なので、定日より1日早く投稿。
さて、今回もどうかお付き合いください。
楽しんでいただけると嬉しいです。
「ュー……きて…………」
「んー……あと五分……」
「シュー……てってば……」
「俺はまだ、この夢の世界でヒアウィーゴーしてたいんだ……」
「……起きないとキスするわよ」
まどろみに沈んだ意識の中で、耳元で囁かれたその言葉はやけに官能的に聞こえた。
意識が覚醒する。そうすると瞼を開けないままに、すぐ近くに感じる熱を抱き寄せると頬に手を添える。
そのまま、耳元から右にずらすとまた引き寄せた。唇に柔らかい感触が触れ、「んっ」と小さな吐息が漏れる。
5秒くらいキスし続けてから、ゆっくりと離れた。それから目を開くと、困ったように笑うお姫様がいる。
「やあ、おはよう。目覚めのキスはしてもよかったか?」
「ええ、もう少し続けていたいくらいには」
「それは重畳」
もう一度キスしてから、ゆっくりと体を起こす。周りを見渡せば、白い砂浜が視界を埋め尽くした。
敵の気配はなし。雫以外に仲間たちの姿もなく、ひとまずは安全だと理解してから雫に目線を戻す。
「どのくらい眠ってた?」
「15分くらい、かしら。あなたが海流の中で気を失って、南雲くんたちとはぐれて、それから見つけた縦穴を登ったらここに辿り着いたのよ」
「そう、か……」
おそらくは、その時に女神様に魂を引っこ抜かれて連れて行かれたのだろう。雫には迷惑かけたな。
いや、正確にはハジメたちもか。おそらく、一番不自然じゃないタイミングを狙ったんだろうが……
『まったく、自分勝手な女神には困ったもんだぜ』
お前も起きてたか。どうやら、本当に消されたわけじゃあなさそうだな。
『奴はカインのことで頭がいっぱいだったんだろうよ。俺たちのことなんざ、もうどうでもいいんだろう』
それはそれでなーんか複雑な気分だが……まっ、こうやって雫といられるなら、結果よければ全てよしってことにしとくかね。
『人生ポジティブに、だな』
異星人に人生とか言われると不思議な気分になるわ。
「シュー、どうかした?」
「ん、どうやら離れたハジメ達に結界張ろうとしたら、魔力が切れたみたいでな。ちょっと目眩がさ」
即興の言い訳と一緒にトントンとこめかみを叩けば、そういうことねと頷く雫。とりあえずは誤魔化しておく。
女神様とカインのことは、折を見て話そう。
この前の一件から隠し事は極力しないと誓ったが、ここは迷宮だ。長いこと話し込んではいられない。
「どうする?少し休憩していくか?」
「いいえ、私は大丈夫よ。あなたこそ平気なの?」
「そうやって心配してくれるだけで、俺はいくらでも元気が湧いてくるよ、っと」
波の上をたゆたっていた帽子を拾い上げると、魔法で乾かして被り直す。そうすると雫に手を差し出した。
迷いなく手を取ってくれたので、クリーンの魔法で自分と雫の体から海水を除去する。
「ふふ、ありがとう」
「いやいや」
雫が刀を、俺が探知系の魔法を発動・展開して、砂浜の後方に見える密林に向かった。
ゆく手を塞ぐ鬱蒼と生い茂った葉を、カーネイジで刈って進む。気分は頃合いになった稲刈りをする農業者だ。
知識と照らし合わせれば、これが正規ルートで間違いない。どうやら、あのクリオネからは逃げるのが前提だったようだ。
「南雲くん達は平気かしら?」
「そうだな、一応連絡をとってみるか」
カーネイジに操作権を半分ほど流してオートで草刈りをさせながら、携帯を取り出した。
俺が本物のカインじゃないと知っても、カーネイジは変わらず働いてくれる。自我はないが、意識がないわけでもないのに。
まあ、精神をリンクすると狂気で汚染されるので聞けやしないが。改めてなんてやつらを体内に飼ってるのか。
『おい、ナチュラルに俺も含めるな』
なんのことかわかりかねます。
「どうやら他の皆も同じような場所を攻略してるらしい。ハジメは白っちゃんと一緒みたいだね」
脳内でぶつくさ言うエボルトをからかっていると、グループにそれぞれから無事の旨を伝えるメッセージがくる。
見たそうにしていた雫に携帯を手渡すと、彼女は画面を見てほっと安堵に胸を撫で下ろした。
「そう、南雲くんが一緒なの。それなら安心ね」
「他の四人も、まあ平気だろ。なんなら一人ずつでもへっちゃらな戦力だし」
なので、白っちゃんがハジメと一緒にいるのは非常に好都合だった。
正直言って、うちのメンバーで戦闘面で弱いのは、美空の次に白っちゃんだ。まあ、元々戦闘向きじゃない性格だから仕方ない。
