スペースイシュタルが普通にヒロインしてて、なんだこれイシュタルじゃねえってなった。あと、なけなしの石使ったら謎のヒロインXあたりました。
さて、今回は後半です。
楽しんでいただけると嬉しいです。
「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」
カラン、という扉のベルの音とともに、地球のどんな店でも聞いたことがあるようなセリフが耳に残る。
それを背に、鈴は店を後にした。すぐ目の前にはとても頼もしそうな、大きな背中の持ち主がいた。
「有名になってるだけあって、美味かったな!」
「う、うん、そだね」
振り返って、いつもみたいな笑いを浮かべる龍っちに対する鈴の返答は、我ながらちっちゃいものだった。
本当ならめいいっぱいの笑顔と一緒に答えるつもりだったのに。その顔を見ると胸がキュってなって話せなくなる。
それもこれも、龍っちが変なことばっかするせいだ。狙ってやってんじゃないかと思うくらいだった。
クリーム取ってくれるなんてお約束だけじゃなくて、勿体無いからってそれを舐めたり、他にも色々……!
なんとかパンケーキは完食したけど、店内の人たちの生暖かい目が恥ずかったよ!
「うう……!」
「んだよ、そんな睨んで……あ、こっそりイチゴ一個取ったことか?」
「違うよ!てかそんなことしてたの!?」
このゴリラ、人が羞恥心と乙女心でフリーズしてる間にそんな許されざる大罪を!
「わり、なんかぼーっとしてたしよ!」
「もーっ!」
ポカポカと龍っちの大きな体に、小さな握りこぶしを叩きつける。当然のように微動だにしなかった。
「わかった、そんならなんか奢るからそれで手打ちにしてくれ」
「言ったね?いっぱい食べさせてもらうんだから」
「おい、そこは普通一つじゃねえのか?」
「女の子から甘いものを取るというのはそれくらい重いのですっ」
それに、色々恥ずかしい思いをさせてくれた分(無意識とはいえ)もある。流石にそこは口に出せないけど。
ぷくーっと頬を膨らませて下から睨んでと、龍っちは笑いながら「分かった、降参だ」と手を上げた。
適当にぶらぶらしながら食べたいものを探すことにして、店の前から歩き出す。手は、さすがに恥ずかしくて繋げなかった。
「幸い、金はある程度持ってきてるしな。今日は俺が持つよ」
「そういえば、さっきもいつの間にか払ってたよね」
私が頭の中で色々こんがらがったり……ちょ、ちょっと妄想してたりするうちに、龍っちが会計をしてた。
地球と同じくらいにふんだんに果物や甘味料を使っていたためか、一般的な基準でポンと出せた金額じゃない。
たしかに光輝くんの仲間として、お国からある程度自由にしていいお金は貰っちゃってるけど、それでも痛い出費のはずだ。
「流石にそこまで払わせるのはわがままだし、鈴の分は渡すよ。いくらだった?」
メニューの金額の部分を見損ねていたので、がまぐち財布をバッグから取り出して聞く。
「いいから、俺が持つって言ったろ?今日はお前の退院祝いみたいなもんなんだから」
「それでも鈴の気が済まないよ」
「俺がやりたいからしたんだ、気にすんなって」
「でも……」
なおも食い下がろうとした、その時だった。
「あーもう!」
突然、龍っちが叫ぶ。思わずビクッとして言葉を出しかけていた口をつぐんでしまった。
「あん時は守れなかったんだ、今くらいカッコつけさせてくれよ!」
「……龍っち」
「……はっ!? お、俺はいったい何を……」
勢いに任せて言ったのか、我に返ったという顔をした龍っちは口を押さえてバツが悪そうに目を逸らす。
……そっか。いつも冗談半分みたいな感じになってたけど、こんな風になるくらい思い悩んでくれてたんだ。
私は龍っちのことをそんなに知ってるわけじゃない。当たり前だ、普段から話さなかったクラスメイトのことなんかよく知るはずがない。
真っ直ぐな性格で、でも不器用で、そして人一倍熱い、そのくらい。それもこうして話すようになって知ったんことだ。
それなのに、どうして、だろう。
どうして龍っちは、こんなに鈴のこと心配してくれるのかな。元はよく互いに知らなかった鈴のことを。
『でもなんか、すげえ許せなかったんだ。お前が苦しそうな顔をしてるのを見た途端……頭んなかで、何かが弾け飛んだ。で、気がついたらあの野郎に向かって突っ走ってた』
あの時、苦しむ鈴の質問に龍っちはそう答えた。
……それって、やっぱり〝そういう〟ことなのかな。本人は気付いてないだけで、龍っちもそう思ってくれてるのかな。
もし本当にそうだったらいいと思うけど、でも最近知った義理堅い所の延長かもしれないとも思ってしまう。
でも、少しだけ……期待しても、いいのかな?
