どうも、半年ぶりくらいですね。作者です。
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↑シュウジのイラストです
シュウジ「ようやく俺たちの冒険も再開か」
エボルト「声を失った少年の方が完結したようだからな。てことで、これからなるべく火、木、日の6時更新でやっていくぜ」
ハジメ「今回は前回からの続きで、メルジーネの攻略だな。一応長い期間が空いたから、説明風が多くなってるはず」
シュウジ「それでは久しぶりの、せーので」
三人「「「さてさてどうなる海底迷宮編!」」」
ハジメ SIDE
「香織、気分はどうだ?」
「うん……もう平気だよ」
戦争の幻覚が終わった後、愛白い顔をようやく元に戻した香織はそう微笑む。
どうやら香織には相当きつかったようで、吐くものもないのに嘔吐いて苦しそうだった。
「ごめんね……迷惑かけてばっかだね」
「まあ、気にすんな。俺も結構気持ち悪かった。人間ってのは、あそこまで妄信的に、狂気的になれるもんなんだなって震えたさ」
おどけたように自分の肩を抱くと、香織はクスリと笑う。
気分が少し治ったのを確認したあたりで、香織の隣に腰を下ろした。
「っと、少しここらで休憩しよう。俺もあの幻覚を倒すのに相当魔力を使ったからな」
「うん」
しかし、香織が結界を張ったところから魔力を伴った攻撃が有効だと知れたのは大きかった。
じゃなきゃ無駄に弾薬を消費することになってただろう。某ホラゲーでも弾薬節約は大事って言ってる。
「ねえ、ハジメくん。あれはなんだったのかな? ここにたくさんある廃船と関係してるよね?」
「おそらく、昔あった戦争を幻術か何かで再現してるんだろうな。そこに挑戦者を襲うような機能も加えたってところか」
「じゃあ、それが迷宮のコンセプトってことなのかな?」
「ああ、シュウジの話な。多分そうだと思う。この迷宮の〝解放者〟の用意した試練は、大方……」
「狂った神がもたらすものの悲惨さを知れ……」
「そういうことだ」
肯定すると、香織は幻覚の内容を思い出したのか、うっと口を押さえてうつむく。
しまった、と思ったのと、香織の手を握ったのは同時だった。狂気に飲まれかけていた香織は、目を見開いて俺を見る。
「ハジメくん……」
「気にするなよ……狂気に飲まれそうになる辛さは、俺もわかる。奈落の底では堕ちかけたしな」
「そうならなかったのは……聞くまでもない、よね……ユエでしょ?」
「いや、ユエだけじゃない。ウサギもだ」
「え、ウサギさんも?」
驚く香織に、そういえばウサギとの出会いを話していなかったと思い出す。
いい機会だったので、魔力の回復を待ちがてら、ウサギとの思い出を香織に語って聞かせることにした。
奈落での出会い、短くも救いだった二人での日々……俺のための犠牲と、ヒュドラとの戦いでの助力。
「あいつがいてくれたから、俺は一人で狂わなかった。腹を満たし、現状を打開する思考力を取り戻せた……あいつには、感謝しても仕切れないよ」
「そっか、そんなことがあったんだ……ウサギさん、すごくハジメくんのこと好きだから、何か大事な思い出があるんじゃないかって思ってたけど……」
「ああ、大きいぞ。何せ情けない頃の俺を最後に見てたからな」
「そう……それからユエに出会って、シュウジくんたちと一緒にオルクスを攻略して……あー、悔しいなぁ」
突然、香織は自重げな笑みを浮かべて空を振り仰ぐ。
この迷宮に入ってから、何度か見たことのあるその笑い方に、自分が眉をひそめるのがわかった。
「私じゃあ、多分何もできなかったよね……美空と三人でした約束も守れなかったし……」
「……なあ、香織。お前、ここにきてからそんな顔で、そんなことばっか言ってるな」
