星狩りと魔王【本編完結】   作:熊0803

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シュウジ「うす、俺だ。なんかラブコメしてんだけどあの二人」

エボルト「まああれだ、後半に入ってからギャグもイチャイチャも足りんしな。清涼剤ってとこだ」

龍太郎「それより俺、メルドさんと戦うのかよ……」

シュウジ「頑張れ脳筋。それじゃ、今回は俺の戦いだ。せーの、」


三人「「「さてさてどうなる王都侵略編!」」」


カーネイジVSライオット

 夜空の中、赤と鈍色が交差する。

 

 

 

 けたたましい音とともに打ち付けられる二つの刃は、それぞれ全力で互いを殺しにかかっている。

 

『グルァアアアアア!!!』

 

 ライオットの背中から、硬質化した羽という名の弾丸が大量に排出される。

 

 今カーネイジが立っている足場ごと破壊しようとしているその質量に、彼は鋭くした触手で対抗した。

 

 的確に空中で曲がった触手たちは刃の側面を叩き、軌道をずらす。全てが足場の外側数ミリを通過した。

 

 そのまま関節と心臓を貫くために、鎌の形に変形して迫るが……しかし、両手の大剣に防がれる。

 

 それどころか、ノイントの持つ分解能力によって強靭なカーネイジの結合が解け、中でばらけた。

 

『フン、脆イワ!』

 

 ライオットの腕が何メートルも伸び、鞭のようにしなる豪腕が触れるもの全てを分解する剣撃を放つ。

 

 それ自体が強靭な筋肉であるライオットの腕は、この世界の人間ならば到底反応できない神速を発揮していた。

 

 

 

 ガァンッ! ギィンッ! ガゴンッ!

 

 

 

 その全てを、カーネイジは鎌に変形した無数の触手で打ち返す。

 

 無論触れた先から分解していくので、硬質化するのは接触する一瞬のみ。そうすることでいなすのだ。

 

 一度でも触れれば鎧でもあるカーネイジは体が解けてパワーダウンし、不利になる上での戦いだった。

 

「き、北野くん……」

 

 そのその後ろ姿を見ながら、愛子は不安げに生徒の名を呼んだ。

 

 ヴェノムを失っている今、彼女は戦うことはおろか、二体の応酬を目視することすらできない。

 

 そもそも自分がここにいなければ、彼はもっと自由に戦えていただろう。愛子の前から一歩も動いていない。

 

 いざという時に足手纏いになっている自分に悔しさを感じつつ、せめて負担にならないようにしようとじっと耐えた。

 

『グルァアアアアアア!』

『ガァアアアァアアア!』

 

 ライオットとカーネイジの攻防は、さらに激しさを増していく。

 

 剣撃に加えて、無限に射出される銀羽、さらに途中から加わった剣型のカーネイジの触手。全神経を研ぎ澄ませて全てに対応する。

 

 これほどの攻撃を耐えられているのは、宿主であるシュウジが優秀かつ、カーネイジとの親和性が高いからだ。

 

 シュウジの肉体はカインを目覚めさせる器たる彼の人格、それを守るための第二のシェルターでもある。

 

 当然カーネイジとの相性も良くなるように変質しており、だからこそこの暴れ馬をシュウジは自由に扱える。

 

 今この瞬間も、衝動にまかでて飛び出そうとするカーネイジを無理やり操ってここにとどまらせているのだ。

 

 それこそ、()()()()()()()()()()()()()()ライオットと互角に渡り合えるほどにその相性は良い。

 

『イイ宿主ダナ。ダガ、背後ハガラ空キダ!』

 

 剣撃の対応に意識を割いているカーネイジの周りに、突如として無数の魔法陣が現れる。

 

 それは先ほど弾いて落ちていったはずの、ライオットの銀羽だ。縁を描くようにくっついたそれが魔法陣になっていたのだ。

 

 不都合な情報を持っている愛子もろとも殺すつもりなのだろう、超威力の魔法が発射された。

 

『ナンノ話ダ』

 

 しかし、カーネイジは全く慌てることもなく、それまで動かさなかった右手を振り上げた。

 

 その瞬間、人間の頭ほどのサイズのブラックホールが複数出現し、魔法を飲み込んでしまう。

 

 おおよそ人が扱えるものではない宇宙に起こる現象を、精密な、それも複数同時に操作する力に愛子は息を呑む。

 

『──マズハ一本ダ』

 

 

 ザンッ!

