シュウジ「うす、シュウジだ。もう静の説教はこりごりだぜ」
エボルト「うわやつれた顔。どんだけ叱られたんだよ」
シュウジ「ふひひ……もう正座は勘弁」
ハジメ「自業自得だな。さて、今回は予告していた通りルイネの話だ。それじゃあせーの、」
三人「「「さてさてどうなる王都襲撃編!」」」
「あ"──……」
エリセンの街の桟橋で、頭を抱えて何事かうめいている男がいた。
はい、俺です。とあることで現在進行形でガチめに悩んでおります。
『帰ってきてから一週間、ずっとそんなだな』
あー、もうそんな経ってたかぁ。メルジーネを攻略したのは昨日みたいな感覚だったぜ。
『そりゃ、一日中頭抱えてりゃあっという間だろうよ』
いやほんと、家のスペースにゆとりがあるとはいえ、居候させてくれてるレミアさんには感謝だな。
無論生活費そのものは俺とハジメから出させてもらってるし、家事も手伝ってるが、厚意は非常にありがたい。
おかげで俺たちがメルジーネに行ってる間も、ルイネやリベルたちを……
「あ"あ"あ"あ"あ"………………」
セルフヘッドロック、再び。
『自滅してたら意味ないだろうが。いい加減打開策を考えろ……ルイネとの仲をどう修復するかをな』
……へいへい、わかってますよ。
居候生活ももう一週間、その間ハジメたちの神代魔法の練習やら装備品の充実やら、観光やらを理由に逃げ続けてる。
もはやルイネとは絶縁状態に等しい。顔を合わせるたびに気まずい空気が漂い、口すらきけてない。
あいつを本当に好きだったカインは女神に回収され、残ったのは記憶だけ引き継いだガワの俺だけ。
「いやもうどないせいっちゅーねん……」
「なーに一丁前に悩んでんのよ」
自問自答状態に陥っていると、隣に誰かが座る気配がした。
横を向けば、そこにいるのは我らが恐ろしき幼馴染、ハジメの最初の彼女である美空がいる。
フリルのついた純白の水着を着ており、実はさっきから桟橋のあっち側にいるハジメ達と戯れてた。
「おう、ハジメたちはいいのか?」
「うん、まあね。ちょっと心配事はあるけど……」
心配事? と首をかしげると、美空は顎でハジメたちの方を指す。
そちらに視線を向けると……ハジメの股間の位置から顔を出してるレミアさんとユエたちが目線でバトってた。
「あー、いよいよ本格参戦してきたかー。怪しいとは思ってたけどなあ」
「ったく、本当人の気も知らないで綺麗な女の人ばっかり引っ掛けて……あとで刻む」
「お手柔らかにな。あいつもほら、一応線引きしてるしさ……いつまでもつかわからんけど」
「そこは肯定しろし……はぁ。でもそのうち受け入れるんだろうなぁ。ハジメ、なんだかんだで優しいところは変わってないから」
「だな。シアさんとかもう時間の問題だし」
ジトッとした目で睨んでくる美空。別に俺はティオじゃないのでそんな目線を向けられてもご褒美じゃないです。
『代名詞にしてやるなよ……』
でもまあ、普通に考えてナイーブにもなるよなあ。
全然別の世界に連れてこられたかと思ったら恋人が死にかけて、人が変わったと思えばハーレム作ってるし。
美空は美空で白っちゃんと百合百合してるが、そこの根本的なところは多分、ハジメがいなかった寂しさからだろう。
冷静に考えると奇妙極まりないハジメの女性関係だが、それでもヒステリックにならないあたり美空は強い。
『流石は俺の娘だ』
いやお前じゃなくて惣一さんだけどな。
「愚痴ならいつでも聞くぜ? ついでに悪戯の相談もな」
「……むしろ誰かに相談したいのは、あんたの方じゃないの?」
「……やっぱ側からでもそう見える?」
「最初にそう言ったじゃん」
「そうでしたね」
美空から見ても俺はダメダメだったらしい。ハジメとか、定期的に「最近気になることあるか?」って聞いてくるしな。
あと大食らいのウサギがさりげなくおかず一品分けてくれるのが涙腺にくる。優しさが身に染みるぜ。
「ルイネさんのこと。どーすんの」
「……どうするかなぁ。全然解決策が見つからないんだ、これが」
最近じゃあルイネの苦しそうな顔しか見ていない。俺という存在自体が彼女のことを苦しめてるのだろう。