「え? えっと、それは……」
あたふたとし始める香織に、俺は表情を厳しめなものに変えて問いかける。
「香織。お前はどうして、俺についてきたんだ?」
「っ……それは、やっぱり邪魔だったってことかな?」
またあの笑い方をする香織の頭に「そうじゃねえよ」と軽くチョップを入れて、話を続ける。
「あの夜、三人で大して美味くもない紅茶を飲みながら話したことを、俺は覚えてる。だからこそ、美空はともかく今も香織が、昔の
「ハジメくん……わ、私は……」
「ああ、勘違いするな。俺はお前の思いを否定はしない。きっと、香織には香織にしか見えない〝俺〟があって、それが心を動かしたんだろう。その上で決めたことを、他の奴がどうたらいう資格も意味もない。まあ、あのバカみたいなのだけは例外だがな」
突然目の前で自殺しようとした大馬鹿な親友で例えると、香織は苦笑いする。
得てして自分のことなんて、自分自身じゃわかってないことの方が多い。あいつの出生には秘密があった。
そして俺にも、俺にはわかっていない、香織にはわかる、昔の俺から受け継いだ
「俺はオルクスで再開した時、答えを示した。受け入れられるとは限らない、ユエとウサギ、それ以前に美空がいる、とな。まあその時点で普通じゃないが、香織は〝それでも〟と思ったんだろ?」
「……うん」
「だったら、好きにしろ。なんならシアくらい積極的になれ」
「あははっ、いきなりあのアグレッシブさとポジティブさは難しいよ」
「あいつ、最近マジで身体能力がバグってきてるからな。そのうち寝込みを襲われそうだ」
しかもウサギがシアを妙に気に入っており、近頃じゃあ完全にあっちの味方化してる。
そのうちストレートに夜引き連れて来そうな気配すら感じるので、ちょっと危機感を覚えている。
「最初はシアも、相当雑な扱いをしてたんだ。俺にはもう充分以上に〝特別〟な相手がいたし、そうすれば諦めてくと思ってたからな」
「…………」
「でもあいつは、絶対にめげないんだよ。俺が雑な扱いしても、大切ではあれ特別ではないと示しても、それに喜怒哀楽を全身で表現はするが、その上でどこか楽しそうなんだ。いつも前向きに、何があっても、何が自分に足りなくても、卑屈にならずに、劣等感なんてこれっぽっちも気にせず」
「わ、私は、卑屈になんて……」
直接言ったわけじゃないのに、こんな顔をしていることこそが証拠だと、こいつは気づいているだろうか。
まるで事実から目をそらすように俯いていく香織の顔に手を添え、しっかりと目を合わせる。
「香織、目を逸らすな。自分を誤魔化そうが、お前の笑い方も、考え方も、前と全然違うのは誰が見てもわかる」
「あ……」
ようやく自覚した、というふうに目を見開く香織。
そう、全然違う。以前の香織は、頑固なほどに真っ直ぐに相手の目を、俺の心を正面から見ていた。
「いいか、もう一度言っておくぞ。俺は仲間としてお前のことが〝大切〟だ。だが、これ以上〝特別〟を増やすつもりはない。俺の思いは変わらないし、これ以上受け止め切れるとも思えないからな」
「…………」
「そのことに辛さしか感じないのなら、劣等感しか抱けないなら……これ以上、ついてくるべきじゃない」
「っ!」
「卑屈になって、自分の思いも貫けないようならば、香織。お前は俺から離れるべきだ」
はっきりと告げれば、やはり香織は目線を下に落としてしまった。
頬に添えていた手を離すと、俯いた香織は何も言わなくなってしまう。そんな香織に、俺はもう一度言った。
「もう一度、よく考えてみてくれ。自分の最善を、したいことを……本当に、俺のそばにいることが香織にとって望んだことなのか」
「………………」
「その上で違うと思ったのなら、その時はちゃんと言え。場合によってはクラスメイトたちの方へ連れて行く。あっちには御堂もいるしな」
