シュウジ「シュウジだ。なんやかんやで逃げられたが、あの爺さん……」
雫「ねえ、それより鈴が私の背中に隠れてるんだけど」
鈴「うぅ……!」
エボルト「顔真っ赤だな。まあ龍太郎のやつに任せるとして、今回はクラスメイトたちの最後の話だ。それじゃあせーの、」
三人「「「さてさてどうなる王都侵攻編!」」」
鈴「……龍っちのばか」
「………………………………ふぇっ?」
鈴の顔が、真っ赤に染まった。
そんな場合ではないとわかっているはずなのに、あまりに唐突なカミングアウトに羞恥心が溢れ出す。
目を見開いて固まった鈴の隣で、光輝もあんぐりと口を開けたまま停止した。そんなこと全く知らなかったのである。
「りゅ、龍太郎、お前……!?」
「ああそうさ、俺を動かしているのはたった一つの意地だ!谷口の前で負けるなんざ、俺のプライドが許さねえ!こいつの前でだけは、負けた姿は見せられねえ!」
「ふぇっ、あっ、えとっ、そのっ、うええええっ?」
立て続けに行われる公開告白に等しい言葉の羅列に、鈴は一瞬で状況を忘れて視線を右往左往させた。
『ク、クククク、フッハハハハハハハハハハハハハ!!!』
そして、スタークが爆笑する。
腹を抱えて、たまらないというように近くにあった柱を拳で叩く様は、心の底から楽しんでいるように見えた。
『これだから人間は面白い!たった一つの感情で簡単に可能性を生み出す!ああまったく、憎らしいほどに面白いぞ!』
「ちょっと、スターク?」
眉を潜める恵里。突然様子の変わったスタークに何やら嫌な予感を感じた。
そんな恵里の予感はすぐに的中した。
『おい龍太郎。これをやる』
「っと……これは、スクラッシュゼリー?」
スタークに投げ渡された、竜のモチーフが印刷されたスクラッシュゼリーを見て訝しむ龍太郎。
『そいつを使えば、お前はパワーアップできる。もっともその分急激にハザードレベルが上がり、お前は苦痛に苛まれるだろうがな』
「ちょっとスターク、どういうこと?僕たちを裏切るつもり?」
『なに、ワンサイドゲームもつまらないからな。ちょっとしたパワーバランスの調整だ』
肩をすくめるエボルト。相変わらず読めない行動に恵里は舌打ちする。
「……ハッ、上等だ。これで強くなれるってんなら、喜んで使ってやらぁ!」
「龍太郎、待てっ!」
《ロボット・ゼリー!》
光輝の制止も聞かず、龍太郎は傷だらけの体のままドライバーにゼリーを叩き込んだ。
負傷した状態での連続した変身は非常に危険であり、ドライバーの表面に火花が散るが、龍太郎は気にしない。
「変身!」
《ロボットィイングリス!ブゥウラァッ!》
再びグリスに変身した龍太郎は、握ったままだったスクラッシュゼリーを見ると最後の覚悟を決める。
『俺に力を寄越せ……!』
ロボットゼリーを引き抜き、そのスクラッシュゼリーを挿入口に装填した。
《ドラゴン・ゼリー!》
『ぐぁあああああああああッ!!!』
ドライバーがゼリーを認識した瞬間、グリスの全身に先ほどとは比べ物にならない衝撃が襲い掛かった。
体の内側で、抑えきれぬほどの何かが荒れ狂う感覚。激しく全身が放電し、急激にハザードレベルが上昇していく。
それはグリスの体を破壊し、無理やり進化させていった。
『これ、しきぃいいいい!!!』
それさえも無理やり耐え抜いて、グリスは震える両腕を天へ掲げる。
すると、ドライバーから二つの黄色い物体が飛び出し、その硬く握り締めた拳に絡みついた。
《ツインブレイカー!》
やがて姿を現したのは、二つのツインブレイカーだった。
『いくぞコラァアアッ!!!』
『ぬ……!』
文字通りとなったツインブレイカーを手に、グリスは再びローグへと向かっていくのだった。
「はぁ、なにあれ。つっまんない。スタークは相変わらず訳分かんないしさ」
先程とは一線を画した猛攻をローグに叩きつけるグリスを見て、恵里は心底つまらなさそうに吐き捨てた。
その声は、龍太郎の劇的なパワーアップに驚いていた光輝と、突然の告白に思考停止していた鈴を現実に引き戻す。
今にも舌打ちの一つでもこぼしそうな目でこちらを見た恵里は、鈴に目を向けた途端に歪に笑う。