「……あーくそ、変なこと口走った。とにかくそういうことだから、今日は一日、せめて格好つけさせてくれ」
もしも、責任感の延長じゃなくて、そのちょっと照れ臭そうな顔が〝その思い〟から来てるなら。
「……うん、わかった」
それなら鈴も、ほんの少しだけ期待してみよう。この不器用でにぶちんな、私を守ってくれる人に。
「それなら全力でカッコつけてね♪」
「おう、任せろ」
にっこり笑えば、不敵な笑みと共に握り拳を作る龍っち。
「ぷっ」
「はははっ」
そこでなんだかおかしくなって、互いに軽く吹き出した。
「じゃあ、いこっか」
「おう」
ほんの少し沈んだ空気も元取りになって、改めてイチゴを取った分の穴埋めをするもの探しを始める。
途中、ちょっと気になった場所とか、ふと視界に引っかかったものなどを見ながら、マイペースに歩き回った。
特に面白かったのは、使うと各属性の魔法の威力を上げる指輪を売ってるお店かな。店長さんが作ってるらしい。
さすがは王都というべきか、他にもいろんなものを見ることができる。なんだか外国の街を観光している気分だった。
まあ、実際は異世界なんだけどねっ。今更ながら、なんてファンタジーな世界に来ちゃったのかなー。
そして今は……
〜〜♪
綺麗な旋律が、広場の一角から響き渡っている。
その発生源は、少し高い台の上でバイオリンを弾く……この世界だと別の名前らしいけど……男の人の演奏。
いわゆる路上ライブみたいなことをしている人の前には、鈴と龍っちを含めて多くのお客さん、特に女の人が集まっていた。
流れるように弦の上を滑る弓はまるで小波のよう。そこから生み出されているのは力強く、色気のある音。
聞いているだけで心が安らぐような演奏は、やがて終わりを迎える。思わずほう、と息が漏れた。
「ブラボー!」
「良かったよー!」
口々に見ていた人たちが褒め称える。鈴も声は出さなかったけど、パチパチと周りの人のように拍手した。
男の人はちょっとキザな仕草でお辞儀すると、台の上から退く。ちなみにおひねりみたいなのはなかった。
「すごかったねー」
「ああ。バイオリンはよくわからんが、あの男がすげえのはよくわかった」
「あはは、何それ」
あ「なんか親近感を感じるんだよな」なんて言う龍っち。あの人と何か、シンパシーを感じるようなものがあったのかな?
とりあえず何か会話をつなげようとすると、ふと視界の端っこに何か強烈なものが映り込んだ。
そちらを見てみると、広場の一角に一台の馬車が止まっていた。それも、車輪以外全部真っピンクの。
周りにはいくつかのテーブルと椅子、そこにはカップルだったり、女性のお客さんらしい人が座っていた。
「あら〜ハルくんいらっしゃ〜い!」
「おう、相変わらず繁盛してるっぽいな」
そして注文をするカウンターと思しき場所で、なんというか……キノコのような髪型の女性?男性?と、男の人が話している。
「おかげさまでね〜!あ、そうだ、また新作のドーナツが──」
「プレーンシュガーで」
「だよね〜ハルくんはそうだよね〜……」
何やら常連の人みたいで、すげなく断られた店員さん……多分店長さんかな?はガックリと肩を落として言われたものを出した。
それは、地球のものと瓜二つのドーナツ。うろ覚えだけど、確かプレーンシュガーという種類だったはすだ。
「ほい、千五百ルタ。んじゃ、またな〜」
「また来てね〜!」
ドーナツの入った紙袋を受け取った人は、意気揚々とその場を後にした。
「龍っち、龍っち」
「ん?どうした?」
龍っちの服の裾を引いて、馬車を指す。龍っちはそれを見て、驚いたような、呆気にとられたような顔をした。
「なんだありゃ、すげえ色だな」
「鈴、あそこで売ってるドーナツ食べたいな」
「ドーナツが売ってんのか?ならちょっと行ってみるか」
スイーツ好きの龍っちは頷いて、二人で馬車に近寄る。まだカウンターにいた店長さんはすぐに気がつく。
「あら、大きいお兄さんに小さいお嬢さん。デートの途中かしら?」
「ちげえけど、まあ似たようなもんだ。谷口、どれにする?」
「んーと」
ガラスケースの中に入っている色とりどりのドーナツを見て、いくつか候補を絞った後に一つ頼む。
それは偶然にも龍っちが選ぼうとしてたのと同じだったみたいで、ちょっと嬉しかった。店長さんがキャーキャー言ってたけど。
そこでも言った通り、龍っちが鈴の分まで払ってくれた。ドーナツを受け取って、テーブルの一つを使う。
「それじゃあ、いただきまーす」
「いただきますっと」
お皿の上に乗っているドーナツを手に取る。ギザギザの表面の、その半分だけにチョコレートがかかったやつだ。
ちょっとの間それを見つめて、少し大きめの一口で食べた。そして口に含んで、もぐもぐと咀嚼した。
