現在メルさん2票、セントレアさん3票、勇者(笑)二票、そんなことよりおうどん食べたい一票です。案外セントレアさん覚えられてますねw
今回はかなりダークめです。
いろんな人物が壊れます。
シュウジのイラストを描きなおしたので、これを投稿したら変更しておきます。
楽しんでいただけると嬉しいです。
私……白崎香織は今、絶望していた。その理由は、今目の前に広がっている光景にある。けど、不思議と冷静だった。
迷宮にベヒモスの断末魔の声が響き、石橋だった瓦礫が奈落に落ちて……そして一緒に、南雲くんとシューくんも落ちていった。
〝私と美空で、南雲くんを守る〟。そう約束したのに、それなのに私は、エボルトと一緒で、ただ見ていることしかできなかった。
脳裏に、あの夜のことが何度もフラッシュバックする。美空と三人で談笑して、そして約束をした、あの日。
最後美空にしてやられたから、ちょっと悔しかったけど、でも嬉しかった。南雲くんが私たちを頼ってくれたことが。
それなのに冷静なのは……
「ハジメ、ハジメぇっ!いや、嫌ぁあああぁあああぁあぁあああぁああぁあっっ!!?」
誰よりも南雲くんを愛していた美空が、私よりも絶望しているからかもしれない。
前に、聞いたことがある。人間は、近くにいる人間がパニックになるほど、時に冷静になると。きっと、今の私はそうなんだろう。
「美空、だめだよっ!」
「離して!ハジメのところに行かないと!いや、いやぁっ!離してぇっ!」
今にも飛び出そうととする美空を、必死に体を掴んで止める。美空はどこにそんな力があるかというほどに暴れまわった。
何度も振りほどかれそうになるけど、それでも絶対に止めなくてはいけない。そうしなければ、美空は奈落に飛び降りるだろうから。
そしてきっと、反対の立場だったら私もそうしただろう。だからこれは、自分の気持ちから目をそらすための行動でもあるんだ。
私だって本当は泣きたい。叫びたい。心が引きちぎれそうで、できるのなら今すぐ彼女と同じようにしたいのだから。
「美空、聞いて。南雲くんは……」
「嫌っ、聞きたくない!ハジメは生きてる!だから早く行かないと!」
「美空っ!」
私が大声を出すと、ビクッと肩を震わせて美空は動きを止めた。オロオロとしていた光輝くんや、他の皆が驚いた顔をする。
普段私は声を荒げたりしないからびっくりしたんだろうな。でも、今は関係ない。私は美空を抱きしめた。
美空は驚いたような動きをして、身じろぎしたが、強く抱きしめると胸に顔を埋めて泣き出してしまった。
「美空、大丈夫だから」
「香織……ハジメが、ハジメが、落ちて……」
「大丈夫。きっとシューくんが助けてくれるよ」
そう言って美空の背中を撫でながら、私は自分の言葉が何の確証もない、気休めの言葉だとわかっていた。
普通に考えて、あんな奈落の底に落ちたら助からない。シューくんが間に合ったかなんてわからないし、そもそもそのシューくんだって無事じゃないかもしれない。
でも。ここで私が諦めたら、きっと美空は壊れちゃう。普段喧嘩してばかりだけど、大切な友達を見捨てることなんて、できない。
そんな私の気持ちが伝わったんだろうか。次第に美空の体から力が抜けて、すっかり大人しくなった。思わずほっとする。
「クソッ……クソッ、クソォッ!」
そんな私たちのすぐそばでは、南雲くんに助けられた龍太郎くんが、拳を地面に打ち付けて、怒号を吐き出していた。
地球にいたころは仲が悪かったけど、この世界に来て皆で鍛え始めてから、二人は仲が良かった。助けられたのもあって、悔しいんだと思う。
「……あれ?そういえば、雫ちゃんは?」
こういう時、いの一番に冷静に対処するはずの、雫ちゃんの姿が見えない。一体どこにいってしまったんだろう。
そう思ってキョロキョロと見渡すと、いつのまにか雫ちゃんは、ソルジャーの向こう側にいた。
どうしてあんなところに。そう思っていると、ふらふらと歩いていた雫ちゃんは地面に座り込み、落ちていたものを拾った。
「あれって、シューくんの……」
雫ちゃんが拾ったのは、大きな紫色の銃だった。シューくんの作った、確かネビュラスチームガン?だっけ。
しばらくじっとそれを見つめていた雫ちゃんだが、急にそのネビュラスチームガンの銃口を頭に押し当てた。
「………あはっ」
「雫ちゃん、だめっ!」
