星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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すみません、二週間もほったらかしました。
また低評価がきて、んでもって前半は全面肯定なので直したんですけど、後半はギャグ小説に何言ってんだ?でして。
しかし考えた結果、むしろ自分のノリにどこまでついてきてくれる方々がいるのかとても楽しみになってきました。
ということで、これからもよろしくお願いします。


メルジーネ攻略 その1

 さてさて、フィーラーに乗ってメルジーネ海底遺跡に向かっているわけだが。

 

「すげえ海流だな」

「まさに激流って感じか」

 

 結界の外、目の前に広がるのは水の奔流。その中を、フィーラーが持ち前の怪力で強引に進んでいる。

 

 裂け目に入ったはいいものの、中に進入した瞬間これである。乗り物酔いする奴がいたら即ゲロってるレベルだ。

 

『オロロロロ』

 

 お前酔ったりすんの?

 

『度数80くらいまでならぎりいける』

 

 酒の話はしてねえよ。

 

『え、ビールの方が好み?』

 

 いや、俺はワインの方が好み

 

『ルネッサーンス!』

 

 何度でも蘇るさ!

 

『それはルネサンス』

 

 どっちでもいいよ!(逆ギレ)

 

『ええ……』

 

「メリーゴーランドみたいだな」

「こんな鬼畜なメリーゴーランドやってる遊園地あったら訴えられるけどな」

「私は一向に構わない」

 

 冗談をかわしつつ、女神ペディアを使ってこの洞窟の謎の解き方をハジメに伝授する。別に謎解きゲームが始まったりしない。

 

 やけに縦に長いシルクハットを被りつつ説明すると、ハジメはペンダントを取り出した。そこにはまだ光が残っている。

 

「よし、おーいフィーラー、ここら辺で一旦ストップ」

 

 振動と共に、フィーラーの水かきの生えた足が止まった。水を切る音が消え、流れる音だけがこだまする。

 

 魔力操作でスポットライトを洞窟の壁に向けた。すると、そこには三メートルくらいのメルジーネの紋章がある。

 

 五芒星の頂点の一つから中央に向かって線が伸びており、その中心に三日月型の文様が掘り込まれてる。いいセンスだ。

 

「これ、解放者の人たちが自分で考えたのかしら」

「かもしれないな」

「このセンスは尊敬すべきだ……で、あそこに当てればいいのか」

「うん、ピカーっと。国語のハゲイトウ先生の頭みたいに」

「「「ブフッ」」」

 

 ハジメ、雫、白っちゃんが吹き出す。ハゲイトウ先生はいい意味で厳しいハゲ、間違えたハゲ教師だった。

 

 資料室で少しでも正確に、かつ分かりやすい授業をするために鬼のようにノートを書いてた。うん、熱心なハゲだった。

 

『言いなおせてないな』

 

 お前この前擬態した時五十円ハゲあったぞ。

 

『真ん中だけ生えてんの?』

 

 うん、田んぼの稲みたいに。

 

『それリーゼントじゃん』

 

 稲リーゼント、生息地:田んぼ みたいな?

 

『カエルが親友だろうな』

 

 そうこうしてるうちにハジメがペンダントをかざす。すると、ペンダントのランタンから紋章に光が伸びる。

 

 光を受けた紋章は強く輝いた。そして俺の目は潰れた。

 

「目が、目がぁ!」

「富竹フラッシュ!」

「さらに目くらましとか鬼畜じゃない?」

「俺は悪くない、富竹が悪い」

 

 フィーラーに移動をしてもらい、洞窟内の壁に等間隔に配置された紋章に一つずつ光を灯し、輝きを宿す。

 

 やがて、最後の五つ目の紋章にたどり着いた。そこに最後わずかな光を当てた途端、変化が起こった。

 

 ゴゴゴゴッ!と地響きを立てて、壁の一部が真っ二つに割れる。そして新しい水路がオープンセサミした。

 

「んー、流石にこの幅はフィーラーじゃ通れないな」

「潜水艇を出すか」

 

 こと前に進むパワーならフィーラーに軍配が上がるが、流石に入り口を破壊して入るわけにもいかん。

 

『らめぇ!そんな大きいの入らない!』

 

 せめて美少女ボイスにしろこの野郎。

 

 広場の上にハジメが潜水艇を出して、全員乗り込む。そうすると結界を解除して、水の中へと繰り出した。

 

「じゃあなフィーラー!後で合流しよう!」

 

 

 

 オオオオオォォォオ……

 

 

 

 窓ガラス越しにフィーラーに一時の別れを告げ、水路の中を進んでいく。

 

