なんかよくわからないことになってるので自分で認識しておくためにも言っておきますが、シュウジはカインが目覚めるための器であり、その器が自分こそがカインだとずっと思い込んでいた、ということです。
シュウジ「どうも……シュウジだ……」
エボルト「わかりやすいくらい凹んでるな。まあ初の失……おっと」
ハジメ「まあ、今はそっとしといてやれ……今回はアンカジの話だ。それじゃあせーの、」
二人「「さてさてどうなる王都襲撃編!」」
シュウジ「どうなる……どうでもいいや…へっ」
二人「「……揃わねえ」」
ミュウに別れを告げ、またいつか迎えに来ることを約束してから1日と半日。
俺たちは再び砂漠へ戻り、アンカジを目指して走っているのだが……
「……………………はぁ」
「「「「「「「…………」」」」」」」
「……………………はぁ」
……後部座席のど真ん中、そこで三分に一回の頻度で、それはそれは大きな溜め息を吐いている男。
俺の親友、北野シュウジ。いつもふざけるか、余裕のある姿で俺たちを安心させてくれる男。
しかし、その姿はもはや見る影もない。
以前と同じアロハな服装に反し、溜め息を吐くだけの全く陽気じゃない存在に成り果てていた。
「し、シュー?」
「…………ん、おう雫。どうした?」
「……いいえ、なんでもないわ」
「そうか………………はぁ」
…………空気重ッ!!!
シュウジがずっとあんな感じのせいで、昨日からこの有様である。はっきり言って居心地が悪すぎる。
それは俺だけではなく、八重樫は複雑そうな顔だし、隣にいるユエとウサギは珍しく無表情が崩れて気まずそうにしている。
香織とシアはなんとか声をかけようと試みているものの尽く失敗し、ティオも変態の鳴りを潜めて難しい顔をしていた。
全員が全員、最悪のモチベーション。かといってあまりの落ち込みぶりに下手に発破もかけられない。
原因は……まあ、今更確かめるまでもなくルイネとの離別だろう。
後から落ち着いたシュウジに話を聞くと、それは酷い振られ方をしたらしい。話してる時の目がマジだった。
本人は「少しでも信じようと思ってもらえなかった俺の落ち度だよ。戦力的にも痛手だ。すまん」なんで言ってた。
だが、あれはどう見ても……
「……………………はぁ」
(((((((絶対惚れてたよなぁ……)))))))
何故かユエたち全員と心境がシンクロした気がした。
シュウジの八重樫への愛は本物だ。地球にいた頃から長い間見てきたから、その想いの強さはよく知ってる。
だからこそわかってしまったのだ。
あいつは……北野シュウジは、これまで旅の中で心底ルイネ・ブラディアに惚れていたと。
あいつの愛情深さを知っている故に、八重樫と同じほどにルイネに想いを寄せていたことを俺たちは悟った。
本人はあくまでカインの感情を引き継いでいるだけ、と思っているが、あいつ自身が惚れてたに違いない。
普段ならわかるはずもないあいつの本心、だが憎んでいると言っていいほど嫌われたせいか、今はモロに出ている。
「一難去ってまた一難、ってのはこのことか……」
「…………ハジメ、何か言ったか?」
「いや、なんでも。それよりあと少しでアンカジにつくからな」
「おう……………………はぁ」
…………どうすんだこれ。
「……リベルがいれば」
「ユエ、それ禁句」
「シッ、今のあいつは地獄耳だから言うな」
「あ……」
「リベル…………はぁ」
案の定こちらの会話を拾われて、さらに頭の位置が下がるシュウジ。
実は、リベルは両親の異常を察知してこっそり盗み聞きしていたらしい。そしてルイネの元へ残った。
幸いエリセンにも冒険者ギルドがあったので、そこで生活費を稼いで二人で暮らすというが……リベルがいないのはキツい。
あいつはシュウジの精神安定剤でもあったのだが、こうしていない今、無邪気に励ましてくれる奴がいないのだ。
「ゲコッ」
一応カエルは付いてきているが……だからといってどうにもならない。
「……とりあえず、目先の問題」
「……だな」
解決策が見つからない以上、シュウジのことは一旦置いておくしかない。
とりあえず、なるべく迂闊な発言をしないように運転を続けることしばらく、アンカジの入場門が見えてきた。
「随分と混雑してるな。隊商か?」
「大規模ね」
「物資を運び込んでるんじゃないかな?」
〝遠見〟の技能を使うと、確かに香織たちの言う通り食料やら衣類、医療品の運び込みをしているようだ。
まあ、これだけ時間が経ってれば王国に救援要請を出すだろうし、その連中だろう。あとはそれに便乗した商人か。
オアシスはシュウジがなんとかしたので、主にすでにダメになった食材とか……ん?