咄嗟に叫んで、雫ちゃんに手を伸ばす。だが当然、こんなところから届くはずもなく、見てることしかできなかった。
でも、雫ちゃんが死ぬことはなかった。奈落を覗いていたエボルトが肩に手を置くと、途端にパタリと倒れてしまったのだ。
またほっとしているうちに、エボルトは雫ちゃんを肩に担いで瞬間移動して来た。そして、私の前に現れる。
『……………』
「エボルト……?」
『……さっさと帰るぞ』
今までに聞いたことのないような、ひどく低い声でそういったエボルトは、雫ちゃんを担いだまま階段を登っていった。
「……あいつに続け。迷宮を離脱する」
「消耗の少ないものは怪我人の補助を。なるべく不必要なものは捨てなさい。少しでも身軽にして、行進の速度を速めます」
メルドさんと、なぜだか非常に冷静な御堂さんの指示で、皆動き始めた。龍太郎くんが立ち上がり、光輝くんも心配そうにこちらを見た後階段に向かう。
「ほら美空、行こう?」
「………うん」
私も美空に肩を貸して立ち上がる。そして彼女を支えながら、一度奈落の方を振り返った後、階段に向かった。
●◯●
それから私たちは、御堂さんの指示に従い、怪我人をダメージが少ない人がカバーして、必要ない荷物を捨てて上に向かった。
一番前で光輝くんが持ち前のリーダーシップを発揮し、ダメージの刻まれているクラスメイトたちを先導したのもあるだろう。
それでも極限の疲労で動けない人が多くて、どうしても出発に時間がかかった。メルドさんとか、騎士の皆さんが促してるんだけど……
「どうしても動けないものは置いていきます。魔物の餌にでもなんにでもなりなさい」
けど、御堂さんの冷徹な声でなされた宣言で、皆恐怖を掻き立てられたのかすぐに動き出した。
普通なら、反抗しただろう。でも疲れているし、何より御堂さんの異様なオーラに、皆逆らうことはできなかった。
とにかく、皆無事に階段へ脱出して、長い上階への道のりを歩み始めた。それは、かなり神経のすり減るものだった。
薄暗い空間の中で、ひたすら足を動かして階段を上っていく。感覚だと、もう30階分くらいは上っている。
そんな疲労が溜まった体に、美空の重さが加わってかなりきつい。それでも自分で歩いてくれるから、まだマシだ。
「あっ……」
「おっと、大丈夫か?」
一瞬気を抜いた隙に、転びそうになってしまった。けど、女騎士さんに支えられて何とか転倒せずに済む。
「あ、ありがとうございます」
「いやなに、問題なぁあいっ!?」
フッと笑った女騎士さんは、私の目の前で段差に引っかかってひっくり返った。そしてパンツが丸見えになる。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ。すまないな」
私は静かに彼女に手を貸して立ち上がらせると、笑顔でその場を去った。私はなにも見ていない、デフォルメされた馬のプリントされたパンツなんて見てない。
そのまままた歩いていると、ついに上方に魔法陣が描かれた大きな壁が現れた。自然、足が早まってくる。
まずメルドさんが扉に駆け寄り、詳しく調べ始めた。例の罠検知用魔道具、フェアスコープを使うのも忘れない。
その結果、どうやらトラップの可能性はなさそうであることがわかった。魔法陣に刻まれた式は、目の前の壁を動かすためのもののようだ。
「〝開放〟」
メルドさんは、魔方陣に刻まれた式通りに一言の詠唱をして魔力を流し込む。すると、まるで忍者屋敷の隠し扉のように扉がクルリと回転し、奥の部屋へと道を開いた。
「やった、これで出られる!ほら美空、もう少しだよ?」
「………うん」
美空を促しながら扉を潜ると、そこは元の二十階層の部屋だった。
「帰ってきたの?」
「戻ったのか!」
「帰れた……帰れたよぉ……」
他の皆が、次々と安堵の吐息を漏らす。中には泣き出す子や、へたり込む人もいた。私もほっと息を吐く。
みると、光輝くん達ですら、壁にもたれかかり今にも座り込んでしまいそうだ。そんな中、御堂さんだけが警戒して周りを見渡している。
「……特に、魔物はいないようね。けれどまだ迷宮の中、油断はできない。メルド騎士団長」
「うむ。お前たち、気をぬくな!なるべく魔物を避け、最短距離で地上へ帰還する!」
その言葉に、魔法で足の疲労を癒していた私は少し不満に思った。ちょっとだけでいいから休ませてほしい。