とてもおぞましい笑い方に、かつての親友であることも忘れて鈴は本能的に悲鳴を上げそうになった。
「そうだ、いいこと思いついた。ねえ鈴、最後にとっても素敵な役目をプレゼントするよ」
「役、目……?」
「もしもグリスが勝ったとして、帰ってきたら好きな女の子に殺されるとしたら……どんな気持ちかなぁ?」
ひゅっ、と鈴は息を呑んだ。
恵里は、鈴を殺して近藤と同じように〝縛魂〟で傀儡にし、龍太郎を殺させようとしているのだ。
吐き気を催すような悪意に塗れた発想に、鈴の体は竦み上がる。人間とはこれほどまでに恐ろしいことを考えつくものか。
目の前にいるのが、恵里の姿をした悪魔にしか見えなかった。
「ふざけるな、そんなことっ……!」
「させないって? でもいいのかなぁ光輝くん。僕がちょっとその気になれば、全員今すぐ殺せるんだよ?」
「くっ…………!」
唯一の頼みの綱である光輝もクラスメイトたちを盾にされて迂闊に動けない。
(クソッ、下手に動けばみんな殺されるが、このまま黙って見過ごせば鈴が殺される! 俺は、
光輝はハッとした。
この状況までやってきて、初めて気づいた。自分が選ぼうとしていることを。他者の命を秤にかけたことを。
そして理解した。あの時、雫たちを助けるために女の魔人族を殺したシュウジの涙の意味を。
(選ぶって、こんなに辛いのか!苦しいのか!?だとしたら北野は、一体どれほど……!)
「じゃ、お別れだね」
恵里が人差し指を恵里の方へ曲げると、近藤が動き出した。
恐怖で足が竦み、得意の結界魔法もろくに使うことができない鈴は体を震わせながら近藤が槍を振り上げるのを見る。
「じゃあね、鈴。君との友だちごっこはそこそこ楽しかったよ?」
「あ……」
振り下ろされる幅広な刃に、ふと鈴の脳裏に走馬灯が走る。
これまでの短い人生の記憶、両親や地球に残してきた友だちたちのこと、クラスメイトたちと過ごした記憶。
その中には今、自分を愉悦の混じった目で見る恵里もいて。鈴の口から「ははっ」と乾いた笑いがこぼれ落ちた。
(私、今までなにを信じてたんだろう……)
平穏、友情、初めてできた好きな男。その全てを失おうとしている自分に失笑が漏れる。
そして最後に浮かび上がってきたのは、つい先程のこと。この土壇場で告げられた彼の想い。
(ごめんね、龍っち。告白の返事できないや──)
一筋の涙と共に、鈴は目を閉じて──
「──させる訳ないでしょ、そんなこと」
ザン、と何かを斬り裂く音がした。
「鈴、平気?」
「……え?」
次いで、頭上から投げかけられる聴き慣れた声。
恐る恐る鈴は目を開けて……そこに立っている人物に、これまでの人生で一番の驚きを体感した。
流麗な後ろ姿。
スラリと美しいその背中は、よく知っているものだった。
「し、シズシズ!?」
「雫!」
「光輝も久しぶり。私たち、いつも危機一髪ね?」
振り返り、頼もしい笑みを浮かべるのは──他でもない、八重樫雫だった。
手に握る黒塗りの刀…シュウジ命名〝楔丸・偽〟…からは血が滴っており、足元には……首のない近藤の体がある。
凄惨な光景であるはずなのに、どこか一枚の絵のようだと、戦女神と見紛うほどに美しい雫に息を呑む二人。
「……ごめんなさい近藤くん。仕方がなかったと言い訳はしないわ」
突然現れた、ここにいるはずのない彼女に光輝と鈴は愕然とした表情をする。
それは恵里も同じであり、眼鏡の奥でありえないと言わんばかりの目をしていたが──すぐにまた驚くことになった。
「ちぇすとぉ!」
「グガァッ!?」
巨大なハンマーが、セントレアを押さえつけていたスクエアスマッシュを殴り飛ばす。
それを振るったのは、雫同様にいつの間にかそこにいたウサミミの美少女。
「ふふん、どんなもんですぅ!」
シアは肩にドリュッケンを担ぎ、地面に落下してピクピクとしているスクエアスマッシュにふんすと鼻を鳴らす。
「なっ、どうしていきなり……!?」
「──〝嵐龍〟」
怒涛の展開は終わらない。
空に浮かぶユエの口から美声が響き──次の瞬間、猛々しい風そものものたる龍が兵士たちの体を食いちぎった。
いかな傀儡とはいえ、全身を風の刃でバラバラにされてはどうすることもできずにミンチとなる。
