物語を描くことは楽しくても、投稿することに微妙な気持ちになっているのは何故なのか
エボルト「エボルトだ。前回は凄まじいカミングアウトがあったな」
シュウジ「さらっと自分の行動から話を逸らしていくスタイル」
エボルト「いい悪役ぶりだろ?そういう役は得意なんだ」
雫「鈴が完全に固まってるのだけど……」
ハジメ「なにはともあれ、今回はシュウジの方に視点が戻る。それじゃあせーの、」
四人「「「「さてさてどうなる王都侵攻編!」」」」
「アベル……先代、〝世界の殺意〟……」
男の名は、アベル。
家の傀儡だったカインを〝世界の殺意〟として育て上げ、千年の生を終えて死んでいったはずの男だった。
「ごふっ……ライオットがいる時点で……あんたもいると……思ってたよ……」
「肯定しよう。それでも防げなかったのは、君が未熟だったからだ」
心の底から驚きに支配された二人の前で、アベルは冷徹に告げる。
ヴェノムやカーネイジ、そしてライオットなどの禁術で生まれた魔法生物は、宿主と長く離れると死ぬ。
故に、この世界のどこかに必ずアベルがいることをシュウジは薄々気がついていたのだ。
「あんた、も……《獣》か…………」
「肯定しよう。我が名は《憤怒の獣》──僕は蘇ったその時から、怒りに震えている」
蘇った、という言葉にはさほど二人は驚かなかった。
マリスが世界を滅ぼし、輪廻転生のシステムは壊れた。管理されていた歴代の魂がどこに行こうと不思議ではない。
そうだとしても、考えうる中で最悪の再会……いいや、出会い方にシュウジは皮肉げに笑った。
「
「……はは、さしずめ、ご先祖様としてケジメ付けに来た、ってか……」
「──肯定する」
弱々しく皮肉を言ったシュウジの言葉を、アベルは肯定した。
「あの家の始祖として、先代の〝世界の殺意〟として、僕はあの子の行いを貶めた女神に憤怒する。眠るはずだったあの子を呼び覚ますために生み出された君に憤怒する」
「そんな……!」
あまりに独善的かつ自分勝手な言い分に、愛子は怒りとも悲しみともつかぬ感情で悲鳴のように叫ぶ。
しかし、マリスの記憶を通して彼女は知っている。この男が今の自分では到底叶わない、化け物だと。
「でも、どうして彼女のことや、北野くんの正体を……!」
「我が権能は〝
それがエヒトの眷属として蘇ったアベルの力。裁きを下す相手に対する情報、過去、全てを暴く異能。
生まれつき盲目であり、己の目とするために
「謝罪はしない。ただこの
「待ってください!」
盲目の獣が杖をつき、一歩踏み出すと、愛子がシュウジを庇うように前に出た。
「お願いします、北野くんを見逃してあげてください!」
「否定する。既にあの女神と通じていない君に用はない、そこをどけ」
「彼は、必死に生きようとしているんです!悩みながら、葛藤を抱えながら、それでも進もうとしているんです!あなたも世界のために戦ったのなら、どうか未来ある子供の命を奪わないでください!」
「愛子ちゃん……」
シュウジは、目を見開いた。
膝立ちになった小さい体は小刻みに震え、シュウジの返り血で濡れた顔は今にも泣き出しそうな程に引き攣っている。
間違いなく、愛子は恐怖を抱いている。その気になれば簡単に自分の首を飛ばせるアベルを前にして、それでも立っているのだ。
ただひとえに、シュウジを守るために。マリスのことなど関係なく、教師として。畑山愛子として。
「彼を殺すというのなら、先に私を殺しなさい!」
「ではそうしよう」
そんな愛子の細い首を、銀色の手甲が鷲掴みにした。
目は閉じているというのに迷いのない動きで首を絞められたことに瞠目し、愛子は苦しさに喘ぐ。
「あ、ぐ……」
「僕は無用な殺しは好まない。だが考えれば、君はヴェノムを使役する。不穏分子になりかねない。だから粛清する」
あっさりと愛子をも殺すことを許容したアベルは、杖を持ち上げると鞘を取り払い刃を抜く。
その切っ先を、愛子の胸へ定める。アベルには掴んだ首を介して、早まる心臓の鼓動がはっきりと聞こえていた。
「では死ね。あの子の安寧のために」
「くそっ、愛子ちゃん!」
細剣か握られた手が引き絞られ、愛子の柔肌を貫く光景を、シュウジは何もできずに見つめて……
「なーんてな」
いることは、なかった。
アベルの体に衝撃が走る。彼は閉じていた目を見開き、思わず愛子を持ち上げていた手を緩めた。
「げほっ、ごほっ……!」
数秒とはいえ、酸素を取り込めていなかった肺は激しく空気を要求する。