それは皆も同じようで、無言ながら不満そうな顔をする。けどメルドさんがギンッと睨むと、渋々のろのろと立ち上がり始めた。
「早くしなさい。5秒以内に立ち上がらなかったものは、道中魔物と遭遇した場合の囮にします」
しかし、御堂さんが有無を言わさぬ口調で言うと、嫌々立ち上がっていた人たちも皆すぐに立ち上がった。
そんな皆を鼻で笑いながら、御堂さんが率先して歩き始める。そんな彼女の後を、メルドさんや光輝くんも皆を促してついていった。
「御堂さんって、あんな子だったっけ……?」
元の世界にいた時は、おとなしめで、でも聞き上手の優しい子だったはずなんだけど。まるで人が変わったみたい。
不思議に思いながらも、美空の背中を押しながら帰路を歩く。道中の敵を、騎士の人たちが中心となって最小限だけ倒しながら一気に地上へ向けて突き進んだ。
そしてついに、一階の正面門と受付が見えた。迷宮に入って一日も立っていないはずなのに、かなり懐かしく思える。
今度こそ本当に安堵の表情で外に出て行く生徒達。正面門の広場で大の字になって倒れ込む生徒もいる。一様に生き残ったことを喜び合っているようだ。
「疲れた……美空、ついたよ」
「………うん」
受付横の壁に背中を預けて、隣に座らせた美空にそう言う。でも、美空は虚ろな表情で答えるだけだった。
道中も話しかけていたのだが、うんとしか答えなくなってしまった。そのショックがわかるだけに、私は苦々しい顔をする。
「あれ、そういえばエボルトは?」
いつのまにか、エボルトもいなくなってた。雫ちゃんは龍太郎くんが担いでいる。一体どこに……。
「……白崎さん、大丈夫?」
エボルトを探して広場を見渡していると、御堂さんが近づいてきた。彼女を見上げて、私は頷く。
「あ、うん。大丈夫だよ御堂さん」
「そう……石動さんは、大丈夫ではなさそうね。まあ、仕方がないかしら」
隣で茫然自失としている美空を見て、御堂さんは肩をすくめた。私はぎゅっと手を握りしめる。
「うん……美空は、南雲くんと本当に仲が良かったから」
「そう…ごめんなさい。まさかあのような事態になるとは想定していなかった」
申し訳なさそうに言う御堂さんに、私は少し驚いた。すごく冷たい感じだったけど、今は違う感じがする。
「あれをやった犯人は必ず見つけ出すわ。そしてーーー」
「………?」
「……なんでもない。どうやらメルド騎士団長が帰ってきたようだから、そろそろ休憩は終わりでしょう」
「あ、うん」
「それじゃあまた」
私の前を去っていく御堂さん。宿へ帰ることを通達する騎士の皆さんの声に、私はヘトヘトな足に力を込めて立ち上がる。
「……さっき、御堂さん」
美空を立ち上がらせながら、メルドさんの方に歩いていく御堂さんの背中を見返す。
「聞き間違えじゃなければ、御堂さんいま……」
ーー見つけ出して、喰い殺す。
「……まさかね」
そんなこと言うわけがないと、私は美空に肩を貸しながら皆のところへ行くのだった。
●◯●
メルドが例の罠の報告を終えた後、ホルアドの町に戻った一行は何かする元気もなく、宿屋の部屋に入った。
幾人かの生徒は生徒同士で話し合ったりしているようだが、ほとんどの生徒は真っ直ぐベッドにダイブし、そのまま深い眠りに落ちた。
特に美空はハジメを失ったショックもあって、部屋に入るなり気を失うように眠ってしまった。雫も同様だ。
現在その二人はハジメとシュウジのこともあり、同じ部屋に変更され、香織が見ている。
そんな中、檜山大介は一人、宿を出て町の一角にある目立たない場所で、膝を抱えて座り込んでいた。
顔を膝に埋め、微動だにしない。もしクラスメイトが彼のこの姿を見れば、激しく落ち込んでいるように見えただろう。
だが、実際は……
「ヒ、ヒヒヒ。ア、アイツが悪いんだ。南雲は〝無能〟のくせに……ちょ、調子に乗るから……て、天罰だ。……俺は間違ってない……俺は間違ってない……ヒ、ヒヒ」
暗い笑みと濁った瞳で、必死に自己弁護しているだけだった。その姿はいっそ憐れなほどに穢らわしい。
言わずもがなあの時、軌道を逸れてまるで誘導されるようにハジメを襲った火球は、この檜山が放ったものだったのだ。
階段への脱出と、ハジメの救出。それらを天秤にかけた時、二人を見つめる香織が視界に入った瞬間、檜山の中の悪魔が囁いたのだ。