「んふー、美味しい」
「んぐ……おっ、こりゃ美味い。やっぱ、この世界の食いもんも案外捨てたもんじゃねえな」
「だよねだよねっ。そういえば、さっきの演奏やっぱり凄かったよね」
「ああ、音楽なんてまるで聞いたことなかったけど、中々だったな」
「鈴も地球にいた頃は、クラシックはあんまり聞いたことなかったなぁ」
当たり前だけど、中世くらいの文明レベルのこの世界に、地球にあるような娯楽はほとんどないといっていい。
今日行ったような食べ物関係はまだしも、機械……龍っちのドライバーはともかく……はなく、ゲームなんてあるはずがない。
だから楽しみといえば恋バナとか、甘いものとか、あと音楽、それくらい。鈴は本は読まないしね。
だから時々、地球に似通った物があると〝ホッ〟として、嬉しくなる。鈴だってまだ子供だし、地球が恋しいのだ。
「……どうしてるんだろうね、みんな」
脳裏によぎるのは両親と、友達のこと。
今は、どう暮らしてるのかな。パパとママは元気かな。もしかしたら、鈴の心配もしてくれてるのかな。
異世界にいる以上、考えるのは仕方のないことだとわかってても、どうしてもそんなことを考えてしまう。
「さあな。前に南雲に聞いた、ら、ラノベ?の〝異世界に言ってる間のことは地球に帰ったら一瞬だった〟なんて、都合のいい展開がありゃいいが……
「そんなの、希望的観測だよね」
ここは本の中の世界じゃない、紛れもない現実だ。だからきっと、こうして鈴たちが過ごしてる時間分、地球での時間は失われる。
そしてここでの時間は、決して楽なものじゃない。この世界は命の価値が地球よりずっと軽くて……下手をすれば、すぐ死んじゃう。
「……龍っち」
「ん?」
「鈴、怖いよ。すごく怖い」
当たり前にあった日常は、もうなくて。少しだけ退屈と思ってた平和な世界は、何よりも尊いものだと初めて気付いた。
それを、死を間近に感じてようやく理解した。そして時々ふと我に帰って、とてつもない恐怖が襲ってくる。
「時々考えちゃうんだ。あの時もう鈴は死んでて、これは夢なんじゃないかって」
「……それは」
「こんなこと言うのは、あんなに思い悩んでた龍っちには悪いと思うよ……でも、鈴は弱いから」
この世界に来て約半年、弱い人間は簡単に死ぬんだってことがよくわかった。鈴が、決して強くはないことも。
龍っちの仮面ライダーみたいな力も持ってないし、北野くんのはちゃめちゃさも、豹変した南雲くんのような強い意志もない。
鈴は、ちょっと普通より強いだけのどこにでもいる女の子。この世界じゃ、吹けば飛んでいってしまうような、そんな弱っちい存在。
「だからね、龍っちにはいつも感謝してる」
「……え?」
「鈴は強くないけど、龍っちは強い。そんな龍っちがいつもそばにいて、守ってくれてのがとっても心強いんだ。その理由がなんなのかはわからないけどね」
それでも鈴にとって誰より頼りになるのは、光輝くんでも、他の誰でもなく、この人。
「だからせめて、鈴はせめて明るく振る舞おうって決めた。そうしないと龍っちに守ってもらう女の子として、失格かなって……」
「そんなもん、気にする必要ないだろ」
ちょっとネガティブ気味な鈴の言葉を、龍っちは強い声で遮った。
少し呆気に取られてるうちに、龍っちは鈴の手を取ってくる。ポンっ!と顔が熱くなった。
「谷口は谷口だ、それ以上でもそれ以下でもない。俺は他の誰でもなく、谷口だから守りてえんだ」
「あ、あの、龍っち……」
「だから、相応しいとか相応しくないとかそんなのはどうだっていい。俺は谷口が強くても、弱くても、絶対守る」
龍っちの言葉に、今度は目を見開いた。
だってそれは、まるで──
「だって俺は、谷口のことが……」
「りゅう、っち……」
ドクン、ドクンと胸が高鳴る。これって、もしかして──!
「谷口のことが……………………あれ、なんだ?」
自分の言葉に首をかしげる龍っち。そこでずっこけそうになった鈴を、多分誰も責めはしないだろう。
「すまん、よくわからん。とにかく、俺は谷口を……」
「も、もういいよ」
緩んだ龍っちの石のような大きな手から、するりと自分の手を抜き取る。そうすると、その手を自分の胸に当てた。
…………鈴が強くても、弱くても、か。龍っちはまーたそんな、少女漫画に出てきそうな変なこと言っちゃって。
「ふふふっ」
「た、谷口?」
「なんでもないよ。それより龍っち、早く食べてまたどっかに行こ!」
「お、おう?」
困惑する龍っちに、鈴は食べかけのままだったドーナツを頬張った。
胸の中で少しだけ大きくなった、その〝期待〟に笑いながら。
さーて、今日は二本立て……まあ二つ目はただの用語説明だけど。
感想カモーンオーレ!