 

 

 しかし、それは煌く剣閃にカーネイジの右手が切り飛ばされたことにより、絶望の呻き声に変わった。

 

 いつの間にか目の前にいるライオットに、そんなはずはと愛子は空を見る。するとそこにもライオットがいた。

 

 次の瞬間、空のライオットが形を崩し、中からノイントの形をした銀羽の集合体が姿を表す。

 

 羽の上から皮をかぶせ、ダミーを作っていたのだ。ブラックホールの形成に意識が外れた一瞬で移動したのだろう。

 

 完全な不意打ちを決めたライオットは、さらに四肢を切り裂こうと左腕から両足の付け根を狙った軌道で剣を振るう。

 

 カーネイジはそれを、辛うじて左手から展開した盾で防いだ。ライオットは避けた口を歪めて嘲笑う。

 

『フン、コノ程度カ。所詮、貴様ハ出来損ナイヨ』

『グ……』

 

 カーネイジの右手の断面からは、血が噴水のように出ていた。それはライオットの胸に付着し、表面を伝う。

 

 ライオットはそれを長い舌でべろりと舐めとると、カーネイジに見せつけるようにさらに口元を笑顔で開いた。

 

『サア、マズハ肉盾を返シテモラウゾ!』

 

 ライオットを抑えるのが精一杯のカーネイジ、その隙を逃さずにライオットは愛子へ触手を伸ばした。

 

 人質にするつもりなのだろう、自分に迫る鈍色の恐怖に愛子が固まっていると……ドッ!と床の一部が崩れた。

 

 そこから赤い鎌が宙に向けて弾丸のように伸び、伸ばしたライオットの右腕を切り飛ばす。

 

『ガァア!?』

『コレデ相子ダ』

 

 悲鳴を上げて後ずさるライオットに、さらに足場を支える崩壊しかけた塔から大量の触手が飛び出す。

 

 それは巨大なドームを形成し、内側にライオット、カーネイジ、愛子を閉じ込める。即席の牢獄だ。

 

 あまりに夥しいカーネイジの量に、ライオットは三日月型の目を見開いて悟る。

 

 すなわち、誘い込まれたのは自分だと。

 

『ソノ体、喰ワセテモラウゾ』

 

 大量の刃が、全方位からライオットに襲い掛かった。

 

『クソガァアアアァアッ!!!』

 

 ライオットは光の屈折を利用して空中に隠していた銀羽を全てかき集めると、一瞬で魔法陣を形成した。

 

 そして、ライオットを中心に〝劫火浪〟という超広範囲かつ、超高温の火属性魔法がうねりをあげて放たれる。

 

 数百メートルに及んだ炎の津波はカーネイジのドームをその常識外の熱量で蒸発させ、【神山】そのものを昼のように照らす。

 

「きゃぁああああああっ!?」

 

 自分の体が焼け焦げる様を幻視し、愛子は悲鳴を上げて両手で顔を守った。

 

『フン、クダラヌ策ヲ……』

 

 魔法が発動する一瞬前に退避していたライオットは、綺麗に切り飛ばされた片手へ目を向ける。

 

 断面からライオットの肉体が盛り上がり、手は元に戻った。再生した拳を握り、ライオットは消えつつある大火へ目を向ける。

 

 そして、完全に炎が消えた時……怪物は目を見開いた。

 

『……ナンダト?』

 

 距離を置くために苦し紛れに使った、とっておきの大魔法。

 

 その直撃を受けたはずのカーネイジたちは……生きていた。

 

「え、あれ……? 私、死んでない……?」

 

 恐る恐る目を開いた愛子は、何事もない自分の体を見て困惑する。

 