そして、檜山は悪魔に魂を売り渡した。バレないように絶妙なタイミングを狙って、誘導性を持たせた火球を、ハジメの前に着弾させた。
全員が魔法を放っていたあの状況では、誰が放った魔法か特定は難しいだろう。まして、檜山の適性属性は風だ。証拠もないし、分かるはずがない。
そう自分に言い聞かせながら、暗い笑いを浮かべる檜山。
それなのにビクビクと時折振り返るのは、エボルトがいないか確認しているためだ。以前から目をつけられていたがゆえに、気づかれているやもと思っている。
「へぇ~、やっぱり君だったんだ。異世界最初の殺人がクラスメイトか……中々やるね?」
その時、不意に背後から声を掛けられた。
「ッ!?だ、誰だ!」
慌てて振り返る檜山。そこにいたのは、見知ったクラスメイトの一人だった。
「お、お前、何でここに……」
「そんなことはどうでもいいよ。それより…人殺しさん?今どんな気持ち?恋敵をどさくさに紛れて殺すのってどんな気持ち?」
その人物はクスクスと笑いながら、まるで喜劇でも見たように楽しそうな表情を浮かべる。薄ら寒さを覚える檜山。
檜山自身がやったこととは言え、クラスメイトが死んだかもしれないというのに、その人物はまるで堪えていない。
ついさっきまで、他のクラスメイト達と同様に、ひどく疲れた表情でショックを受けていたはずなのに、そんな影は微塵もなかった。
「……それが、お前の本性なのか?」
呆然と呟く檜山。その人物は、それを馬鹿にするような見下した態度で嘲笑う。
「本性?そんな大層なものじゃないよ。誰だって猫の一匹や二匹被っているのが普通だよ。そんなことよりさ………この事、皆に言いふらしたらどうなるかな?特に、あの子が聞いたら……」
「ッ!? そ、そんなこと……信じるわけ……証拠も……」
「ないって?でも、僕が話したら信じるんじゃないかな?あの窮地を招いた君の言葉には、既に力はないと思うけど?」
檜山は追い詰められる。まるで弱ったネズミを更に嬲るかのような言葉。まさか、こんな奴だったとは誰も想像できないだろう。
二重人格と言われた方がまだ信じられる。目の前で嗜虐的な表情で、自分を見下す人物に、全身が悪寒を感じ震える。
「ど、どうしろってんだ!?」
「うん?心外だね。まるで僕が脅しているようじゃない?ふふ、別に直ぐにどうこうしろってわけじゃないよ。まぁ、取り敢えず、僕の手足となって従ってくれればいいよ」
「そ、そんなの……」
弱みを握り、言うことを聞かせる。実質の奴隷宣言のようなものだ。彼の罪過を思えばそれでもなお足りないが。
流石に、躊躇する檜山。当然断りたいが、そうすれば容赦なくハジメ達を殺したのは檜山だと言いふらすだろう。
葛藤する檜山は、「いっそコイツも」とほの暗い思考に囚われ始める。しかし、その人物はそれも見越していたのか、悪魔の誘惑をする。
「白崎香織、欲しくない?」
「ッ!?な、何を言って……」
暗い考えを一瞬で吹き飛ばされ、驚愕に目を見開いてその人物を凝視する檜山。
そんな檜山の様子をニヤニヤと見下ろし、その人物は誘惑の言葉を続ける。
「僕に従うなら……いずれ彼女が手に入るよ。他にも何人か候補はいるけど、君が一番適任かな?」
「……何が目的なんだ。お前は何がしたいんだ!」
あまりに訳の分からない状況に、檜山が声を荒げる。
「ふふ、君には関係のないことだよ。まぁ、欲しいモノがあるとだけ言っておくよ……それで?返答は?」
あくまで小バカにした態度を崩さないその人物に苛立ちを覚えるものの、それ以上に、あまりの変貌ぶりに恐怖を強く感じた檜山は、どちらにしろ自分に選択肢などないと諦めの表情で頷こうとした。
『おいおい、俺に隠れて内緒話なんて、仲間なのに薄情じゃあないか?』
その瞬間、背後から声が聞こえてきた。
「「っ!?」」
檜山とその人物は、バッと後ろを振り返る。すると声の主は、カツカツとブーツを鳴らしながら影から姿を現した。
その男は、全身を真っ赤なスーツで覆っていた。血のようなそのスーツには装甲や何色ものコードが張り付き、逆に恐ろしさを増している。
胸部装甲には大きなコブラの意匠がついており、前腕には毒針のようなものが。そして頭を覆うマスクには一本角のような煙突、そして胸と同じく水色のバイザー。
『よおクズども。毎度おなじみ、ブラッドスタークだ』
