星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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どうも、後半からはビルド要素を増やしていきたい作者です。
真実 後編 をところどころ書き直しています。なんかしっくりこないので。

エボルト「おう、エボルトだ。前回はアンカジに立ち寄って、それからシュウジがキレたな」

ハジメ「まあ、悩み事してる時に近くで騒がれるとイラっとするよな」

雫「最初は宥めてたんだけど、瞬間移動で消えちゃって…」

香織「雫ちゃん、お疲れ様……今回はアンカジからの道中の話だよ。それじゃあせーの、」


四人「「「「さてさてどうなる王都襲撃編!」」」」


王族って外に出ると必ず襲われる運命なんだろうか

 アンカジで数日滞在し、そしてハルツィナ樹海へ向かいがてらフューレンへ向かう道すがら。

 

 

 

「「「「「「「「「………………」」」」」」」」」

 

 

 

 車内はまたも、沈黙に包まれていた。

 

 その発生源はやはり、助手席に座るシュウジから溢れ出る謎の威圧感。

 

 憮然とした表情で腕を組み、瞑目する様は、表情を差し置いても見栄えがいい。

 

 だが、いつもの衣装に戻っているためか紫色のカラーリングが余計にその威圧感を助長していた。

 

〝……南雲くん、何か話しかけてあげて頂戴〟

〝……無理だ八重樫。くだらん会話すらできそうにない。というかお前が俺に頼る時点で誰も話しかけられない〟

〝それもそうよね……〟

 

 はぁ、という小さなため息が後ろから聞こえた。

 

〝……シア、何か喋って〟

〝ちょっ、無茶振りしないでくださいよユエさん!今のシュウジさんに話しかけるとか、皆さんに出会った頃の私がミレディのゴーレム倒すくらい無茶振りですぅ!〟

〝でも、こういう時こそ頼れる相棒〟

〝ウサギさんもこういう時だけ頼らないでくださいっ!〟

〝ハジメくんもさっき言ってたけど、雫ちゃんが話しかけられない時点で無理じゃないかなぁ……〟

〝だよね。ていうか、あんなシュウジ初めて見た……〟

〝ふむ、困ったものだのう……〟

 

 無音の車内の中、頭の中で繰り広げられる「どうやってシュウジと話すか相談会」のような何か。

 

 こんな会話を口でするわけにもいかないので、〝念話〟を付与したイヤリングを渡しておいて良かった。

 

 あーくそ、なんでこうなった……前よりもさらに胃が痛い。

 

 そもそもの起因は、アンカジで絡んできた司教と神殿騎士百人をボコボコにした後、シュウジの中で()()が切れたことだ。

 

 相当鬱憤を溜め込んでいたらしく、司教と騎士を顔の原型がなくなるくらい殴ってから全裸で吊し上げていた。

 

 エボルトに聞いたら後で色々処理したらしいが、詳しくは知らない。

 

 しかし完全に吹っ切れてしまったのか、ため息の代わりにだんまりを決め込む時間が多くなった。

 

 とはいえ不機嫌なわけではなく、話しかければ答えるし、これといって俺たちに害はない。

 

 

 

 ただ……こう、圧がすごい。

 

 

 

 何かを考えているようにも見え、あるいは抑えているようにも見える。

 

 ぶっちゃけ何考えてるのかわからなくて怖い。読心能力が欲しいと人生で初めて思った瞬間だった。

 

 ちなみに民衆の支持に一役買ってくれた軍服兄妹だが、やることがあるようでアンカジに残っていた。

 

「あれ?」

 

 さてどうしようかと頭を悩ませていると、シアが声を上げる。

 

「どうした?」

「いや、あそこ……なにか襲われてません?」

 

 現実逃避気味に窓の外に向けていた視線を前に戻すと……よそ見運転なんて知らない……なるほど、確かに隊商が襲われている。

 

 いつものように〝遠見〟を使って見ると、いかにもな小汚い格好の盗賊どもに、その半分以下の人数で隊商は応戦している。

 

 特に耳のいい兎二人には悲鳴や盗賊の怒号まで聞こえているのか、さっきまでの気まずい雰囲気は何処へやら、前へ乗り出してくる。

 

「あの人数差でよく拮抗してるな」

「ん、なかなかの結界」

「まるで城壁ね。でも、あんまり長くはもたないと思うけど……」

「うむ、あれほどの代物、魔力の消費もバカにならんじゃろうて」

「……ああ、だから結界が消えるのを待ってる」

 

 不意に声をあげたシュウジに、ビクッと俺を含めた全員の方が跳ねた。

 

 恐る恐る、妙に揃った動きで助手席を見ると……シュウジは鋭い視線で隊商と盗賊たちを見ている。

 

 その横顔はまるで抜き身のナイフのようで、仄かな怒りを感じさせた。ここ最近えらく感情的だ。

 

「もう重傷者も出てる。人質も取られてるな。そう長くないうちに嬲り殺しだろう」

「だ、だったら!」

「俺が行く」

「え?」

 

 香織がいつものように助けよう、と提案しようとした瞬間、シュウジの姿が背後に出現した黒い穴の中へ消えた。

 

 

 ガンッ!