「よう、平気か愛子ちゃん?」
そんな愛子に、陽気な声がかけられる。
「はぁ、はぁ……北野、くん……?」
「おうさ、呼ばれて飛び出てジャジャジャジャン、俺ちゃんだ。ひやっとした?」
アベルの背中からひょっこりと顔を出したのは、いつものように不敵に笑うシュウジ。
その右手に握られた白いナイフ……〝抹消〟は、最初に彼がそうしたようにアベルの胸を貫いている。
驚いて愛子が後ろを振り向くと、血みどろのシュウジがニヤリと笑った。
「い、一体どういう……」
二人のシュウジに愛子は困惑する。
そんな愛子の目の前で、瀕死だった方のシュウジの髪が白く、目が鮮烈な赤へと変化していった。
「ドッキリ大成功〜、なんつってな。驚いたか?」
「え、エボルトさん!?」
「そういうこと。まっ、今日は騙し討ちのオンパレードってわけだ」
「──なるほど。見事な不意打ちだね」
シュウジたちの目の前で、アベルがどろりと溶けて鈍色の物質になった。
「っ!」
ほとんど反射的にナイフを頸動脈近くに置くと、甲高い音を立てて紫色の細い刃を受け止めた。
いつの間にか横にいたアベルに、シュウジの頬を冷や汗が伝う。
あと一瞬遅ければ、シュウジの首は某吸血鬼に体を奪われた男のように空気の通りが良くなっていただろう。
自分の首に穴が開くぞっとしない光景を想像し、シュウジはナイフを握る手に力を込め直す。
「大したカモフラージュだ、と言っておこう」
「あんたこそいい不意打ちだ。俺のテンションがシリアスモードだったらマジに食らってた、ぜっ!」
死角……と言ってもアベルには全て見えていないのだが……からカーネイジで作った鎌を振るう。
アベルはそれを、まるで当然のように回避した。そのまま空中で一回転し、足場の縁に着地する。
「さて、どうするかね……」
〝抹消〟を消し、エボルトと合体するとアクノロギアのナイフに持ち替えてアベルを見上げた。
(とは言うものの、俺アベルの実力ほとんど知らないんだよなー……)
余裕じみた顔をしているものの、シュウジはわりと焦っていた。
というのも、彼の持つカインの記憶にはアベルの戦闘能力についての情報がないのである。
アベルはカインに己が先祖であることと、〝世界の殺意〟に必要な善性以外の一切を教えなかった。
そのため、カインが目で見て知った盲目であること、ライオットの存在、細剣を使うこと以外は知らない。
(無論、〝世界の殺意〟に選ばれるくらいだからアホみたいに強いんだろうが……それに)
「くふっ……」
「北野くん!?」
血を吐き、膝をつくシュウジ。愛子は狼狽える。
「だいじょーぶだいじょーぶ、ちょいとかすっただけだ」
「いや、明らかに平気じゃ……」
「気にしなさんな。あんたはそこから動かないことだけを考えてくれ」
口元を拭うシュウジの背中には……赤いシミがくっきりと広がっていた。
最初の不意打ち、シュウジはあれを完全に躱していたわけではない。
最後まで貫かれる直前、その切っ先が心臓の表面を傷つけた所でなんとかエボルトと変わった。
そして空間魔法で空間の隙間に隠れていたのだが……少量ながらも侵入した毒は確実に体を蝕んでいた。
『俺の毒に対する耐性がなかったら危なかったな』
「あの剣、相当ヤバイぜ。それこそこのナイフに匹敵するレベルの代物だ」
一瞬で人間を消滅させるような毒を生成するエボルトと合体してなお、その毒はシュウジの体を蝕む。
おまけに、顕現するだけで消耗する〝抹消〟を使ったせいか、肉体が疲弊してかなり危険な状態だった。
「つーかよ、ご先祖様。あんたはさっきライオットを囮にしたが、〝抹消〟を打ち込んでも消滅しなかったってことは……」
その先を言うのを、シュウジは一瞬ためらった。
だが意を決して、アベルを睨みあげそれを告げる。
「あんた……
「──いかにも」
アベルが細剣を持ち上げ、その柄頭にはまっているものを見せつける。
紫色の刀身とは対照的な、美しい白の宝石。何物をも漂白し消し去る、絶対の純白。
アベルがその手に握っているのは紛れもなく、シュウジがカインから引き継いだものと同じ──〝抹消〟の力だった。
「我がもう一つの権能、それがこの力。〝世界の殺意〟としての僕の概念が昇華されたもの」
「どこのシリーズの英霊だっつーの……とことん相性が悪いなオイ」
これでシュウジのアドバンテージは消えて……否、圧倒的な不利になった。
あと一つ、カインがアベルについて知っていること……それは、彼が〝抹消〟を自在に扱えること。