言うべきことは全て言った。
立ち上がると、香織は離した俺の手を見つめながら何かを言おうとするが、やはり言葉にならない。
気まずい雰囲気の中、俺は香織を促し、一番遠くに鎮座する一番大きな帆船へと歩みを進めた。
●◯●
ランダ SIDE
……あの日のことを、今でも鮮明に思い返す。
いつもの一日だった。
悠久の生の中、自らを刺激する者が現れ、攻略してもらうために作った迷宮の奥底で過ごす毎日。
それが、千年ほど前から少し違う毎日になった。ある一人の男が現れたのだ。
彼は人間だったが、特別に他の者たちよりも
世界を調律する者である彼は、生まれながらにその在り方を歪められた、哀れな人間だった。
悪を断つために悪に育てられ、歪みを正すために世界に選ばれた彼は、人間にしては一貫していた。
そんな彼に興味を抱き、私は何千、何万というそれまでの生の中での初めての友とした。
彼と知り合ってから、少し退屈な生が面白くなった。
たとえ千年限りとて、自分以外の者と接することは私に僅かながらの楽しさを与えた。
彼は本当に珍しい人間だった。役目以上に自らの意思でも多くの命を救わんとしたのだ。
ああ、だからだろう。その日が来てしまうのは、わかっていたんだ。
「ランダ」
「おや、君か。そろそろ来るかと思っ……!?」
後ろを振り向けば、そこには無表情でたたずむ彼がいたはずだった。
だが、そこにいたのは……もう今にも崩れて消えてしまいそうな、壊れかけの何かだったのだ。
彼に許された1000年の命、仮初の不老。その最後の日に、彼は思っていたものとは違う姿で現れた。
「お見苦しいところを見せて申し訳ありません。しかし、どうしてもあなたには会っておきたかった」
「……僕がこの世界の調律者と接触したのは、君が初めてだが。〝世界の殺意〟とやらは、皆最後はそうなるのかい?」
「いいえ。これは私の罪、私の罰。多くを望んだが故の代償です」
姿は悲惨なのに、声も、半分壊れた顔に浮かべる表情もいつも通りだった。
そんな彼は、いつも来るたびに酒を飲み交わしていた席について、虚空からワインボトルを取り出した。
怪訝に思いながらも、私は席について二つのグラスにワインを注ぐ彼を見る。
「どうぞ」
「……ありがとう」
「それでは。我が信念と愛しき弟子たち、そしてかけがえのない友に」
「……乾杯」
チン、とグラスを軽く合わせて、ワインを煽る。
濃厚でまろやかな口触りのそれは、彼がいつか話していた、ドワーフの秘蔵の宝であると悟る。
彼の持つ中でも最高級の一本だろうそれに、驚きつつ、グラスをテーブルに置いて彼を見る。
「それで? 自然になったのではないのなら、どうしてそのような姿に?」
「……多くを、殺しました」
重く、冷たい声で彼は語り出す。
「多くの命を踏みにじりました。多くの信念を切り捨てました。多くの正義を欺きました。私は、この手から溢れ出て止まらないほどの血を流した」
「……それで?」
「私は傲慢だった。元よりなかった自我に傲り、結果として取り直しのつかないことをした。初めて従うだけにしておけば良かったと、そう思います」
ひび割れた両手を見て、彼は自嘲気味な口調でこぼす。
そこまでの話で、私は悟った……ああ、
ここに閉じこもっている私でも、世界に命が増えすぎたのはわかっていた。いずれ自壊するだろうことも。
それをしたのは、今目の前にいる彼。強すぎる信念をもって役目以上に干渉した彼は、大勢を
「少し考えればわかることだった。知恵あるものは成長し、互いに争い、時にどちらかが滅んでまで、その中で発展していく。しかし私は目の前にある命ばかりを救おうとし、結果的に必要な競争を奪い取った」
