星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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どうも、熊です。
前回お気に入り登録してくれた方、ありがとうございます。
一万文字になりそうだったので、半分に分けました。

ハジメ「よう、ハジメだ。前回はフリードをぶっ飛ばしたな」

ユエ「ん、スカッとした」

シア「私たちもボコりたかってデスぅ」

エボルト「おい言葉の一部が物騒に変換されてるぞ……今回はシュウジと愛子の話し合いがメインだ。それじゃあせーの、」


四人「「「「さてさてどうなる王都侵略編!」」」」


北野シュウジの罪過

 

「──なるほど、そんなことがあったんですね」

 

 話を聞き終えた愛子は、静かに呟いた。

 

「率直に言って……当たり前の結果だと先生は思います」

「……だよなぁ」

 

 遠慮のないその返答に、シュウジはがっくりと頭を膝の間に落とした。

 

「そりゃ虫のいい話だよなー……そもそも俺が暴走しなけりゃ、まだ俺の中にカインはいたわけだし……なんならこの体をそのまま使うことだって……」

 

 彼らしからぬ、目に見えて落ち込んだ様子に愛子は、これ以上話しをするものか悩む。

 

 だが、ここで安易な慰めの言葉をかけることは、果たして正しいことだろうか。彼の成長を妨げる結果にならないか。

 

 人は時として、傷つくことも必要だ。それがどんない辛いことでも、目を背けたくても、対面しなければいけない。

 

「本当に、そうだと思いますか?」

「……そりゃどういう意味だ?」

「本当に北野くんが嫌いというだけで、ルイネさんは離れていったのでしょうか?」

 

 ますます困惑した顔をするシュウジ。無論この男にとってはそれが結論の全てなのだから仕方がない。

 

 やはり()()していないことを察した愛子は、心を鬼にして……マリスのような冷徹な顔で話しだす。

 

「確かに、それも大きな理由なのでしょう。彼女にとって北野くんは、とても側にいて辛い存在なのだと思います」

「おいおい愛子ちゃん、オブラートにも包んでくれないのか」

「そうする必要があると、思いましたから」

 

 いつになく真剣な目で言う愛子に、シュウジも誤魔化し笑いを消して耳を傾ける。

 

「例えば私……いえ、女神マリスにとって彼女は、都合のいい道具でした」

 

 世界の殺意を継承するため取り込んだルイネとネルファ、今は御堂英子の魂を残していた理由。

 

 それは、人の心を失っても残っていた罪悪感から……()()()()()()()()()()()()()()()

 

 単純に、利用価値があったからだ。

 

 カインを引き出すためには、シュウジという器にカインとしての強い自覚を持たせる必要がある。

 

 そう思い込めば思い込むほど、真実を知った時の絶望は強くなり、カインはフォローをするために出てくるだろう。

 

 だからこそ、自分をカインとして慕う二人と接するのは非常に効率が良かった。その為にこの世界に送り込んだ。

 

「頭の良いルイネさんは、その思惑にさえ気づいたのでしょう。だから余計に彼女の裏切りを恨み、そしてあなたを憎んだ」

「それも、夢で見たのか?」

「はい、残念ながら……では北野くん、貴方にとってルイネさんという女性は、どのような存在ですか?」

「どう、って……そりゃあ、大事な相手なのは変わらねえよ。カインの恋人だし……」

「そこです」

 

 愛子は、間断なくシュウジの言葉を指摘した。

 

 何気なく答えたシュウジは目を白黒とさせた。特に指摘されるような言葉を放ったつもりはない。

 

 だが愛子にしてみれば、その言葉にこそ、この相談の答えとも言うべきものがあった。

 

「北野くんにとって、ルイネさんはカインさんの恋人。その認識があるのです」

「いや、それは言われるまでも……」

「だからあなたにとって、()()()()()()()()()()()()

「……え?」

 

 シュウジは、呆気に取られた。

 

 自分にとって、ルイネは楔。その言葉がなぜだか、自分でも不思議なほどにしっくりきたから。

 

 愛子はその思考を察して悲しげな顔をする。これから言わなければならないことに、この生徒を傷つけることに。

 

「北野くんは、ルイネさんを大切に思っている。それは事実でしょう。ですが本当に、それは全てが一人の女性への愛と言い切れるでしょうか?」

「何を、言って……」

「心の何処かで、こうは思っていませんでしかたか?」

 

 それでも、愛子は覚悟を決めて言った。

 

 

 

()()()()()()()()使()()()()()()()()、と」

 

 

 

 また、シュウジは驚いた。

 

 愛子がとても非人道的なことを言ったからではない。彼女らしからぬ発言に物珍しく思ったからではない。

 

 収まってしまったからだ。()()()と、まるで最初からそこにあったように、欠けていたパズルの穴に。

 

「あなたは不安だった。自分がカインさんを陥れるための道具だったと知って、彼がいなくなった途端に彼が培った技術や、能力や、記憶を利用することが怖くなった」

「それ、は……」

 

 ああ、確かにその通りだ。

 