それでも、とハジメ……あと多分美空……への気持ちを成就するために、こんな危険な旅についてきたのだ。
相当根性があるというか、そうじゃなくてはユエたちには太刀打ちできなさそう。ほら、あの方々つょいから。
『つい最近、寄ってたかってリンチされた奴の言葉は重いな』
うるせいやい。俺だってちゃんと反省はしてますぅー。
『……だが、必要なら隠し事はする。そうだろ?』
……そりゃ、こいつらを傷つけないためなら、な。
「ん?」
そんなことを脳内で話していると、ピコンとハジメからメッセージが入る。個人メッセージの方だ。
グループチャットを閉じて、個別チャットの方を開く。すると、そこにはハジメからの相談があった。
「なになに?白っちゃんが悩んでる?」
「あら、香織が?」
腕に手を置いて覗き込んできた雫と二人で、ハジメのメッセージを読む。
「まず、白っちゃんがなんでユエやウサギじゃなくて自分を助けたのか聞いてきた、と」
「それで、南雲くんにそんなことで悩んでる暇があるのかって言われて、一度は気を取り直して……」
「そのあとちょっとしたことでハジメに助けられて、また凹んだ、ねぇ」
読みやすいようにしてくれているのか、小分けにして送られてきたメッセージを二人で読み上げる。
「雫さん、これどう思います?」
「十中八九、自分とユエさん達を比べて落ち込んでいるのね」
多分、雫の言う通りだろう。
白っちゃんはユエ達に比べて、自分がハジメの役に立つどころか迷惑をかけていると、そう思っているに違いない。
それは間違いではない。本来は支援役の白っちゃんは、その分戦闘面では前に出る俺たちより不利になりやすいのは確かだ。
「だが、そこだけじゃないな。むしろそれなら、死ぬ気で俺たちが鍛えればなんとかなるような問題だ」
「それはそれで、実際にやられると心配なのだけど……」
「まあ、仮定だ仮定」
意見を多くするために、エボルトを解離・擬態させて三人で話す。ちなみに女神様の空間での姿だった。
「なにそれ、お気に入りなの?」
「ふっ、美しいだろ?」
「リベルの前でその姿に擬態するなよ、教育に悪いから」
「おいどこ見て言ってるこの下にもちゃんと下着を擬態してるからな」
「早口なのが怪しいわね」
ま、それはどうでもいいとして……戦闘面での差を除くと、残るは精神的な面。
「実のところ、ユエたちは持ってて、白っちゃんにはないもんがあるのよ」
「へえ、それって?」
「それはな……ハジメとの特別な時間だ」
「特別な時間?」
おうむ返しに聞いてくる雫に頷いて、説明する。
「例えば、ユエにはウサギの犠牲により変貌し、絶体絶命の中で、死に物狂いで力を得た今のハジメと一緒にいた時間がある」
「何度聞いても、到底普通では体験できない話よね」
そしてその濃密な時間は、短期間でユエハジメの間に強い信頼を築き上げた。美空とはまた違った、絶対的な絆を。
では、その信頼と真っ向から勝負して打ち勝てるものがあるかと言えば……白っちゃんには悪いが、かなり一方的な結果になる。
「有り体に言って、足りないんだよな。これっていうハジメとの何かが」
「エボルト、断言するねぇ」
「事実だろ?」
まあ、そうなんだけど。
「いつも香織が張り合っているものとは、また違うのかしら?」
「確かに、地球での時間や知識はユエにはないものだ。だが、それだけじゃパンチが弱いんだよなぁ」
「あくまで地球人、同世代、同級生……そういう共通項というだけで、ハジメとの信頼関係とはまた違う問題ってことさ」
ハジメが何をしたいのか、あるいは何をしてほしいのか。そのために自分ができる、最適な行動は何か。
それを瞬時に汲み取り、判断し、実行する。限りなく完全に近い互いへの信頼がなくては、決してできないことだ。
「俺が考える限り、ハジメに対して……いや、人間全般の関係を通してそれができるのは、大きく分けて二つ」
ぴっ、と人差し指と中指を立てる。
「長いこと一緒にいて、考えることが手にとるようにわかるやつか……死の瀬戸際を、一緒にくぐり抜けたやつ」
「そうね……生きるか死ぬか、その境界を感じながら一緒にいたのなら、否が応でも相手への理解は深まるわ」
「その通り。んで、あいつらはそれを乗り越えた」
その結果生まれたものは、簡単に覆るようなものでもなければ、そうそう並び立てるものでもないだろう。