 

 

 次いで、聞き覚えのある銃声。

 

 驚いて隊商の方を見た瞬間、ちょうど消えかかった結界に群がっていた盗賊の一人の頭が跳ね上がった。

 

 〝遠見〟で見える隊商の護衛や冒険者、盗賊ども……そして結界を張っていたフードの人物は、馬車の上を見上げる。

 

 そこには、ネビュラスチームガンを構えたシュウジが立っていた。突然の助っ人に驚いたのだろう、皆ぽかんとしている。

 

「え、あれ?なんであっちにシュウジが……」

「あー、そういや美空はシュウジが戦ってるところあんまり見てないもんな。あれがあいつの技能だ」

「……瞬間移動って、反則じゃん」

 

 全くもってその通りだった。

 

 

 

「──、────」

 

 

 

 この状況に立ち会った全員の視線を一身に集めたあいつは、盗賊たちに向かって何事か話しかけた。

 

 次の瞬間、怒りで顔を真っ赤に染め上げた盗賊たちが一斉にシュウジに襲いかかっていく。

 

 シュウジは無表情のまま銃口を定め、そしてさっきの倍の声量の怒号と、シュウジの発砲音が鳴り響いた。

 

「はぁ……仕方がない、あっちに行くか」

「あ、ありがとう、ハジメくん……」

 

 容赦ない不意打ちかましたせいか、引きつった表情で香織が礼を言ってきた。

 

 ハンドルを回し、進路をあちらにセットする。

 

 すると、フロントガラスの向こうでは阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっていた。

 

 賊の頭が宙に浮いたかと思えば、街道に次々と血の花が咲いている。たった数十秒で怒号は悲鳴に変わっていた。

 

 あれなら配慮はもういらないな。とりあえず()()()()()()()()()

 

「全員シートベルトを締めろ、舌噛むぞ」

「シートベルト、って……」

「ハジメ、あんたまさか……!」

 

 後ろから聞こえる美空たちの声に、俺はアクセルを思い切り踏むことで返答した。

 

 一気に速度を上げた四輪に、後ろから「きゃっ」という小さな悲鳴と、次々とベルトをはめる音が聞こえる。

 

「ほら、香織、石動さん」

「あ、ありがと雫ちゃん……」

「これ、絶対法定速度守ってないし……」

「そんなもんこの世界にあるか。全員ベルトは締めたな?じゃあ行くぞ」

 

 セレクトレバー下のパネルから《KAMIKAZE》というボタンを選び、押すのと同時に魔力を流し込む。

 

 すると。大仰な変形音とともに、両サイドのガラスの向こうで巨大なジェットエンジンが展開された。

 

「ちょ、これ以上は──!?」

「さあ行くぞ、これが日本人の魂だ!」

 

 なんの躊躇もなく、俺は笑いながらジェットエンジンとともに現れたレバーを思いっきり下へ下げた。

 

 次の瞬間、空気が弾けるような音とともにジェットエンジンの下部が爆発し、グンとスピードアップする。

 

 そのままハンドルをしっかりと握りしめ、ようやくこちらに気づいて絶望的な顔をしている盗賊たちに突撃した。

 

 

 ドゴォ! バキッ! グシャ!

 

 

 生々しい音を立てながら、盗賊どもを跳ね飛ばしていく。

 

 ある盗賊は真正面からぶつかって体の前面が弾け飛び、あるものはジェットエンジンの炎に焼かれて窓に消し炭を残す。

 

 運良くかすっただけのやつも、軽く時速百二十キロは出てる四輪の前では内臓や骨が粉砕する音を響かせて宙を舞った。

 

 元からシュウジによって数が激減していたので、Uターンして一往復するだけで全員轢き殺すことができた。

 

 ちょうどそこでジェットエンジンの燃料が切れたので、緩やかにブレーキを踏んで停車する。

 