 思えばハジメとの大喧嘩の後、少しでも力を振るうたびに、どこか後ろめたい気持ちを抱いていた。

 

 本当に自分がこの力を使っていいのか。もはや抜け殻となってしまった自分に、その資格があるのかと。

 

 だが、そのような感情に蓋をして、いつものように笑顔の仮面を被った。俺は大丈夫だと嘯いた。

 

 ハジメたちのためと、そう偽って。

 

「そんな不安を、ルイネさんの存在は埋めてくれたでしょう。誰よりカインさんを信じ、求めた彼女が肯定してくれれば、それは力を振るう大義名分になる」

「………………」

「そして彼女は、そんなあなたの無意識のうちの思考も機敏に悟ってしまった。だからあなたを突き放して、見限ったのです」

 

 もはや、反論の余地もなかった。

 

 全部その通りだった。北野シュウジは他人に多くの理由を求め、そうして自分を詭弁と欺瞞で塗り固めた。

 

 そうしなくては、この空っぽの心が受け入れるには重すぎる記憶と力に、壊れてしまそうだったから。

 

 

 

 ああ──なんて、気持ち悪い。

 

 

 

 これでは自分の価値観で、他者にその正義と言う名の無責任な行動の代償を負わせるあの男と、本当に同じではないか。

 

「そのように扱われて、怒らない人間はいません。だからこれは、当たり前のしっぺ返しです」

「……はは。ほんと、なんでもお見通しだな。先生は」

 

 乾いた声で、シュウジは自分を嗤う。

 

 あれほどまでに誇りを持っていた自分の信念()が、今はとても悍ましい。

 

 何が必要悪か。何が仕方のない犠牲か。なんて身勝手な考えだ、自分こそが最も悪どいというのに。

 

 いいや。これを気持ち悪いなどと、聖人面をしようとしているこそが最も気持ち悪い。

 

「……俺って本当に自分勝手だったんだな」

「でも、その自分勝手の責任をちゃんと自分で負うのが北野くんの美点だと思いますよ。こうして逃げずに、私の話を聞いて納得しているのがその証拠です」

「今更持ち上げなくていいさ……あーくそ、自分で自分を殺したい気分だ」

 

 乱雑に頭を掻き乱し、セットされた髪が滅茶苦茶になっていく。

 

 崩れて天然パーマ気味になった髪でも、それなりに似合っているのはやはり素材がいいからだろう。

 

 だが、その前髪の中に隠れた瞳は……これ以上ないほどに、澱みきっていた。

 

(ここまで落ち込むなんて……こうなったら!)

 

 あまりに消沈したシュウジに、愛子はふんすと気合いを入れると、体を寄せて姿勢を変えた。

 

「えいっ」

 

 シュウジの肩に小さな体で精一杯腕を伸ばし、そして力一杯引き倒す。

 

 そうするとシュウジの頭が愛子の太ももの上に収まった。目を見開くが、しかし起き上がることはない。

 

「……結局さ、俺は理由が欲しかったんだな」

 

 しばらくして、ポツリとシュウジが呟いた。

 

「生きる理由、信念を持つ理由、誰かを受け止める理由……全部欲しがって、だからルイネを失ったんだ」

「それに付き合ってくれる南雲くんたちは、本当にいいお友達ですね」

「ああ、改めてあいつらに全力で感謝したいよ……俺には勿体無いくらいの友達だから」

 

 優しく、子供をあやすように愛子はシュウジの頭を撫でる。

 

 それはまるで、かつて再会した夜の焼き直しのようだ。もっとも今は立場が逆転して見えるが。

 

 この場面を誰かが見ていれば、その微笑みに本物の女神だと言って回る。そう思えるほどに穏やかな微笑だった。

 

「だったら、それに見合うものを返さなくては。本当の友人は、持ちつ持たれつの関係を継続できるものですよ」

「そう、だな。これから先、精一杯返せるようにするよ……でも」

「?」

「まずは、ルイネに謝らないと」

 

 その言葉に、愛子は笑顔を深めた。

 

「何を謝るか、きちんと理解していますか?」

「ああ。俺の打算で傷つけたこと、カインとの関係を利用したこと……それに、ちゃんと俺として向き合わなかったこと」

 

 もう、許してもらおうなどとは思わない。受け入れてもらおうとも。

 

 ただ、謝りたい。もう一度その目を見て、心から懺悔したい。

 

 たとえ殺されることになっても、彼女の全てを裏切った自分にできる償いをしたい。そう強く願う。

 

「そこまでわかっているなら、あと一つだけ。先生からのアドバイスです」

「大盤振る舞いだな」

「ふふっ、そうですね」

 

 一拍置いて、愛子はシュウジの前髪を耳にかけてどかす。

 

 そして、窓から差し込む月光で紫色に光る瞳をじっと見て、続きを説いた。

 

「人は、常に打算と感情の両方を持っている生き物です。だからこれは北野くんの打算の部分で……」

「残り半分の感情が、まだ自覚してないどこかにあるって?」

「もうっ、先生の話を最後までちゃんと聞いてください!」

「はは、悪い悪い……でも、そうか。そんなものもあるのかな」

 