シュウジがエボルアサシンを作り、命を削ってようやく可能にできるそのことを、アベルは生身でできる。
『おい、早めに解毒しないとまずいぞ。エボルに変身しろ』
「そりゃわかってるがな、奴さんが変身する時間をくれるとは思えねえ」
目は見えていないはずなのに、アベルの殺気はまっすぐにこちらに向けられている。
下手に動けば、その瞬間アベルは仕掛けてくるだろう。迂闊なことはできない。
「チッ、どうしたもんかね……」
「質問する」
「あ?」
「君は、なぜ生きようとする」
突如、アベルがそう問いかけてきた。
いきなり要領を得ない質問をされたことに、シュウジは表面上は無反応を装いながらも混乱した。
「もはや君の中にあの子はいない。それは君の存在意義が既に成就されたことを意味する。ならば抜け殻である君に生きる意味はないはずだ」
「……随分と勝手なこと抜かしてくれるな」
「君は不必要だ。あの子ではなく、そして君という人格を作るために使われた者たちでもない。君には何もない。だというのに、なぜ抗う」
実に身勝手な理論だ。
彼にとってシュウジは子孫であり弟子でもあるカインを、無理やり目覚めさせた忌々しい道具でしかない。
故に、憤怒と事実をもってその存在を否定する。お前はこの世に存在してはいけないのだと、無価値なのだと。
「誰でもない……ね。はっ、確かにそうだな」
「北野くん……?」
自嘲気味に笑い、シュウジはアベルの言葉を肯定した。
「確かに、俺の全ては作られたものだ。何もかも借り物、所詮中身が抽出された後に残った果物の絞りカスみたいなもんさ」
北野シュウジに、自分で至ったものは何もない。
信念も、理論も、感情も、力も、何もかも誰かから引き継いだもの。
微かに残る、器としての概念を補強する記憶なき存在たちの力がそれを証明する。
「だけどな……こんな俺にも、たった一つ培ったものがあるんだよ」
「道具である君に、何が積み重ねられると?」
自らの胸に手を置き、不敵に笑って。
「それは、仲間だ」
絶対の確信を込めた声で宣言した。
「俺自身には何もない……それでもあいつらは、空っぽの俺を受け入れてくれた」
力や記憶など関係ない、ずっと共に生きてきた北野シュウジが必要なのだと、親友は言った。
何もかもを取り払ったとき、たったその一言だけがシュウジの胸の中に強く根付いていた。
「俺はカインみたいな絶対悪にもなれないし、桐生戦兎みたいな正義のヒーローにもなれない。けど、守りたいものの一つくらいはある」
本当の自分である男のように、たとえ世界を破滅させる寸前まで追い込んだとしても貫いた志はない。
エボルトの作った、何度も打ちのめされ、それでも愛と平和のために戦った男のような信念は持ち合わせていない。
けれど、ありとあらゆる物語で語り尽くされたような、ありふれたものだけはあった。
「たった一つしかない俺の宝物。それをあの神様ヅラしたクソ野郎から守るためには、まだ死ねないんだよ」
「では君は、仲間のために死の運命に抗うと?」
「いやいや、そんなご大層な答えじゃないさ。こいつは俺の
真実を知ろうと変わらなかった、北野シュウジの願い。
平和な世界へハジメたちを帰す。その目標の成就こそが、受け入れてくれた彼らへの唯一の恩返し。
こんな自分にはもったいないほどに大切だから、他の全てを利用して、犠牲にしてでも守り通したい。
そう、
「この命には、まだ利用価値がある。あいつらを望む未来にたどり着かせために、俺は俺の命さえ道具にする」
たとえその先に自分がいなかろうが、死んでいようが
ただ今、この瞬間。
目標半ばで死ぬことだけは、許容できない。
「だからこの命はやるわけにはいかねえんだ。あんたらがいくら殺したくても、まだ捨てるには使いどころが残ってるもんでね」
「……破綻しているな。それは利己的な破滅願望にすぎない。詭弁だ」
「だからそう言ってんだろ1,000歳超えてるクソジジイ。俺が俺の命を使う分には納得するが、あんたらに奪われるのは勘弁ってことを、その錆び付いた頭によーく覚えときな」
中指を立てて笑うシュウジ。無論それが見えているわけではないが、アベルは眉間に皺を作った。
「……やはり悍ましい。そのような低俗な理由であの子の力を使うことは許さない。君を速やかに粛清する」
「へいへい、聞き飽きたよ。御託はいいからさっさとかかってきな、骨董品」
挑発するシュウジに、怒りを纏いながらアベルが襲い掛かろうとした──その時。
パンッ!!