「悪人を見つけて即アクセル……教習所で習うことだろ?」

「そんな教習所……すぐにお縄になるわよ南雲くん……」

「……目が回る」

「スリリングだった……」

「ゲコッ」

「うっぷ……気持ち悪いですぅ……」

「この気持ち悪さは……守備範囲外なのじゃ……」

「み、美空、互いに回復魔法かけてみない……?」

「賛成……」

 

 ノックアウトされてるユエたちが回復するまで一旦待ち、動けるようになったところで車を降りる。

 

 外に出ると、急展開のオンパレードに理解力が追いつかなかったのか、間抜けな顔の隊商たちと顔合わせした。

 

「美空、香織、怪我人の治療をしてやってくれ」 

「わかった」

「任せといて」

 

 治癒師二人組に被害者の対応を任せ、それを手助けするというユエたちを見送ってから、視線を巡らせる。

 

 しばらく見渡していると、盗賊たちのものと思われる死体の山の上で、血塗れのシュウジが座っていた。

 

 〝暗器創造〟を使ったのだろうか、人骨らしきもので作られた槍を肩に預け、こちらに背を向けている。

 

「お疲れさん。怪我はないか? まあ、お前にそんな心配しても無意味だろうが……」

「……おう」

 

 短く答え、槍をエボルトの毒らしきもので溶かすと山の上で立ち上がる。

 

 魔法で返り血が消えたかと思えば、飛び降りてそのままユエたちの方へと行ってしまった。

 

「……はぁ。どうしたもんかな」

 

 後頭部をガリガリとかきながら、シュウジの後を追った。

 

「さっきからもしかして、って思ってたけど……」

「まさか、こんなところで会えるなんて……」

「私も、まさか香織たちに会えるとは思えませんでした……」

 

 ん、なんかフードのやつと話してるな。

 

「香織、美空、治療は終わったのか?」

「ひゃっ!?」

「あ、ハジメ」

「うん、もう終わったよ」

 

 普通に振り返る治癒師コンビ、飛び上がるフード。声からして女か。

 

 甲高い悲鳴をあげたフードの女は、恐る恐る俺のことを見上げ、それから何かを考えるようなそぶりを見せる。

 

 少しの時間を要した後、フードの女は人差し指をあげた。ピコン!と頭に電球が立ってそうだ。

 

「南雲さん……ですよね?それに、あちらにいるのは北野さん……でいいんですよね?」

 

 フードの女の指し示す方を見ると、相変わらずの仏頂面で治療し終わった冒険者の介抱をしている。

 

 こちらの会話が聞こえていたのか、視線をよこさずに手を挙げた。隣で手伝っていた八重樫が苦笑をこぼしている。

 

「えっと、以前と雰囲気が違うような……」

「あー、まあ気にしないでくれ」

「は、はぁ……ともかく、お久しぶりです。あなた方の生存は聞いています。あの奈落で生き残ったその強さに敬意を。本当に良かった……」

「ほんとね。死ぬはずがないって信じてたけど、やっぱりびっくりしたな」

「でもホッとしたよね」

「ふふ、美空も香織もとても心配していましたものね……でもその、寂しさを埋めるために風呂場でああいうことはちょっと……」

「「ちょっ!」」

 

 頬を赤らめるフードの女に、香織と美空が真っ赤になる……何をしていたのかは想像に難くない。

 

 しかし、ここまでの会話を聞く限りは二人の知り合いのようだ。それに俺たちのことも知っているし、なんとなく見覚えがある。

 

 だが……

 

「っていうか、そもそも誰だお前?」

「へっ?」

 

 そう聞いた瞬間、バッと振り返った香織と美空に信じられないという顔をされた。

 

 フードの女自身も予想外だったのか、ぽかんとしている。はて、やっぱりどこかで見たような気はするが……

 

 首を傾げていると、しゅんとしたフードの女に慌てて二人がこちらに駆け寄り……そして思いっきり足を踏まれた。

 

「い”っ!?」

「は、ハジメくん!王女様だよ!ハイリヒ王国の王女リリアーナだよ!」

「話したことくらいあるでしょ!なんで覚えてないの!」

「ちょ、お前らつま先を踏むな!」

 

 げしげしとピンポイントに踏みつけられるつま先がジンジンする。タンスの角にぶつけた時のようだ。

 

 しかし、王女リリアーナか……リリアーナ、リリアーナ……ああ!