 それからふと、何かが自分を守るように周りを覆っていることに気がついた。

 

 彼女が気がついたことをきっかけにするかのように、それはどろりと溶け落ちていき……驚きの光景が愛子を待っていた。

 

「…………………………」

 

 なんと、カーネイジの体が半ば吹き飛んでいたのだ。まるで水が弾けた瞬間のような形で、空中に静止している。

 

 共生生物は宿主の肉体の表面に張り付くように形を取るせいか、高音や爆音に触れると結合が弱くなる。

 

 先ほどの〝劫火浪〟は、まさにそのような轟音を伴っていた。それでこんな状態になったのである。

 

 更に、そして愛子を守っていたものとは、カーネイジの体を変形させたものだった。それで余計に密度が下がったのだろう。

 

「き、北野くんっ!?」

『多少溶ケタダロウガ、半分デモ残ッテイレバ後デ復元──っ!?』

 

 そこで、ライオットはもう一つの違和感に気がついた。

 

 半身が弾け飛んだまま、煙を上げて静止しているカーネイジ──その中に、焼けたシュウジの体がない。

 

『ドコニ──!?』

『ここだ間抜け』

 

 声を発そうとしたライオットの胸を、ステッキの石突きが貫く。

 

 微弱に振動するそれは、ライオットの動きを封じ込めた。

 

 また同時に、中にいるノイントの胸部……彼女が動くための魔力を供給される器官をも的確に破壊している。

 

『バカ、ナ……!』

 

 ライオットが目を見開き、後ろを振り向けば──そこには飛行モードになったマシンビルダーに乗った、エボルブラックホールがいた。

 

『騙し討ちは俺の得意分野だぜ?』

『オ前ゴトキニ、コノ俺ガァアアァァアアアア!!!』

『残念だったな。そらぁっ!』

 

 エボルがステッキに魔力を送ると、ギミックが起動して振動が爆発的に増幅する。

 

 ジェット機の音を十倍にしたような振動を直接叩き込まれ、ライオットは空中で弾け飛ぶ。

 

「なっ……!」

 

 中から出てきたのは、無表情だった美貌に驚きを浮かべるノイント。

 

 供給機関を破壊されて動けない彼女は、ただエボルがドライバーのレバーを回すのを見ることしかできなかった。

 

 

 

《Ready Go!》

 

 

 

『あばよ。同類に会えて嬉しかったぜ』

「イレギュ、ラァアアァァアアアア!!!」

 

 

 

《ブラックホールフィニーッシュ! Ciao(チャーオー)?》

 

 

 

 無慈悲な一撃が、ステッキの引き抜かれた胸部に叩きつけられる。

 

 何者をも滅ぼす虚無のエネルギーは、わずかに稼働していたノイントの機関を破壊し──その胸に大穴を残した。

 

「──」

 

 文字通り風穴を開けられたノイントは、もともと無機質だった目から光を失い、その機能を停止させていく。

 

 やがて滞空手段だった翼が消え、教会の建築物が密集する場所から少し離れた山腹へ落下していったのだった。

 

『忍殺、なんつってな』

 

 ほどなくして、エボルの頭部に搭載されたセンサーが、墜落したノイントの状態を解析して死んだことを示す。

 

 それを確認しし終えてから、シュウジはボトルを抜いて変身を解除した。

 

「ふぃ〜、体を狙われるのは精神的にきついぜ」

『ヤラナイカ♂』

「断固お断りします」

 

 エボルトのボケに返しつつ、シュウジは自分を見えげている愛子に手を振った。

 

 ほっと安堵の笑みを浮かべた愛子は、カーネイジの影から出てきてブンブンと両手を振ってくる。

 

 ややテンション高めなリアクションに笑いつつ、シュウジはちらりと地上で沈黙したノイントを見下ろした。

 

(とりあえず、面倒なのは一体排除。あとは()()()()()()が順調に進むことを祈るばかりだな。あとは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……)

 

 王宮を一瞥し、それから愛子のところへ戻ろうとして──彼女の背後で腕を振り上げる影帽子のようなものに目を見開く。

 