その点において、そもそものスタートライン時点で、ハジメと環境が分かたれていた白っちゃんでは、相当分が悪いのだ。
「モチのロン、白っちゃんの思いが負けてるとは思わない。むしろ地球人では、美空の次に強かっただろうな」
『俺、高校生になってからハジメのこと物陰からストーキn……観察してるカオリン、何十回も見たよ(白目)』
お前それ絶対口に出すなよ、雫と白っちゃんの友情に何かあるかもしれないから。
『え、じゃあこの前たまたまハジメの制服hshsしてたのを見たのも?』
よし永久封印だ(真顔)
「私もそう思うわ。香織の思いが真っ直ぐで純粋だったからこそ、南雲くんに美空がいるのを知ってても止めなかったのだし……」
「だよなぁ。あんなに一途だと応援したくなるよねえ」
「純粋……純粋?」
首をかしげるエボルトに余計なことを言わないよう肘鉄を入れつつ、悩ましげな顔をする雫に同意する。
まあ、応援だけで現代日本の倫理的な問題で手出しはしなかったが。そうなったらなったで、いくらでもやりようはあった。
トータスに来てハーレムになったから、それもこれも色々と無意味になったけどネ。
「それに、今回助けられたことも関係しているんでしょうね」
「ああ、なるほどねぇ」
「ユエなら一人でもなんとかできるしな。ていうか、本人が白っちゃんを助けるようにアイコンタクトしたらしいし」
これは後から聞いた話だが、最初にオルクスで合流した時の少し前、ユエはある魔物に操られ、盾にされたらしい。
で、定番な「私のことは気にしないで!」を言ったところ、ハジメが容赦なく頭頂部の頭皮と一緒に魔物の頭を吹っ飛ばした。
それ以降、こういう状況になった時は一切期待しないことにしたらしい。うん、ハジメが百パー悪いね。
『ないわー今聞いても乙女心に理解度ゼロだわー』
元は感情がなかったお前が言っても説得力ないからな。
「まっ、これはあいつと白っちゃんの問題だ。白っちゃんが自分を見失わないようにしてやれよ、と」
一言一句言った通りに打って送ると、すぐにやれやれと肩を竦めるデフォルトハジメのスタンプが返ってきた。
「香織、変な方向に拗れないといいけど……」
「もう十分拗れてるんじゃね(小声)」
「……?何か言ったかしら?」
「いやなんでもないよHAHAHAHA」
「痛い痛い痛い痛い」
言うなっつってんのに口のゆるーい異星人にヘッドロックをかましつつ、頭の中で落ち込む白っちゃんを思い浮かべる。
なんだかんだで、メンタルの強い子だ。きっとハジメと一緒にこの迷宮を攻略するうちに、迷いは吹っ切れるだろう。
そんなことを思っていると、先行していたカーネイジが戻ってきて俺の体内に戻る。およ、お仕事終了か。
「どうやらジャングルは終わりみたいだな」
「ええ、新しいステージということね」
「じゃあ俺もお暇しますか」
同じくエボルトが融合すると、カーネイジが開いた道を通って密林を抜ける。
すると、その先は……
「これは、なんというか、すごいわ……」
「いわゆる船の墓場ってやつかねぇ」
ジャングルの先は岩石地帯だった。そこには数えるのも馬鹿らしくなるほどの、朽ちかけた船が横たわっている。
どの船も巨大であり、最低で100メートル、遠目に見える落ち版大きな船で三百メートルはあるだろうか。
「シュー、次の目的地は?」
「あの奥の船だ。遠いからバイクを使おう」
携帯にボトルを装填し、登場が結構久しぶりな気がするバイクを展開すると二人で乗り込む。ヘルメットは一応つけた。
「よし、ちゃんと捉まったな?」
「シュー、少し太った?」
「おいおい、それは雫のご飯が美味すぎるからだろ?」
「ふふ。私、別に太っていてもいいわよ」
「それ、世の男どもが聞いたら大歓喜だろうな」
軽口をかわしつつも、ちゃんと雫のしなやかな両腕が腹部で固定されたことを確認して、バイクを発進した。
岩石地帯にも関わらず、例のオルクスの最終試練での八つ首ドラゴンの皮を使ったタイヤは物ともせず爆速で突き進む。
岩場の間をくぐり抜け、時にちょうどいい感じの岩を使って船から船に飛び移り、着々と進んでいった。
「見た所、戦艦ばかりだな」
「確かに、大砲や武器が散乱しているものもあるわ」
朽ちかけの船には、横腹に砲門が付いているものもあれば、魔法による攻撃の跡が残るものもある。
総じて、激しい戦闘の末に沈んだのだろうと想像できる見た目をしている。その中で、奥の船は異様さを放っていた。