 が、数分もしないうちに突然重力の方向が変わった。浮遊感とともに、真下に向かって落下し始めたのだ。

 

「ぬぉっ!」

「ん!」

「むっ……」

「ひゃっ!?」

「ぬおっ」

「はうぅ!」

「きゃぁっ!」

「そういや、こんなのもあるんだったなぁ!」

 

 バランスを崩した雫の腰に手を回して支えつつ、ハジメたちの六者六様の悲鳴をBGMに念動力を発動した。

 

 危うく落ちるところだった潜水艇を、念動力で支えた。窓ガラスの向こうには、空洞が広がっている。

 

「ギリギリセーフ」

 

 ゆっくりと潜水艇を地面に下ろす。ふぅ、結構重かった。

 

「シュウジ、助かった」

「シュー、ありがとう」

「キニシナイキニシナイ〜」

 

 手を振って答え、探知魔法を発動。特に周囲に反応は見受けられなかったので、ハジメたちにジェスチャーする。

 

 全員で船外に出ると、外は巨大な半球状の空間になっていた。あれだ、ボウルをひっくり返した感じだ。

 

 上を見ると、おそらくさっき落ちたであろう大穴が開いている。重力魔法でも応用したのか、水面がたゆたっていた。

 

「こっから本番、ってとこかねぇ」

「海底遺跡っていうから、てっきりずっと水の中と思っていたけど」

「どうやらそれはないみたいだな」

 

 受け答えをしながら、ハジメが潜水艇を宝物庫にしまった瞬間。

 

「ユエ、シュウジ」

「ん」

「ほいよ」

 

 ユエが即座に障壁を展開し、俺が修理した杖の上部をひねって結界を重ねがけする。

 

 コンマ数秒後、上の水面からレーザーのような水流が降ってきた。ユエの使う〝破断〟によく似ている。

 

 その魔力を一瞬で感じ取ったハジメにさすがと思いながら、二重に張られた結界で完璧に防ぎきった。

 

「きゃぁっ!?」

「っと、平気か香織?」

「う、うん、ごめんね」

「いや、気にするな」

 

 おやおや、ハジメと白っちゃんがラブコメしてるよ。まあ、流石に七大迷宮の急襲は反応できないか。

 

 なんてことを考えているうちに、レーザーが止む。その隙に凍結魔法で魔法の発生源であるフジツボ型の魔物ごと凍らせた。

 

「お仕事完了」

「お疲れ様、シュー」

「おうよ」

 

 微笑む雫に笑いかえす。うし、今回は別に恥ずかしがることもなく答えられたか。

 

『ハッ、マジで弱くなったなぁ』

 

 うっせうっせ、こちとらようやく年頃の人間っぽくなってきたんだよ。

 

『それはお前にとって意味のある変化なのか、それとも悪い変化なのか。クク、どっちだろうな』

 

 ……少なくとも、悪くはねえだろ。

 

 確かに感情の振れ幅は大きくなった。しかし、だからと言って植えつけられた記憶が消せるわけでもない。

 

 ただ、それを悪い状況になった時にこの感情を利用されないようにすればいい話だ。暗殺者の心得まで忘れちゃいねえさ。

 

『ならいいが』

 

 ありがとよ、心配してくれて。

 

『べべべべっつに?心配なんてしてねえし?』

 

 はいはいツンデレ乙。

 

「さてと。そこの睨み合ってるお二人さん。そろそろ行こうか」

「………………ん」

「うん」

 

 何やら水面下の戦いがあったのか、無言で睨み合ってたユエと白っちゃんに声をかける。二人同時にそっぽを向いた。

 

 隣で雫が苦笑いした。ハジメを見ると、二人の間の何かが分かってるのかなんともいえない顔で頬を掻く。

 

「モテる男は辛いねぇ」

「言ってろ」

 

 軽口を交わして、空洞から奥の通路に向かう。二列で俺とハジメ、ユエと雫、ティオと白っちゃん、ウサギにシアさんの順だ。

 

「しかし、歩きにくいな」

「まっ、俺特製のブーツで水が入るわけじゃないからまだマシっしょ」

 

 テッテレー!防水ブーツー、なんつって。まあ実際は他にも毒沼とか下水道とか、基本どんなとこでも普通に歩ける。

 

『錆びた鉄輪じゃん』

 

 いやいや、その他にも状態異常耐性上がるから。

 

 装着者に異常をもたらすと感知したら、普段は半パージしてるパーツが密着して状態異常を跳ね除けるのだ。

 

 他にも足音を消す機能とか、かかとからびっくりマークが飛び出すとか、つま先は飛び出すとか、色々ついてる。

 