その上で絶妙にクラスメイトたちには魔法の効果が及んでいないのは……さすがはユエといったところだろう。
だが……咄嗟に身を引いた恵里だけは、一瞬遅れた右腕を二の腕の半ばから切断された。
「ぐぁあああああああああっ!?」
「香織さん、リリアーナさん、今です!」
「うん!」
「は。はい!」
シアの背中に隠れていた香織とリリアーナが素早く走り出し、雫の側に並ぶ。
「「ここは聖域なりて 神敵を通さず 〝聖絶〟!!」」
素早く詠唱が行われ、クラスメイトたちを守るように絶対の結界が展開される。
怒涛の展開に光輝たちが目を白黒とさせる中、セントレアを脇に抱えたシアが結界の中に飛び込んでくる。
最後にベルナージュを伴ったユエが入ってきて、完全に形成は逆転した。
「香織、みんなの治療を」
「わかったよ雫ちゃん!」
「私が引き続き結界を張りますので、香織は治療に専念してください!」
「では、私も助力しよう」
「ん、私も」
「ありがとう、リリアーナ、ベルナージュ様、ユエ」
香織が維持していた結界が消え、代わりに優秀な術師であるリリアーナの結界の上にベルナージュとユエの結界が張られる。
片や、前世は火星の王妃として絶大な力を振るった王女。片やこの世界で誰よりも魔法のエキスパートたる吸血鬼。
この二人を前にしては、さしもの恵里も切断された手を抑え、こちらにやってきたスマッシュ達を壁に睨むことしかできない。
「これでひとまずは安心、といったところかしら」
「し、雫、香織、リリアーナ……それに、君たちは南雲の……」
「遅れてごめんね。介入するのに一番いいタイミングを見計らうってユエが……」
クラスメイト達の治療をしながら、振り返ってそう言う香織に光輝はユエを見る。
「……勝利を確信した時、人は油断する。隙を突くならそこが一番」
「そ、そういうことか……でも」
もう少し早く来てくれても、と言いかけて、光輝は口をつぐんだ。
自分はあの時と全く同じで、何もできなかったのだ。ならば助けに来てくれた彼女達にそんなことを言うのはお門違いである。
「……なんでもない。助けに来てくれて、本当にありがとう」
てっきりそう言うと思っていたユエとシアは、深々と頭を下げた光輝を見て顔を見合わせる。
一方のリリアーナと香織は弾かれたように振り返って光輝を凝視し、雫は成長した光輝に口元を緩めた。
(少しずついい方向に変わってきているみたいね。以前の光輝なら、そもそも他の皆と同じように拘束されていただろうし……)
以前刀を油断なく構えながら、雫はふと【神山】の方にいる恋人に想いを馳せる。
(シュー。あなたの言葉、ちゃんと届いてるわよ。たとえその思いが、誰かから受け継いだだけのものだとしても……あの時選んだのは貴方なんだから)
雫は、シューを信じることにしたのだ。
借り物でも、残り滓でも、それでも責任をもってその力をふるい、自分たちを守ってきたのはシュウジ自身だ。
だからこそ、誰より彼を愛する女として信じ続ける。いつまでも、悩みながら前に進めるあ想い人を。
「檜山くん、大丈夫?」
「あ、ああ」
何度目かの回復魔法を行使し、香織はふうと息を吐く。
彼女の奮闘により、クラスメイト達は見事に万全の状態に戻っていた。
居残り組はぽかんと座り込んでいるが、攻略組は早くも立ち上がって結界の中で円陣を組んでいる。
彼らの顔には、困惑が浮かんでいた。無理もないだろう、兵士たちは傀儡に変わり、クラスメイトが裏切った。
だがそれ以上に生命的な危機を感じているからか、未だに残っているスマッシュ達を鋭く睨みつけた。
「ありがとうな、白崎」
「え? わっ」
彼らの援護をしようと立ち上がりかけた香織の手を、突然檜山が掴んだ。
あまりに強いその力に、不安定な体勢のまま香織は目を見開く。
そんな彼女の体は、ほんの一瞬で檜山に近づいていた。
「ああ、マジでありがとう白崎──これで届くよ」
「え?」
その時、香織が見たもの。
それは、黒い鎧のようなものに包まれた檜山の腕と……手の中でぎらりと光を放つ、ブレードだった。
