星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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どうも、作者です。
この章は非常に文字数が多くなるため、ご了承ください。

エボルト「よう、エボルトだ。またあのクソ兄貴が登場すると知って萎えてるぜ」

ハジメ「ネタバレすんな……前回は王女に会ったな。シュウジのことも心配だ」

エボルト「大丈夫だ、これからビルド的展開が増えるから」

ハジメ「だからネタバレするなって。今回は先生の視点からスタートだ。それじゃあせーの、」



二人「「さてさてどうなる王都侵攻編!」」


二度目の再会

 

 愛子 SIDE

 

 

 

 

 

 ……ここに連れ去られてから、何日が経過しただろう。

 

 

 

 

 

 鋼鉄造りの六畳一間、木製のベッドにイス、小さな机、そしてむき出しのトイレという簡素な部屋。

 

 手首につけられたブレスレット型のアーティファクトで魔法は使えず、物理的に出ようにも()()()()()()はいない。

 

 テレビで見た刑務所よりも酷いこんな場所でまだ耐えていられるのは、私の中にある〝彼女〟の記憶と……悩みがあるから。

 

「……()()()()、平気でしょうか」

 

 ベッドの隅で一人、ポツリと呟いてみる。

 

 ここに来てから眠るたび、夢を見る。

 

 それは苦しくて、寂しくて、何もかも自分の手で壊してしまった、一人ぼっちの人の夢。

 

 

 

 

 

『何も心配いらないよ、お父さん。もうお父さんが一人で戦う必要も、誰かが犠牲になる必要もないの』

 

 

 

 

 

『もう誰も、この世界にはいないんだもの』

 

 

 

 

 

『私こそが理。私こそが摂理。私こそがこの世界の審判者。故に──お前はそれに反している』

 

 

 

 

 

 失い、怒り、嘆き、悲しみ、そして人の心を切り捨てた。

 

 大切なご家族まで殺して、それでも願ったものは手に入らなくて、ついにはそれさえも歪めてしまった。

 

 その夢を見て痛みを知る度に、私の中で畑山愛子(わたし)からマリス(わたし)が剥離する。

 

 そして気づいた。

 

 私は彼女ではなく、ただ選ばれたのだと。私のこの甘さが彼女にとって都合が良かっただけなのだと。

 

 またそれは、私がマリスであった時にしていた数々の行動を客観的に見られるということで……

 

「あううう……年下の男の子を部屋に連れ込んで抱きつくなんて、なんてはしたない……」

 

 ウルの町で再会したときのことを思い返すと、今にも顔から火が出そうだ。

 

 あのリベルという女の子にもひどいことを言ってしまった。次に会ったら謝らないといけません! 

 

 しばらくベッドの上でゴロゴロと悶えて、気分が落ち着いたところで顔から手を剥がして天井を見上げる。

 

「……それでも、私は北野くんの先生です」

 

 私がマリス(わたし)でなくなっても、それでも御堂さんと交わした言葉は変わらない。

 

 私は教師だ。教師は生徒を守るもの。ならば北野くんは、私が全力で守るべき生徒の一人である。

 

 もう私に、清水くんを説得したときのような強さはないけれど。何も力を持たない、ただの女だけれど。

 

「ちゃんと私が、北野くんをみんなと一緒に地球へ帰すんです……!」

「……そりゃどうも。相変わらず職務に熱心だな」

「はわっ!?」

 

 突然聞こえた声に、反射的に窓を見る。

 

 すると、格子のはまったガラスの向こう側に、ここにはいないはずの北野くんの顔があった。

 

「き、北野くん!? どうしてここに……ていうかここ、すごく高い塔の最上階……」

「……その様子だと、意識は愛子ちゃんに戻ってるのか。まあいい、そっから動くなよ」

 

 スパパン、という音がしたと思えば、壁に赤いトゲのようなものが生えて壁をくり抜く。

 

 外から壁の一部を剥がし、中に入ってきたのは……やっぱり北野くんでした。

 

「よう、愛子ちゃん。助けに来たぞ」

「……その、ありがとうございます」

「……おう」

 