「なんか見覚えのある奴らがいるな」
「え、本当?」
「クラスメイトの誰かとかかな?」
「いや、多分香織と八重樫は知らないと思うぞ」
首をかしげる二人に、とりあえずスピードを上げて順番待ちしてる隊商に突っ込んだ。
案外俺も暑さとシュウジのアレで頭にきていたらしく、順番待ちなどすっ飛ばして直接門の前に乗り付ける。
外に出ると、案の定周りの奴らにギョッとした顔で見られた。こっちの世界じゃ車ってパッと見魔物っぽいからな。
続けて降りてきたユエたちに見惚れ、シュウジの死人のような雰囲気にドン引きし、最後に宝物庫に消えた車に驚く。
「ああ、やはり使徒様がたでしたか。お帰りになられたのですね」
入場門の方へ目線を移すと、武器も持たずに笑顔で兵士が近づいてきた。見覚えのある顔だ。
他の兵士たちも、病人たちの救世主である香織と美空、ついでにシアのことを見てホッとしたような顔になる。
「その、お連れ様の一人のお顔色が優れませんが……」
「ああ、あいつは気にしないでくれ。絶賛思春期の悩みと対面中だ」
「は、はあ……?」
混乱しつつも、俺がその後の国の様子を見にきたことを伝えると、兵士たちは快く案内を申し出てくれた。
あちらとしては救国の英雄扱いのようで、多大な尊敬のこもった目に若干苦笑いをしなら待合室へ案内してもらおうとした。
「はいはい、ちょっと通してな」
「すんません、通してくだはれ」
と、そこで後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
振り返れば、人混みをかき分けて二人の男女が歩み出てくる。どちらも似た顔をした、軍服を着た二人組だ。
それは先ほど、〝遠見〟で見た二人だった。そして……
「確か、ソウとハクだったか?」
「おっ、ちゃんと覚えてくれとったか。そうそう、俺がハクで」
「うちがソウや。兎さんもお久しぶりー」
「はい、お久しぶりです!」
手を取り合ってきゃっきゃとはしゃぐソウとシア。相変わらず女子の交友関係の構築は謎だ。
「で、お前らは王国の隊商の護衛か?」
「ピンポン!大正解や。ついでにアンカジの観光にきたんやけど……なんや、あの人随分と落ち込んどるな」
「あー……まあ色々あってな」
そりゃ凄い、と顎をさするハクに、確かにあれが落ち込む事態ってのがそうそうないことを再認識する。
「ほんじゃ、またな。今は挨拶しにきただけやし」
「おう、じゃあな」
「ほれソウ、行くで」
「あーん、兄様のせっかち。じゃあ兎さん、恋バナはまた今度♪」
「はい、また今度ですぅ!」
ハクに手を引かれていくソウに、ブンブンと笑顔で手を振るシア。
「……なんであんな仲がいいんだ?」
「ん、割と謎」
「恋する乙女の結束?」
「あれ、暑くないのかしら……」
「あはは、砂漠で軍服を着てる人を見るとは思わなかったよ……」
「熱耐久プレイ……んんっ」
「ゲコッ」
「………………はぁ」
人混みの中に消えていく軍服兄妹に、やっぱり奇妙な風に感じて俺は首を傾げたのだった。
●◯●
待合室で待機することしばらく、ランズィ領主が息を切らせてやってきた。
「久しい……というほどでもないな。ティオ殿にルイネ殿と〝静因石〟を託した後、どうなったかと気を揉んだぞ」
「おいおい、多少手助けしたとはいえ俺たちは単なる一介の冒険者だぞ。そこまで心配することか?」
「何を言う。貴殿はすでにこの国の救世主、無碍な扱いなどできるはずもないよ。礼の一つもしないで死なれては困る」
「見ての通り、全員ピンピンしてるよ」
「うむ、見たところそのようだな……」
俺たちの顔を見渡し、ほっと安堵したように笑うランズィ。相変わらず息子と同じで人がいいな。
なお、全員と言って首を傾げられなかったのはシュウジを八重樫に任せ、別室に置いてきたからである。
余計な気遣いをされないためだが、あちらも既に聞いているのか、特に疑問の言葉はなかった。
「で、どうやらアンカジはまだ回せているようだな」
「ああ、備蓄していた食料とルイネ殿とユエ殿の作ってくれたタンクのおかげで、どうにか国の救援を受けるまで耐えられた。民も飢えさせないですんでいる。重ね重ね、感謝する」
「頭を下げる必要はない。それよりも……」
それからランズィと、色々と話をした。
バチェラム(スライム)が消えた後のオアシスの様子や、香織たちが治療した病人の経過などなど。
聞いたところによると、オアシスはじっくりと長い時間をかけた調査の末、完全に浄化。病人も回復したらしい。
もしまだ浄化が必要なら、うちの治癒師コンビに再生魔法の〝絶象〟を使ってもらおうと思ってたが、杞憂に終わった。
再生魔法、習得したはいいが相変わらず俺とシアは適性が絶無なんだよなぁ。