「あれだけ無駄に豪華なんだよなぁ」
「多分、ここにある船は全て護衛艦で、あの客船を守っていたんじゃないかしら」
「さすが雫、いい目の付け所だ」
女神ペディアで答えを知っている俺から言わせると、中々に雫の予想は的確だ。
だが、単なる護衛ではない。それどころか、この戦艦たちを操る人々が死んだのには別の理由が……
「っと、ここあたりか」
脳内の女神ペディアを閲覧していると、あることを思い出して急ブレーキをかけた。
「わっ」
「すまん、急に止まって」
「平気よ。それより、何か気になることがあったの?」
「ああ。ちょっとここからは趣向を変えていこう」
首を傾げる雫と一緒にバイクを降りて、飛行モードに変形させる。
そうするともう一度騎乗して、先ほど止まった
──うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
──ワァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
「っ!? な、なに!?」
次の瞬間、大勢の雄叫びが聞こえた。さらに周囲の風景がぐにゃりと歪んで、とっさに雫が刀に手を添える。
「落ち着け。単なる幻覚魔法の一種だよ」
「そ、そうなの?」
「昔からドッキリ的な要素には弱かったよなー。そういうとこも可愛いけど」
「……もう、弱くなったとか嘘じゃない」
ちょっと頬を赤くしながら、なおも刀から手を放さない雫に感心しながら、下に目線を落とす。
本来、歩いて進めば俺たちがいるはずだったろうそこは、大海原の上に浮かぶ艦隊の一隻の甲板だ。
つい先ほどまで広がっていた船の墓場は何処へやら、いつの間にか何百隻もの帆船が、二組に分かれて向き合っている。
そんな船の甲板上には、武装をしたおびただしい数の人間が武器を掲げ、互いに向かって雄叫びをあげていた。
「これは、一体なんなの?」
「試練さ、この迷宮のな」
ドンッ!!!!!
言うのと同時に、バイクを横にずらす。すると隣を火の球が通過し、そのまま上空に向かって飛ぶと爆発した。
花火のようなそれが弾けるのと同意に、艦隊が両方とも一斉に進みだした。その光景は圧巻の一言だろう。
やがて、ある程度の距離まで近づくと、そのまま体当たりでもするのかという勢いで突貫しながら魔法を打ち合い始める。
ゴォオオオオオオオオ!!
ドォガァアアン!!
ドバァアアアア!!!
「きゃっ!?」
「おー、こりゃ大規模だ」
互いの船に向けて降るわ降るわ、魔法の嵐。
炎弾が甲板をぶち抜き、巨大竜巻がマストをへし折り、着弾した灰色の弾が船体を石化させ、海面が凍りつく。
戦場──そう言う他にない、惨劇の光景。そこかしこから魔法を打ち出す雄叫びと、それに運悪く被弾したものの断末魔が聞こえた。
「これって、もしかして──」
何かに思い至ったのか、目を見開く雫。おや、この短時間で答えを予想したか。
「そ。今から遠い昔、解放者たちの時代。神にた誑かされて殺しあった、愚か者たちの末路。それを再現しているのさ」
「…………そう。そういう試練なのね」
自分の予想が当たったからか、悲しげに目を伏せる雫。
「見たくないなら、さっさと吹き飛ばすけど?」
そう言いつつ、俺は彼女の答えが半ばわかっていた。なぜなら彼女は、俺が知る中で最も強い女だから。
「……いいえ。もう少し見るわ。私たちが、何と戦おうとしているのかを」
「了解。それならもう少し近くに行こうか」
雫は少し迷った後に、コクリと頷いた。
すぐにバイクを操作して、はっきりと戦いの様子が見える位置まで降下する。
「全ては神の御為にぃ!」
「エヒト様ぁ! 万歳ぃ!」
「異教徒めぇ! 我が神の為に死ねぇ!」
そこにあったのは、まさしく狂気に侵された人々の姿だ。
血走った目に、唾液を撒き散らしながら絶叫して死んでいく様は、はっきり言って気持ちが悪い。
そんな彼らが武器をふるい、魔法を放つたびに、鮮血が吹き出し、四肢や頭が宙を舞い、血の海と死体の山が増えていく。
「これって、宗教戦争なのかしら」
「だろうな。でもって全ての宗教の神の正体はエヒトってわけだ」
『全く、趣味が悪いこって』
そう言いつつ声に愉悦が混じってんぞ。
『やべ、昔の血が騒いだ』
はいはい外道宇宙人。
「っ! シュー!」
雫の声に下を見ると、何人かの魔法使いが俺たちに向けて魔法を放とうとしているところだった。
「おっと、そろそろ時間切れか」
パシュッ!