 ……気まずい空気が流れる。

 

 私は夢という形で、北野くんのことを知ってしまった。その身が人間ではなく、器であったことを。

 

 北野くんからすれば、私は女神マリスに操られた哀れな女でしょう……ああ、考え方に彼女()()()が残っています。

 

「や、八重樫さんたちは元気ですか?」

「まあ、な……で、愛子ちゃんはどこまで知ってる?」

「……全て、です。最初に彼女がおとうさ……あ、いえ、カインさんが北野くんたちを庇って連れて行かれて、それから彼女が女神になってからの記憶を……」

 

 おそらく、ようやくカインさんを手に入れたことで、記憶の繋がりのガードが緩んだ。

 

 この夢は多分、逆流のようなものなのでしょう。あるいはヴェノムさんがストッパーになってたのかも。

 

「そっか……とりあえずそれ、外すから手を出してくれ」

「は、はい」

 

 恐る恐るブレスレットのはまった手を差し出すと、北野くんの手にいつの間にか赤いナイフが握られている。

 

 次の瞬間、その手が煌めいた。

 

 するとパキンと音を立ててブレスレットが手から外れ、ベッドに落ちる。

 

「これで平気だ。もう……その、あいつの魔法も使えるはずだ」

「そう、ですね……」

 

 またしても気まずくなってしまった。はう、教師としての自分の未熟さを感じます。

 

 申し訳なく思いながら北野くんの顔を見ると……ふと、あることに気づいた。

 

「……北野くん」

「なんだ、愛子ちゃん」

「何か、悩んでいませんか?」

「っ……」

 

 この反応は図星ですね。いや、それを隠さない時点で少し変です。

 

 思えば、いつもの北野くんなら最初に話しかけた時点で、何か私を元気付けるような冗談を言ったはずでした。

 

 それなのに、今もわかりやすいくらいに動揺している…… マリス(わたし)の経験が何かあると言っていた。

 

「北野くん。今の私は、畑山愛子です」

 

 居住まいを正して、はっきりとした口調で北野くんに話しかける。

 

 そんな場合じゃないと分かっているけど……それでも、どうしてもこの場で話をしたかった。

 

「そりゃ、見ればわかるけど……」

「つまりあなたの、北野シュウジくんの先生です。先生は生徒の悩み事を聞く義務があります」

「……学校は自己解決力を育てる場所でもあるんじゃねえの?」

「いいえ、むしろその逆です。人と協調し、時に頼り、時に頼られる。その限度を学ぶ場です。だから……話してください。北野くんの悩みを」

 

 北野くんは、難しい顔をして押し黙ってしまった。よっぽど他の人に相談したくないことなのでしょう。

 

 それでもじっと見つめると……はぁ、というため息を吐いて、北野くんは帽子の上から頭をかいた。

 

「その洞察力、愛子ちゃんになっても変わってないのか」

「はい、複雑な心境ではありますが……彼女の記憶や経験は、活用させてもらってます」

「むしろその方がありがたいが……あー、まあ教師に相談ってのも高校生らしいかもな」

 

 帽子を脱いでベッドに放り、北野くんは私の隣に座ります。

 

 これは、話をしてくれるということでいいのでしょうか。ちょっと雰囲気はやさぐれていますが、嬉しいです。

 

「んじゃ愛子ちゃん、少し聞いて欲しいんだけどさ。ああ、つってもこの後かなりヤバいことになるから手短にな」

「はい。先生に答えられることなら、誠心誠意相談に乗りますよ」

 

 そして私は、北野くんのお話を聞くことにしたのです。

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 ネルファ SIDE

 

 

 

「──ッ!」

 

 

 

 鋭い痛みに目を覚ます。

 

 覚醒に一瞬、その後あらゆる事態を把握するために知覚能力を最大限に活用する。

 

 場所は私に割り当てられた寝室。魔法は……使えない。何かによって魔力の動きを阻害されている。

 

 影の中に潜ませている九の従魔も召喚できない。ならば切り札である悪魔の力は……もっと強い力で押さえ込まれていた。

 