「……その代償が、それなんだね」
「ええ……私は止まれなかった。自らを止める手段を持たなかった。だって私には……自我が、ないのですから」
ぽつり、とテーブルに落ちる一雫。
それが彼の目の端からこぼれ落ちたものだと知って、心から衝撃を受けた。
この千年、彼が表情を変えたところは見たことがない。そんな彼が、私の前で泣いている。
その姿に……何故だか、とうの昔に動かなくなった心が、どこか動かされたような気がした。
「……そうか〜、君とも、この世界ともお別れか〜。寂しくなるなぁ〜」
「申し訳ありません。たかが千年では、あなたの友であるには足りなかったようです」
「いやいや〜、楽しかったよ〜。この世界も居心地は良かったし、満足できたかな」
もうすぐ逝くのだろう彼を前に、私はいつも通り振る舞うことを決めた。
彼はここに同情を引くために来たのではない。彼にとって感情は、本来は暗殺の道具だ。
ならばこれは、別れだ。彼がそれを覚悟しているというのなら、私もそれに歩相応しく振る舞おう。
「……できれば、あと少しだけその満足を長引かせることはできないでしょうか?」
「どういうこと〜?」
「私の弟子たちを、どうか見守ってほしい。残す未練はそれだけです。それを頼める相手は貴女しかいない」
この通りです、と頭を下げる。
また初めて見る姿に、脳裏に彼の3人の弟子たちが思い浮かんで……今度は心が荒立つ。
彼女たちは、あの彼にこうも言わせるまでに大切にされてるのか……私の方が、長く知っているというのに。
いいや、そうだからこそ彼は頼みにきたのだろう。なら私は、微笑むべきだ。
「いいよ〜。でも、どうやってこの世界の崩壊を止める気? 長引かせるって、そういうことでしょ〜?」
「……ええ。一つだけ方法があります」
そして彼は、私に話した。
増えすぎた命の輪廻を回す力のない世界意思と融合し、これまでの外側からのバグの調整ではなく、内側からの処理を行うこと。
それによって自分の生きてきた千年の時間は消え、全く新しい、この世界が生まれること。
それによって自分の記憶が消えるだろう弟子たちを……唯一、この世界の部外者である私に、見守ってほしいこと。
「どうか、お願いします」
「うん、いいよいいよ〜。君の弟子だもん、見てて楽しいに決まってるよ〜」
嘘だ、と嘲笑う自分がどこかにいた。
数多の世界を傍観し、幾つも世界の終わりも、人間も見てきたのに。どうしてここまで心がかき乱される。
そしてそれから目を逸らそうとする自分を嘲る自分が、その時確かに私の中にいたのだ。
「ありがとうございます……烏滸がましいことですが、貴女にもう一つだけ頼みがあります。ここへはそれを言いに来ました」
「なにかな〜? 親友の頼みなら、無理なことじゃなきゃ聞くよ〜」
あくまで呑気な顔で答えれば、これ幸いと彼はあることを私に頼んだ。
「もし、私の力や、記憶や……この〝抹消〟を利用された時。あるいは、それらを受け継いだ私でない誰かが作られた時は」
「その時は〜?」
「どうか……殺してあげてください。私と同じ間違いを犯さないように。扱えぬ力に悩まないように……
「ッ!」
優しく、弟子にそうするように笑いかけてくる彼。
その顔にああ、とまた自分を嘲笑った。
私自身よりも先に、彼は、私のこの気持ちを……
「頼みましたよ……ランダ。我が唯一にして、最高の友よ」
そう言い残して、彼は固まる私の前から去っていったのだ。
彼がいなくなった、もう二度と使うことのないだろう席を見て。
「はは……君は、本当に愚直なほど変わらないんだなぁ」
私は一筋の涙とともに、そう溢した。
「………………………………」
目を見開く。
そこは、私の迷宮ではない。精緻な彫刻の施された純白の円卓、その一席である。
