星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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どうも、作者です。本日も何とか間に合いました。

シュウジ「ニーハオ、シュウジだ。前回はまた雫を泣かせちまったぜ」

雫「いいのよ、あれは嬉し涙だから」

ハジメ「彼女にオカン的なこと言われるとか、どうなのお前?」

シュウジ「やめろ、すでに尻に敷かれてるんだ……つーか作者よ、今回の俺なんかラブコメしすぎじゃね?」

エボルト「はいはいネタバレすんな。今回はメルジーネからの脱出までだ。それじゃあせーの、」



四人「「「「さてさてどうなる海底迷宮編!」」」」


メルジーネ攻略 その4

 

 

「いやー、キツかったなぁ」

「そうね……この世界の人じゃあ、一発で精神が崩壊してしまうくらいには」

 

 廃船に戻った豪華客船の中、げんなりした様子の雫と二人で歩く。

 

 ついさっきまで甲板でまた幻覚を見せられたのだ。その内容はまあ、最初の強化版って感じ。

 

 あの戦争が過程を表したものならば、この船は発端。人間族、獣人族、魔人族の終戦パーティーでの騒動。

 

 突如として意見を翻した人族の王がクソエヒトの名前を叫びながら虐殺を始めたのである。

 

 まあ、誰がどう見ても洗脳されてるのが丸わかりだった。てかエヒトの使徒っぽいやつ最後にちらっと出てきたし。

 

『ここの迷宮の創造者性格悪くね?』

 

 はっはっはっ、ミレちゃんのウザさに比べたらそうでもない。

 

「香織大丈夫かしら……今は精神的に弱ってるみたいだし」

「ハジメのフォロー次第だなぁ。まあ、奈落にいた時よか軟化してるし、多分平気だろ」

 

 なんなら白っちゃんがさらにベタベタして帰ってくるまである。あいつ無自覚タラシだから。

 

 などと考えていると、ヒュウと空気が冷たいものに変わった。その変化に雫が刀に手をかける。

 

 

《フルボトル!ファンキーアタック!フルボトル!》

 

 

 ライトフルボトルを取り出してネビュラスチームガンに装填し、前方の廊下に向けて撃ち放つ。

 

 すると、空中で静止した光の弾によって、廊下の先に白い服を着た女の子が照らし出された。

 

「こんな所に、女の子……?」

 

 雫の訝しむ声に正解とでも答えるように、いきなりべしゃっと倒れ込む少女。

 

 かと思えば、突然ありえん方向に関節を曲げるとクモのような動きでカサカサと接近してきた。

 

 

 

 ケタケタケタケタケタケタケタケタケタ!

 

 

 

「そういう系なのねっ!」

 

 しかし、我らがオカンはキャーなどとと可愛らしい悲鳴を上げることもなく。

 

 飛びかかってきたUMAを、抜刀一閃で真っ二つにした。UMAは地面に落ちて空気に溶ける。

 

「ヒュウ、相変わらず鋭い剣筋だな」

「香織のお守りで慣れてるからね……いよいよ心配になってきたわ」

「ああ、そういや一回雫と白っちゃんと3人で遊園地に遊び行ったことあったな」

 

 その時の白っちゃん、絶対に離れんと言わんばかりに雫とがっしり腕を組んでいた。

 

 ちなみに怖くないくせに雫は俺の手を握っていた。小学生の時点でアプローチとか積極的すぎない?

 

『ほら、最近の子は進んでるから……』

 

 お前何歳じゃい。いや待て、別にどうでもいい。

 

「ふふ、昔みたいに手でも繋ぎましょうか」

 

 などと考えていたら、本当に雫は手を握ってきた。

 

 あれ、こんなにこいつの手って柔らかかったっけ。それにきめ細やかで、しっかりと暖かくて……

 

「…………うん、行こうか」

「照れてるの?」

「ナンノコトカワカリマセン」

 

 いやほんと、マジでマジで。別に照れたりしてない。改めてこんな可愛い女の子の手を握ってるから恥ずかしいとかないから。

 

『それ、恥ずかしがってる奴しか言わない感想だからな』

 

 ……るっさいこのスライム。

 

 昔はまだ、自分が記憶を持っただけの入れ物じゃなくて、カインだと思ってたから娘みたいな気持ちだった。

 

 でもこう、何?改めて俺っていう個人になると、なんで俺なんかがこんな女神と付き合えてんの?

 

『おいおいおいおい、死ぬわこいつ。それ聞かせたらビンタ地獄だぞ』

 

 わかってるよだからお前に言ってんだろスライム!