 最後に痛みの発生源へ目を向けると……見覚えのある赤い双剣で、両手が壁に磔にされていた。

 

「……完璧な拘束。これならば我が身の力を抑えられるでしょう。(わたくし)を相手にここまでするとは、たいしたものですわ」

「お褒めに預かり光栄だ。神の力ってのは便利だよなぁ?」

 

 視線を巡らせ、窓際を見やる。

 

 普段ワインを飲むために使う机には赤い蜘蛛型の機械が置かれ.椅子には一人の男がいる。

 

 目の痛くなるような赤い衣装。露わになった上半身は逞しく、己の美をあえて魅せる出で立ちをしている。

 

「会いたかったぜぇ、女ぁ?」

 

 蜘蛛を指でいじるのをやめ、男──キルバスと名乗る獣は、こちらを見た。

 

 その瞳が怪しく輝き、青い二つの光は暗がりでよく映える。もっとも、おぞましいという意味ですが。

 

「私は金輪際お会いしたくはありませんでしたわ。ああいえ、報復をするという意味ならば、一目だけは例外ですわね」

「いいねぇ、嫌いじゃないぜその殺意。だが生憎と、今回は殺し合いをしに来たんじゃあない」

「……さて、どうかしら」

 

 ……目的があるとすれば、三つ。

 

 

 

 一つ。この王都において最大戦力たる私を暗殺する。

 

 

 

 一つ。拷問し、あの御方の情報を聞き出す。

 

 

 

 一つ。私を何かしらの手段で堕とし、あちら側に引き入れる。

 

 

 

 どちらでもいいが、屈する気は毛頭ない。既に我が身はあの方とその信念に捧げた身だ。

 

 このような畜生に何もくれてはあげません。どのみちこの剣の神気に侵されて死ぬでしょうが、たったそれだけのこと。

 

 従魔で死の肩代わりはできる。むしろ、もう一度死ぬまでにこの男の片腕でも食らってやりましょう。

 

「それで? お話とは一体何かしら」

「何、本当の戦いが始まるまでの余興さ。忌々しいが、今の俺は王ではなく駒だ。だからお使いをしなきゃならない」

「はぁ? 一体何を……っ」

 

 不意に、大量の敵意を感じる。

 

 それは魔法ではなく、私の本能が告げた危機。この王都に何千何万という何かが迫ってきている。

 

 未だ遠いものの、この速度ではここにたどり着くまでに一時間、早くて十数分というところだろう。

 

「なるほど、これが来るまでの暇つぶしということですか」

「目敏いな。ああそうさ。何の前触れもなく、人間どもは滅び去る! 最高のショーを俺はこの目で見にきた!」

「呆れたこと。確かにこの世界の人間は愚か者ばかりではありますが、罪はないというのに」

「お前たちの罪の規範など、俺には関係ない。俺はただ楽しみたいだけさ」

 

 ……ああ。この男、快楽主義者か。

 

 薄々感じてはいましたけれど、相手にすることすら苦になる一番面倒なタイプですわね。

 

「だが俺は、もっと楽しいものを見つけた。このショーをさらに良いものにすることをな?」

「それが私に何の関係があって? 言っておきますが、私は別にこの国全てが滅ぼうがどうでも良いですわ」

 

 御堂英子としての、クラスメイトたちへの親愛の情は記憶が戻った時に消え去った。

 

 対等ではないとはいえ、唯一友と見初めた八重樫雫はあの方と共にいる。あとはすべて使い捨てていい愚図だ。

 

 ああ……でも少しだけ残念かしら。

 

 あの少しだけマシになった愚種……天之河光輝がこれからどうあがくのか、見てみたかったのですけれど。

 

「ああ、そうだろうな。お前は俺たちブラッド族と同じ冷徹な人間だ。だが……お前がその滅びに加担するとしたら?」

「何?」

 

 この男、いきなり何を言っている? 