『後半いらなすぎるだろ』

 

 ビビったハジメが靴でぶん殴ってきたのは面白かったです(愉悦)

 

「れっつごー、シア号」

「んもうっ、自分で歩いてくださいよウサギさん」

「シアの上だと安心するから、ここがいい」

「そ、そんなこと言ったって肩車しかしてあげませんからね!」

 

 さてはシアさんチョロいな(確信)

 

『ああ、チョロい(確信)』

 

 なんだかんだでシアさんとウサギは一緒にいることが多いし、ウサギの方もシアさんのことを気に入ってるみたいだし。

 

「そういや、前に迷宮で粗相をしたウサギがいたな」

「ん、そういえば」

「うわー!思い出させないでくださいよお二人とも!」

「ここでも、やる?」

「やりませんっ!」

「といいつつ?」

「やりませんからね!?」

 

 仲良き事は美しいかななんて思ってると、前方から気配を感じた。俺がネビュラスチームガンを、ハジメがドンナーを撃つ。

 

 

 ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!

 

 

 ガンッ!ガンッ!ガンッ!

 

 

 洞窟の壁に発砲音が反響し、ハジメのドンナーから薬莢が落ちた。同時に、気配の主が立て続けに水の中に落ちる。

 

 浮かんできたのは、ヒトデみたいな魔物だった。立て続けにその水面下を海蛇みたいな魔物が接近してくる。

 

「ヒトデは生で食べちゃいけませんよ、っと」

「そういえば、前に一度食べたわよね」

「ちゃんと調理すれば美味いんだよねぇ」

 

 カーネイジナイフを飛ばして仕留めると、海蛇はヒトデたちの仲間入りをした。うん、すごく弱い。

 

「なんか、弱くないか……?」

「あの洞窟に入って、すぐに襲ってきたトビウオみたいな魔物も弱かった」

「まあ、この迷宮のコンセプトはそういうのじゃないからな」

 

 これまでの迷宮はそれぞれ力、技、精神的耐久性というコンセプトがあった……グリューエンについては途中から覚えてないが。

 

 んで、女神ペディアによるとこの迷宮のコンセプトは、どちらかというと挑戦者の力云々とは別の意味を持っている。

 

「へえ、じゃあどんな感じなんだ?」

「んー、簡単にいうと覚悟を試す、かにゃー」

「次回、城之内死す。デュエルスタンバイ?」

「ウサギ、それちゃう」

 

 ともかく、意地が悪いという意味では七代迷宮の中でもトップスリーに入るだろう。え、一位?

 

 ハハッそんなのミレちゃん(ミレディ)に決まってるジャマイカ。あれは俺も認める煽りスキルの持ち主だ。

 

「ん、前方に新しい空間。何かいるだろうな」

「まあ、確定だよねぇ」

 

 通路の先にあった、最初のような空間に入る。そして全員が入った瞬間、入り口に魔力の動きを感じた。

 

「シッ!」

 

 右手からカーネイジを展開し、振り返って入り口に振るう。すると、入り口を塞ごうとしていた半透明のゼリーに沈み込んだ。

 

 そのまま弾けさせるが、大きく穴は空いたもののすぐさま壁は修復された。ありゃ、これ修復されんのか。

 

「ひゃわっ!」

「むっ」

「っと、すまんシアさん、ウサギ。それ取らないと溶ける」

「うぇえっ!?」

「…………熱い」

 

 いうや否や、悲鳴を上げたシアさんの服とウサギの服がジュウジュウと音を立てて溶け始めてしまった。

 

「二人とも、動くな!」

 

 ティオが炎の魔法でゼリーを燃やした。その際肌が傷つかないよう、念動力で炎をうまく操作する。

 

 しかし、皮膚にも少し付着したのか、袖が肘まで溶けたウサギの手と、シアさんの胸に火傷があった。

 

「二人ともマジですまん、これ軟膏ね」

「い、いえ、咄嗟に避けなかったのも悪いですし」

「……見た目、ただのゼリーだったし」

 

 二人に即効効果が出る軟膏を手渡したところで、またしても魔力反応。今度は天井、それも全体からだ。

 

「うえからくるぞ、きをつけろ!」

「言われずとも!」

 

 次の瞬間、さっきのゼリーがトゲのように無数に俺たち目掛けて飛び出した。ユエが結界を張り、それを防ぐ。

 

 奇襲を防げば後はこっちのもの、ティオがさっきと同じ炎魔法で、後は俺の銃撃と雫の飛ぶ斬撃でゼリー触手を討伐していった。

 