 

『八つ当たりか!あと俺はスライムじゃねえ!』

 

 同じようなもんだろ!

 

 エボルトとくっだらない言い争いをして、上機嫌な雫の手の感触をなるべく意識しないようにする。

 

 え、道中出てきたホラー映画のクリーチャーみたいな奴ら?片手間に全部撃ち殺しましたけど?

 

 我ながら緊張感の一欠片もない迷宮デート(仮)をしながらも、普通に1時間くらいで船倉まで到達する。

 

「よし、迷宮内はここが最後の試練だ。チャチャっと片付けちまおう」

「シュー、そろそろちゃんと目を合わせてくれないかしら」

「ごめんちょっと待ってそれはまだ恥ずかしい」

 

『言っちゃったよ、こいつ自分で言っちゃったよ』

 

 流石にここのトラップの性質上、これまでの片手間では上手くいかないので一回手を離す。

 

 よーし精神鎮静化の魔法だ。某死の王も言ってたろ、とにかく冷静に対処することが大事だ。

 

「ふぅ。よし、じゃあ突撃ィ!」

 

 軽快に言って開き掛けだった扉を蹴破り、中に入る。

 

 先んじてここのトラップについては雫にも説明しているので、背中合わせになって警戒を張る。

 

 油断なくアクノロギアのナイフとスチームブレードを構え、部屋の中ほどまできたところで始まった。

 

「霧が……!」

「気を付けろ、四方八方から襲いかかってくるぞ」

「了解」

 

 突如として勢いよく渦巻き始めた霧は俺たちを包み込み、一瞬にして四方の壁すら見えなくなる。

 

 即座に敵意を感知する魔法、感覚を強化する魔法、こちらの位置を把握するのを阻害する魔法、その他諸々発動させた。

 

 それはいいものの……なんじゃこりゃ。まるでシアさんの故郷の森にある霧みたいだな。敵の位置がよくわからん。

 

『そんなお前に朗報、右後ろだ』

 

「サンキュー!」

 

 報告を受けて魔力を纏ったスチームブレードを一閃。

 

 すると、俺の脳天目掛けて剣を振り上げていた騎士の首を跳ね飛ばす。

 

 騎士は魔法で作られた幻覚であり、声も上げずに消えていった。なるほどそういう仕組みか。

 

「これ、一定数倒すまで延々出てくるやつだわ」

「あら、それなら倒せば終わるってことじゃない」

「そういうことっ!」

 

 そして、俺たちの無双が始まった。

 

「はぁっ!」

「シッ!」

 

 雫の一閃が、俺の的確に急所を狙ったナイフが、次々と現れる幻の剣士、格闘家、あるいは戦士たちを殲滅していく。

 

 どいつもこの廃船に乗っていた中でも手練れを選んでいるのか、妙に剣筋や体を動かす効率が良かった。

 

 しかしまあ、こちとら千年分の記憶のブーストがかかってる。しかも後ろには誰より信頼できる女。

 

 であれば、俺が苦戦する点なんてどこにもない。つーかミレちゃんのとこのゼノモーフの方が1万倍厄介。

 

『あのあと、しばらく黒い食べ物食えなくなったよなぁ』

 

 今度タコ墨スパゲッティでも食うか……

 

『貴様ァ!』

 

 っと、無駄話もここまでに。なんか変な気配を感知した。

 

「せぁっ!」

 

 その気配は、ル◯ンダイブで襲いかかってきた奴らを3人まとめて斬り捨てた雫に接近している。

 

 他の感知系魔法に回していた魔力を敵意感知に絞り込み、そいつを見つけると首根っこをひっ捕まえた。

 

「ぐぎっ!?」

「俺の女に手ェ出すたあ、ふてえ神経してんな?」

 

 貞◯の親戚っぽいホラーフェイズをしたその亡霊女を、[+魂魄操作]の派生技能を使って首をへし折る。

 

 グキッと音がして、俺の手の中でぶらんと動かなくなった女幽霊が消えたところで、周りの霧も晴れていく。

 

「っし、こんなところか。案外楽だったな?」

「シュー、ありがと」

 

 チン、という納刀の音とともに、雫からの感謝の言葉を受ける。

 

「いやなんのなんの、この程度これまでのに比べたら……」

「白馬の王子様じゃないけど、頼もしい暗殺者さんにはご褒美が必要よね」

「は?」

 

 振り返る途中でがしりと肩を掴まれたかと思えば、一瞬だが唇に柔らかい感触。

 