 

「ハハハハ、驚いたぞ! まさかお前が()()()()()だったとはな! そうとも知らずに殺してしまった!」

「訳のわからないことを……」

 

 平然を装いながらも、私の中に嫌な予感が芽生え始めた。

 

 この場でじっとしていてはいけない。このままでいれば、私にさえ取り返しのつかないことが起きる。

 

 既に両腕に侵食しきった神気の悍ましさを堪え、剣に縫い付けられた掌を解放しようと力んだ。

 

 

 

「すぐにわかるさ……こうすることでな」

 

 

 

 だが、その前にキルバスが指を鳴らした。

 

「がぁあああああああッ!!???」

 

 その瞬間、赤く輝いた双剣からそれまでのものとは比べ物にならない神気が流れ込む。

 

 感じたことのない痛み。自らが内側から見るも無残に破壊され、無理やり別のものに作り替えられていく感覚。

 

 気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い! 

 

「わたくしに、何、を……!」

「さあ、目覚めろ! 俺たちの()()よ!」

 

 同胞その言葉を聞いた瞬間、私の中で何かが壊れ──脳裏に記憶が流れた。

 

 

 

 

 

 マリスの装置で時空を旅をする、我が魂。

 

 

 

 

 

 長い旅の果てに、ついにあの方の魂の輝きを見つけた。

 

 

 

 

 

 

 

 一人の赤子に入り込んだ途端に失われた、多くの記憶と力。

 

 

 

 

 

 

 

 己が何者かを忘れ、十七年を生き……この世界へ召喚された。

 

 

 

 

 

 

 

 その最中、再び輝きを取り戻し始めたこの魂に、どこからか手が伸びて──

 

 

 

 

 

 

 

「──ああ、そういうことですのね」

 

 そして私は、思い出した。

 

 その瞬間、全てが消える。痛みも、感情も。

 

 あの方との記憶への、愛さえも。

 

「思い出したようだな?」

「……ええ、忌々しいことに。それよりこの爪楊枝、抜いてくださる?」

 

 キルバスが歩み寄り、私の両手から剣を引き抜く。

 

 途端に私は寝床の上で立ち上がり、一糸纏わぬ我が身に魔力で服を編んだ。

 

「はぁ……よもやこのような失態を犯すとは。我が人生において最大の過ちですわ」

 

 盛大なため息と共に、己の未熟を戒める。

 

 あの方の弟子たるこの身が、あのようなものに縛られていようとは。

 

 ああ、考えただけで寒気がする。この身が不死身でなければ、今すぐにでも自害してしまいたい。

 

 嫌悪と共に、穴の塞がった右手の甲を見れば……そこには一つの言葉を意味する印が刻まれていた。

 

 

 

 ── 傲慢(ごうまん)、と。

 

 

 

「ですが、もはや魂まで絡め取られれば私とて万事休す。この最悪の 運命(さだめ)を受け入れましょう」

 

 反吐が出るような決意とともに、私は腕を縛る黒い輪を見る。

 

 〝それ〟を自覚した途端に、これには新たな力が宿った。我が傲慢なる魂から形を成した力だ。

 

 ……あの方や、八重樫雫にこの痴態を見られるのも癪です。どうせ呪われたというのなら使いましょう。

 

 

 

アマゾン

 

 

 

 言葉を紡ぎ、黒い輪の一部を押し倒す。

 

 その瞬間、全身から力が弾け……私の体に鎧が纏われた。

 

「……なかなか着心地は悪くありませんわね」

「ほお、それがお前の力か。パンドラボックスに吸収させればいいエネルギーになりそうだ」

「ご冗談を……さあ、行きますわよキルバス」

「ほう? 何処へだ?」

 

 寝床から飛び降り、私は歩み出す。

 

 

 

 

 

「──無論、この《傲慢の獣》たる我が力を試しに」

 

 

 

 

 

 さあ、食事へと参りましょう。

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 雫 SIDE

 

 

 

【神山】に言って愛子ちゃんを助けるというシューと別れ、私たちは王宮に潜入を試みていた。

 

 王族専用の隠し通路を進むメンバーは、私と香織、ユエさん、シアさん、リリアーナの五人。

 

 南雲くん、石動さん、ウサギさん、ティオさんはそれぞれ、王都に異変が起きないか各所で待機するらしい。

 

 

 

 これはシューの立てた作戦だ。

 