そもそも私に居場所など、最初からどこにもないのだ。
「おぅ、うたた寝とは随分余裕だなァ」
「……黙れ紅煉。少し考えに耽っていただけだよ」
隣で下品に笑う、同じ法衣を着た獣を鋭く睨む。
おっと、などと言って戯けたフリをする紅煉を一瞥し、私は目の前に座る四人の者たちに向き直った。
「それでは、会議を始めよう──我らが主、エヒトの命を脅かすあの男について」
私はランダ。世界を渡り、邪なる神を喰らう獣。
そして……かつて焦がれた一人の男との約定に縛られる、哀れなる嫉妬の獣である。
●◯●
シュウジ SIDE
「えっ……と」
「………………」
じっと、アメジストのような美しい瞳で見つめてくる雫。
なんの脈絡もなく投げかけられた質問に、頭の中で瞬時に百通り以上の詭弁が浮かび上がった。
だがそのどれも、目の前にいる俺の女神様には効く気がしなくて……ふぅ、と諦めてため息を吐く。
「別に、隠してるってほどじゃあないんだよ。ただこう、喋るタイミングを考えてたっつーかさ」
「そう。それなら今話して。じゃないとユエさんたちにまた隠し事してたって言うわ」
「やめてください死んでしまいます」
またフルボッコは勘弁である。特にシアさんのボディーブローはめちゃクソ痛い。
『そろそろ背中まで貫通できそうじゃね?』
物騒なこと言いなさんな()
「いや、なんというかですね……」
「なんというか……?」
「一言で言うと……またマリスに会った」
そう言った瞬間、雫の表情は劇的に変わった。
まず目を見開き、次に奈落の底に落とされたような絶望の顔を浮かべ、烈火の如き怒りの表情へ。
そして最後には今にも泣き出してしまいそうなほど目元を歪ませて、俺は慌てて弁明をした。
「タンマ、一旦ストップ! 別になんもされてないから! 記憶も操作されてないし、何も奪われてない!」
「………………ほんと?」
「あっいや、一つだけ……」
「────ッ!」
「待って、ほんと待って! ちゃんと説明するから泣かないで! お願いしますこの通りです!」
その場で土下座する。空飛ぶバイクの上で土下座とかシュールすぎねえ?
『写真撮ったら一週間は笑えるな』
やめろよ、絶対撮るなよ!
『それはふりですか?』
フリじゃねえしキスもしねえ!
「……じゃっ、じゃあ、説明しなさい。私が納得できるように、しっかりと」
肩を震わせ、唇を噛みしめ、全身で泣き出すのを堪えて雫は睨みつけてくる。
その様子に若干新しい扉が開きかけつつ、すぐに脳をフル回転させて対応策を講じた。
その結果、まあストレートに説明するのが一番無難なので異空間からボードを取り出す。
「えっと、まず俺の生まれた過程だけど。もう一回整理するとこんな感じになる」
カツカツとボードに文字を書いて、雫に見せる。
『マリスが世界意志を破壊し、カインと創造の力を手に入れる
↓
崩壊状態だったカインの魂を修復するため、あらゆる魂を回収する。
↓
復元したカインの魂を起動するも、拒絶されたために人格を抹消。
↓
マリスは自分を愛する、まったく新しい人格を作ろうと画策
↓
様々な世界から記憶のない器のサンプルを集め、都合の悪い部分を改竄したカインの記憶の上に俺という人格を作る
↓
そして元の世界の死産するはずだった赤子の体に入れ、俺が誕生』
『あっちの世界じゃ、奇跡の誕生! なんて医者に言われてたよな』
そりゃ女神様が直接手を加えてるんだ、死ぬもんも生き返るだろうさ。
最後まで書き切り、いつの間にか正座して聴いている雫の方に向き直る。
「ここまではオーケー?」
「ええ。そして封印されていたその真実を知って、貴女は暴走した……そういうことでしょ?」
「ああ。で、この過程の中にカインとエボルトが関わっていたわけだが……」