 あの時、カインにも似たようなことを言われたのを思い出す。

 

 シュウジの中には、カインからそっくり引き継いだもの以外に、何かルイネへの特別な感情があるはずだ、と。

 

 とてもあるようには思えない。信じるべき信念を失い、何もかもに迷う今のシュウジには……

 

「きっとありますよ。まだ気づいてないだけで、ちゃんと考えればいずれ見つかるはずです」

「ま、そこは自分で頑張ってみるかね」

 

 小さく、いつものように……本当の意味で普段のように笑ったシュウジは、起き上がって愛子の手を取る。

 

「ありがとう。先生のおかげで、俺は俺を少し知ることができた」

「お役に立てたのなら、先生は嬉しいです」

「本当いい先生だよ、愛子ちゃんは」

 

 カインもマリスにそのようになってほしかったと望んだかもしれない、そう思えるほどに。

 

 内心浮かべた続きを飲み込み、シュウジは愛子の手を手放すとベッドから立ち上がった。

 

「北野くん……」

「さて……そろそろ時間だ。案外待ってくれたな」

『ああ……だが、それもここまでだ』

 

 シュウジの中でエボルトが笑った、その瞬間。

 

 

 

 

 

 カッ! 

 

 

 

 

 

 外から、暴力が降り注いだ。

 

「きゃっ!?」

 

 あまりに強烈な光の本流に、愛子は両腕で顔をかばい、目を瞑る。

 

 

 ボバッ!!! 

 

 

 そんな愛子の周りで、部屋が粒子に変わった。吹き飛ぶのでもなく、崩れ落ちるのでもなく、分解されたのだ。

 

 ただ、ベッドの周りの半径数メートル。黒い血管が脈動する赤いドームによって守られた、たった数メートルを残して。

 

「……なるほど。さしずめ分解能力ってところか。強烈だな」

「ご名答です。さすがは主が恐れるだけのことはありますね」

 

 カーネイジを解き、帽子の縁で目元を隠していたシュウジと、恐る恐る目を開けた愛子は空を見上げる。

 

 

 

 そこには、紛うことなき天使がいた。

 

 

 

 銀色の翼に反射する月光に、流れるような長い銀髪と碧眼がよく映える。それを引き立たせるのは彫像のような美貌か。

 

 ノースリーブの膝下まであるワンピースに、金属の軽装鎧。両手に一振りずつ大剣を携える様はまさに戦乙女(ワルキューレ)だ。

 

「よう、神の作った人形さん。お初にお目にかかる、俺は北野シュウジ。あんたの同類みたいなもんだ」

「ノイントと申します。神の命により、あなたの命と肉体を頂戴しにきました」

「俺の肉体? へえ、()()神様のエヒトにもこの体はいい器になるってわけか」

 

 ある程度予想できたことだ。

 

 シュウジは世界を作る力を持つ、本物の女神によって作られた。つまり入れ物としては最高品質だ。

 

 例えるとするならば、今目の前にいるノイントと名乗った、エヒトの作った傀儡の戦闘人形の一点物。

 

 それ故に目をつけられたらしい。

 

「神はあなたの体を、ご降臨なさるための器としてご所望です。大人しく殺されなさい」

「はいそうですか、なーんて言うと思ったか? 生憎とまだまだこの世に未練があるんでね。全力で抵抗させてもらう」

「そうですか……でハ四肢を切り落トして持ッてイくコとニシマショウ」

 

 美しいノイントの肉体から、鈍色の物体がにじみ出る。

 

 彼女が纏う鎧よりも暗く、不気味に脈動するそれは、瞬く間にその体を覆い尽くし肥大化させる。

 

 程なくして、天上の戦乙女は筋骨隆々の怪物へと変貌した。両手と融合した双大剣と背中の翼のみが唯一の名残だ。

 

「ライオット……そうか。やはり、()()()がいるんだな」

『久シイ、ト言ッテオコウ。ソシテサヨウナラダ』

 

 翼が大きく広がり、ライオットの体が変形してそれに覆いかぶさる。

 

 瞬く間に巨大化した両翼は、月の光を完全に覆い隠した。今にもその皮膜から刃が放たれそうだ。

 

「き、北野くん……」

「動くなよ、先生。じゃないと死ぬからな」

 

 不安げな声を上げる愛子を右手で抑え、シュウジは暴虐を見上げた。

 

「……カーネイジ。力を貸してくれ」

 

 愛子を制した手を胸に起き、シュウジが呟く。

 

 かつてカインの刃となった殺戮の怪物は、その意思に従って宿主の体をライオットと同じように包み込む。

 

 瞬く間に二メートルを超える、無駄なものを全て削ぎ落とした肉体美を誇る人型へとなったそれは、裂けた口を笑みに歪める。

 

『サア、壊シ合オウカ』

『同ジ禁術ヲ使ッテ作ラレタダケノ劣化コピーゴトキガ、敵ウト思ウナ!』

 

 悪の感情が形を成した怪物と怪物の殺し合いが、幕を上げた。

 

 




読んでいただき、ありがとうございます。

次回……デンジャー!

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