 それがキスだと気付くまで三秒くらいかかった。その間、雫はしてやったりという顔で俺を見ていた。

 

「…………不意打ちはずるくね?」

「だってあなた、最近妙に恥ずかしがってあまりしてくれないんだもの」

「……ごもっともで」

 

 ……いや、マジで弱くなりすぎだろ俺。自分からならともかく、あっちからやられると何もできなくなっちまう。

 

 ニコニコと笑う雫に自覚できるくらい熱くなってるのがわかる頬をかきながら、それを誤魔化して奥に出現した魔法陣に向かう。

 

「これに乗れば、ああいう神殿みたいなところに行けるの?」

「ああ、本当にこれでクリアだ……中では、な」

 

 そう言いながら、雫と二人で魔法陣に踏み込む。

 

 使用者を確認した魔法陣は光り輝き、一瞬視界を白が埋め尽くしたかと思えば、次の瞬間には別の場所にいた。

 

 中央に神殿のような建造物があり、四本の巨大な支柱に支えられた神殿型の建造物、そこから伸びる通路の一つ。

 

 そこに設置された魔法陣の上に俺たちは立っており、そして神殿にはすでにハジメたちが出揃っていた。

 

「おーい、ハジメー」

「おう、やっと来たか」

 

 振り返ったハジメは、何やらいたたまれないような、疲れたような顔をしている。

 

 どしたん?と目線で問うと、後ろを顎で指し示す。

 

「ふふ……負けないよ」

「ん、望むところ」

「やれやれですぅ……」

「本格、参戦?」

「はぁ、はぁ……放置プレイ気持ちいいのじゃ……」

 

 不敵な笑みで笑う白っちゃんとユエ、苦笑いするシアさんと首をかしげるウサギ、そしていつも通りの変態。

 

 あーはいはいいつもの感じね。というか白っちゃん、明らかに落ち込んでも悩んでるようにも見えないわ。

 

「白っちゃん、何かあったん?」

「あー、まあ色々あってな……」

 

 なんでも俺が最後に(首の折れる音)をした女幽霊が白っちゃんに取り憑いたらしい。

 

 その時点で雫さんが怖い笑顔になったが、その後にハジメの〝大切〟発言で白っちゃんがキスをしたと言うとニヤニヤとする。

 

「はーん、つまり自分がちゃんと大切にされてるってわかった白っちゃんが持ち直したわけね。ごちそうさまです」

「合唱するな。八重樫も優し微笑みを浮かべるな……ったく、〝特別〟ではないって言ってるんだけどな」

「いや、大切って言ってる時点で女の子にとっちゃあ特別扱いそのものじゃね?」

「同感ね」

 

 そんなもんか、とハジメはため息を吐く。

 

「しかし、あのクリオネ以外は簡単な迷宮だったな。まあ、たどり着くまでも、攻略にも魔力がいるところは厄介だったが」

「まあ、本当に見せつけたかったのはあの映像だからなぁ。ミレちゃんとこと似てはいるけど」

 

 そう例えると、ハジメはイヤーな顔をする。うん、俺と違ってミレちゃんの迷宮大嫌いだからね。

 

 その顔に、知識の中にある()()()()()()についてはあえて伏せて、神殿の中の魔法陣に乗って神代魔法を手に入れる。

 

「へぇ、ここは〝再生魔法〟って神代魔法なのね」

「これで不死身度が上がったな」

 

『俺の再生能力に魔法の再生力、カインの習得した回復魔法。お前これ以上死に難くなってどうすんの?』

 

 そのうちマジでデッドプールになるかもな。

 

『第四の壁は越えるなよ、ツッコむの面倒くさいから』

 

 そこ放棄かよ。

 

「ん、なんが出てくるな」

「え?」

 

 一歩下がると、弱まっていた魔法陣の光が強くなり、直方体の祭壇がせり出てくる。

 

 そこに光が集まっていったかと思えば、少しずつ人型になり、やがて白いワンピース姿の海人族の女性になった。

 

 メイル・メルジーネ。オスカーやミレちゃんの仲間であり、神エヒトに抗った神代魔法の使い手だ。

 

 ハジメたちを見ると、もう一回見たらしく側で見守っていた。

 

「……私はメイル・メルジーネ。解放者の一人であり、この迷宮を作った者。ここまでたどり着いたあなた方へ、真実をお話ししましょう」

 

 そこからはまあ、オスカーと全くおんなじようなこと言ってたので総カット。

 