まるでスマッシュのような檜山の腕に思考が固まる香織の胸に、鋭い切れ味を持つブレードが突き刺さる、その瞬間。
「させるかってんですよぉ!」
「ごはぁッ!!?」
一瞬で檜山に肉薄したシアがブレードを蹴り飛ばし、ドリュッケンでその体をかちあげた。
ほぼ全力で振り切られたドリュッケンは檜山の腹を捉えており、叩きつけられたリリアーナの結界と板挟みにする。
突然後ろで起こった事態に、振り返ったクラスメイトたちがギョッとする中シアの剛腕が勢いのままに結界をぶち破る。
ハジメやシュウジをしてバグと称するシアの膂力を前にしては、他の二枚より劣るそれは柔かったのだ。
「が、ァアアアアアアッ!!!」
すると、その肉体に変化が起こった。
実に醜い表情で叫んでいた檜山の体が煙で包まれ……そしてクワガタのような頭部のスマッシュになった。
「こいつもっ、化け物ですぅ!」
「シア、そのまま潰して」
「了解ですユエさん!どりゃああ!」
一旦ドリュッケンが引かれ、檜山──スタッグロストスマッシュの体は自由になる。
しかしそれは、束の間の解放であり……間髪入れずに叩き込まれた二撃目が全身を粉砕した。
「ギィェアアアアアア!!!」
汚い絶叫を最後に、ガクンとスタッグロストスマッシュの体から力が抜ける。
シアがドリュッケンをどかすと、どさりと地面に落ちたスタッグロストスマッシュは檜山に戻った。
「ぁ、がが……」
檜山の状態は酷いものだった。
シアの攻撃で全身の骨は砕け、筋肉は断裂し、内臓は全て破裂している。顔もぐちゃぐちゃだ(元々キモい)。
傍らには黒く染まったボトルが落ちていた。それに手を伸ばす檜山に、偶々一番近くにいた鈴が咄嗟に掠め取る。
檜山はピカソの絵のようになった顔を歪ませ、おぞましい形相で鈴のことを睨みつけた。
「ひっ……!」
「檜山!お前まで一体どうして……!」
誰もが困惑し、ユエ達が静観する中で、後ずさる鈴を守るように立った光輝が厳しい顔で叫ぶ。
だが、檜山はより一層顔を歪めるだけで答えなかった。まあ、歯が全部折れてるのでロクに応答できないのだが。
「なんで、おでが、ごんだめにぃ……!」
「そんなの、香織を狙ったからに決まってるでしょ。初めからあなたが裏切り者だってことくらいわかってたわよ」
汚い声で呻く檜山に、親友を害されそうになった雫がとても冷たい声で告げる。
彼女は見ていた。服に血はついているものの檜山が怪我をしていないことも、ずっと香織を見ていたことも。
そもそも、悪意に目敏いシュウジのそばにいたせいか、普段から檜山が香織に向ける下卑た目を警戒していたのだ。
だから雫は、あえて檜山も結界の中に入れ、怪しい動きをした場合すぐに叩きのめすようシアにお願いしていた。
「よくも私の親友を狙ってくれたわね。その傷は報いよ」
「ぞ、ぞんな……!」
目を見開いた檜山は、自分が死ぬことをようやく実感して香織の方を振り向く。
「じ、じらざぎ!だずげでぐれ!」
「…………檜山くん」
「もう二度ど近づがないがら!だがらごの傷を!」
必死に叫ぶ檜山に、香織は迷い……
「黙れ、ゴミ虫」
そんな香織の代わりとでもいうように、ユエの風の弾が檜山の胸を貫く。
絶望の表情を浮かべた檜山は、何かを言おうとして──その直後、意識を永遠に止めた。
目を見開き、香織に手を伸ばしながら息絶えた檜山。実に惨めな、酷い……そして相応しい最期であった。
「ユエ……」
「私の仲間に手を出しておいて、虫が良すぎる」
その言葉に香織は……否、シアや雫でさえも驚いた。
ハッしたユエは、慌てたように横を向くとポツリポツリと呟くように香織に言葉を続けた。
「それと香織は甘すぎる。こんなクズは即刻切り捨てる覚悟を持つべき」
「ふふっ、ありがとねユエ」
「……ふん」
「──あーあ。せっかくなんでも言うことを聞く香織姫を手に入れるチャンスだったのに。不意打ちもできないとか、ほんっと使えないなぁ」
そんな彼女らの耳に、呆れたような恵里の声が聞こえる。
そちらを向くと、右手を応急処置した恵里はゴミを見る目で地面に転がる檜山を見ている。
雫は少し体を揺らしたものの、それ以上の反応はなかった。それに恵里は目ざとく気がつく。