箇条書きしたものの途中に矢印を入れ、デフォルメしたカインとエボルトを描き込む。
リベルの教育用に絵の練習しといて良かったぜ。流石にカインのスキルにこんなのまで含まれてないし。
「実はその裏にもう一つ、マリスの陰謀が隠されていたんだ」
「陰謀?」
「そっ。マリスはカインの人格をあえて少しだけ残し、エボルトと接触させた。そして俺が真実に気付いたからやってきて、そして俺たちを庇ったカインが連れて行かれたわけだ」
さらにマリスと俺のデフォルメキャラを追加し、俺の中からカインが抜けていく図を描く。
それを指し示すと、雫は怪訝そうな顔をする。まあ、よくわからない話だよな。
「要するに俺の中からカインという人格が消えて、俺だけが残ったわけだ。わかりやすくいうと、中身が消えてガワだけ残ったみたいな?」
「ガワって……つまり、あの時出て来た元のあなたの人格が消えたってことなの?」
「そゆこと。記憶はあるし、知識もある。だが、そこからカインの人格だけが消えた」
ステータスプレートを取り出して見てみると、〝世界の殺意〟の派生技能から[回帰]が消えている。
やはりあれがカインの人格の要だったのだろう。戦闘では結構役に立ってたんだけどな。
その証拠に、カインが管理してくれていたのだろう、膨大な知識や記憶が頭の中で乱雑している。
雫に心配をかけないよう痛みを消す魔法を使ってたが、正直ついさっきまで頭が割れそうだった。
「これで本当にお役御免、俺はもう必要ない割れ物の包装みたいにポイだ。な、隠し事ってほどでもないだろ?」
「……そう、ね。これまでのことに比べたら、そう大きなことでもないのかしら」
「そうそう。まー俺もすっきりしたね。これで何者にも縛られず、俺自身として生きていける」
こっからは俺の時代だ。こうあれという指針が消えたことは痛いが、そう問題にもならない。
まあ最近そんなに使ってなかったし、あったら便利程度の扱いになりかけてたから全然平気だ。
「ねえ、シュー……」
「それに、さ」
心配そうな顔で何かを言おうとした雫に先回りして、俺はいつものように不敵な笑みを受かべる。
「今は、雫たちがいるだろ」
「え?」
「いやほら、何? もうわざわざカインにお守りしてもらわなくても頼れる仲間がいるっつーか、お前らがいれば何も足を止めることはないっつーか」
これほどの知識と経験を、俺のような残り物が扱っていけるのかという不安はある。
でも本当にそれだけで、あとはなんとも思っちゃいなかった。それより大事なもんが俺にはあるからな。
あーくそ、こういうこと言うのも妙に恥ずかしくなった。いつもふざけすぎてる反動か?
『疑うまでもなくそうだよ馬鹿野郎』
まあ、そん感じに恥ずかしくなりつつ雫をみると……つー、と頬に涙が伝っていた。
「えぇなんで!? ホワイ!? 俺また心配させるようなこと口走ったん!?」
「ち、違う、そうじゃないの。ただ、自分からそういうことを言うようになったのが嬉しくて……」
涙をぬぐい、雫はいい笑顔で。
「本当、こんな立派になって……」
「あっこれ違うわ、子供の成長を喜ぶオカンだわ」
「だからそれはまだ先よ」
「未来計画の話マジだったん?」
なんかいつも通りのグダグダした感じになったでござる……俺にはこのくらいがちょうどいいか。
「さて、それじゃあ迷宮攻略の続きといきますか。こっからさらにキツくなるぞー」
「ふふ、護衛をお願いね」
「おう、任しとき。まあかっこいい白馬の王子様じゃなくて暗闇に生息してる暗殺者だけど」
「それで十分よ」
微笑む雫に笑い返し、俺は奥に見える豪華客船に向かってバイクを移動させ始めた。
長くなりましたね。
次回、オリジナルフォーム登場……の予定。
感想をいただけると嬉しいです。