 改めて〝解放者〟本人から聞かされるこの世界の真実に雫は真剣な顔で聞き入り、そして最後の言葉となる。

 

「……どうか、神に縋らないで。頼らないで。与えられる事に慣れないで。掴み取る為に足掻いて。己の意志で決めて、己の足で前へ進んで」

 

 チラリ、と全員の目がこちらに向くのがわかった。

 

 ……己の意思で決めて、己の足で前へ進んで、か。

 

「どんな難題でも、答えは常に貴方の中にある。貴方の中にしかない。神が魅せる甘い答えに惑わされないで。自由な意志のもとにこそ、幸福はある。貴方に、幸福の雨が降り注ぐことを祈っています」

 

 それはまるで、全てが女神に与えられ、作られた俺に対して自由に生きろと、そう言っているようにも聞こえた。

 

 言いたいことを全て言ったメルジーネさんの光の像は、腰掛けて微笑んだまま霧散した。

 

 そして、代わりに現れた魔法陣の光が収まると、そこにはメルジーネの紋章が刻まれたコインが乗っていた。

 

「こいつで終了っと。これで樹海の迷宮にもいけるな」

「ああ、あの開きかけたやつな」

 

 そういやそんなこともあったね。結局ゴッキー星人がいるから断念したやつ。

 

「ありゃ、そういやこの迷宮のホムンクルスは?」

 

 二人分のコインを取りながら聞くと、ハジメは不適に笑って神殿と通路の周りに満ちる海水を指差す。

 

 次の瞬間、パシャリと水面に水飛沫が上がり、デフォルメしたサメのような何かが顔を出した。

 

「ウサギが魔法陣に乗った途端、解放されたみたいでな」

「クルルルルル!」

「あら可愛らしい声。てかホムンクルスって人型だけじゃねえのな」

 

 実は女神ペディア、迷宮の内容までは乗ってるが、魔物とかホムンクルスのことまでは情報がない。

 

 だから人型以外がいることも知らんかった。まあホムンクルスって人造生物って意味だから間違っちゃいないけど。

 

「……んん?」

 

 そういえば、カエルのあの無限とも呼べる食欲……明らかに体積をガン無視した捕食の仕方……

 

 あれっ、もしかしてあいつそうなの?

 

「それで、この子はフィーラーと、互換性があるみたい」

「……はい?」

 

 ある予想を立てていると、サメもどきの頭を撫でたウサギが、とんでもないことを言い始めた。

 

「同じホムンクルスだから、意思疎通ができる。この子は、フィーラーのために作られた」

「へえ、そりゃ面白い。てかわざわざ殺さずに封印してたの、もしかして実は後からどうにかするつもりだった系?」

 

 そう考えれば辻褄が合う。

 

 フィーラーはどんな魔物よりも強力な存在だ。敵に奪われたら一体で世界を蹂躙できるほどの力がある。

 

 そんな危険なものを、わざわざ情だけで残しておくほど〝解放者〟たちも余裕があったはずがない。

 

「つまりこのホムンクルスは、アタッチメントみたいなものなのね」

「で、具体的にどんな技能があるんだ?」

「そこまでは、まだわからないけど……」

 

 ハジメの質問にウサギが答えようとした、その時だった。

 

 突如として周囲の海水の水位が上がり始め、足元が浸水していく。

 

「おっと、どうやら時間切れか!」

「これ、どうなるの!?」

「ハジメなら知ってるぜ!」

「っ、あれか……!」

 

 ハジメがハッとした顔をする。ミレちゃんところで流されたからな。

 

「全員集まれ、結界を張る!」

 

 俺の一声で素早く周りに集まり、今度は離れ離れにならないようにする。

 

 異空間からステッキを取り出し、もう脛の半分くらいまで水に浸かった床に打ち付けると上部を捻った。

 

 エ・リヒトが展開し、球状の結界が展開されたところでガパッと天井が開く。そっから大量の海水が降ってきた。

 

「衝撃に備えろ!かちあげられるぞ!」

「かちあげられるって、どういみゃ──────っ!?」

 

 シアさんがお決まりのようなリアクションをしつつ、足元からウォシュレットよろしく噴水が発射。

 

 激しくエ・リヒトの下部を押したそれは、海水をドバドバぶっかけてくる穴めがけて俺たちを飛ばした。

 

「これが本当のホールインワンってか!」

「その前にぶつかりますぅううう!」

「んむっ」

 

 抱きしめられたウサギの頭がシアさんの巨乳に埋まる。ハジメの目がきらりと光った(嘘です)。

 

「クルルルルル♪」

 