「あれ、驚かないんだね?」
「シューは以前から、貴女とだけはあまり関わっていなかったもの」
「じゃあずっと疑ってたってこと?酷いなぁ、僕傷ついちゃったよ」
「それはクラスメイトたちでしょ。貴女、なんとも思ってない顔してるわよ」
「せいかーい。僕は君のことも大嫌いだったよ、雫。いっつも光輝くんのそばにいて当然って顔で、世話してやってるって態度した君がさ」
「……そう。それは残念ね」
よもやここまでクラスメイトが狂っていたとは。雫は眉を僅かに落とした。
「それで? これからどうするのかしら。見たところあちらも龍太郎が優勢みたいだし、挟まれてるわよ」
雫の言葉に、ちらりと後ろを見る恵里。
『オラオラオラオラオラァ!』
『ぐぅ……!』
グリスとローグの戦いは、驚くべきことに拮抗していた。
先ほどまでと違い、嵐のように攻撃しまくるグリスにローグは常に全力で迎撃をしているように見える。
「……忘れてないかな? 今王都は、魔人族と魔物の大軍が包囲して」
「そいつはとっくに殺し尽くしたぞ」
突如、月光が遮られる。
突然暗くなったことに驚いて、全員が後ろを振り向くと──そこには、巨大な怪物がいた。
頭だけで数メートルはある黒い体、二十の瞳。広場の縁にかけられた鉤爪は剣山の一角のようだ。
その上に立つのは──白髪の魔王と、その仲間たち。
「フリードは俺が追い返したし、魔物の大群も一部はウサギが殺したかこいつの腹の中、あとはビビってトンズラだ。お前の頼みの綱は、もうどこにもない」
「くっ……!」
傍らの柱に背中を預けているスタークは、これ以上介入する気がないのかひらひらと恵里に手を振ってきた。
『俺は降参だ。勝算のない戦いからは退散させてもらうぜ』
「スターク、お前……!」
『おっと、安心しろ。お前もちゃんと連れいくさ』
「曲がりなりにも《獣》として魔人族の要人だからな」とぼやくスターク。恵里は安堵したような顔をする。
彼女とて、オルクスでの一件でユエたちの実力は分かっている。これ以上は何もできないだろうことも。
おまけに謎の巨大生物にハジメたちがいるのだ。いずれシュウジもこちらに来るだろう。
「仕方がないから、ここは引いてあげるよ。光輝くんを連れていきたかったけど、ちょっと邪魔が多すぎるしね」
恵里は、ジリジリと後ろへ下がり始める。
スマッシュたちが包囲しているため、一時とはいえクラスメイトたちを守護しているユエたちはそこから動かない。
そうしているうちに恵里はスタークの隣にたどり着き、もう一度歪な笑顔を見せて光輝の方を見る。
「次こそは光輝くんをもらうよ。この手の借りも返させてもらうから、覚えておいてね」
『チャオ! そのボトルは今は預けておくぜ』
スタークがどこからともなく取り出したトランスチームガンの引き金を引き、銃口からスモークを出す。
それを広げるように腕を動かすと、みるみるうちに煙は広場を覆い尽くし、雫たちから見えなくなる。
やがて、完全に煙が消えると……そこには、スタークも恵里も、スマッシュたちもいなかった。
《スクラップフィニッシュ!》
『終わりだゴラァ!』
『がはっ……!』
そこで丁度、ロボットアーム型のエネルギーを纏ったグリスの両手がローグの胸に打ち込まれた。
咄嗟に両手でガードの体制を取るローグだが、グリスの勢いに吹き飛ばされて地面を転がっていく。
『くっ、ここまでか……!』
『待ちやがれ!』
そのまま、スタークと同じようにネビュラスチームガンからスモークを発生させて消え失せたのだった。
「メルド、どうして……」
セントレアが、絶望に染まった声音で膝から崩れ落ちる。
その肩にリリアーナと結界を解除したベルナージュが手を置き、ようやく消え去った脅威にクラスメイトたちは一斉に座り込んだ。
その様子をフィーラーの上で見つめ、ハジメは崩落した【神山】へもう一度目を向ける。
「さて、これで一件落着……あとはあいつが帰ってくれば終わりだな」
こうして、クラスメイトの裏切りと魔人族による王都侵攻は終わりをつけたのだった。
読んでいただき、ありがとうございます。
次回はアベルと例の男の戦い、そしてエピローグで終了です。