彼女にとって今の俺は、カインを引っ張り出すための道具。それも既に使い捨てられたものでしかない。
いっそこう思っているかもしれない。俺の方が消えて、カインの残留思念が残っていたら……と。
『そいつはお前の思い込みだ。ルイネのことを意識しすぎて自分を卑下し始めてるぞ』
……わーってるよ。これは単なる悪い冗談だ。
「シュウジはルイネさんと、どうなりたいの?」
「それ、同じ質問をハジメにもされたわ」
意を決して昨晩相談したところ、「お前自身がどう進みたいかだ」と言われた。
それを聞いて、俺は……
「考えてみると、それすらよくわかってない」
「よくわかってないって……」
呆れた顔をする美空。俺自身情けない限りだが、本当にわからないのだ。
「これまではさ、ルイネが俺を信じてくれるのがわかってた。信頼も、愛情も感じられた。でも今はまったくわからない」
「それは……まあ、ああいう態度だし仕方がないんじゃない?」
「いや、そうじゃないんだよ。原因はわかってる……俺が俺だからだ」
「シュウジが、シュウジだから?」
意味を図りかねている顔の美空に頷き、説明をする。
「お前たちは、俺が俺として生きていくことを受け入れてくれたよな。それはなんでだ?」
「なんでって……それが普通でしょ? カインさんの代わりじゃなくて、今のシュウジの人生を生きたいって言ったから、私達はそれを応援しただけだし」
「そう、それが普通だ。本当にありがたいよ……でもな、ルイネだけはそうじゃないんだ」
ハジメと美空は、十七年の間俺と一緒に生きてきた。
雫はカインに関係なく、どうやら俺の中にあるらしい優しさに惹かれ、こうして側にいてくれる。
ユエも、ウサギも、シアさんも、白っちゃんも、多分ティオも同じだ。エボルトはそもそも俺を作った半分だし。
『まあ、俺はあいつの思い通りにいかないよう、カインと程遠い人格を作ろうとしていただけだがな』
おかげで俺という自己を獲得できたんだ、今じゃあありがたいね。
そんな俺の大切な仲間。家族と言ってもいい皆の中で……ルイネは、少しだけ違うのだ。
「美空は、そもそもルイネの出自を知ってるか?」
「聞いたことはないけど……」
「じゃあ、ちょうどいい機会だ。ちょっくら話すとしよう」
そうして俺は、カインの記憶に残ったルイネの生い立ちを美空に話した。
●◯●
「あいつはな、龍の王族の血を受け継いだ竜人だったんだ」
「それってティオさんみたいな?」
「ああ。だが正式な子供ではない、いわゆる平民と王子の一夜の思い出ってやつでな。どこにでもいる普通の女として育ち、ある日突然王として祭り上げられたんだ」
ルイネ以外の後継者が不幸にも流行病で全員死に絶え、奇しくも単なる町娘だったルイネが王となった。
彼女は生来の責任感の強さ、王の素質ともいうべき意思の強さで国をまとめあげた。
誰もが若き名君と彼女を称えた。先王の生き写しの如く、正しくその才を受け継いだ王たる女だと。
が、それじゃあ面白くない奴らがいた。
いわゆる腹黒い連中。王族に成り代り、自分たちが竜人族の支配者として君臨しようと企んだ者たち。
そいつらに裏切られ、国を乗っ取られ、自分の無力を痛感したルイネは追手に怯えながら助けの手を探した。
『まあ、他の後継者を病に見せかけて毒殺したのもそいつらってんだから、救いようがないほどに滑稽だがな』
まったくだ。
「で、ルイネはカインに出会った。そして力をつけ、裏切り者たちを粛清し、ついに国と圧政に苦しむ民を取り戻したのさ」
「またスケールが大きな話だね。こっちにきてからそんな話ばっか聞いてるし」
「そりゃあ異世界だからな、って一言で片付けるのも難しいか……つまりルイネにとってカインは、師匠以上に孤独な自分を救い上げてくれた相手でもあるんだよ」
誰も手を差し伸べてくれず、自分が苦しんでいるのを見て見ぬ振りをする。
そんな中で自分の道を切り拓いてくれた男。力ある者に惹かれ、義に厚い竜人族の女が惚れないはずがない。
『こっちの竜人族と似たような生態でびっくりしたぜ』