もっとも、シアはオートリジェネみたいな能力を獲得したので、一応得るものはあった。そろそろ本格的にバグってきたなあいつ。
香織と美空の次にティオ、ウサギ、ユエ、八重樫、シア、俺、といった順だ。八重樫は魔法は性に合わないらしい。
「とはいえ、やはり食料事情は厳しいと言わざるを得ない。土地が完全に浄化されたわけではないし、援助や商人たちから買い付けるにも限りがある」
「備蓄はもう残ってないのか?」
「一応あるにはあるが、収穫した時期的に不安が残る作物でな……」
ああ、つまりオアシスが汚染されていた前後あたりの収穫物か。そりゃ心配にもなる。
どうやら使う必要はないと思っていたが、まだアテはありそうだ。
「時間も人でも惜しいし、処分する手間を考えて、一か所にまとめるだけで放置して…………待て。まさか」
「そのまさかだ。今の俺たちになら、その作物を安全にできるかもしれない」
一通り実験した結果、再生魔法は大抵のものに効力を発揮することがわかっている。流石に死人は蘇らないが。
汚染された土地と作物くらいならば、香織と美空、ユエ、ティオの四人でかかればそう時間も要らずに浄化できるだろう。
「……本当に、本当に貴殿らには感謝の念が絶えない。オアシスばかりか、作物までどうにかしてくれるとは……」
俺が断る前に、胸に手を当てて深く頭を下げるランズィ。それは国を思う気持ちがそのまま現れたような態度だった。
以前よりも痩せていることからも察していたが、本当に国思いの人だ。こういうやつばかりだといいんだがな……
「では早速向かおう。農地地帯に案内する」
「ああ、頼む」
ランズィと、その他に数人の兵士と農業者を連れて席を立つ。
今のシュウジがろくに動けるとは思えないので、携帯から八重樫に事情を伝えて待機してもらった。
そして建物を出た瞬間、事件は起きた。
「む? あれは……」
ランズィの呟きに、前方へ目をやる。
すると不穏な気配を纏った連中が、なにやら殺気立った雰囲気を纏いながらこちらへやってくるのが見えた。
〝遠見〟で確認してみれば、アンカジの兵士ではない。どうやらこの町の聖教教会関係者と神殿騎士の集団のようだ。
隊列を守りながら傍までやって来た奴さんらは、俺たちを半円状に包囲する。
そして、神殿騎士達の合間から白い豪奢な法衣を来た、いかにもな感じの初老の男が進み出てきた。
「なんだお前は?」
「フン、異端者め。口の利き方もわからんか」
明らかに見下した態度だな。それに異端者……ああ、そういうことか。
ある仮説を立てて納得していると、ランズィが俺とジジイの間に割り込んでくる。
「フォルビン司教、これは一体何事か」
「ゼンゲン公……こちらへ。彼等は危険だ」
「彼等が危険?二度に渡り、我が公国を救った英雄ですぞ?彼等への無礼はアンカジの領主として見逃せませんな」
フォルビン司教と呼ばれたジジイは、馬鹿にするようにランズィの言葉を鼻で笑った。
「英雄?言葉を慎みたまえ。彼等は既に異端者認定を受けている。不用意な言葉は、貴公自身の首を絞めることになりますぞ」
それを聞いた瞬間、ランズィたちが息を呑み、道にいたアンカジの国民がざわめいた。
「異端者認定……だと?馬鹿な、私は何も聞いていない」
「当然でしょうな。今朝方、届いたばかりの知らせだ。このタイミングで異端者の方からやって来るとは……クク、何とも絶妙なタイミングだと思わんかね? きっと、神が私に告げておられるのだ。神敵を滅ぼせとな……これで私も中央に……」
ありえないという顔で驚くランズィに、怪しげな表情で蕩々と語るジジイ。
しかも最後の小言……ここまでテンプレな物臭聖職者がいるとは。シュウジじゃないが笑いそうになった。
しかしまあ、この展開は予想の範囲内だ。
あれほどの派手な力を見せつけ、今も着々と力つけている俺たちをエヒト、そしてその傀儡である教会が見過ごすはずがない。
《七罪の獣》……八重樫によるとそう言うらしい……なんて奴らまで介入してきたんだ、むしろ遅いくらいだった。
「で、どうする?アンカジ公国の領主様?」
「むぅ……」
肩を含めて視線をやれば、ランズィは色々と複雑な心境の見え隠れする表情で唸った。
難しい顔で黙るランズィに、調子に乗った様子のジジイはニヤニヤと嗤いながら俺たちを差し出せと要求した。
「さぁさぁ、ゼンゲン公よ、そこを退くのだ。よもや我ら教会と事を構える気ではないだろう?」
「……あの髭、毟り取る」
隣からウサギの物騒な呟きが聞こえた。ポキッという指を鳴らす音から、殴りかかるまで秒読みだろう。
この世界最大の宗教である聖教教会の敵対、それは少なからず国の滅亡を意味する。
そのデメリットを背負ってまで俺たちを守るか、それとも恩を仇で返すか。まあその場合はどっちも滅ぼすが。
さて。一体どうなる?