 しかし、そんな心配はいらないと俺たちに言うがごとく、サメもどきが機嫌良さそうに滝登りしていく。

 

 そして天井まで到達した瞬間、先ほどよりも大きく、それこそエ・リヒトごと通れそうな穴が空いた。

 

 振動に耐えることしばらく、海水で真っ暗だった視界が開け、そして俺たちは海中へと投げ出された。

 

「ふいー、荒っぽい終わり方だったな」

「……人は見かけに寄らないのね」

「エチケット袋いるか?」

「平気よ……」

 

 青い顔をしてる雫の背中をさすりながら、周りを見渡す。

 

 で、一瞬で終わった。なぜなら横を振り返った途端、そこに俺たちを覗き込む十の目を見つけたからだ。

 

 ひぅっというシアさんの悲鳴と、おそらくはティオとユエあたりだろう。息を飲む音が後ろから聞こえる。

 

「おうフィーラー、出迎えご苦労さん」

 

 

 オォオオオオオ………………

 

 

 海中においても、全身をビリビリと震わされるような応答の声。

 

 数時間ぶりに見た黒い巨体はゆっくりと動き始め、背負った広場の上に俺たちを乗せる。

 

 効果範囲内に入ったところで、エ・リヒトの魔力を広場の魔法陣と繋げ、行きも使ったドームへと規模を広げた。

 

 ようやく足のつく場所へ移動して、全員安堵の声を漏らす。いきなり発射しまーす!は心臓に悪いよネ。

 

「クルルルル♪」

 

 

 オオォオオオオオ…………

 

 

 とりあえず全員に柑橘系のジュースを差し出していると、サメもどきの声が聞こえる。

 

 ドームの外を見れば、サメもどきはフィーラーの周りを軽快に泳いでいた。フィーラーもどことなく嬉しそうな声で鳴く。

 

「……なんか和むね」

「香織に同感じゃ。心が安らぐのう」

「ん、可愛い」

「なんか、親戚のお兄さんに甘える子供みたいですぅ」

「やっと会えて、喜んでる」

「……あの子、なんて名前にしようかしら」

 

 ほっこりとしてる女性陣。雫はすでに命名を始めようとしていた。

 

『内海とか?』

 

 お前、パンドラタワーでの決戦で使ったフルボトルとかまだ覚えてんの?

 

『一応な。分体の擬態とはいえ、俺のことを倒しただけの力はある』

 

 そんな6人を見守りつつも、ハジメはまだ警戒を解いてはいない。おそらくはこの後の何かを予感しているのだろう。

 

 先に知ってる俺ならともかく、相変わらず素晴らしい危機管理能力だ。そしてそれは当たっている。

 

 

 

 

 

 ズバァアアアアアアッ!!!

 

 

 

 

 

 安心した不意を突くように、頭上からドームめがけて大量の半透明の触手が降り注ぐ。

 

 それはエ・リヒトを破るほどではなかったが、しかし圧倒的物量でフィーラーを揺らすには十分だった。

 

「きゃあっ!?」

「な、何なんですかぁ!?」

「チッ、やっぱり来たか!」

「ハジメご明察。皆さま、頭上をご覧ください。こちらにおりますは……」

 

 俺が指し示せば、全員が引きつった顔でそこにいるものを見上げる。

 

 一見妖精のような姿。しかしてその実態は全てを溶かし、無限に再生し続ける厄介な生物──巨大クリオネがいた。

 

「この迷宮、最後の試練でございます」

「あークソ、やけに簡単だと思ったら……」

「……しつこい」

「……でも来ると思ってた」

「あーもう、今回は楽だと思ったのに酷いですぅ!」

「うわっ、またあれと戦うの……?」

「先ほどよりも大きいぞ!?」

 

 口々に巨大クリオネに対して愚痴る面々。まあ、あいつクソ面倒だもんな。

 

「……シュー。あなたが言っていたのって、こういうことだったのね?」

「そそ。終わりだと思った?残念真打がいました!って寸法さ。ともあれ……」

 

 口で文句を言うのも一瞬のこと、すでに各々戦闘準備を始めている。

 

 隣でドンナー・シュラークを構えたハジメと頷き合い、ステッキをクリオネに向けた。

 

 

 

 

 

「最後の試練、さっさと終わらせてリベルたちのところへ帰ろうか」

 

 

 

 

 




読んでいただき、ありがとうございます。

長くなりすぎたため、オリジナルフォームのお披露目は次回へ。

コメントをいただけると嬉しいです。
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