 

 

 リリアーナの言っていた銀色の化け物が現れる可能性が最も高いのは、愛子ちゃんの近くらしい。

 

 シューは、正体不明のその化け物に対抗できるのは自分だけだと。そう、確信をもって言ったのだ。

 

 更には、今回の王城の異変に乗じて王都にもあることが起こるから、南雲くんたちにはその対応を。

 

 そして、私たちには御堂さんや光輝たちと……光輝の名前は絶対言わなかったけど……と合流してほしい、と。

 

 

 

 

 

 今はすべてを語る暇もないし、喋れない。だが絶対に悪い結果にはしないから、信じてくれ──

 

 

 

 

 

 時折見せる真剣な表情……まあ、最近はいつも静かなのだけど……で言うシューを、私たちは信じた。

 

 あの顔の時に言う言葉は、必ず意味がある。そして悪い結果にしないというのなら、決してそうはならない。

 

 だからこうして、二手に分かれているのだけど……

 

「皆さん、無事でしょうか……」

「あまり気にしてばかりでも悪いわよ」

「そうだよ。きっと大丈夫だから」

「はい……」

 

 香織と一緒にリリアーナを元気付けるものの、私も嫌な予感を覚えている。

 

 何か、致命的な事態がどこかで起こっているような。

 

 このままだと取り返しのつかないことが起こる気がする。気のせいだといいのだけど……

 

「っと、ここが出口です」

 

 リリィが手を置くと、突き当たりだった前方の壁が横に移動する。

 

 警戒しながら外に出ると、そこは客室の一室だった。

 

 全員が出ると音も立てずにアンティークが元に戻り、何事もなかったようになる。

 

「この時間ならみんな寝てるわね……とりあえず、御堂さんと龍太郎のところへ行きましょう」

 

 あちらの最高戦力はあの二人だ。光輝は……言っては悪いけれど、龍太郎たちに数段劣る。

 

 それでも、まずは二人と合流できれば次は光輝のところなのだけど。他の皆も光輝の言葉ならすぐに従うでしょうしね。

 

「賛成です」

「私が先頭になります。雫さんは殿をお願いしますぅ」

「わかったわ。香織、リリアーナ、ユエさんから離れないでね」

「わかったよ」

「ん、任せて」

 

 隊列を組み、警戒を張って城内を移動し始める。

 

 私たちに割り当てられた場所はこの区画とは別の棟にあるので、そちらまで移動しなければならない。

 

 索敵能力の高いシアさんと共に神経を張り巡らせ、僅かな音も逃さずに慎重に進んでいく。

 

 途中兵士に見つかりかけたけれど、シアさんが野良ウサギの声真似をして難を逃れた。なんでアレで誤魔化せたのかしら。

 

 そのあとは特に目をつけられることもなく、もう少しで光輝たちのいる棟に着くというところまで来た。

 

 

 

 ドォオオオオンッ!!! 

 

 

 

「わっ!?」

「きゃっ!?」

「香織! リリアーナ!」

 

 突然、王城全体を振るわせるような地震と轟音が響き渡る。

 

 バランスを崩しかけた二人を受け止め、一気に警戒を引き上げると……ガラスが割れるような大きな音が響いた。

 

「わわっ、何ですか一体!?」

「っ……これは」

 

 耳障りなその音に顔をしかめていると、兎耳をぺたんとしたシアさんの様子に、ユエさんが眉をひそめる。

 

「これはっ……まさか!?」

「あ、リリアーナ!」

 

 危ないかもしれないのに、腕の中からリリアーナが飛び出して窓際へ行ってしまった。

 

 ユエさんに目配せすると、頷かれる。すぐには危ない状況にはならないみたいね。

 

「香織、怪我はない?」

「う、うん。でも、一体何が……」

 

 香織の質問に答えず、というよりも私も何が起こっているのかわからないので、皆で窓際へ行く。

 

 そして、そこから見えた光景に目を見開いた。

 

「そんな……大結界が……砕かれた?」

 

 王都の夜空に、キラキラと輝く魔力の粒子。

 