「正直、ユエさんの結界って反則、よねっ!」

「うちで一番の魔法のエキスパートですから」

 

 雑談を交わしながら、結界の下から一方的に攻撃する。なんだろう、タンクに守られてるアタッカー的な。

 

『いつも俺だけおとりにしやがって』

 

 だってお前、無駄にモブ捌くのうまいんだもん。

 

「あのぉ、ハジメさん。火傷しちゃった所に軟膏塗ってもらえませんかぁ」

「……お前、状況わかってんの?」

「いや、ユエさんたちが無双してるので大丈夫かと……こういう細かなところでアピールしないと、香織さんの参戦で影が薄くなりそうですし……」

「聖浄と癒しをここに〝天恵〟」

「あぁ~、お胸を触ってもらうチャンスがぁ!」

「…………ふぅ」

 

 なんか後ろでラブコメしている。まあ、これ自体はさほど大変なことでもないので任せてもらってモーマンタイ。

 

「……む?これ、魔力まで溶かしてる?」

 

 ただ、厄介なのが魔力も溶解することだ。ユエの結界がジワジワと削られていっている。

 

「やはりか。魔力がやけに減衰すると思ったがの」

「同人誌に使われがちなトラップだな」

「シュー、後で少しお話ししましょうか」

「俺じゃないハジメの持ち物だ(早口)」

「なっ、おまっ、そんなん持ってないわ!」

「……ハジメ、後で話」

 

 よくわからなんなすりつけ合いをしていると、天井の中の大きな魔力が動く。

 

 それはわずかな隙間から滲み出るように出てきて、空中で形を成した。一言で言えば、スーパージャンボ級クリオネだ。

 

「全然可愛くないわね、あれ」

「やっぱ女子視点から見てもそう思う?」

「ええ。うちの道場の小さい子たちに見せたら泣きそうね」

 

 話しながら斬撃と銃弾を打ち込むが、巨大クリオネは意にも返さず大量の触手とゼリーシャワーを発射した。

 

「白っちゃん、防御アシスト!シアさん、ウサギ、ハジメは攻撃に!」

「わかった!〝聖絶〟!」

「やったるですぅ!」

「ん、ぶっ潰す」

「同感だ!」

 

 駆け寄ってきた白っちゃんが、あらかじめ〝遅延発動〟の技能で溜めてた障壁を発動。ユエのそれに重ね掛けした。

 

 ステッキを地面に突き刺してさらに俺も結界を張りながら、エネルギーの切れたスチームガンからショットガンに持ち帰る。

 

「〝炎嵐〟!」

「発射ぁ!」

「ラビット……スマッシュ!」

「死ね」

 

 ティオの炎系魔法、シアさんのドリュッケンの砲撃モード、ウサギの貫通力に特化した掌底、そしてハジメの爆裂弾の乱射。

 

「地獄で会おうぜベイベー」

 

 そこに、ショットガンの引き金を引いて圧烈弾モドキを合わせる。

 

 

 

 ドッガァアアアアン!

 

 

 

 それは先んじてクリオネを襲った魔法に当たった瞬間、大爆発を引き起こした。結界があるにも関わらず、手で顔を庇う。

 

「いっちょあがり、ですう!」

「いや、まだだ!反応が消えてない。三人は障壁を維持しろ……なんだこれ、魔物の反応が部屋全体に……」

 

 眼帯を外したハジメの魔眼石が、忙しなく部屋全体を見渡す。その青い瞳には、おそらく高密度の魔力が見えているだろう。

 

「こいつ、厄介なんだよねえ」

「シュー、この魔物の情報もあるの?」

「うん。簡単に言うとな……こいつ、死なない」

 

 え?という雫の顔から目線をはずし、上を見上げる。

 

 するとどうだ、真っ二つに裂けたような大穴が空いたクリオネに、部屋の至る所から滲み出たゼリーが集まっていくではないか。

 

 数分もせずに、クリオネは完全に元の形に戻る。そうすると何事もなかったかのように攻撃を再開した。

 

「くっ、マジかこいつ!まるで部屋全体がこいつの体だぞ!」

「えっ、じゃあこの魔物のお腹の中に入ったってこと!?」

「残念だけど、そうみたいよ香織!」

 

 より激しさを増したクリオネの攻撃に、必死に対応する俺たち。しかし、いくら傷つけようがすぐに再生する。

 

 おまけに、いつの間に回収したのかさっき殺したヒトデやら海蛇やらが腹の中で溶かされてた。

 

『食べながらとはふざけた真似を。俺たちもこうなるってか?』

「そいつは勘弁願いたいね!」

「シュウジ!」

 