案外他の世界でもそうかもな。
「十年だ。ルイネはカインに救われ、想いを伝え続け、ついぞ応えられることがなかった。だから追いかけたのに、家族に騙された挙句、残ったのは
美空たちにはもう、雫に話したことを共有してある。その上で相談に乗ってもらった。
「ルイネさんからしたら、好きな人の記憶を持った別人が、目の前にいるようなものってことか」
「そゆこと。ルイネが心を開き、信頼を寄せるのはあくまでカイン。俺はお呼びじゃないのさ」
信じていた姉妹に利用され、残り物を押し付けられ、おまけにたかが器を作るために世界ごと国も民も滅んだ。
憎いだろう。気持ち悪いだろう。唾棄すべき現実だろう。
裏切られて力を求めたルイネにとって、家族の不義の集大成が目の前にいることは、殺したくなってもおかしくないほどの屈辱だ。
「でも、ルイネは強い。それは
そんな相手にどう接すればいいのかなんて、つい最近自分を見つけたばかりの俺にはわかるはずがない。
カインにはルイネを頼むと言われた。俺の中には、カインから受け継いだもの以外の気持ちがあるはずだとも。
でも俺は、ルイネが求めたカインの代わりにはなれない。そういう風に考えると酷く胸が痛むのだ。
きっとこれは、申し訳なさからくる痛みなんだろうなぁ。
『……………………はぁ。これだから人間は』
なんだよエボルト、なんか文句あるのか?
『いや、別に』
「……たとえそうだとしてもさ。これまでの時間が消えるわけじゃないでしょ?」
「そこは天秤の秤の問題さ。十年の思い出と半年の旅の記憶、どっちが重いかなんてわかりきってるだろ?」
「それは、そうだけど……」
「……っていうのも、結局は言い訳さ。俺は怖いんだよ、ルイネに憎しみのこもった目で見られるのが」
「ちょ、最後に台無しにすんなし……」
どれだけ理由を並べ立てようが、ようは向き合うことから逃げてるだけだ。
俺は強くない。教える資格を持たない。諭すだけの経験がない。真正面からぶつかる為の勇気がない。
「ああクソ、生きるのって難しいなぁ……」
信じるものがないというのは、こんなにも心細いものだったのか。
それでも突き進んでいけるハジメたちが本当に羨ましい。
「……はぁ。ったく、ほんとーに面倒くさい幼馴染みだなぁ」
「うわひっでぇ、普通に心にくるわ」
「でもわかるよ。恐怖って、振り払うのがすごく難しいから。いきなり相手が変わったら怯えるし、どうすればいいのかわかんなくなる」
「だからこそ、現状維持を望んでるんだ。情けないよなー」
足がすくんで動かないとは、まさにこのことだろう。
「とりあえず、さ。一回話してみなよ。そうしないと何も変わらないよ?」
「……ああ、それもわかってる」
俺の気持ちはともかく、現実的な問題としていつまでも厄介になってるわけにもいかない。
昨日の相談の時に聞くと、ハジメはこれまでミュウちゃんの無言の訴えに負けて先延ばしにしていた出立を決意したという。
アンカジにもいかなきゃいけないし、迷宮も後三つも残ってる。当初の目的である地球への帰還と神殺しを為さなくては。
「とりあえず、今日話してみる。ハジメが今晩、ミュウちゃんに出ていくことを伝えるみたいだからな」
「ん、頑張りな。もしうまくいかなくても私たちがいるから」
「おう、サンキューな」
にししと笑う美空に、心底救われた気持ちになった。
人に相談するとこんなに楽になるということを、初めて知った。これまで一人で気張りすぎだったかな。
『人の最大の特徴は協力することだ。ようやく人間らしくなってきたな』
幸い、周りに助けられてるよ。
とりあえずハジメの方のキャットファイトが終わるまで美空と雑談をし、ひと段落ついたところで家に帰る。
お留守番していたリベルのおかえりタックルを受け止め、女性陣が風呂に入っている間に子供組と遊び。
日が落ち始めた頃には夕食に海鮮料理を堪能し、とりあえずここ数日と同じように過ごした。
食事を終えてひと段落したところで、隣にいるハジメと美空にアイコンタクトを飛ばす。
「(じゃ、行ってくるわ)」
「(ファイトだよ!)」