シュウジの顔の横を、何かが通り過ぎる。
音速を超えるそれをアベルは察知し、空気の振動で軌道を読むと細剣を振るって斬り捨てる。
カラカラと音を立てて足場に落ちたのは……真っ二つになった銃弾。
パンッ! パンッ! パンッ!
しかし、一度で終わらず何度も謎の銃撃がアベルを襲う。
その尽くを切り捨てた時、アベルは数歩後ろに下がっていた。
「……これは」
「相変わらず凄まじい剣技だな」
「「っ!?」」
後ろから聞こえた覚えのない声に、シュウジと愛子が振り向く。
三人以外誰もいなかったはずの、標高八千メートル上の足場。そこにはいつの間にかバイクが止まっていた。
バイクにまたがり、漆黒の銃を構えているのは老齢の男。その赤い瞳が鋭くアベルを見据えている。
「あんたは、ハジメたちの言っていた……」
「南雲くんたちのお知り合い……?」
「……よう、北野シュウジ。こうして顔を合わせるのは初めてだな」
目線を移し、こちらを見る男。
アベルに向けていたものとは異なり、そこには年相応の柔らかい感情があった。
まるで何かを懐かしむような、やっとほしいものを見つけたようなその微笑に、どこかシュウジは既視感を感じる。
「あんた、まさか……」
「おっと、お喋りもここまでだ。こいつは俺が相手するから、さっさと逃げな」
「どわっ!?」
「きゃっ!?」
バイクから降りた男はシュウジと愛子の襟首をまとめて掴み、そのまま座席へと乗せる。
「じゃ、またな。下に出迎えが待ってるはずだ」
ポンと軽く叩かれたバイクは、エンジンをかけていないにもかかわらず突然マフラーを嘶かせる。
そのまま一人でに反転すると、反射的にハンドルを握ったシュウジと、その体に抱きついた愛子を乗せて発進した。
「ちょ、おいおい嘘でしょ────ー!?」
「きゃぁああああああ──────!」
悲鳴を上げながら、足場から下の地上へ降りていく二人。
やがて、完全に声が聞こえなくなった所で男はアベルに振り返った。
「さて……これで二人きりだな?」
「……君はこの時間軸の人間ではないな。それに、もはや人間でもない」
「化け物扱いは若い頃から慣れてるもんでね。むしろ大歓迎さ」
低い声を発するアベルに、男は余裕そうに肩をすくめる。
しかし、その態度も一瞬のこと。表情は氷のように冷たくなり、好好爺然とした雰囲気は消え去る。
その目には、強い感情が宿っていた。まさしく仇を見る、怒りと憎しみに満ち溢れた者の目だ。
「この時を、五十年待った。お前を殺せる瞬間をな」
「……なるほど。たしかに
アベルは細剣を、男は黒銃といつの間にか握っていたもう一丁の銃を胸の前で構える。
「殺させてもらうぞ──我が友を狂わせた獣よ」
「我が憤怒を成就するために君を殺そう、未来からの復讐者よ」
憤怒の化身と憎悪の男が、ぶつかり合った。
心折れそう。