 名前を呼ばれ、ハジメの方を振り返る。

 

 すると、あいつはライフルのような黒い火炎放射器を装備していた。意図を察して、圧烈弾モドキを再装填する。

 

 二人同時に構え、引き金を引いた。出の早い俺の圧烈弾モドキが最初にクリオネ……ではなく、壁に埋まる。

 

 そこに、摂氏三千度のタール状になったフラム鉱石の炎が直撃。先ほど以上の轟音と共に壁が吹っ飛んだ。

 

 それはクリオネの擬態した壁だ。圧烈弾モドキは盛大にその身をまき散らし、広範囲の擬態したクリオネを消し炭にする。

 

「どうやら、効かないわけじゃないみたいだな」

「ところがどっこい、その分量があるんだな」

 

 女神ペディアの知識に違わず、壁はすぐに再生してしまった。同じ手法を試すが、すぐさま塞がってしまう。

 

 それどころか、足元からも湧き出てきた。幸いブーツのおかげでそれは防げるが、更に畳み掛けるように水位が上がりだす。

 

「どうする、何度やってもキリがないぞ!」

「こっちも、激しく、なって、きたよっ!」

 

 体の一部をやられたからか、はたまた殺し切れないと思ったか、クリオネの攻撃は苛烈さを増していた。

 

「ハジメ、ここは一度撤退した方がいいぜ?」

「わかってる!だから逃げ道を探す!」

「そんな君にネタバレをしよう、あそこだ」

 

 俺の指が指し示す方を見るハジメ。そこには壁を破壊する過程で生じた、地面の亀裂ができていた。

 

 その中には渦が広がっており、下に空間あることが自然とわかる。退路は立たれた以上、そこに飛び込む他にない。

 

「やれるか?」

「当然」

 

 不敵な笑みを浮かべるハジメ。俺も同じ顔をして、ユエたちに叫ぶ。

 

「おーい、避難するぞ!」

「少し時間を稼いでくれ!」

「んっ」

「わかった」

「はいですぅ」

「承知じゃ」

「わかったよ!」

「ええ!」

 

 了承をもらったとこで、カーネイジと火炎放射器でゼリーを防ぎながら俺とハジメで亀裂に近寄る。

 

 ハジメがポーチから小型の酸素ボンベを取り出して、こっちに一本寄越す。それを受け取り、中程のマウスピースを噛んだ。

 

 頷き合い、すでに腰元まで来ている水の中に潜る。そしてハジメが亀裂に手を置いて〝錬成〟を始めた。

 

 立て続けに何度も、何度も錬成して穴を広げ、十分な大きさになったところで俺が拳を構える。

 

 〝よいしょ、っとぉ!〟

 

 衝撃波を一点集中型に絞り、全力で拳を叩き込む。ハジメのパイルバンカーと同等の衝撃が、階層の壁を打ち破った。

 

 次の瞬間、貫通した縦穴へ途轍もない勢いで水が流れ込んでいった。俺とハジメは踏ん張り、流れてきたメンバーをキャッチする。

 

 すぐさま水の中に沈むので、何の偶然かさっきの二人組になったメンバーにそれぞれ空気入りの結界を張った。

 

「お帰りなさいませ、お嬢様」

「ふふ、ただいま」

 

 微笑み合って軽口を叩くも一瞬、凄まじい吸引力を誇るただ一つの渦巻き(DAISON)に飲み込まれていく。

 

 そんな中、俺たちを見下ろし余裕で浮遊しているクリオネに向かって、ハジメが大量の岩と焼夷手榴弾を出した。

 

 ならば俺もと、予備のステッキを異空間から取り出して起爆スイッチを作動、手榴弾に当たる軌道でクリオネに投げつけた。

 

「アデュー!また会おうぜ!」

 

 クリオネに聞こえるはずのない別れの挨拶と共に、俺たちは渦の中へと飲み込まれていくのだった。

 

 

 ──ー

 

 

 オマケ

 

 

 酸素ボンベ

 

 

 ハジメ「できたぞミュウ、これ一つで二分は持つ!」つ酸素ボンベ

 ミュウ「パパ、正座」

 ハジメ「えっ、はい」

 ミュウ「パパ、潜水時間二分とか舐めてるの?なの。五分あれば地下水路から抜け出せ、十分あれば下水沿いに逃げられるの。潜水時間は命の時間なの!」

 ハジメ「アッハイ、改良シマス」

 

 こうして三十分にまでなんとか伸ばしたハジメさんでした

 




次回、女神登場。
デュエルスタンバイ!(感想お願いします)

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