「(最悪、骨は拾ってやるよ)」
不敵に笑うハジメの脇腹を軽く小突き、席を立ってキッチンに行く。
「………………」
そこではやはり、すぐれない表情で皿を洗っているルイネがいた。
『ここが正念場だ。ヘマこくんじゃねえぞ』
わかってらぁ。
「…………んっ、んんっ! ルイネ、ちょっといいか?」
「っ!?」
ビクンッ! と勢いよく両肩が跳ね、手に持っていた皿がポーンと宙を舞う。
慌ててそれをキャッチして、&の息を吐いた。あーびっくり、心臓飛び跳ねたわ。
「マス……いや、北野殿。何か用か」
狼狽たのは一瞬、すぐに視線を下に落として、ルイネは淡々と言う。
その呼び方にチクリと痛みを感じながら、それでもめげずに話しかけた。
「少し話がしたい。ちょっと外に出ないか?」
「悪いが、今忙しい。後にしてくれ」
「ルイネ」
一歩近づき、ルイネの方に手を置く。
途端にバッと勢いよく振り払われた。いくらなんでもそこまで拒絶されると思わずにポカンとする。
ルイネ自身も無意識だったようで、「あ……」と呟くと気まずそうにその手で自分の体を抱いた。
「…………その、すまない」
「……いや、俺もいきなり悪かった。でも大事な話なんだ、少しでいいから聞いてくれねえか?」
「それは、ここではできない話なのか?」
「……ああ」
ルイネは軽く息を呑み、それからしばらくの間視線を右往左往させて。
やがて、諦めたようにふっと息を吐いた。
「……わかった。聞こう」
どうやら、なんとか取り付けることには成功したようだ。
●◯●
レミアさんたちに一言断り、二人で昼間にいた桟橋に行く。
エボルトにも抜けてもらった。ここからは誰の助けも借りず、俺自身が話すしかない。
移動をする間、全く会話はなかった。前ならなんてないことでも盛り上がってたんだけどなぁ……
「……ここまで来ればいいだろう」
などと考えていたら、前を歩いていたルイネが立ち止まった。
俺も足を止めると、振り返ったルイネは、やはり目線を合わせずにこちらの様子を伺ってくる。
「それで、話とはなんだ?」
「……単刀直入に聞く。お前は、これからどうしたい?」
「っ……どう、とは。要領を得ない質問だな」
「言い方が端的すぎたな。お前はこれからも、俺たちと一緒に旅をしてくれるか?」
ぴくり、と肩が震える。その仕草だけでルイネもまた、同じように悩んでいたのだと改めて認識した。
押し黙ったままのルイネに、俺はなんとか話をしようと五つの並列思考全てで言葉を組み立てて紡ぐ。
「俺なりに考えて、お前が俺のことを受け入れられないのはわかってるつもりだ。憎まれたって仕方がないことも」
「………………」
「信じていた相手から裏切られることは、ルイネにとって何より辛いことだ。俺もある意味その片棒を担いでる。本当ならこうして言葉を交わすことすら苦痛かもしれない」
「…………それで?」
「だから、はっきりさせときたいんだ。もし、まだ少しでも俺に情があるのなら、俺は全力でお前の信頼を取り戻したいと思う。大切な仲間だからな」
選択肢は、二つに一つ。
ルイネにあらん限りの罵倒を受けて拒絶されるか、もう一度俺を受け入れてもらうチャンスを貰うか。
その確率は五分五分……などと希望的観測はしない。せいぜい8:2がいいところだろう。もっと少ないかも。
「……全て、お見通しなんだな。さすがはマスターの記憶を引き継いでいるだけのことはある」
わずかな希望を信じて答えを持てば、帰ってきたのは何かを嘲笑うような一言だった。
「貴方の言う通りだ。私は、私たちの信用を裏切ったマリスが許せない。その結果生まれた貴方のことも……言いようがない負の感情を抱いている」
「っ……」
改めて面と向かって言われると、めちゃくちゃ辛い。
まるで心臓に直接杭を打ち込まれたようなショックが俺の中に広がる。こんなにも辛いものか、拒まれるのは。
「この二週間、何度も自分を納得させようとした。でも、貴方を見ているほどに思い出すんだ。あの人との思い出を、この胸に未だにくすぶる想いを」
下唇を噛み締め、先ほどよりもずっと強く、震える右手で自分の体を抱いている。
