやら、知らないうちに入れられていたらしい。あいつはこうなることを予想してたのだろうか。

 

 ……とにかぬ、これならオルクス以降俺が預かってたエボルドライバーを使える。

 

 早速宝物庫から取り出して、腰に巻いた。

 

『フゥ、フゥ……!』

「待ってろシュウジ、すぐに目を覚ましてやる……!」

 

 両手にボトルを持ち、キャップを正面にセット。

 

 一瞬躊躇った後、エボルドライバーのスロットにどちらとも差し込む。

 

 

 

《ハーゼ! ライダーシステム!》

 

 

 

《エボリューション!》

 

 

 

 いけるかどうか賭けだったが、ドライバーは無事にボトルを認識した。これ幸いとレバーを素早く回していく。

 

 お馴染みの荘厳な待機音が響き、ドライバーからコンテナ上にランナーが展開。前に白、後ろに黒の靄が形成された。

 

 

 

《ARE YOU READY?》

 

 

 

「変身!」

 

 両手を手首のところでクロスし、胸に叩きつける。

 

 認証した靄が前と後ろから迫って、俺の体を包み込んだ。

 

 

 

《ハーゼ! ハーゼ! エボルハーゼ! フッハッハッハッハッ!》

 

 

 

 靄が弾け、変身を完了する。

 

 手を見ると、エボルによく似た装甲が映り込んだ。だが、全体的に白と赤を基調にしている。

 

 感触は……悪くない。あの時ウサギの力を借りて変身した時よりは弱いが、今のあいつを相手するには十分だ。

 

『さあ、行くぞ……っ!』

『オォオオァアアッ!』

 

 俺の言葉に反応しているのか、シュウジはトランスチームガンを乱暴に投げ捨てて雄叫びと共に突進してきた。

 

 俺もまた、同じようにまっすぐ走り寄っていき……激突。

 

 互いに繰り出した拳がぶつかり合い、衝撃波を生み出す。

 

『はぁああああッ!』

『ウルァアアアア!』

 

 そして、戦いが始まった。 

 

 

 

 殴れば、殴られる。

 

 

 

 蹴れば、蹴られる。

 

 

 

 一発入れられれば、それ以上の力でやり返す。

 

 

 

 まさしく泥仕合、おおよそ俺たちには似つかわしくないよつな暑苦しいやり方。

 

 戦いなどと呼べたものではない。戦闘技術も駆け引きも何もない、ガキの喧嘩のような純粋な殴り合いだ。

 

 だが、今はそれが一番効果的だ! 

 

『俺は絶対、お前を取り戻すッ!』

『ガァアアアァア!!』

『グゥッ!?』

 

 シュウジの裂帛のストレートが、胸の装甲に叩き込まれた。火花が散り、大きく吹き飛ぶ。

 

 だが、俺もやられっぱなしではない。

 

『グルァアアアッ!』

 

 背後から迫るエボルに、着地した瞬間レバーを掴むと引きちぎらんばかりに力強く回した。

 

 

《Ready Go!》

 

 

 曲が止まり、離した右手に赤いエネルギー炎が宿る。

 

 

《Mutenick Finish! フッハッハッハッハッ!》

 

 

『ゼァァアッ!』

『ガ、ギィ……ッ!』

 

 それを、振り向きざまに思い切りエボルの胸元に叩きつけた。

 

 火花が散り、炎が爆ぜる。腕の骨が折れんばかりの一撃は、確かにクリーンヒットした。

 

『どうだ!?』

『ガ、ァァアアアアアア!』

 

 しかし、さすがは惑星を滅ぼす異星人の鎧。

 

 俺の一撃を受け止めてなお咆哮を上げ、エボルは荒々しくレバーを取って激しく回した。

 

 

《Ready Go!》

 

 

『しまっ──!』

『ウガァァアアアアッ!』

 

 身を引くも、時すでに遅し。鮮やかな軌道で脇腹にエネルギーを纏った足がめり込む。

 

 

《Evoltich Finish! Ciao〜♪》

 

 

『グッ……ラァッ!』

『ガッ!?』

 

 エボルの一撃によって、両者ともに後方に吹き飛んだ。

 

 俺はダメージの蓄積値を超えて、エボルは吹き飛びざまにお見舞いした俺のキックでドライバーが外れて変身が解ける。

 

 もう何度目か分からないほど、水中に叩きつけられる。だが、完全に終わるまでは休むことは許さない。

 

「ふ、ぐぉおおおお…………!」

「あ、あああああぁあ…………!」

 

 なんとか、両方の足で立ち上がった。あいつを見れば、全身ボロボロ、顔は青タンとアザだらけだ。

 

 それは多分、俺もなんだろう。実際拳を叩き込まれた左胸は骨が折れてるし、視界の端に映る服は全身ちぎれ放題になってる。

 

 

 

 

 

「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」

 

 

 

 

 それでも、まだ終わらない! 

 

「オラァッ!」

「グルァッ!」

 

 走り寄って、どちらとも頬を殴り付ける。

 

 1回のみならず、拳を振り切った瞬間次の一撃を繰り出して、どっちかが倒れるまでひたすらに殴って殴って殴り続けた。

 

 

 

「うらぁっ!」

「がっ!?」

 

 

 バキィッ! 