 

「そういえばいたな、そんなやつ」

「グスッ、忘れられるのって結構悲しいものなんですね……グスッ」

「リリィー!泣かないで!ハジメくんがちょっと()()なだけだから!ハジメくんが()()()だけで、普通王女のリリィを忘れる人なんていないから!」

「おい、さりげなく罵倒するな」

「ハ〜ジ〜メ〜?」

「み、美空落ち着け、何回か会話した程度の人間なんて興味がなかったら半年もすれば忘れるだろ?」

「興味がっ……ふぐぅ」

「リリィ──!」

「ハジメ、ちょっと馬車の裏行こっか?」

 

 さらにへこむ王女、フォローする香織、俺に般若の表情で詰め寄る美空。

 

 結局、体育座りして馬車の端っこで拗ねた王女が立ち直るまで、俺は衆目の中で美空に説教された。

 

「いい!? 今度から興味がないとしてもちゃんと会話した相手のことは覚えておくこと! 常識だからね!」

「はい、肝に命じます」

「ハジメ」

 

 美空にそのまま土下座できるよう正座で説教を賜っていると、シュウジと八重樫が帰ってくる。

 

 シュウジは例のごとく無表情、八重樫はさっきから説教されているのを見ていたんだろう、微妙な半笑いだった。

 

「この隊商から話は聞いた。どうやらホルアド経由でアンカジに向かってたらしい」

「ああ、今のあそこは格好の商売時だろうからな。で、辿り着けそうなのか?」

「ああ、目的地に着くと壊れる仕様の、気配を消す魔道具を渡した」

「そうか」

 

 ちらりとシュウジたちの後ろを見ると、驚くべきことにまたしても馴染みの顔が。

 

 隊商長はフューレンで会った承認、もっとユンケル……間違えた、モットー・ユンケルだったのだ。

 

 モットーは俺の視線に気がつくと、帽子を取って胸に起き、緩やかに頭を下げる。どうやらあっちも覚えてるみたいだな。

 

 まああれだけ脅しをかけたのだ、商人特有の図太さで忘れられてなくて安心した。

 

「で、俺たちについでに護衛依頼をしたいそうだ。どうする?」

「……なあ、その前にそれどうにかしてくれないか?」

「何かおかしいことあるか?」

「……いや、なんでもない」

 

 言えない、ふざけてない真面目な顔が違和感がありすぎるなんて言えない。

 

 いつもとテンションの落差がひどくてどうにも落ち着かない。八重樫も苦笑いのままで……

 

「ちょっと解釈が違うけど、これもいいわね(いい笑顔)」

 

 ……そういえばシュウジのことに限って、地球にいた頃から香織レベルの重症だったな、八重樫。

 

「お話中失礼します。申し訳ありませんが、その時間を私にいただけないでしょうか?」

 

 護衛依頼をどうするか相談する前に、復活した王女様が割り込んできた。

 

「というと?」

「実は……問題が発生したのです」

 

 それから王女は、一呼吸置いて。

 

「愛子さんが、攫われました」

「………………は?」

 

 深刻そうな顔で告げられた最悪の事態に、シュウジが底冷えするような声を漏らした。

 

 

 またしても動けなくなるほどの殺気を纏ったシュウジは、怯えた表情で固まる王女様に詰め寄る。

 

「おい、それはどういうことだ王女様。ちゃんと説明してもらおうか、しっかりと、俺が理解できるように」

「ひぅ……」

 

 今にも暴れだしそうなほどの激情を感じさせる横顔で、シュウジが王女を睨みつける。

 

 その姿に少し、いやかなり驚いた。

 

 エボルトによれば、先生は女神マリスがシュウジの様子を観察するために選んだ依代である。

 

 それでもここまで必死になっているのは……やはりこいつなりに、色々と思うことがあるのだろう。

 

「ちょっとシュウジ、落ち着きなよ!」

「そうよ。今ここで彼女に怒っても仕方がない、そうでしょう?」

「……そう、だな。すまん王女様、ちょいとカッとなった」

「い、いえ……その、ちゃんと説明しますので、心を鎮めてお聞きくださいますか……?」

 

 完全にビビってた。宥めた八重樫と美空にジト目で見られ、バツが悪そうに頬をかく。

 

「では、お話しします……なぜ愛子がさらわれたのか。そして王族である私が、単身ここにいるのか」

 

 そして王女の語ったことを簡単に要約すると、こうだ。

 

 ここ最近王宮内の様子がおかしく、王女はずっと違和感のようなものを感じていたらしい。

 

 父でもある国王のエヒトへの過剰な心酔、それに感化される形での重鎮たちの変化。

 

 そこだけなら戦争の前だからで片付けられたのだが、どうやら城内の騎士や兵士が途端に無感情になったらしい。

 