 それはこの王都を守っていた結界の成れの果てで、私たちの前で粒子はあっという間に霧散していった。

 

 リリアーナが、隣でありえないとでもいうように驚愕し、震える声で呟く口を両手で押さえている。

 

 何か声をかけようとした途端、視界の端で閃光が瞬いた。そして空中に白い膜が出現し、軋みを上げる。

 

「第二結界も……どうして……こんなに脆くなっているのです? これでは、直ぐに……」

「大結界が、攻撃されている……?」

 

 確か、以前聞いた話によれば大結界は三重の構造となっており、非常に強固だという話だった。

 

 なんでも結界コンテストで「ここ数ないんで最高の固さ」とか「近年稀に見る固さ」と称賛されているらしい。

 

 定期的に宮廷の魔法使いが補強しているという話だったけど……私の目には、とても堅牢には思えない。

 

「ねえリリアーナ、もしかして一枚目の結界は壊れることが前提、というわけではないわよね?」

「ええ、そんなはずありません。数百年にわたり、魔人族からこの王都を守ってきたのですから……」

「じゃあ、いきなりどうして……」

「……内通者がいる可能性がある」

「ありえない話、じゃなさそうですぅ」

 

 確かに、強固な大結界があっさりと破壊されるなんて、こちらに手引きした人間がいるはずだ。

 

 もろちん、さっきの攻撃と思しき閃光も相当に強力なのでしょうけど……その可能性は、とても高い。

 

 どちらも気になるところだけど、にわかに王城が騒がしくなってきた。これ以上立ち居往生はしてられないようね。

 

「とりあえず、一刻も早く御堂さんたちと──」

 

 作戦に戻ろうと促そうとした瞬間、廊下に独特の着信音が響く。

 

「あ、私だわ」

 

 ポケットから携帯を取り出すと、南雲くんから電話がかかっていた。

 

 アイコンタクトをしてユエさんたちに警戒を頼み、画面をタップして着信に応答する。

 

「もしもし、南雲くん? そちらは何か見えてる?」

『ああ、悪い知らせだ。南方の1キロ先、魔人族と魔物の大群がいる』

「っ、そう」

 

 考えうる限りでも最悪の事態だった。まさかこんなタイミングで攻めてくるなんて。

 

 ……いや、違う。()()()()()()()()()()()()だ。王城の異変も、大結界の弱体も仕組まれていたの? 

 

『おまけに、あのフリーザだかフロストだかいう魔神族と白竜もいやがる。さっきの大結界を破ったのはあいつのブレスだな』

「フリード・バクアーよ、南雲くん……それで、どうにかできそう?」

『──当たり前だ』

 

 力強い、通話越しでも体が震えるような声音で南雲くんは断言する。

 

 彼は、できると一度言えばどんな手段を使ってもやり遂げる人だ。魔人族の軍団もどうにかできてしまうのだろう。

 

 改めてその規格外さに思わず苦笑いをこぼしながら、南雲くんたちに撃退をお願いした。もう一度強い肯定が返ってくる。

 

「それじゃあお願いね」

『おう。そっちも気を付けろよ』

 

 通話を切ると、ユエさんたちからどうだった? という視線が飛んできた。

 

 手短に状況を伝えると、ユエさんとシアさんが窓の外へ鋭い視線を向ける。

 

 彼女たちからすれば、南雲くんがあれだけの大怪我を負ったフリードを倒しに行きたいのでしょう。

 

 でも……

 

「……二人とも、あちらが気になるのはわかるけど」

「……ん、平気。フリードなんてハジメがボッコボコにする」

「ユエさんの言う通りですっ。それに、あっちにはウサギさんがいますから!」

 

 振り返った二人の表情からは、確信の想いがありありと伝わってきた。

 

 この二人は本当に南雲くんを信頼しているのね。この際恋人が複数いることは何も言わないけど、香織、勝機あるかしら……

 

 そんなことを考えながらも、未練を断ち切ったユエさんたちと共に再び移動を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あんなことになるなんて、思わずに。

 

 




読んでいただき、ありがとうございます。

ネルファの身に何が……?

コメントをいただけると嬉しいです。
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