 

 

「んのっ、お返しだッ!」

「ごはっ!」

 

 

 ボカァッ! 

 

 

「なんの、これしきぃっ!」

「ぎっ……!」

 

 

 ドゴォッ! 

 

 

「るああっ!」

「ゲフッ!」

 

 

 ゴギャッ! 

 

 

 

 血と汗が飛び散り、拳打の音が鳴り響く。互いの踏み込む足が湖面を揺らして、歯を食いしばって拳を繰り出した。

 

 そうやって殴って、殴られて、もうなんで喧嘩してんのかさえわかんなくなるくらい殴り合った、その時。

 

 ふらりと、一瞬あいつの体が後ろに倒れた。

 

 その隙を見逃さず、襟首を思い切り掴む。

 

「!?」

「くらい……やがれっ!」

 

 そして、思いっきりヘッドバットを喰らわせた。

 

「がぁっ!!?」

「こいつで……終わりだああああああっ!」

 

 そして、最後の一発。

 

 それはこれまでのどの一撃よりも重く、鋭く……思いを込めた、我ながら鮮やかなストレートだった。

 

 渾身の一撃は、シュウジの右頬をたしかに捉え。

 

「う、ぁ…………」

 

 あいつは数歩後ずさった後、ゆっくりと倒れ込んだ。

 

「ぜぇ…………っ、ぜぇっ…………!」

 

 全身を襲う痛みと倦怠感に、俺も倒れそうになってしまう。それを必死に堪えて、シュウジを水の中から引っ張り上げた。

 

 重い脚を引きずって陸まで上がり、そこでシュウジの襟首をから手を離して寝っ転がる。

 

 あーくそっ、もう無理だ……

 

「はっ……はっ…………でも、俺の……勝ちだ……!」

 

 やっとだ。

 

 生まれて初めて、やっと俺の拳を届かせることができた。

 

「おい……」

 

 ふと、隣に向けて話しかける。

 

「…………正気に、戻ったかよ…………」

 

 答えは返ってこない。

 

 まさかと思い、鉛のような頭を振って横を見ると──

 

「……か、ははっ」

 

 かすれた笑い声が、耳の奥に響いた。

 

「誰かさんの……おかげで、なんとか、な……」

 

 目を覚ましたシュウジは、どこか辛い声音でそう言った。

 

 それになんだか胸に想いがこみ上げてきて、口の端が弧を描く。

 

「そうか……そいつは良かった、な」

「おうよ…………」

 

 一瞬、無言の時が流れた。

 

 それから……

 

「は、はははは」

「くっ、はははははははは」

 

 

 

 

 

「「あはははははははははははははははははははははははは!!!」」

 

 

 

 

 

 気がついたら、どっちからか分からないけど笑ってた。

 

 何がおかしいのかなんてわかんないけど、とにかく笑った。

 

 笑って、笑って、さっきまで胸の中に溜まってたもん、まとめて外に吐き出した。

 

 ああ、これまでにないくらい清々しい気分だ。ようやくこいつと真正面から向き合えるようになったんだって、そんな気がしやがる。

 

「ははは…………なあ、シュウジ」

「……なんだ?」

 

 ひとしきり笑って、声が枯れてきた頃。

 

「これからはさ……頼ってくれよ」

 

 ああ……言えた。

 

 ずっと……ガキの頃からずっと言いたかったこの言葉を、やっと言えた。

 

「辛い時には絶対、絶対支えるから。これまではできなかったけど……でも俺はもう、強いから」

 

 そう言って、笑った。なんでか分からないけど溢れ出る涙なんか気にならないくらい、精一杯に。

 

 そうすれば、シュウジは傷だらけの顔で驚いて。

 

 しかしすぐに、いつもみたいにへらりと笑いを浮かべる。

 

「そうだなー、俺もう負けちまったしなー」

「ああ、そうだ。俺の勝ちだ」

「こーんな弱い俺じゃあ、これから先一人でどうにか生きてくのも難しいかもなぁ」

「…………っ!」

 

 それが、こいつの答えだと自然と分かった。

 

 横を見ると、シュウジは上体をもたげて悪戯げに笑う。

 

 俺も涙を拭い、両手を使ってなんとか体を起こして頷いた。シュウジは笑みをニヒルなものに変える。

 

 俺もまた不敵に笑い、どちらからともなく拳を差し出して。

 

 

 

 

 

 

 

 

「だからよ。これから頼むぜ、親友」

「ああ、任せとけ。俺の無駄にカッコつけで、なんでもかんでも背負う大馬鹿な──親友」

 

 

 

 

 

 

 

 それを、軽くぶつけ合った。

 




ハジメの性格が原作と比べて熱すぎる?そこはほら、親友補正ってことで。
次回が終われば作者としてはストーリー的にも読者様の反応的にも一番辛かった章が終わり、そして我らがネタシュウジが帰ってきます
もうちょっとだけ付き合ってネ!
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