「北野くーん!」

「愛子ちゃん、逃げ──」

 

 油断しきっている愛子へ、シュウジは警告を飛ばそうと口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──どこにも逃さないよ。君を、だけどね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズプリ、と音がした。

 

「っ……」

 

 シュウジは、ゆっくりと自分の胸を見る。

 

 そこに、刃が生えていた。細剣と思しき凶器は的確に心臓を貫いており、先端から血が滴る。

 

 茫然と愛子の方を見ると──唖然としている彼女の最後に立っていた影帽子は、風に吹かれて消えていく。

 

「ご、ぷっ……!?」

 

 騙された。

 

 そう知覚した瞬間に遅れて痛みがやってきて、シュウジは喉をせり上がってきた血を吐き出す。

 

 ありえない。心許ない防御を補うために、シュウジは常時魔法や毒物、物理攻撃に対する結界を張っている。

 

 それをこうも易々と食い破り、一流の暗殺者の技能を受け継いでいるシュウジにさえ悟らせぬ気配遮断。

 

 刃を掴み、後ろを振り返れば……いつの間にか、マシンビルダーの上に人がいた。

 

「簡単に騙されてくれたね。そこで他人に気を取られるのが、〝あの子〟と君の違いだ」

「あんた、は……」

 

 焦げ茶色のローブを纏ったその人物は、ごく軽く手甲に包まれた手を前に押す。

 

 すると、致命傷を負っていたシュウジはいとも容易く足を踏み外し、愛子のいる足場に落ちていった。

 

 狭い足場の上に叩きつけられ、受け身を取る力も出せないシュウジの体が勢いよくバウンドする。

 

 そのまま転げ落ちる寸前で、身体強化の魔法を使った愛子が受け止めた。

 

「北野くん!しっかりしてください!死んではいけませんっ!目を開けてください!」

「あい、こ、ちゃん……」

 

 必死に呼びかける愛子に、この世界にきて一番と言っていい傷を負ったシュウジが、力なく手をあげる。

 

 刃に添えられていたそれは斬り裂かれ、血に染まっていたが、愛子は躊躇なく掴んで名前を呼んだ。

 

 そんな彼女の腕の中で、シュウジの体からドクドクと血が流れ続ける。技能が発動しているが、遅々として再生は進まない。

 

「そんな、どうすれば……」

 

 服は赤く染まり、血溜まりが出来ていく。愛子はどうすればいいのかわからずに、ただ困惑した。

 

「刺すのと同時に、致死性の毒を打ち込んだ。もう彼は助からないよ」

「っ!」

 

 気がつけば、そこに人が立っていた。

 

 愛子が顔を振り上げると、マシンビルダーに乗っていたはずのローブの人物がいる。いつの間にそこにいたのか。

 

 声音からして男と思しきその人物は、鞘に収まった細剣を杖のように床について亡霊のように佇んでいる。

 

「あなたは、誰ですか……!どうして北野くんにこんなことを……!」

「〝アベ……ル〟…………」

 

 怒りを顔に浮かべる愛子とは裏腹に、浅い呼吸を繰り返すシュウジが搾り出すような声で呟く。

 

 その言葉に、愛子は驚愕をあらわにした。マリスの記憶の中に同じものがあったからだ。

 

「アベル、って……まさか」

「僕のことについても知っているのか。いいや、そうでなくては〝あの子〟の記憶とは言えない。〝あの子〟は、僕が選んだのだから」

 

 愛子の疑問に答えるように、やや覚束ない手付きでその人物はフードを取り払う。

 

「う……そ…………」

 

 

 

 そうして出てきた顔に、愛子は息が詰まるような感覚を覚えた。

 

 

 

 多少整っているものの、人ごみに紛れればわからなくなるような、そんなどこにでもあるような顔。

 

 

 

 だが、シュウジと彼女にとって……否、〝カイン〟と〝マリス〟にとって、その顔は誰より印象的だ。

 

 

 

 何故なら──目蓋を固く閉じたその顔は、カインと瓜二つだったのだから。

 




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