すかさずステッキをショットガンモードにすると、先端から魔力の弾を発砲する。
それが当たった瞬間、魔法使いは空気に溶けるように消えた。うむ、やはり魔力による攻撃が有効か。
「こいつら、時間が経つとこっちも狙っってくる仕様なんだよ」
「どうするの、彼らを相手する?」
「んにゃ、面倒臭いから一掃しよう」
投げられる槍や魔法を全てステッキガンで撃ち落とし、先ほどの高度まで上昇する。
そうすると、ギャアギャアと騒ぐ何百隻もの戦艦を見下ろしながら、両手をかざして能力を使った。
ズ……!という音がして、空中に黒点が現れる。それは徐々に円盤状に広がり、やがて超巨大なブラックホールになった。
虚無の穴に、全てが飲み込まれていく。魔法も、人も、彼らが乗る戦艦そのものも、何もかもを喰らい尽くす。
「うわぁ……反則よね、その能力……」
「見てるだけで終わるんだ、エボルトに感謝考えき雨あられってね」
『もっと褒めてくれてもいいのよ』
調子乗るなスライム。
たった十分ほどで、全ての戦艦を人間もろともくらい尽くした。魔力の供給を止めると、ブラックホールは霧散する。
その瞬間また風景が歪み、元の静謐な船の墓場に戻った。バイクを先ほど飛び立った地点に着陸させる。
「はい、なんともくだらない戦争のご鑑賞、ありがとうござました」
「できれば、もう二度と見たくないわ」
げんなりした顔でいう雫。賢明な判断だ。あんなものをずっと見てたら、そのうち気が狂っちまう。
大丈夫か?とハンカチを差し出すと、いくら気丈な雫でも気持ちが悪かったのか、素直に受け取って少し口元をおさえる。
「でも、この迷宮の試練というのはよくわかったわ」
数分置いて、気持ち悪さが収まったのかハンカチを返してきた雫はそう言う。
「ほう、その心は?」
「さしずめ、〝狂った神がもたらすものの悲惨さを知れ〟ってとこかしら?」
「その通り!いやあ、やっぱ雫は賢いな」
そう、このメルジーネ大迷宮のコンセプトは、人を駒、戦争を遊戯として楽しむ神がいかに狂っているかを知らしめるもの。
そして、その言葉に惑わされ、このような惨劇にならないようにという、挑戦者への戒めの意味も含まれている。
幻覚には、様々な狂信者が現れた。
狂気の宿った瞳で、体中から血を噴き出しながらも哄笑し続ける者。死期を悟り自らの心臓を抉り出し、神に捧げようと天にかかげる者。
俺達を殺すために、恋人ごと魔法で焼きはらおうとした女と、それを誇らしげに笑う男。その全て、「神の御為」の言葉とともに。
「改めて、俺が殺そうとしている相手がいかに殺すべき相手なのか、よーくわかったよ」
自分の手を見下ろして、隠さなくなった〝抹消〟の紋章を見下ろす。
この力は、真実を知った後も俺に残り続けた。まるで、俺にカインになれとでも言っているように。
ああ、なれるならなってやるさ。あいつを真似ることで、雫や、ハジメたちが地球に帰って幸せになれるなら。
たとえ、もう生みの親に……あの女神に、用済みだと見捨てられたとしても。
「…………ねえ」
「ん、どうした?」
手を握りしめて、いつもの調子で笑って顔を上げる。
けれど、すぐに言葉が詰まった。雫が、俺のことを真剣な表情で見ていたからだ。
「今度は、何を隠してるの?」
そして、彼女はまるで射抜くような声音で……そう、聞いてきた。
読んでいただき、ありがとうございます。
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