そこにいたのは、姿を消していたエボルトだった。
「……どうして、お前がここに」
「ひ、ひぃっ!?こ、殺されるっ!?」
警戒した目を向ける人物と、腰を抜かす檜山。そんな二人を見て、エボルト……否、スタークは嘲笑うように含み笑いをする。
『ちょっとお前らに用があってね。お前ら……俺と組まないか?』
「……何?」
『いやなに、いまとある組織を作ろうと思っていてね。メンバーを探しているところなんだ。そして、お前らみたいな欲望に忠実なクズが一番丁度良い』
「ふーん……それで、見返りは?」
『お前らが欲しがっているものを手に入れるのを手伝おう。既に下準備は整っている。利用価値はかなり高いと思うが?』
恭しく礼をして、慇懃無礼な態度でそう言うスターク。あまりにも胡散臭いその態度に、その人物はいぶかしむような顔をした。
「お前、北野の仲間じゃなかったっけ?それにこの人殺しさんの願いを叶えるってことは、南雲や他のやつと敵対することになるけど?」
『だからどうした?』
即答したスタークに、その人物は流石に驚いたような顔をした。その人物の知るエボルトと、目の前のスタークがまるで違うように思えたのだ。
『俺があいつらと仲良くしていたのは、あくまでシュウジが大切にしていたからだ。あいつの大切なものは、俺の大切なものだ。だが、もう、今は違う。どうだっていい』
「………」
『で、どうする?そこで腰抜かしてるクソも、さっさと答えろ』
「ひ、ひぃっ!?お、お前の目的は、なんなんだよっ!?」
先ほどその人物にしたのと、全く同じことを言う檜山。スタークはそれに言葉で答えず、コツコツと近づいていった。
また悲鳴をあげて後ずさる檜山の前でしゃがみこむと、ガッとその髪をつかみ、強制的に自分と顔を見合わせる。
『俺の目的だと?ハハッ、そんなの決まってんだろ』
そして。
『 こ の 世 界 の 全 て を 破 壊 す る 』
そう、かつて彼と地球を守るために戦った男たちですら聞いたことがないような、ひどく底冷えのする声で言った。
檜山はまるで、自分の目の前で瞳孔の細まった目を見開き、毒液を牙から滴らせている蛇が口を開けているような錯覚を覚えた。
『いいか。俺にとって命とはシュウジだ。人間とはシュウジだ。家族とはシュウジだ。そして世界とはシュウジだ。あいつのいない世界など、俺にとっては何の価値もない。そしてこの世界は、俺からあいつを奪った。だから全て、完膚なきまでに破壊する。人間も、魔物も、神も、全て俺が食い尽くしてやる。それが俺の望みだ。安心しろ、お前もそのうち必ず殺してやる』
もうそこに、女神より人とは何かを教えられ、賑やかな平和を愛したエボルトはいなかった。代わりにいるのは、冷徹な怪物。
その名の通り、自分の怒りのために世界を犠牲にし、その身を血で染め上げて命を嘲笑う、かつてのブラッド族のエボルトが、そこにいた。
「ふ、ふふふふ……アハハハハ!人に言っておいて、お前もクズじゃん!アハハッ!」
『ああそうだ。つまり俺たちは、似た者同士ってわけだ。せいぜい、仲良くしようぜ?』
「くふふふ、いいよ。一緒にやろうじゃないか。お前は世界を滅ぼすために。私は自分の目的のために。そこの人殺しくんは、白崎香織を手に入れるために。私たちは今から同志だ」
そう歪んだ笑顔で言うその人物の手を、スタークは楽しそうに肩を揺らしながら握った。そして二人で哄笑をあげる。
(な、なんなんだ。なんなんだよ、こいつらは……!)
そして最後まで何もろくなことを喋らなかった檜山は、そんな二人を見て恐怖した。しかし今更、自分は無理だなどとは言えない。
あんなことをした時点で、檜山はもう戻れないのだから。ゆえに、お得意の自己弁護で香織が手に入りやすくなっただけだと言い聞かせた。
自分は悪くない、そうなんども言い聞かせる檜山を一瞥したその人物は、愉しげな笑みを浮かべてエボルトに問いかける。
「それで、その組織の名前は?」
『ああ。俺たちは今からーー
ーー〝ファウスト〟だ』
そして。今ここに、再び最悪の組織が誕生した。
はい、言った通り壊れましたね。
ウチの香織さんは強いです。
さて、次回は久し振りに女神様、そして例のヒロインの登場です。
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