 目に覇気はなく、受け答えもまるであらかじめ覚えた選択肢から選んでいるようで、とても気味が悪かったとか。

 

 いよいよ我慢ができなくなった王女は、最も信頼できるメルド団長に相談したところ、フューレンに迎えと言われたそうだ。

 

 他の連中ほどではないものの、明らかに人が変わったメルドは、そこに行けば解決の糸口があると断言したらしい。

 

 迷いのないメルドの言葉に困惑しているうちに、先生たちが帰還。ウルの町での事件が報告された。

 

 そして、俺たちの異端者認定が下されたのである。

 

「明らかにおかしな決定でした……先生の意見も、功績も全て無視して、あれでは独断です。父には抗議しましたが、むしろ私が異常者のように責め立てられて……」

「……なるほど、あれか」

「へ?」

「いや、なんでもない。続けてくれ」

 

 メルジーネでの試練が頭をよぎったものの、王女の話に耳を傾ける。流石に正座がきつくなってきた。

 

「とりあえずその場は父に同意して難を逃れたのですが……見てしまったんです」

「見たって……リリィ、何を見たの?」

「対面の窓から見ていたのですが、愛子と向き合っていた銀髪の修道女が、突然銀色の化け物になって……」

「っ!」

 

 シュウジが息を飲んだ。これは心当たりがある反応だ。

 

「窓が同じ色の何かで内側から塞がれて、次にそれが消えた時には、愛子が化け物に吸収されて……っ!」

「リリィ、もういいよ!」

「ゆっくり息を吸って。気持ちを落ち着けて、ね?」

「はい……すみません、突然取り乱して」

 

 治癒師コンビが王女の面倒を見ているのを傍目に、俺は聞いた話を整理する。

 

 国のトップの変貌、神敵と定められる、ここまでは解放者たちや、あの試練で見た人族と同じだ。

 

 そして銀色の化け物……ここにシュウジが反応したことから、おそらくランダと同じ《七罪の獣》関連か。

 

「で、それを見た王女様は、唯一の突破口かもしれないメルさんの言葉を信じて王宮を抜け出した……そういうことでいいんだな?」

「はい、ベルナージュお姉様の手引きで……今思えば、メルド団長は南雲さんたちのことを言っていたのでしょう。隊商の方々に混ざってホルアドまで行き、そのあとはフューレンに向かう算段でした」

「なるほど……お前、情報を一部隠してやがったな」

 

 おそらくはエボルトに言ったのだろう、俺にしか聞こえないような小声で悪態をつく。

 

 一方俺は、内心舌打ちをした。

 

 アサシンエボルボトルの時にシュウジが言っていた、王都にいる不穏分子とはこれだったのだ。

 

 あの先生が負け、攫われるほどの相手ともなれば、またカインの友人か……あるいは()()()()()が出てきてもおかしくないな。

 

 さて、そんな先生を助けるべきか否か。

 

 リスクで言えば、そんなの無視してさっさと樹海の迷宮へ行き、ほとぼりが冷めた頃に【神山】にあるという迷宮へ行けばいい。

 

 

 

 だが、それは果たして正しい選択だろうか?

 

 

 

 先生はウルの町で、俺に優しさを忘れないようにと教えてくれた。それまでの生き方では地球に帰ったとき、生きづらいと。

 

 その教えはまだ俺の中に生きている。そして確実に、あの人の教えは俺の言動を変えてきた。

 

 そんな先生を見捨てることは、優しさを捨てることではないか。美空や、ユエや、ウサギは笑っていられるだろうか。

 

 いいや、そんなはずはない。たとえあの人の正体がなんだろうと、それでも教えてくれたことは本物だ。

 

 ならば……

 

「先生を助けに行こう。あくまで王城の異変はついでだけどな」

「「ハジメ(くん)……!」」

「そうだろ、シュウジ?」

「……ああ。助けに行く」

 

 目を瞑っていたシュウジも、これ以上ないほどに真剣な思いを秘めた顔で答えた。

 

 美空と香織や、八重樫や、こちらに戻ってきたユエたちに目配せし、互いに頷き合う。

 

 覚悟は決まった。先生を助けるついでに何が襲いかかってこようが、俺たちなら負けるはずがない。

 

「せいぜい、その化け物の顔とやらを拝んでやろうじゃねえか」

「ああ。たとえ何が相手でも、あの人は助ける」

 

 そうして俺たちは、旅の順路を王都へと切り替えたのだった。

 

 

 

 

 

 ……あと、そろそろ正座解いても良いですかね美空さん?




いよいよ王都へ。

そして、新たな《獣》が……

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