●◯●
「断る」
簡潔に事実を述べれば、ランズィは一言でバッサリとジジイの主張を切り捨てた。
毅然とした横顔は領主の名に相応しく、年相応の威厳と威圧感を持っている。それこそジジイの髭面など目じゃないくらいに。
その件のジジイは、拒否など微塵も考えていなかったのか、間抜けな顔を晒していた。
「公……今、なんと言った?」
「断ると言った。彼等は救国の英雄。たとえ聖教教会だろうと、ハイリヒ王国だろうと、彼等に仇なすことは私が許さん」
「なっ、なっ、き、貴様!正気か!」
「ああ、正気だとも」
そしてランズィは、あくまで冷静に、淡々と語った。
俺たちは滅亡の危機に瀕したこの国を救い、ついでに勇者(笑)の一件や、ウルの町の襲撃。それらを全て解決した。
多大な恩がある俺たちを売り渡すなど、決して許さないと。自らの名前にかけて、この異端者認定に意義と再考を申し立てると。
「それとも、聖教教会の神は救国の英雄に恩を仇で返せと、そのように教えを説いているのだったか?そうであるのなら、どうやら教会と我らが信仰している神は違うようだ」
「だ、黙れ!決定事項だ!これは神のご意志だ!逆らうことは許されん!公よ、これ以上、その異端者を庇うのであれば、貴様も、いやアンカジそのものを異端認定することになるぞ!それでもよいのかっ!」
何やら唾を飛ばしながら捲し立てているジジイだが、それは出世の機会を失いそうになって喚いているようにしか見えなかった。
なんというか、違う世界でも人間って変わらないんだなぁ……
「おい、いいのか?国と教会を敵に回すことになるぞ?」
とはいえ、一応配慮してランズィに聞くと……ランズィどころか、後ろの部下たちまで不敵に笑った。
その目には「殺ったるでぇ!」と書かれている。トップが勇敢なら、部下もその気風に流される、か。
しかし、そうであるならばアンカジは守る価値がある。ここまで清々しい連中を見捨てるほど薄情じゃない。
「公よ、この国がどうなっても──」
「ちょいと待ちいや!」
とりあえずこいつに一言言ってやろうと口を開いた瞬間、また覚えのある声が聞こえた。
全員がそちらを振り返ると、野次馬たちが間を縫うようにこちらにやってくる何かに横にずれていく。
妙にデジャヴを感じる光景だ。まさか……
「はいはい、失礼しますよー」
「通してなー」
野次馬をかき分けて現れたのは──なんと、あの軍服兄妹だった。
「なっ、貴様らは……!」
軍服兄妹が現れた瞬間、サッとジジイの顔が真っ青になる。なんだ、何かまずいことでもあるのか?
渦中に飛び込んできた軍服兄妹は、俺たちに揃ってウインクすると、こちらに歩み寄ってくる。
「やあやあ、こんには司教さん」
「お機嫌はいかがですかぁ?」
「な、なぜ、貴様らがここに……」
何故か身体を震わせ、怯えているジジイにニッコリと笑い、かと思えば兄妹はバッと野次馬に振り返ると声高にスピーチし始める。
「アンカジの皆さん!ここにいる兄ちゃんらはこの国に蔓延していた病を治し、オアシスを浄化し、安全な水と食力を与えてくれました!」
「なのに、教会はそんな彼らを異端とし、今、この場所で殺そうとしている!これをどう思います!?」
「いやー、ほんまおかしいですわぁ!人命を救った人が、その人間を生み出した神の意思のもとに断罪される!おかしな理論もあったもんやわ!」
「現に領主様は真っ向から教会と対立することを選んだで!あんたらはどうする!?」
「ウチらは他所もんですが、皆さんが恩を仇で返すような、非人道的な方々でないことを願いますわ!」
滔々と、国中に響くような大声でアンカジの国民に語りかける兄妹。
そのことばに、あるものは驚き、あるものは訝しみ、あるものはこちらを見てユエたちに見惚れ、皆様々な反応をする。
明らかに劣勢にもかかわらず、ジジイは何も言えずに立ち尽くしているし、神殿騎士たちは困惑し。
ヒュ──カンッ!