俺を攻め立てることを堪えているのか、それとも自分に怒っているのか。それも今の俺にはわからない。
立ち尽くす俺の前で、これまで溜め込んでいたものを吐き出すように、ルイネは大声で独白する。
「あの人の声が、瞳が、言葉が、手の温もりが! 私を蝕んで離さない! 貴方を貴方と認めさせない!」
「ッ!!」
「ひどい責任転嫁だ、わかっている! それでも、抑えられないんだ! この手を解けば、今にも貴方を殺してしまいそうで……!」
ギリッと、ここからでも聞こえるほどに力んだ手は服に食い込み、右手の袖からはポタポタと血が滴っている。
肌には赤い鱗が浮かび上がり、何よりも始めて上げられた顔に伝う、怒りと悲しさが同居した瞳から溢れる涙に。
どれほど彼女が……誰よりカインを愛した女が心を抑え込んでいるのかを初めて知った。
「もう、限界だ……駄目なんだよ」
「それって……」
そして、ルイネは。
「私は、貴方を受け入れられない」
決定的なその一言を、言った。
「……はっ、はは。そう、だよな」
希望は所詮、希望だ。希に叶う望みだからこそ、それは奇跡と同じ意味を持つ。
それでもどこか浮かれてたんだろう。ここ最近奇跡ばかりが起きたから、もしかしたらもう一度、と。
その儚い欲望は、今この瞬間完全に叩き壊された。
「だから、ここで旅を抜ける。私はもう貴方についていけない。この感情を吞み下すには……私はあまりに弱すぎる」
「そんなことっ……!」
言い募ろうと口を開いた俺の前から、もう話すことはないとでも言うようにルイネは立ち去っていく。
そして、一歩も動けない俺の隣で立ち止まって、最後に俺にしか聞こえない、とても小さな声で。
「すまない、こんな醜い女で。これからの貴方の人生に、幸福があるよう祈っているよ……
決別の言葉を最後に、立ち去ってしまった。
「……………………………………………………」
しばし、俺はその場で立ち尽くした。
頭の中には疑問ばかりが飛び交っている。なぜ? どうして? そんな言葉ばかりで、他には何もない。
数分だったかもしれないし、一時間くらいは経っていたかもしれない。時間の概念すら消えていた。
「シュウジ」
ただ、少なくとも肩に誰かの手が置かれるまで茫然自失としていたのは間違いない。
「ハジ、メ……?」
「……うまく、いかなかったみたいだな」
振り返れば、そこにいたのはハジメ。
なんとも言えない顔で、俺を気遣うように見ている。
「……頭の、中に……ずっと同じことが浮かんでくるんだ……〝カインなら、もっと上手くやれた〟……って」
「……そうか」
「俺は、何も言えなかった……わかってたのに……それでも、どうすればいいのか、何も……」
「……そうか」
ハジメは、何も言わない。聞いてこない。同情も、慰めの言葉もなく、ただそうかとだけ言ってくれる。
それになんだか迷子になったような、そんな一度も抱いたことのない気持ちになってしまう。
「はは……やっぱり、俺は空っぽだ……これまでずっと、カインに頼ってきたから……一人じゃ、何もできねえ」
「……そうだな。でもそれが人間だ」
「そっか……なら、人間って難しいなぁ」
そう言って、無理矢理に笑う。
その瞬間、俺は引き寄せられ、ハジメの肩に顔を埋めていた。
「……俺、そういう趣味ねえんですけど」
「無理にふざけんな……こんな時くらい泣けよ」
「……いいのかな…………泣いても」
「いいだろ。だってお前は……フられたんだから」
……ああ、そうか。
俺は、フられたのか。
「……すまん、肩、借りるわ」
「おう、大いに借りろ。そんで吐き出せ」
「う、ぁ、ああああ……………………!」
そして俺は、恥も外聞もなく大声で泣いた。
その間、ハジメはずっと俺の背中をさすってくれていたのだった。
「…………パパ、ママ」
シュウジ、勇者同様に人生の難しさを知る。
同じ記憶を持つからといって、だからそれでいいやと割り切れるほどルイネは薄情ではありませんでした。
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