やがて、硬いものに何かがぶつけられる音が聞こえた。
確かめれば、そこには神殿騎士の鎧にあたり、地面に落ちる小石が。騎士は訳がわからないという顔をしている。
そして、腕を振りかぶった男が一人。それを見て、ジジイはいよいよ珍獣でも見るような顔に変わった。
「貴様、神聖なる神殿騎士に──!」
「うるせえ!この恥知らずが!」
「っ!?」
怒りの表情を浮かべた男の子反撃を受け、息を飲むジジイ。
気がつけば、大勢の国民がこの場に集まっていた。あの二人の演説で集まってきたのだろう、皆ジジイと騎士たちを睨んでいる。
「我が愛すべき公国民達よ。聞け!彼等は我らのオアシスを浄化してくれたばかりか、作物や大地まで元に戻してくれるという!我らがアンカジを取り戻してくれたのだ!この場で多くは語れん。故に、己の心で判断せよ! 救国の英雄を、このまま殺させるか、守るか……私は、守ることにした!」
そんな国民たちに、ランズィが一歩歩み出てそう叫んだ。
途端にジジイが調子づき、嘲笑を顔に浮かべる。
「そんな言葉で──」
「ふざけるな!俺達の恩人を殺らせるかよ!」
「教会は何もしてくれなかったじゃない!なのに、助けてくれた使徒様を害そうなんて正気じゃないわ!」
「何が異端者だ!お前らの方がよほど異端者だろうが!」
「きっと、異端者認定なんて何かの間違いよ!」
「香織様を守れ!」
「領主様に続け!」
「香織様、貴女にこの身を捧げますぅ!」
「おい、誰かビィズ会長を呼べ!〝香織様にご奉仕し隊〟を出してもらうんだ!」
「なぁっ!?」
カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ!
そして、皆一様に騎士たちに向かって石を投げ出した。
ジジイは「やめよ!やめよと言っている!」と叫んでいるが、激昂したアンカジの民たちは止まらない。
神殿騎士たちはジジイほど攻撃的ではないようで、か弱い一般市民には手を出せないのか、頭を庇うだけだ。
改めて、この国に心からの感服を抱いた。義を尊ぶことは大切だが、まさかここまでの一体感を持っていたとは……
「いやぁ、壮観ですわぁ」
「これが人の心ってもんやな♪」
「ソウさん、ありがとうございますぅ!」
「ええてええて、こーんな可愛らしい兎さんが死ぬなんて、うち耐えられへんもん」
「えへへぇ〜、そんな可憐な美少女なんてぇ〜」
シアがデレデレしてソウに抱きついていた。あいつ相変わらずチョロいな。
しかし、余計な争いをせずに助かった。別に神殿騎士が百人いようが意味はないが、無駄なことはしたくない。
その礼と、改めての確認をしようとランズィへ踏み出して──
「──おい」
──ゾッと、心臓が止まるような寒気を覚えた。
俺たちも、ランズィたちも、軍服兄妹も、ジジイや神殿騎士も、石を投げていたアンカジの民でさえ動きを止める。
まるで、直接心臓を掴まれているような感覚。一歩でも動けばその場で首を落とされそうな、絶対的な殺意。
ありえざるほど濃厚なそれに、なんとか首を捻ってそちらを見ると──いつの間にか、俺たちの後ろにシュウジがいた。
「しゅ、シュウ、ジ?」
「お前らさ…………人がこれ以上ないってくらい悩んでるってのにさ……どいつもこいつもギャーギャーギャーギャーギャーギャーギャーギャーギャーと………………」
ゆらり、ゆらり、と俺たちの間を通り抜けたシュウジは、突然グンッと顔をあげ。
「うるっっっっっせえんだよ、バァァァァァァァァァァァァァアカ!!!!!!!」
「ぶべらぁっ!?」
ジジイに走り寄って、それはそれは綺麗なストレートをぶち込んだのだった──。
やさぐれシュウジ。
ブロスを登場させたのは、オアシスを浄化する下りがないから代わりに説明人として出しました。
コメントをもらえると嬉しいゼ。